マントラアクターズ

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第六話 同郷の友その2

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銀行に入ると、中はそれなりに賑わっていた。
受付の順番を知らせる番号札を取り、待つ事5分。

「番号札256番をお持ちの方!3番窓口へどうぞ!」
「ホホホ!意外とスムーズでしたな。」

3番と書かれている窓口に向かうと、眼鏡をかけたキリッと美女がいた。

「いらっしゃいませ。どういったご要件でしょうか?」
「こんにちは。セバス・チャン爺ちゃんでございます。口座から引き出したいものがあるのですが。」
「かしこまりました。では、こちらの石版に手をかざしてください。」

このあたりのやり取りはマントラと同じだ。
カウンター横に置いてある手のひら台の石版へと手をかざすと、頭の中に保管してあるものが出てくる。

「ポーション類と後は……あ、ありましたな。これを引き出し、と。」

操作の類はアイテムボックスと一緒で感覚操作だ。
手を伸ばして保管されているものを取り出すイメージで、目の前にそれが出現する。

取り出したのは6級までのポーション数本、8級までのマナポーション数本、あと《NIGHTMARE》という厨二臭が半端じゃない指ぬきグローブ。ゴルゴンチタニウム製のトンファーに付けるアタッチメントが2つで、一つは折りたたみ式の刃、もう一つは魔力が込められた魔石。
それらを自分のアイテムボックスに移し替えて、席を立つ。

「ありがとうございました。料金は口座から引いておいてください。」
「分かりました。ご利用ありがとうございます。」

銀行は一回の利用につき銅貨20枚である。
それだけで膨大な数のアイテム保管や貯蓄ができるのだから安いもんだ。

「さて、ギルドに向かいますかな。」

銀行を出ると、予定していた時間近くになっていた。
ギルドまで10分ほど歩くと、玄関口でグリードさんと何やら妖艶な女性が騒いでいた。

「だから!止めろ!!近寄るな!」
「えぇ~?イイじゃないの~!減るもんじゃあるまいし~!」
「俺はお前が嫌いだ。」
「あら?あたしは好きよ?」
「そういう所が嫌いなんだよ。」
「ええ~?お願いよ~!ウルフフォルムになってモフらせてちょうだいな~!」
「煩い女だ!」

ああ、あれはタモさんだな。
極まってるモフフィリア(もふもふ中毒者)の通り名を持つマントラプレイヤー、『タモタモ・ぶらり旅』。
猫型獣人族で、もふもふ専門の召喚士だ。
もふもふと言っても、マンティコアやら鵺やらデカくていかつい魔物を多数従えているため、可愛くはないと思うのだが。

「タモさん。お久しぶりでございます。」
「何よ。私もふもふじゃないのには興味ない…って、セバスちゃんじゃないの!あら~、ガルムに来てたのね?」
「ええ。私もふもふじゃないのが残念でございます!もふもふでしたら合法的にタモさんに抱き付けるのですが!」
「ふふふ、そういうところは相変わらずね~。一回死ねばいいと思うわ~?」
「死んだ結果ここにいるのでございますがね!ホホホ!」
「そう言えばそうだったわね~。フフフ。」
「と言うことはタモさんも隕石でございますか。ギルドの連絡掲示板を見て頂けたのですかな?」
「丁度その張り紙見つけたところにニベアと私の可愛いモフちゃんが入ってきたのよ~。」
「誰がモフちゃんだ、誰が。お前のモノになった覚えはない。」
「あら~?つれないわね~。そんな所も好きよ~?」
「…そんなんだから嫌いなんだよ。」
「相変わらず仲が良いですな!羨ましい限りでございます!」
「これのどこを見て仲がいいと思うんだ。」
「あ、セバス!早かったな!中に入れよ!新しいプレイヤー見つけたぜ!」

ニベアがギルドから出てくると、中に入れと促す。
すると、ギルドホールが面白い事になっていた。

「セバスちゃまなの。やほーなの。ライムなの。」
「セバス殿!セバス殿ではござらんか!うおお!!拙者感激!」
「……よ。」
「ライムさん!ゴザルさん!メメさん!ホホホ!!これはこれは!予想外ですぞ!!」
「ヒャッハー!!早かったな!俺様は待ちくたびれたぜ!」

そこに居たのは、シャギーと、見知った3人のマントラプレイヤーだった。

職業暗殺者。どうやって進化したか分からないが、スライムである『ジ・アース・ライム』。スクール水着を着て白衣を羽織った中〇生のような外見で、何故かマントラの時とほとんど変わらない姿をしている。ちなみに胸元には、3-Aらいむと書いてある。

職業剣士。物理全振りのヒューマン種を貫き通している『侍でゴザル』。一見すると細身で糸目の武士なのだが、その一振りでレッサードラゴンが両断される脳筋。セバスだけは知っているが無類のおっぱい男爵。言い方を変えれば変態同志である。

職業死霊術士。全体的に暗い印象があるが、マントラでは希少なサキュバスである『メメント森』。黒いフード付きのローブと、鼻のあたりまで伸びた前髪で顔は判断がつかないが、特徴的なコウモリ風の羽とスペード型の尻尾がシュルリと動いている。
3人とも闘技大会の上位入賞者だ。

「ライムはともかく、ゴザルとメメとタモタモのこと良く初見で見抜いたの。」
「ふむ、ライムさんはたしかにマントラでの姿と相違ありませんな。まあ意外と装備や言動なんかで分かるものですぞ!それに執事アーイもありますので!ふむ?ふむむむ?ホホホ!」
「……変態執事。」
「ハハハ!!流石はセバス殿でござるな!」
「相変わらずなの。」

まさかこんなに早く4人も新しいプレイヤーに出会うとは。
今まで出会ってきたプレイヤー達はある程度の実力者であった。
この4人も相当の実力があるので、恐らくゴールドクラス以上の魔物を倒している可能性が高い。その当たりも突き詰めたいところだ。

「ところで皆様。少しお時間よろしいでしょうか?良ければいろいろ情報を集めたいのです。」
「別に大丈夫なの。」
「拙者も大丈夫でござるよ!」
「……時間かかるなら、無理。探したい人、いる。」
「それほど時間はお取りしません。探したい人がいるのであれば情報は正確にしておいた方が良いと思います。今の時間からですと捜索をするにしても遅い時間帯ですし、手助けできることがあるかもしれません。」
「…わかった。」
「ありがとうございます。では酒場に行きましょうか!」

ガルムにある冒険者ギルドの酒場は、どちらかと言うと温泉地の宴会場のようになっている。
全面畳張りになっていて、マントラの時はプレイヤー達の寛ぎの空間となっていた。
集まったのはセバス、ニベア、グリード、シャギー、タモ、ライム、ゴザル、メメの8人。
良くこの短時間でこれだけ集まったなと思うが、単純にタイミングが良かったのだろう。
一つのテーブルを囲み、机の中央にコーヒーとお茶菓子を用意する。

「では!皆さん、とりあえずお集まりいただいて感謝致します。メメさんも時間が惜しいと思われますので足早に。今回集まっていただいたのは情報の共有と突き詰めをしておきたかったのです。ニベアさん、グリードさんと私は日本において隕石に起因する事故で死亡しました。その後マントラ世界が現実となっている、いわゆる異世界転移と呼ばれる状況になっていると理解しました。そこはみなさんも同じでしょうか?」
「そうね~、多分私も同じかしら。金融街にある本屋で働いてたんだけど、隕石だ!って周りが騒がしくなってたのは覚えてるわ~。」
「拙者は学校の教師でござった。しかし隕石で死んだのは間違いないでござろう。」
「え?ゴザル教師だったの?それならゴザルの前じゃすごく話しずらいけどなの。ライムは学校行ってなかったから家にいたの。ほとんど眠ってたから隕石とか分からないけど、とりあえず凄い音がしてビックリしたらここにいたの。」
「別に教師だからといって学校行けなんて言わないでござるよ。それは大人の自己満足にしかならないでござる。」
「……私も隕石で死んだ。」
「俺様はよくわからん。バイク便で働いてたからな。仕事中にいきなり目の前が真っ白になって気付いたらシャギーの拠点にいたんだ。」

やはり隕石か。
と言うことは皆、現実世界では死んでいる事になっているはず。その割にはみんな達観していると言うか、落ち着いている。

「皆様意外と落ち着いてらっしゃいますね。」
「喚き散らしても死んだことに変わりはないの。」
「その通りだな。それよりも次どうするかを考えるべきだ。何より本物の身体で戦りあえるのは、良い。」
「グリード殿は相変わらずでござるな。拙者も現実世界云々よりもマントラに新しい生を受けたと考えれば足を進める他ないでござる!」
「俺は別に現実世界に心残りないからな。バイクに乗れればそれでいい!」
「私は心残りあったんだけど、それも解決しちゃったから別にって感じかしら~?」

何故かグリードを流し目で見ながら話すタモさん。
ホホホ!私の執事アーイがリア充警報を鳴らしておりますぞ!!これはほって置けないですな!!全力でフォロー致しましょう!!ムホホホ!!

「……私は探してる人に会えればそれで。」
「ふむ。メメさんの探し人をお伺いする前に一点、皆様にお聞きしたいことがございます。こちらに来る前、マントラにログインして、ソロでゴールドクラスかそれ以上の魔物を倒されましたか?いせタビビトと言うバグ称号を得ているのであればそれも含めてです。」
「今日の朝にタイラントワームを倒したの。バグ称号は確かそんな名前だったの。1人だったの。」
「……狂気のマリオネット。今日ソロ討伐した。称号は覚えてない。」
「昨日ネメアウィップを倒したわ~。厳密に言えば倒したのはマンティコアのアコちゃんだけど。」
「昨日の18時から集会開いて走り回ってた。スパイラルバイコーンはソロで倒したな。」
「昨日の夕方妖女キシリアをソロ討伐したでござる。称号は、セバス殿の言ういせタビビトではなく、きせのタビビトというなでござった。」
「むむ?きせのタビビトですか。間違いないのですか?」
「拙者は常に記録を確認してたゆえ、間違いないでござる。マントラではバグというものがそもそも初めてだったでござるから、印象も強いでござる。」

称号の文字が違う。
急に自分の覚えている文字に不安が出てくるが、しかし自分も記憶力には自信があるため、間違いないと言える。と言うことはどちらも正解ということだろう。

「ふむ。ここで一つの食い違いを発見ですな。ありがとうございます。では、ここまでで一つまとめてみましょう。マントラを昨晩、ないし昨日プレイし、ソロでゴールドクラスの魔物を倒した後、バグ称号を獲得。その後日本において隕石が落下。死亡した人間は恐らくこの、現実世界マントラに転移した、と。このような感じでしょうか?」
「まあそれが妥当だろうな。」
「そう考えるのがしっくりくるわね~。」
「と言うことはです。この現実世界マントラに日本から転移した人達はそれほど存在しないということになります。例えばゴールドクラスのモンスターをソロで狩れるプレイヤーと言うのは恐らく何万人といたでしょう。しかし、条件的にまず隕石で死んでいるプレイヤーは数える程となるはずです。」

金融街近くにいた人間でマントラをプレイしている人間がどれだけいただろうか。
いくら一世を風靡しているゲームとは言え、ゴールドクラスを倒せるようになるにはそれなりに時間を費やさなきゃいけない。
ということは可能性として少なくなるだろう。

「でも現実俺達はもう八人も揃ってるぞ?」
「それは魔境近くということが当てはまると思うの。この辺で狩りしてた人間はそれなりにレベル高いの。」
「そうね~。隕石の落ちた街にいたとしてもゴールドクラスを狩れる訳じゃないし。それに昨日か今日プレイしてたって事も関わってくる訳よね~?」
「ここに八人いるだけでも奇跡みたいなものだろう。」
「確かにな!」

マントラでも少なからず交流のあった者達が八人も集まった。
これだけでいろいろなことに対処できるだろう。
現実日本においては隕石で死んでしまったが、何はともあれ運が良かったと言うことだろうか。
それとも、神やら“何かしら”の影響なのか…。これに関しての答えは考えても出てこなさそうだ。
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