Lv.1の英雄

さささくら

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プロローグ

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英雄とは大切な人を守ることができる人。

ただこれだけが英雄の条件なんだ。

とても簡単だろ。

必要なものは優しさであったり、強さであったり、人を心から愛することであったり、一見簡単に見える事柄だ。

しかし、凡人は本当の意味で優しく、強く、愛を持って生きることができない。

愛を持っていても守る強さがなかったり、守る強さを持っていても愛がなかったり、

凡人は何かが欠けていて英雄になれない。

でもそれさえ埋めることができれば英雄になれるんだ。

つまり誰にでも英雄になれる才能はある。

少年は幼く、理解が追いついていないのか首を傾げる。

「あんまり英雄ってすごくなさそうだね」
「そうかい?」
「だって愛とか強さとか持ってればみんななれちゃうんでしょ」
「そうだね、誰にでも英雄の資格はある。でも誰にでも英雄になれるわけじゃない」
「なれるけどなれない?よくわかんないよ」

少年は不満そうに頰を膨らませた。それを見て少し真面目な顔で老人は言う。

「ライはきっと英雄になれるぞ、俺が保証する」
「ほんと!」

途端に目を輝かせた少年は嬉しそうに古びたベットの上で飛び跳ねた。その瞬間にベッドが悲鳴をあげ、少年は慌てて坐り直す。それを見た老人は楽しげに笑った。

「ほんとになれるんだよね!」
「ああ、なれるとも。人より優しく、強く、愛を持って生きることができたならね」

老人は優しく少年の頭に手を置く。少年は気持ちよさそうに擦り付けた。

「でもね、僕はみんなから尊敬される英雄じゃなくて、大好きな人を守れる英雄になりたいんだ」

急に真面目な顔になった少年に老人は少し驚いた様子だったが、すぐに目を細め愛おしそうに少年を見つめる。

「そうかい、お前らしいね」
「そうかな?だってお爺ちゃんはいつも僕を守ってくれるからね。お爺ちゃんはかっこいいんだ!」

下の階からのパンの焼けた匂いが少年の鼻孔をくすぐると、話の続きよりも食欲が勝ったようで部屋を飛び出して行った。
老人もゆっくりと起き上がり、少年の後を追う。

 古びたベットには少年が読んでいた英雄譚の絵本があった。
開かれたページには白銀に輝く剣をあかつき中天ちゅうてんへと掲げ、胸に龍をかたどった紋章を宿す男の絵が描かれていた。

「またお爺ちゃんとお部屋にいたのかい、今日は何を話してたんだい?」
「おかあさん!僕、英雄になる!」
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