3 / 3
後編
しおりを挟む
いつからつけられていたのだろう。見るからに高そうな衣服をまとった男が、銃口をかまえていた。オラーツィオが銃をかまえようとしたが、男の部下が腕を打ち抜く。
「こちらも、やられてばかりではないんでね。さあ、銃を捨てて娘を渡せ」
さきほどと違い、ルドはM9を捨てない。逆に男に銃口を向けた。部下の銃口から弾丸が飛び出すが、頬をかすめただけだった。すばやく動いて、部下を打ち抜く。残りは地位が高そうな男だけとなる。お互いが銃口を向け合って、動きが止まった。
「嬢ちゃん、逃げよう」
腕の傷をかばいながら、オラーツィオはジェマを引き寄せる。
「させるか」
両手利きなのか。男は左手に回転式銃を持って、オラーツィオの背中を打ち抜いた。みるみるうちに出血量が増えて、躰の力が抜けていく。ジェマが傷口をおさえても、とまらない。
「嬢ちゃん、怪我してない?」
「オラーツィオがいたから」
「なら、よかった。オレは盾にでもなるよ。ただ最後に」
最後の力をふりしぼって、オラーツィオが懐から小型拳銃を取り出した。無駄のないうごきでふりかえると、男の左脇腹をうちぬく。男はよろめいて、回転式銃を落とした。その一瞬の隙を、ルドは見逃さない。すっと男の懐に入り込む。同時に二つの銃声が、朝焼けの空にとどろいた。
ジェマは目を真っ赤に腫らして、涙をこぼしていた。拭いても拭いても、止まらない。
「泣かないでおくれ。命を賭して戦うと決めてくれたのは、彼ら自身の選択でもあるのだから」
義父アロルドがやさしく、頭を撫でた。
「だって、だって……全部、義父さんの策略だったなんて!」
二つの勢力が力を伸ばしはじめ、いつまで中立の立場を保ったままいられるかわからなかった。そこでアロルドは娘と一緒に街から逃亡するために、一計を案じたという。無言で出て行けば、追っ手を差し向けられるのはわかりきっていた。だからルドに頼んで死を偽装し、役人か組織が仕掛けてきたら混乱に乗じて娘と共に逃げようとしていたという。
「すまないね、ジェマ。巻き込んでしまって。あまりに私は情報屋として名が売れてしまっているから、策を講じる必要があったんだよ」
「だとしてもルドもオラーツィオも、こんなにボロボロになって。死んじゃうかと思った」
二人は全身包帯に巻かれて、寝台の上だ。鉄橋で追い詰められたとき。ルドのM9だけでなく、男が持っていた拳銃からも弾丸が飛び出した。男は絶命したが、ルドは心臓から外れていた。致命傷はまぬがれたが、肺近くにうちこまれたのもあって重傷を負った。
「アロルドさんの人脈のお陰で、助かりました。この船も知り合いが乗せてくれているんでしょう」
医術のこころえのあるものが駆けつけてくれて、手当てをしてくれた。そのあと、船が来て重傷である二人を運んでくれたのだ。
「このまま他の国へ行くつもりなんだ。二人もいいのかい? 私たちについてこなくても佳いんだよ」
アロルドが問いかけると、オラーツィオは二カッと歯を見せて笑う。
「ついていきますよ。どうせあの街ではお尋ね者になっているでしょうし」
ルドもやわらかく笑んで、肯定した。
「あの街に未練はありませんからね」
扉のノック音がひびいて、アロルドは友人に呼ばれた。ひさかたぶりに会う旧友なのか。声をはずませながら、部屋を出て行く。オラーツィオも「外の空気を吸ってくる」と、出て行ってしまった。部屋にはジェマとルドが残されてしまう。
「傷いたむ?」
「まあな」
ぶっきらぼうに言って、ジェマの髪をなでた。
「悲しそうな顔をするな。ちゃんと生きてる」
「うん、そうだね。よかった」
笑顔を浮かべるも、涙はとまってくれない。ふいにやさしいほほえみをうかべて、ルドは頬に触れた。
「かわいいな。もっと顔をよく見せてくれないか」
泣き顔を見られたくないからと、顔をそむける。幾度か押し問答を繰り広げて、とうとうルドが強引に肩ごと抱き寄せた。吐息を感じる距離におどろいて、体中がのぼせあがる。
「ジェマ、これからも側にいてくれ。愛してる」
「あなたの愛情表現はわかりにくいのよ。でも、好きよ。腹立つくらい」
「悪かったな、わかりにくくて」
と、強引に唇をうばわれた。
了
「こちらも、やられてばかりではないんでね。さあ、銃を捨てて娘を渡せ」
さきほどと違い、ルドはM9を捨てない。逆に男に銃口を向けた。部下の銃口から弾丸が飛び出すが、頬をかすめただけだった。すばやく動いて、部下を打ち抜く。残りは地位が高そうな男だけとなる。お互いが銃口を向け合って、動きが止まった。
「嬢ちゃん、逃げよう」
腕の傷をかばいながら、オラーツィオはジェマを引き寄せる。
「させるか」
両手利きなのか。男は左手に回転式銃を持って、オラーツィオの背中を打ち抜いた。みるみるうちに出血量が増えて、躰の力が抜けていく。ジェマが傷口をおさえても、とまらない。
「嬢ちゃん、怪我してない?」
「オラーツィオがいたから」
「なら、よかった。オレは盾にでもなるよ。ただ最後に」
最後の力をふりしぼって、オラーツィオが懐から小型拳銃を取り出した。無駄のないうごきでふりかえると、男の左脇腹をうちぬく。男はよろめいて、回転式銃を落とした。その一瞬の隙を、ルドは見逃さない。すっと男の懐に入り込む。同時に二つの銃声が、朝焼けの空にとどろいた。
ジェマは目を真っ赤に腫らして、涙をこぼしていた。拭いても拭いても、止まらない。
「泣かないでおくれ。命を賭して戦うと決めてくれたのは、彼ら自身の選択でもあるのだから」
義父アロルドがやさしく、頭を撫でた。
「だって、だって……全部、義父さんの策略だったなんて!」
二つの勢力が力を伸ばしはじめ、いつまで中立の立場を保ったままいられるかわからなかった。そこでアロルドは娘と一緒に街から逃亡するために、一計を案じたという。無言で出て行けば、追っ手を差し向けられるのはわかりきっていた。だからルドに頼んで死を偽装し、役人か組織が仕掛けてきたら混乱に乗じて娘と共に逃げようとしていたという。
「すまないね、ジェマ。巻き込んでしまって。あまりに私は情報屋として名が売れてしまっているから、策を講じる必要があったんだよ」
「だとしてもルドもオラーツィオも、こんなにボロボロになって。死んじゃうかと思った」
二人は全身包帯に巻かれて、寝台の上だ。鉄橋で追い詰められたとき。ルドのM9だけでなく、男が持っていた拳銃からも弾丸が飛び出した。男は絶命したが、ルドは心臓から外れていた。致命傷はまぬがれたが、肺近くにうちこまれたのもあって重傷を負った。
「アロルドさんの人脈のお陰で、助かりました。この船も知り合いが乗せてくれているんでしょう」
医術のこころえのあるものが駆けつけてくれて、手当てをしてくれた。そのあと、船が来て重傷である二人を運んでくれたのだ。
「このまま他の国へ行くつもりなんだ。二人もいいのかい? 私たちについてこなくても佳いんだよ」
アロルドが問いかけると、オラーツィオは二カッと歯を見せて笑う。
「ついていきますよ。どうせあの街ではお尋ね者になっているでしょうし」
ルドもやわらかく笑んで、肯定した。
「あの街に未練はありませんからね」
扉のノック音がひびいて、アロルドは友人に呼ばれた。ひさかたぶりに会う旧友なのか。声をはずませながら、部屋を出て行く。オラーツィオも「外の空気を吸ってくる」と、出て行ってしまった。部屋にはジェマとルドが残されてしまう。
「傷いたむ?」
「まあな」
ぶっきらぼうに言って、ジェマの髪をなでた。
「悲しそうな顔をするな。ちゃんと生きてる」
「うん、そうだね。よかった」
笑顔を浮かべるも、涙はとまってくれない。ふいにやさしいほほえみをうかべて、ルドは頬に触れた。
「かわいいな。もっと顔をよく見せてくれないか」
泣き顔を見られたくないからと、顔をそむける。幾度か押し問答を繰り広げて、とうとうルドが強引に肩ごと抱き寄せた。吐息を感じる距離におどろいて、体中がのぼせあがる。
「ジェマ、これからも側にいてくれ。愛してる」
「あなたの愛情表現はわかりにくいのよ。でも、好きよ。腹立つくらい」
「悪かったな、わかりにくくて」
と、強引に唇をうばわれた。
了
0
お気に入りに追加
2
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(1件)
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。
子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。
さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。
忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。
「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」
気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、
「信じられない!離縁よ!離縁!」
深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。
結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
おもしろい!
お気に入りに登録しました~
ありがとうございます♪