着地点

7-2

7-2.新しい商売の話をされる

　店長は初めの頃、和彦が挨拶しても素っ気なかったが、和彦が真面目に働く様子を見て、だんだんと態度が軟化してきた。

　ある夜、閉店後の片付けを終えてタイムカードを押そうとする和彦をつかまえ、話し掛けてきた。
「どうや？調子は」
「ええ、まあまあです…」
問い掛けの意味を分かりかねた和彦が曖昧な返答ををすると、店長は切り出す。
「実はな、新しい商売を考えてんねん。こんな店はな、どうでもええわけやねん」
と、いきなり打ち明ける。
「そうですか…」
「そうなったら、頼むで」
　和彦にニヤリと笑いかけた店長は、早足に立ち去る。

　店長が和彦に笑顔で接するのは珍しく、面接の時、仲間を探してます、との言葉に惹かれて入った和彦は、この二ヶ月ほど、少し裏切られたような気持ちで居たが、どうやら、店から独立して何かを始めようと考えていて、和彦を引っ張り込めそうな人材か品定めしていたようだ。
　ただ、具体的に何をやろうとしているのかが見えないので、頼むで、と言われても、何とも反応のしようがなかったが、ようやく店長が少し心を開いてくれるようになったことに嬉しさを感じた。

　それでも、この店に自分の全てを賭けて良いものか分からず、相変わらず先のことは不安で、妹の夫が郵便局に勤めていて「郵政外務員」つまり郵便配達員になるための試験が八月にあるので、受けてみないか、とすすめられたので、受験を検討していた。
　もちろんその話は、店長にはしなかった。