39 / 44
39:防衛戦Ⅰ
しおりを挟む
ソマルとそのパーティーメンバーからもたらされた都市アルスへモンスター侵攻の話は直ぐに警備兵を含め都市に広まった。それはこの街に住まう貴族街の連中の耳にも同様の事が伝わったと言う事である。
貴族街でも一際大きな屋敷。そこは都市アルス領主サキュレータ家の屋敷である。屋敷の周りは180㎝位の塀に囲まれ、門には警備の者と思われる人物が二人立っている。
門の中へと入ると塀より少し小さめの生垣がきれいに立ち並んでおり、貴族の屋敷としては普通なのか、庭に噴水がある。日に照らされ輝く水が上から下へと重力にしたがい落ちていた。そんな屋敷の一部屋にて現領主であるヴラド・サキュレータは老執事からの話を聞いていた。
「そうか、まぁモンスターは冒険者ギルドの人たちに任せるとして、僕たちはもし都市アルスが陥落してしまった場合に備えて食料や武器などの貯蔵の確認と避難してくる人がいれば受け入れの準備をしようか」
街の為に色々と手を回すように指示した男は都市アルス領主ヴラド・サキュレータである。温厚そうな顔つきにオールバックにした髪の三十代後半の男である。
部屋には最低限とでも呼べるような調度品しか置いておらず、ここが本当に領主の屋敷かと疑ってしまうほど殺風景な内装だ。
壺が一つに絵画が一つ。あとは多少値の張るテーブルセットに仕事をするデスク位しかない。代わりと言ってはなんだが、本などが多くあり読書家と言う一面をうかがわせる。
「では、そのように屋敷の者には伝えます故」
「私はこれにて失礼いたします」と丁寧にお辞儀をし部屋を退出していく老執事。老執事が去った後ヴラドは紅茶を啜りながらポツリと一人事を漏らす。
「父さんがいれば真っ先に飛び出していっただろうな…」
ははは…と苦笑をし自身も念の為に支度を整え始めた。
都市アルスにモンスターの大群が侵攻してきているという報せが入ってから数十分後、全ての準備を終えクロックという猫獣人の指示のもと馬車にて移動を開始したセリム達。
既に先に行って現状の確認、戦力の分析等の事が行われ着々と戦闘がもうすぐであることを教えてくれる。
「一つ聞いときたかった事があんだけどさ」
「なんにゃ?」
現在はモンスターの集団の目撃情報があった場所に向かって進んでいる。何台もの馬車が一方向に向かって進んでいる様は異様に映る事だろう。そしてその中の一つにセリム、キーラ、クロックが一緒に乗っていた。
(何か、語尾がにゃだとふざけてるようにしか聞こえないな…)
クロックの言葉は語尾に"にゃ"と言う猫の獣人の特徴と思わしきものが付いている。その語尾により真面目な話がふざけた感じに聞こえてしまうのが気がかりなセリム。
「モンスターと戦うとして場所はどうすんだ?」
「それなら問題ないにゃ、情報を持ってきた男の言っていることが本当なら草原を通ることになるはずにゃ。そこで叩く作戦にゃ」
「ちょ、くっつかないでよ!」
侵攻に関しては偶にあるとギルドの誰かが言っていたのである程度作戦は立てられているようだ。だが、ここで問題が一つ。クロックは猫の特性なのかやたらと人にくっつきたがる。現に今も真面目な話だと言うのにキーラにくっつきスリスリしているのだ。語尾だけでもシリアスになるには苦労するのにくっつかれたら余計に苦労が増えるのでやめてほしいと思うセリムであった。
そんなこれからモンスターの大群と戦うと言うのに緊張感など全く感じられない感じのする車内ではあったが、恐怖により動けないでいるよりはマシだろうと割り切り馬車に揺られながら戦場となる草原へと向かった。
そうして着いた先ではーー
「うわっ、キモ。多すぎよ」
戦場につくなりキーラが発した第一声が先の発言だった。アルスから出立した冒険者一同は現在草原を見渡せる小高い丘の上へと来ていた。丘を一気に下れば草原までの最短コースとなっている為、状況の確認、共有などを済ませる。
「来て早々その発言はどうなんだよ」
「う、うるさいわね。キモいんだからしょうがないでしょ」
「へいへい、そうですね」と適当に返事をし、モンスターの大群へと目を向けるセリム。そこには草原を一目散に疾駆するモンスターの群れがあった。1000近くいるのではと思わせる程だ。
確かにこれだけのモンスターが一同に会する機会などそうし見ることもないだろう。
都市アルスでは偶にではあるがモンスターの大群が攻め入ってくる事があるらしい。だがそれは種類がゴブリンならゴブリンだけと言った限定されたものだけなのだそうだ。だが、今回のは色々な種族が入り乱れて一定方向へと向かっている。これを一言でいうなら異常である。一種類のモンスターだけなら問題はないのだが複数ともなると自然に出来上がったものとは考え難いのだ。
「さて、ここから先はもう戦いにゃ、今回は多少勝手が違うっぽいにゃ。数の多さランクの高さがネックになってくるにゃ。まずは、数を減らすにゃ」
ギルドを出る着前に鍛冶屋のバロックが訪ねてきて試作品と言う事でセリム考案の魔法衣などが無償で配布された。着たり嵌めていたりしてそ、れにより皆やる気が上がっているようだった。そのお陰なのかは分からないがクロックの呼びかけに気合の入った声で答える面々。
丘の上には支援系の術者や後衛職を残し前衛職は草原へと向かい降りていく。森に姿を隠し気配を消す一行。先制攻撃として魔法による奇襲をしかけ数を減らしそれと同時に一気に攻める作戦だ。
「お前は、丘の上に居なくてよかったのかよ?」
聞くだけ無駄だろうなとは思いつつもキーラに対し質問をするセリム。
「問題ないわ、暴風翼もあるし」
「さいで…」
本来なら魔法戦力として丘の上にいるのがキーラの役目だと思うのだが、と思いながら魔法の攻撃に備え身を隠す。そうして間もなく先制の魔法攻撃が放たれ、都市防衛戦が開戦するのであった。
貴族街でも一際大きな屋敷。そこは都市アルス領主サキュレータ家の屋敷である。屋敷の周りは180㎝位の塀に囲まれ、門には警備の者と思われる人物が二人立っている。
門の中へと入ると塀より少し小さめの生垣がきれいに立ち並んでおり、貴族の屋敷としては普通なのか、庭に噴水がある。日に照らされ輝く水が上から下へと重力にしたがい落ちていた。そんな屋敷の一部屋にて現領主であるヴラド・サキュレータは老執事からの話を聞いていた。
「そうか、まぁモンスターは冒険者ギルドの人たちに任せるとして、僕たちはもし都市アルスが陥落してしまった場合に備えて食料や武器などの貯蔵の確認と避難してくる人がいれば受け入れの準備をしようか」
街の為に色々と手を回すように指示した男は都市アルス領主ヴラド・サキュレータである。温厚そうな顔つきにオールバックにした髪の三十代後半の男である。
部屋には最低限とでも呼べるような調度品しか置いておらず、ここが本当に領主の屋敷かと疑ってしまうほど殺風景な内装だ。
壺が一つに絵画が一つ。あとは多少値の張るテーブルセットに仕事をするデスク位しかない。代わりと言ってはなんだが、本などが多くあり読書家と言う一面をうかがわせる。
「では、そのように屋敷の者には伝えます故」
「私はこれにて失礼いたします」と丁寧にお辞儀をし部屋を退出していく老執事。老執事が去った後ヴラドは紅茶を啜りながらポツリと一人事を漏らす。
「父さんがいれば真っ先に飛び出していっただろうな…」
ははは…と苦笑をし自身も念の為に支度を整え始めた。
都市アルスにモンスターの大群が侵攻してきているという報せが入ってから数十分後、全ての準備を終えクロックという猫獣人の指示のもと馬車にて移動を開始したセリム達。
既に先に行って現状の確認、戦力の分析等の事が行われ着々と戦闘がもうすぐであることを教えてくれる。
「一つ聞いときたかった事があんだけどさ」
「なんにゃ?」
現在はモンスターの集団の目撃情報があった場所に向かって進んでいる。何台もの馬車が一方向に向かって進んでいる様は異様に映る事だろう。そしてその中の一つにセリム、キーラ、クロックが一緒に乗っていた。
(何か、語尾がにゃだとふざけてるようにしか聞こえないな…)
クロックの言葉は語尾に"にゃ"と言う猫の獣人の特徴と思わしきものが付いている。その語尾により真面目な話がふざけた感じに聞こえてしまうのが気がかりなセリム。
「モンスターと戦うとして場所はどうすんだ?」
「それなら問題ないにゃ、情報を持ってきた男の言っていることが本当なら草原を通ることになるはずにゃ。そこで叩く作戦にゃ」
「ちょ、くっつかないでよ!」
侵攻に関しては偶にあるとギルドの誰かが言っていたのである程度作戦は立てられているようだ。だが、ここで問題が一つ。クロックは猫の特性なのかやたらと人にくっつきたがる。現に今も真面目な話だと言うのにキーラにくっつきスリスリしているのだ。語尾だけでもシリアスになるには苦労するのにくっつかれたら余計に苦労が増えるのでやめてほしいと思うセリムであった。
そんなこれからモンスターの大群と戦うと言うのに緊張感など全く感じられない感じのする車内ではあったが、恐怖により動けないでいるよりはマシだろうと割り切り馬車に揺られながら戦場となる草原へと向かった。
そうして着いた先ではーー
「うわっ、キモ。多すぎよ」
戦場につくなりキーラが発した第一声が先の発言だった。アルスから出立した冒険者一同は現在草原を見渡せる小高い丘の上へと来ていた。丘を一気に下れば草原までの最短コースとなっている為、状況の確認、共有などを済ませる。
「来て早々その発言はどうなんだよ」
「う、うるさいわね。キモいんだからしょうがないでしょ」
「へいへい、そうですね」と適当に返事をし、モンスターの大群へと目を向けるセリム。そこには草原を一目散に疾駆するモンスターの群れがあった。1000近くいるのではと思わせる程だ。
確かにこれだけのモンスターが一同に会する機会などそうし見ることもないだろう。
都市アルスでは偶にではあるがモンスターの大群が攻め入ってくる事があるらしい。だがそれは種類がゴブリンならゴブリンだけと言った限定されたものだけなのだそうだ。だが、今回のは色々な種族が入り乱れて一定方向へと向かっている。これを一言でいうなら異常である。一種類のモンスターだけなら問題はないのだが複数ともなると自然に出来上がったものとは考え難いのだ。
「さて、ここから先はもう戦いにゃ、今回は多少勝手が違うっぽいにゃ。数の多さランクの高さがネックになってくるにゃ。まずは、数を減らすにゃ」
ギルドを出る着前に鍛冶屋のバロックが訪ねてきて試作品と言う事でセリム考案の魔法衣などが無償で配布された。着たり嵌めていたりしてそ、れにより皆やる気が上がっているようだった。そのお陰なのかは分からないがクロックの呼びかけに気合の入った声で答える面々。
丘の上には支援系の術者や後衛職を残し前衛職は草原へと向かい降りていく。森に姿を隠し気配を消す一行。先制攻撃として魔法による奇襲をしかけ数を減らしそれと同時に一気に攻める作戦だ。
「お前は、丘の上に居なくてよかったのかよ?」
聞くだけ無駄だろうなとは思いつつもキーラに対し質問をするセリム。
「問題ないわ、暴風翼もあるし」
「さいで…」
本来なら魔法戦力として丘の上にいるのがキーラの役目だと思うのだが、と思いながら魔法の攻撃に備え身を隠す。そうして間もなく先制の魔法攻撃が放たれ、都市防衛戦が開戦するのであった。
0
お気に入りに追加
344
あなたにおすすめの小説
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
若返ったおっさん、第2の人生は異世界無双
たまゆら
ファンタジー
事故で死んだネトゲ廃人のおっさん主人公が、ネトゲと酷似した異世界に転移。
ゲームの知識を活かして成り上がります。
圧倒的効率で金を稼ぎ、レベルを上げ、無双します。
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
お気楽少女の異世界転移――チートな仲間と旅をする――
敬二 盤
ファンタジー
※なろう版との同時連載をしております
※表紙の実穂はpicrewのはなまめ様作ユル女子メーカーで作成した物です
最近投稿ペース死んだけど3日に一度は投稿したい!
第三章 完!!
クラスの中のボス的な存在の市町の娘とその取り巻き数人にいじめられ続けた高校生「進和実穂」。
ある日異世界に召喚されてしまった。
そして召喚された城を追い出されるは指名手配されるはでとっても大変!
でも突如であった仲間達と一緒に居れば怖くない!?
チートな仲間達との愉快な冒険が今始まる!…寄り道しすぎだけどね。
大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います
騙道みりあ
ファンタジー
魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。
その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。
仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。
なので、全員殺すことにした。
1話完結ですが、続編も考えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる