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序章〜英雄譚の始まり〜
第2話 大きな不安
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村に戻ると大勢の大人達が慌てた様子でライ達を迎えた。
その中には体が弱い為に普段は家から出ない村長や、王国から派遣されている兵士が数名混ざっていた。
「お前たち、ずいぶん遅かったじゃないか」
「ごめんなさい。クミアウサギがどうしても見つけたくて」
「まあ無事に戻って来てくれたならそれはいい」
普段は少しでも帰りが遅くなると雷を落とすおじさんが安堵の表情でライ達の頭を撫でた。
少々不可解だったが、疲れていたライ達は特に気に止めなかった。
「少し大事な話をする。今日森に行ったハンターが狼型の魔物を見つけたらしいんだ。前回の見回りで見逃していたらしい。少数だが個体ランクは魔物中でも高い方だったみたいだ。無事で本当に良かった」
個体ランクは冒険者ギルドで設定された各魔物における強さを示す指標だ。SSランクを最高ランクとし、そこからS、A、B、C、⋯Fと8段階表され、今回発見された狼型の魔物はCランクに当たるらしい。
「ところでタロットはどうしたんだい?三人で森に向かうのを昼過ぎに見かけたよ」
「えっ、まだ帰って来ていないんですか」
当然帰って来ていると思っていたので、思わず声を上げてしまった。
「ライ、どういうことだい?」
「実は⋯森について別れたのはいいんですけど、暗くなって帰ろうとした時に見当たらなかったのでてっきり帰って来ていたのだと⋯」
大人達の顔が一瞬で恐怖に染まる。
タロットのお母さんに至ってはその場で気を失ってしまった。
魔物のCランクともなると、普通の大人では一匹に対し五人ほどでないと対処しきれない。
狩りの心得を持った冒険者やハンターでも三人は必要だ。
そんな魔物が出現した森にタロットは一人でいるのだ。おそらく、クミアウサギを狩りたいという欲に駆られ、森の奥へ迷い込んでしまったのだろう。
小さな森とは言え、子供一人で奥地を真夜中に歩けるほど安全なわけがない。
「ハンターさんと兵士の皆様にはタロットの捜索、及び救出のためにクミアの森へ出発してほしい」
「承った。しかしその間村を守るものがいなくなるが大丈夫か?」
「少しの間だろうし、村から森は離れている。魔物も自身のテリトリーからは出ないだろうよ」
「了解した。皆の者、夜の森はいくら我々と言えど危険だ。心してかかるように」
「「「はっっ!」」」
王都から派遣されている兵士数名と村のハンターは各々の身支度を始めるために、その場を後にした。
ただならぬ緊張感と不安が村民の心に重くのしかかり、誰もその場から動けずにいた。
「ひとまず皆自身の家に戻り、休養をとるように。ここでじっとしていても何も解決しないぞ?」
「それもそうだな⋯よし、皆各家に戻るように!!」
村長の言葉で動けずにいた人達は暗い顔のまま、各家の方向へと散った。
「君達二人のご両親も心配しているだろう。早く帰って顔を見せておやりなさい」
そう言われて、ライ達は自身の家に帰ることにした。タロットがいないという不安感はあまりにも大きく、二人の心を押しつぶした。
家に着くと母親のレイナと妹のリアナが駆け寄って来た。
「何があったんだい、こんなに遅くまで。心配でおちおち寝られなかったよ」
「そうだよお兄ちゃん、怖かったよ!」
もう夜中の0時を回る時間だ。
リアナはまだ幼いはずなのにこんな時間まで起きていてくれた。よほど心配してくれていたんだろう。
ライは優しくリアナの頭を撫でる。
「ああ、ごめんよ。でも母さん、今日は説教はよしてくれ。精神的にも身体的にも疲れていて正直やばい⋯。そう言えば父さんは何処?」
「タロット君を探しに行ったよ、あんななりでも昔は一流の冒険者だったしね⋯」
先程家に兵士が訪れ、タロットの件を説明してくれたそうだ。
ライの父親のバローダは全盛期、冒険者として名を馳せた実力者である。
ランクCの魔物でも難なく対処できるので、タロットはまず安全だろう。
父さんが付いていくと聞けば村人達も安心して眠りにつくことができるはずだ。
「じゃあ今日は寝るよ」
そう言うとライは自室へ行き、ベットに倒れこんだ。
唐突に睡魔が脳を侵略し、ライの意識は闇へと沈んだ。
その中には体が弱い為に普段は家から出ない村長や、王国から派遣されている兵士が数名混ざっていた。
「お前たち、ずいぶん遅かったじゃないか」
「ごめんなさい。クミアウサギがどうしても見つけたくて」
「まあ無事に戻って来てくれたならそれはいい」
普段は少しでも帰りが遅くなると雷を落とすおじさんが安堵の表情でライ達の頭を撫でた。
少々不可解だったが、疲れていたライ達は特に気に止めなかった。
「少し大事な話をする。今日森に行ったハンターが狼型の魔物を見つけたらしいんだ。前回の見回りで見逃していたらしい。少数だが個体ランクは魔物中でも高い方だったみたいだ。無事で本当に良かった」
個体ランクは冒険者ギルドで設定された各魔物における強さを示す指標だ。SSランクを最高ランクとし、そこからS、A、B、C、⋯Fと8段階表され、今回発見された狼型の魔物はCランクに当たるらしい。
「ところでタロットはどうしたんだい?三人で森に向かうのを昼過ぎに見かけたよ」
「えっ、まだ帰って来ていないんですか」
当然帰って来ていると思っていたので、思わず声を上げてしまった。
「ライ、どういうことだい?」
「実は⋯森について別れたのはいいんですけど、暗くなって帰ろうとした時に見当たらなかったのでてっきり帰って来ていたのだと⋯」
大人達の顔が一瞬で恐怖に染まる。
タロットのお母さんに至ってはその場で気を失ってしまった。
魔物のCランクともなると、普通の大人では一匹に対し五人ほどでないと対処しきれない。
狩りの心得を持った冒険者やハンターでも三人は必要だ。
そんな魔物が出現した森にタロットは一人でいるのだ。おそらく、クミアウサギを狩りたいという欲に駆られ、森の奥へ迷い込んでしまったのだろう。
小さな森とは言え、子供一人で奥地を真夜中に歩けるほど安全なわけがない。
「ハンターさんと兵士の皆様にはタロットの捜索、及び救出のためにクミアの森へ出発してほしい」
「承った。しかしその間村を守るものがいなくなるが大丈夫か?」
「少しの間だろうし、村から森は離れている。魔物も自身のテリトリーからは出ないだろうよ」
「了解した。皆の者、夜の森はいくら我々と言えど危険だ。心してかかるように」
「「「はっっ!」」」
王都から派遣されている兵士数名と村のハンターは各々の身支度を始めるために、その場を後にした。
ただならぬ緊張感と不安が村民の心に重くのしかかり、誰もその場から動けずにいた。
「ひとまず皆自身の家に戻り、休養をとるように。ここでじっとしていても何も解決しないぞ?」
「それもそうだな⋯よし、皆各家に戻るように!!」
村長の言葉で動けずにいた人達は暗い顔のまま、各家の方向へと散った。
「君達二人のご両親も心配しているだろう。早く帰って顔を見せておやりなさい」
そう言われて、ライ達は自身の家に帰ることにした。タロットがいないという不安感はあまりにも大きく、二人の心を押しつぶした。
家に着くと母親のレイナと妹のリアナが駆け寄って来た。
「何があったんだい、こんなに遅くまで。心配でおちおち寝られなかったよ」
「そうだよお兄ちゃん、怖かったよ!」
もう夜中の0時を回る時間だ。
リアナはまだ幼いはずなのにこんな時間まで起きていてくれた。よほど心配してくれていたんだろう。
ライは優しくリアナの頭を撫でる。
「ああ、ごめんよ。でも母さん、今日は説教はよしてくれ。精神的にも身体的にも疲れていて正直やばい⋯。そう言えば父さんは何処?」
「タロット君を探しに行ったよ、あんななりでも昔は一流の冒険者だったしね⋯」
先程家に兵士が訪れ、タロットの件を説明してくれたそうだ。
ライの父親のバローダは全盛期、冒険者として名を馳せた実力者である。
ランクCの魔物でも難なく対処できるので、タロットはまず安全だろう。
父さんが付いていくと聞けば村人達も安心して眠りにつくことができるはずだ。
「じゃあ今日は寝るよ」
そう言うとライは自室へ行き、ベットに倒れこんだ。
唐突に睡魔が脳を侵略し、ライの意識は闇へと沈んだ。
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