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10:一人立ちするのに歳などは関係ない。運命と言う物に挑んだ瞬間から一人前の男だ

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カルラの所から帰るころには日はすっかり落ち、暗闇が辺り一帯を占めていた。帰ると案の定怒られました。拳骨付きで。イタイ…




 翌日。
 今日は、昨日身体へ多大な負担を掛けたため回復させることにし、家でゆっくりしている。ここしばらくは無理をしない方がいいだろう。そんなことを思いながらゴロゴロ。ひたすらゴロゴロ。暇だ。

 すると外から声が聞こえ、間もなくして、ドタドタと家のなかが騒がしくなったように感じられた。何だろうかと視線をドアに向けると、勢いよくバンッと開け放たれる。ルナがお見舞いと称して遊びに来たらしかった。の割にはお土産は何も無かったが。


(勘弁してほしい。この通り)


 と心の中で土下座し来ないでほしいと願う。がその願いは空しくもすぐに裏切れてしまった。何と言う不幸か。泣けてくるね。


「セリーお見舞いに来てあげたよ」


 そう言って入ってくるなり何して遊ぶと可愛らしく語りかけてくるルナ。勘弁してほしい。昨日の今日だとさすがにまだ身体から痛みが消えず、苦しいのだ。

 その事を伝え、言外に遊べないと言う事を伝えるが何を勘違いしたのか、回復術師ごっごをしようと言い出す。多分お医者さんごっこなんだろうが字数が悪いな回復術師ごっこって…


 そんな暢気なことを考えながら、結局遊ぶのかよとツッコむ。するとなにそれーと笑われてしまった。

 そこから本当にお医者さんごっこならぬ、回復術師ごっこがはじまった。お医者さんごっこという遊びはちょっとエッチなハプニングがつきものの遊びだったはずだ、とどこの知識なのか変なことを考え始める。

 が、そんなことはなくルナが甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるだけと言うお医者さんごっこなのか?と疑うものだったが、それでも優しくされ嬉しかったのは事実なのでたまにはいいかもな、とお医者さんごっこならぬ、回復術師走ごっこに感謝したのだった。

 最近は結構痛い思いばっかだったのでこんな優しくされたのは久しぶりだった。感極まってルナの胸に飛び込みお礼を口にする。


「ありがとっう!」


 クッションおっぱいがない所為で、ゴツと言う肋骨?に当たった音がなって痛い思いをした。それでも八歳でもさすがは女の子と言うべきだろう。良い匂いが鼻腔を擽る。これが女の子特有の匂いなのだろう。そんな思考をしていると、ルナがわなわな震えているのに気付く。


「どうしたの?」


 そう言った直後だった。顔を赤くしたルナに思い切りビンタをされ、壁際まで盛大に吹き飛んだ。剣術を学び、鍛えているだけあって、筋力もそこそこあるのだろう。中々に効く一撃だった。

 最近ホント痛い目ばっかだな。そろそろ新たなMと言う扉が開くんじゃないかと心配になってきてしまう、そんなセリムであった。





 そんな日々を過ごし、身体の痛みも取れ、久々にローのもとへ向かおうと村の中を一人歩いていた。

 折れてしまった剣は元々ローからの借り物だったので謝らなければならないだろう。許してくれるといいなぁ。これ以上痛い思いをしたら本当に新たな扉が開きかねない。

 しかし獲物がないとモンスターを狩るのにも困る場面があるので壊した手前借りたいとは言いだしずらいものがある。どう言って借りようか、お金? 勝負? どれも勝てねー、道中はそんなことを考えながら歩く。


 自分が置かれている立場をわかっていた筈だ。いや、つもりだったのだろう。最近は強くなることばかりに目がいっていたから、そっちにばかり気がいってしまったのかもしれない。目的と手段が変わってしまったのだろう。

 だから、俺は自分の身が置かれている立場、神敵スキル保持者に対して、この世界がどれ程までに残酷で無慈悲、冷徹か、それをぬるま湯に浸かって楽観視していたのだろう。頭から抜けてしまうほ程この村は居心地よく、楽しかったのだ。


 不幸とはいきなりやってくるものだ。そう、何の前触れもなく。誰の前にも平等に…


 その日もいつもと何も変わらない普通の日だった。

 久々にローの元へと向かう途中の出来事。いつもと変わらない。走って剣を習って扱かれて、ヘトヘトになる。そうして森に行ってゴ○リンス○イヤーとなる。そんな風に思っていた。

 変化があったのは昼過ぎ位だった。馬に乗った騎士に周囲を囲まれながら、見たこともない豪華な馬車に村に来たのだ。村人など一生乗ることなど出来ないような豪華な馬車、周囲にいた人たちは皆、焦がれるような視線を向けて、ザワザワと騒ぎだした。騒ぎだしたことにより、セリムの耳にも声が届く。何だろうか?と覗く。

 人垣の向こうから道を開けて下さい、と言う声がかかり、人だかりの円がどんどん広がっていく。そんな中、ある一定のスペースを確保出来たからなのか、馬車が前進を止め停車した。


「急な来訪失礼する。我らはクロント王国に仕える騎士である。我らはある目的の為、各地を周り人を探している」


 良く通る声で手短に挨拶と身分を明かし、用があることを告げる騎士。クロント王国とはソート村も属する国の名前である。ライドリヒ・クロントという人間が治める、二つある人間の国家の内の一つだ。


(騎士が何のようだ?)


 そんな当たり前の疑問を抱くのはセリムだけではないようで、若い連中を筆頭に皆が疑問を浮かべた顔をしていた。ある程度歳を重ねた者は物知り顔で見ており、瞳には期待にも似た光を宿している。


「我らの目的は一つ。勇者あるいはそれに匹敵するもの、才能のある者の探索である。発見にご助力願いたい」


 明確な目的を告げる騎士。どうやら勇者と呼ばれるファンタジーにありきたりな救世主探しが目的らしかった。魔王から世界を救って欲しいとかだろうか?この世界で魔王なんて聞いたことはないが。

 勇者なんて単語は初めて聞いたがやはり異世界には付きもののようだ。定番だろうな。なんて考えをしていると騎士の一人が馬から降り、馬車の扉に手を掛けた。

 全く音を立てることなく開かれた扉から、タラップを踏むカツカツとした足音を響かせ、一人の人物が降りてきた。

 この世界に来てから初めてみる服装だ。研究者か医者か、白衣を身につけ、両手には白手袋を嵌めている。第一印象としては潔癖症大変ですね、だ。

 そんな白衣の人物は馬車を降りるなり、周囲を見渡す。
  

「ソート村の皆さん、どうも初めまして。私はアガレスティと申します。先程お聞きになった通り、私たちは勇者を見つけにこの村に参りました。どうかご協力を」


 そういうとニコッと微笑を浮かべる。

 何か面倒臭そうだぁ~とうわぁ~的な顔をしていると白衣の人物が此方に向かい笑みを向けてきた。すかさず鉄壁作り笑い。まったく鉄壁じゃなくペラッペラの紙防御だか。

 だか、それが効いたのか白衣の人物は驚いた顔をしていた。

 そんなに驚くことかな?と疑問に思っていると、口角が吊り上がり、その瞳に欲望の色とでも言うべきものが映ったように見えた。


 それを見た瞬間俺は走った。急いでローの許へと向かった。それは、直感的なものだったのかもしれない。ただ、視られたと感じ取った。スキルも使い膂力を底上げし急ぐ。急ぐ。


 途中待て向かっていたこともあり、程なくしてローの家に着く。

 ローの姿が見えなかったので家の中だろうと決めつけ、ドアを乱暴に叩いた。端から外出しているのでは?と言う選択肢は持ち合わせていない。


「ローさん、開けて下さい。 緊急なんです。」


 ドアが開き中からローが出てくる。


「セリムか、どうした? そんな慌てて」


 どうやらローは家に居たらしくすぐに出てきてくれた。勝手に家に入ると決めつけていたのたまが、実際にいてくれて助かった。

 血相を変えて来たセリムに、何事かと訝しむも家の中に通す。

 深呼吸をし息を整える。その間にローはお茶を持ってきていた。

 コップにお茶を注いでいるローだったが、先程のセリムの慌てようを思い出し、何かがあったと確信にも似た疑問を口にした。と言うのもセリムがここまで慌てる事にローは一つしか思い至らなかったからだ。


「さっき、村にクロント王国を名乗る騎士と白衣らしき物を着た人物が来て、白衣の人物が俺の事を見て何かを悟ったような顔をしたんです。だから、だから…」


 上手く言葉が出ず詰まってしまう。ローにお茶を差し出され、落ち着けと諌められる。お茶を一口飲み気を落ちつかせる。お陰で少し冷静になれた気がする。


「ついに、か。そうか…」


 ローはそれだけ言うと立ち上がり奥へと引っ込んでしまった。

 セリムは今は時間がないのにと、もどかしい気持ちがあったが、抑え待つことにした。というのも、以前ローに修行を付けてもらう為に、この家に来たとき言われていた事と関係があった。

 ローは、もしスキルの事がバレた際に、後始末を引き受けるのと、セリムを逃がす為に力を貸してくれる。そう言ってくれたのだ。その事があり、今ローは準備していたもの物をとりに行っているのではと思えたのだ。

 それが分かっているからセリムも焦る気持ちはあれどおとなしく待つことが出来るのである。


「待たせた。 これを持っていけ」


 そう言って奥に引っ込んでいたローは戻ってくるなりセリムに荷物を渡した。やはり色々と準備してくれていたようだ。


「取り合えず、日持ちする食い物と水。それから新品じゃなくて悪いが武器と外套だ。多少剣も外套も大きいかもしれねーがそこは男だ、いずれ成長するから心配すんな」


 多少だが金も入れてあると言いバッグの中に入った食べ物や水、武器などを渡して来る。こんな時だと言うのに笑いがこみ上げてきてしまう。が、すぐに顔を引き締め居住まいをただす。


「何から何まですいません、ありがとうございます」


 お礼を述べ、セリム自身が最も気になっている事を頼むべく言葉を紡ぐ。

 多分言わなくても、ローならやってくれるとは思っている。結構長い時間一緒に過ごしたのでそれなりに信頼できる関係になっているから。それでもやはり言葉にして少しでも不安を減らしたい。


「巻き込んでしまってすいません。図々しいお願いですが、家族ーーハンス、シトリアーー、ルナの事をお願いします。」


 深く深く頭を下げる。本当なら自分でやらなければならない事だとはわかっている。でも今のセリム自身、国と事を構えられるだけの力はない。

 なら全て自分が悪いことにして家族やルナは無関係にしときたかった。その為にルナにも両親にもスキルの事は一切教えていないのだから…悔しさで唇をかみしめると血が出る。


「あぁ、あとは任せろ。ハンスだって息子にはどんな形でだって生きていて欲しいと思うもんだ。いつでも子供の事を想う。それが親ってもんだ」


 ローはセリムが全ての悪を背負い出ていくことを止めはしなかった。いや止められなかったのだろう。

 七歳とは言え己の運命と戦うことを選んだ一人の男なのだから。一度決めたなら真っ直ぐ進め、そう背中を押されているかのようだ。

 ローに全てを任せ、家から出ていこうとするセリムにローは時々でもいいから帰ってこいと力強く、別れることのつらい気持ちを一切感じさせない口調で言い放ち、ペンダントを投げ渡す。

 黒い紐に綺麗に加工された魔石と思われるものが通してある物だった。


「お守りだ」


 その言葉を聞くと、今まで色々とあり、忘れていたことを思いだす。

 腰に差してある折れてしまった剣を差し出しながら謝罪する。するとローは笑って「別れが謝罪じゃしまんねーなぁ」とどこかこれからを心配するような声音で告げる。それに張つめていた気が少し晴れた気がした。

 最後に謝罪とは別の意味で頭を下げる。そしてローの家を出ていった。

 こうしてセリムは生まれ育ったソート村を一人逃げ出すことになった。そしてここからセリムは傷つきながらも、護りたい者のため、神を殺す為の第一歩を踏み出した。
  

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