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第6話 「可愛いは正義」
しおりを挟むへいよーぐっつすっす。
ナリカネです。
今日は皆さまに、『異世界転移』というゲームを紹介したいと思います。
初めに、このゲームの特徴を簡単に説明させて頂きますね。
えーっと、まず、開幕から魔王城という斬新な初期配置。
圧倒的にリアルなグラフィックでお送りする、明らかにこちらより強いモンスター。
あ、ちなみに。
完全なフィードバックシステムの導入により、プレイヤーの痛みをダイレクトに知覚可能。
※これにより、『死』というものがリアルに体験できる。ただし蘇生不可。
残機は一機。
リセットは無し。
必死に逃げ回った先は出口の無い地下室。
後は空腹ゲージが空になれば、死亡。
……どうです?
興味が出てきましたか?
「……こう考えると本当に酷い状況だな」
途中で怖くなった俺はそう呟いて、脳内ゲーム実況を止めた。
「でも、どーすっかなぁ」
俺は仰向けに寝転がりながら、考える。
現状は絶望的で変化は無い。
この閉じられた地下室から出るには、猫にお金を与えて<スキル>を覚えるしかない。
だが、お金を得るためにはどうにかしてこの地下室から出る必要があった。
「……詰んでるよなぁ」
ゴロゴロしながら助かる方法を考える。……あ、猫なら俺の横で寝てるよ?
「起きてますよ?」
あ、はい。知ってます。……あれ? 心読まれてますか?
「声に出てましたよ。ご主人」
そう言いながら、黒猫はちょっと冷めた目で見てきた。
ちくせう。
お前もサブカル好きなのはバレてんだぞ。
さて、話を戻そう。
考えるべきは助かる方法だ。
1、ハンサムな俺は突如、脱出のアイディアが閃く。
2、仲間がきて助けてくれる。
3、現実は非情である。
適当に考えると解決策は3つか。
……まぁ、そんなに都合よくは行かないわな。
「……やっぱ、アレしかないよなぁ」
――そう言うと、俺はチラリと部屋の片隅を見る。
俺が視線を向けたのは、水晶やら万華鏡やらが置いてある謎スペースである。
もし、この部屋で脱出の可能性が残されているとしたら、あそこしかないだろう。
それでも俺は調べるのを躊躇っていた。
……なぜなら、あそこを調べて何もなかった場合、本当に『詰む』ということが分かってしまうからだ。
それは、冗談ではなく絶望でしかない。この部屋で餓死するまで、孤独に閉じ込められるのだ。
一瞬の激痛であった前回の死の方が救いがあると思うほどに、それは酷い人生だろう。
……いや、俺を潰した看板。オメーだけは許さねぇよ?
閑話休題。
「……先延ばしってことは分かってるんだけどな」
「……そーですね」
猫も現状をはっきりと理解しているようで、そう返事をしながら尻尾をペシン、ペシンと軽くぶつけてくる。
俺はそんな尻尾を掴んだり、放したりしながら、ごろごろしていた。
本当に何もアイディアがでなければ、水晶を調べに行こう。
どれくらい経った頃か。
君たちにとってはつい昨日の出来事だろうが、俺にとっては今の出来事だった。
いきなり、部屋の中央。メダルがあった辺りに、赤い光が現れた。
「うおぃ!! なんだ!? なんだ!?」
「ご主人!! とりあえず離れて下さい!!」
急な部屋の変化に慌てながら、俺たちは壁にくっつくくらい退がる。
その間にも、光はうねり、次第に人型となり、そして、一瞬だけ発光を強めて霧散した。
後には――
「はーっはっはっ!! 大魔王ヴァンパイア復活じゃーい!!」
――幼女が腰に手を当てて叫んでいた。
……この発想は無かったな。
「……ん? なんじゃ、主?」
俺が現れた幼女を見ながら呆けていると、不意に幼女がこちらの存在に気づいた。
もうしっかりと目が合ってしまった。
「……人に尋ねる時は先に名乗るのが礼儀ですよ?」
俺は、必殺先延ばし作戦を敢行することにした。
「名乗ったではないか。妾こそ天下に名を轟かした大魔王ヴァンパイアである!!」
……だが、それは魔王様の発言一つで敢え無く散った。
そうでした。
ぐうの音も出ないほどの正論ありがとうございます。
後、本当に大魔王なんですね……やっぱり俺って詰んでたんだな。
「そうですか。とても高名な方とお見受けしますが、何分、田舎から来たもので、そうとは知らず。大変失礼な態度を取ってしまい、申し訳ありませんでした」
速やかに土下座に移行する。
――ちなみに。
猫は俺の後ろで可能な限り、身を縮めて体を隠していた。
……主人を盾にするとは、不届きなスキルである。
「……」
――と、そんな俺を見て、なんか魔王様は口をあんぐりと開けて黙っていた。
え? やばい? もしかして、やばいのか? 予想以上に怒ってらっしゃるのだろうか!?
俺が真の謝罪モードである、土下寝への移行をしようとしたところ。
「……妾を知らんのか?」
震える声で、そう聞かれた。
……どうしよう。
でも、一度知らないと言ってしまったしなぁ。
後で、拗れた方が怖い。
そう考えた俺はとりあえず目を合わせず、小さくなりながら答えた。
「浅学ながら……すみません」
「なんじゃとおぉぉぉ!!」
ツカツカと歩いてきて、俺の襟首を掴む幼女。
顔を上げられたことで、その幼女と至近距離で目が合った。
彼女は魔王とは思えない程、整った可愛らしい容姿をしていたが、その顔が今は驚愕に染まっていた。
「大魔王ヴァンパイアじゃぞ? この大陸の全ての生物が恐れたあの大魔王じゃぞ? 魔界を統一し、龍王すら退け、勇者パーティ四人がかりで良い勝負じゃった『あの』大魔王じゃぞ!?」
ガックガック、と揺さぶられる。
おおぅ。ストップ。ストップ。
酔うから。さっきも猫パンチで揺さぶられたばかりの脳が酔っちゃうから。
「な?思い出したじゃろ!? ……そうなんじゃろ?」
幼女は必死でそう訴えてきた。
……次第に俺には罪悪感がこみ上げてくる。
今から、俺はこの幼女に現実を教えなくてはならないのだ。ああ、心が痛む。
一体、この幼女はどんな顔をするのか。自分の誇りを否定されたときにどれほどの傷を受けるのだろうか。
……いやぁ。大魔王さんはどんなリアクションをするのかぁ。あー、心が痛むなぁ。
「すみません。知りません」
「嘘じゃぁぁああぁああ!!」
大魔王は叫んだ後、両手を地につけ項垂れていた。
うん、予想通りだ。
この魔王様、リアクションが大きいから見てて楽しい。
……少し待つけどその後の動きは無かった。
普通に凹んでいるようだ。
……あ、ちょっと泣いてる? やべぇ。普通に罪悪感が出てきた。
「……なんじゃったんじゃ。妾の人生五百年。夢、幻の如くか」
あ、何か急に悟り始めた。
というか武将みたいなこと言ってる。一応、スケールは十倍くらい違うけど。
こっちの世界にもあるのか、そういう考え。
流石にフォローを入れよう。
……言うべきか悩んだけれど、どっちにしても状況は詰んでるし。
それなら打ち明けて、後は野となれ山となれだ。
「大魔王様。どうか落ち込まずに。私が大魔王様を知らないのには理由があるのです」
「なんじゃとっ!!」
……食いつきいいな。
凄い速さで戻ってきて、俺の襟首を掴む、魔王様。
――揺らすなよっ? 絶対に揺らすなよ!?
……くぅ。
掴んだだけか。揺らしはしないのか。
……ゆーらーせーよー。
魔王様、どうやら天丼を知らないらしい。
「そうじゃな!! そうに決まってるな!! 良く見れば、主はそれなりに頭も弱そうな顔だちじゃ。どこぞに頭でもぶつけて記憶を飛ばしたか。うむうむ。それならば仕方がない!!」
凄い良い笑顔で、急に失礼なこと言う幼女がそこに居た。
猫さんのアッパー食らわせたろか。
……いや、落ち着け。
先ほどの話が本当なら、向こうは圧倒的強者だ。下手に下手に。
「似たような者ですが……実は私は異世界から来たのです」
「おおっ、なんじゃ主。転移者か!!」
あれ? わりかしあっさり受け入れたぞ。この魔王様。
もしかして、転移者って割とメジャーなのか?
「前にも一度会ったことがあるのじゃ。なかなか稀有じゃとは思うが、妾の知らぬ知識でないのぅ」
どや顔で解説してくれる魔王様。
あ、ありがとうございます。え? 心とか読まれてますのん?
「……また、声に出てましたよ。ご主人」
――その時、急に俺の後ろから声がした。
恐らく、ずっと隠れている黒猫のものだろう。……お前は、本当に俺のスキルか。
俺の世界の能力は『傍に現れるモノ』だったぞ。
ほら、温めてやったんだから、傍に来いよ。
「ぐぬぬ。確かに、一理ありますね」
サブカルをメインに理論武装すると、猫は悔しそうに出てきた。
……今はっきりしたけど、こいつ、やっぱりちょろいな。
「おおっ!! なんじゃこやつ!!」
あ、魔王様も気づいたか。
「これは俺のスキルでして――」
「可愛いではないかっ!!」
セリフの途中で猫を奪い、頬ずりを始める魔王様。
どうやら、この世界でも可愛いは正義らしい。
「んー!! 可愛いのぅ、可愛いのぅ」
「ご主人!! 助けて下さい!! ヘルプです!! ヘルプ!!」
抱きしめられた猫は魔王様に聞こえないくらいの小声で、救助を要求してくる。
確かに、絶対的な強者に頬ずりされるなど、やられている側からしたら恐怖以外の何物でもないだろう。
……でもなぁ。
こいつ、最初に俺を盾にしたんだよなぁ。
俺が悩んでいると、その空気を察したのか、猫は先ほどの俺に習い、サブカル論で助けを求めてきた。
「ご主人!! 守りたいとかではなくっ!! 守ってしまうのがご主人でしょう!?」
ほぅ。流石に俺の知識を持つだけあって、なかなかの理論じゃないか。
……だが、悲しいかな。経験が足りない。
サブカル論にはサブカル論で対抗できるのだ。
「悪いが、俺は回避盾だ。」
「汚いな!! ご主人!! さすがご主人、汚い!!」
ちなみに、猫と普通に話してたけど、魔王様は猫に夢中であまり気にしてなかった。
……モフモフは偉大だからね。仕方ないね。
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