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第一章

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「不要です」

副司令官相手に、軍服をまとった少女はきっぱりと告げた。

上官は苛立たしげに、眉間のを濃くさせる。

こつこつと、人差し指で机をたたいた。

「いいから、護衛を側に置きなさい。私兵の戦闘人形を一体、君に遣わせる。これは命令だ」

表情をひとつも変化させずに、少女は「了解しました」と受け入れた。

部屋を出ると、待ち構えていた同僚ルーチェが駆け寄ってきた。うつくしい茶髪と豊満な胸を揺らした。

副司令官に呼び出されるなど、おおごとだと思ったのであろう。

「リノ。副司令官は、なんのご用だったの?」

少女リノは隠さずに、事実を伝える。

「護衛を側に置くようにと、命じられました」

ルーチェは首をかしげた。一兵士でしかないのに、妙な命令を出すものだと疑問符を浮かべている。

「副司令官の私兵、戦闘人形を一体貸し出してくださると」

「戦闘人形ですって!?」

人類が産み出した人型の戦闘機械。人と同じように、武器を持って戦う。しかし一体で兵士数十人は倒せるほどの戦闘能力を持つ。

ただ高価であるため、戦時くらいしか利用されない。身分の高い家だけは、私兵として常駐している。

「さわがしいと思えば、の十二軍団がさわいでやがるぜ」

少し遠くから、嫌みをふくんだ声がとんできた。会話をしているのは、前線で戦っている一軍団の連中だ。

戦地での食事の支度や雑用ばかりをまかされている十二軍団は、白い目で視られるのも珍しくない。

けれどもルーチェが怒りをあらわにして、詰め寄ろうとしたとき。

「はいはい、退いてくださいね」

と、小肥りの男性が箒で掃いているふりをして、第一軍団の男たちの間に割って入った。暴言を浴びせかけながら、男たちはさっていく。

「ごめんなさい、ダリオ」

ルーチェが男性に、あやまった。

「いちいち怒ってると、際限がないぞ」

だから受け流せ、と、同僚ダリオは「にかっ」と笑った。

ひりついていた場が一気になごむ。リノは二人をながめて、そっと笑みをこぼした。



数百年前。突如として、異星人があらわれた。

ひとびとは、友好的に接しようとするが叶わず。地球上は大殺戮の場に、変貌した。

一部の生き残った人類は、まだ異星人の手が届いていない地を拠点として奪われた多くの土地を奪還するため。

人種関係なく、新しい国をつくり。軍隊を発足。

また異星人が産み出した泥人形ゴーレムに対抗するため、「戦闘人形」を作り出した。

とはいえ開発が不十分であるため、戦場には軍隊もいなければならない。

だが遠くない未来で、代理戦争が出来るようになるだろう。



ラジオから流れる首相の言葉が、兵舎内にひびいた。

訓練を終えて、リノが昼食をとっていると「いつものメンバー」が集まった。

ルーチェとダリオが、側に座ってきたのである。

「首相は同じことしか言わないわね」

「しもじもの民には、どこまで開発が進んでいるかなんて教える気がないんだろ」

とダリオは、するどい指摘をする。ルーチェは興味をうしなったのか。視線をリノに、投げてきた。

「うやむやになってたけど、護衛として戦闘人形がつくって本当?」

ダリオは初耳であったのか。目をむいて、身を乗り出した。

「なんの話だよ」

「リノが副司令官に呼び出されたでしょ。あの件よ」

リノは簡単に、副司令官の命令を伝えた。するとダリオも、同じように首をひねる。

疑念を抱くのは当然だろう。現に言われた本人が、釈然としないままでいる。

本日の軍務を終えて、寮へ戻る。明日も朝が早い。そうそうに眠ろうと、寝支度をととのえていると。

扉を軽やかに、たたく音が聞こえてきた。同室の者はいない。ならば知り合いであろうか。

しかし夜分に訪ねてくるような知り合いは、いないはずだ。もしくは急用であろうか。

扉を開けてみると、全身黒一色ので白髪の「少年」が立っていた。

目元は布でおおわれているため、表情は読み取れない。

「はじめまして、ご主人様マスター。本日付けで副司令官グランドマスターより命を受けて、護衛をさせていただきます」

識別番号はB42704205。個体名は「ルカ」と名乗った。戦闘人形がもう到着したらしい。

「副司令官から、どう聞いているのですか」

護衛をつける意図を探るために、問いかけた。戦闘人形は知ってか知らずか。

「ただお守りするよう、命じられました」

意思の持たない戦闘人形彼らは、人間のように嘘をつかない。やはり真意は、わからぬか。

仕方なく、寝台にもぐった。

***

リノの所属する十二軍団第四班は、任務のため城壁の外へ遠征に来ていた。今回はおもに、環境の調査である。

泥人形ゴーレムの討伐が終わった地で、環境を調べるのも大切な役目であった。

ただ戦地におもむきはしないので、おおきな手柄もない。ダリオはどこか、退屈そうだ。

「とつぜん泥人形ゴーレムの群れでもあらわれないかな」

「近くに泥人形ゴーレムの反応はございません。周囲は安全です」

生真面目に。否、機械的に返した声があった。リノの護衛についた戦闘人形である。

「わかってるよ。ちょっと言ってみただけだ」

ダリオの声色に、怒気がにじんでいる。はじめは面白がって声をかけていたが、「つまらない」となったのか。すっかり興味をうしなっている。

リノが根ざしている植物を、紙に素早く書き留めているとルーチェが話しかけてきた。

「戦闘人形に訊いてみたの?」

副司令官の思惑についてだろう。昨夜の会話を伝えると、納得したようだ。しょせん道具でしかない戦闘人形に、上層部の考えなど教えるはずもない。

一通り調査を終えて、城郭都市へ戻っていると。戦闘人形が足を止めた。

「お待ちください」

静かな声で戦闘人形は、皆に制止をうながす。

「近くに二体、泥人形ゴーレム反応があります」

「この地域の泥人形ゴーレムは討伐されたはずだろう」

と班長は疑心を、ふくませる。戦闘人形は聞いていないようすで、駆けていく。

追いかけていくと、ブリキでつくられたぜんまい仕掛けのロボットがいた。泥人形ゴーレムである。

リノはもともと第一軍団にいたため、見るのが初めてではない。

しかし他のメンバーは、初めて目にした。うわさ程度にしか聞いていなかったが、これが泥人形ゴーレムなのかと驚きを隠せない。

「ジヒヲクダサイ、ミノガシテクダサイ。ドウカ、ドウカ」

泥人形ゴーレムが人の言葉をしゃべった。戦闘人形は持っていた槍で、二体ともつらぬく。と電気がはじけた。

「聞いてはいけません。泥人形彼らに意思は、ないのですから」

本当に意思はないのだろうか。疑念が十二軍団第四班にひろがった。
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