王太子殿下の横っ面を叩いたら結婚することになりました〜《外れ》スキル『ビンタ』の気弱な聖女、実は桁違いの浄化の力を持っていた〜

水都 ミナト

文字の大きさ
上 下
2 / 5

第二話 バッシィィィン!!

しおりを挟む
 密かに美麗な王子に憧れの念を抱いていたレティシアは、憧れの人の見るも無惨な姿に両手で口を覆って浅く呼吸をしていた。

「だ、誰がこんな強力な呪いを解けるの……?」
「わ、私にはとても無理だわ……」

 あちこちでヒソヒソと聖女たちの会話が聞こえる。
 確かに並大抵の神聖力では浄化し切れないほど強力な呪いらしい。

「ら、ライラ…!ライラよ!今すぐに殿下の命をお助けするのだ!傷を癒やし、呪いを退けよ!」
「えっ……!わ、私?」

 真っ青な顔で立ちすくんでいたライラは、神官長に指名されてびくりと身体を跳ねさせた。

「何を言っておる!今この神殿で一番力が強いのはお主だろう?それに、ここで殿下をお救いすれば、未来の王妃にはライラに決まりだろうて」
「っ!わ、分かりました。やってみますわ」

 ライラはごくりと喉を鳴らすと、覚悟を決めたようにミシェル殿下へ歩み寄った。

 震える手をミシェル殿下へと伸ばし、恐る恐るその身を抱きしめようとした。だけれど、ライラの手がミシェル殿下に触れようとしたその時、ざわっと黒い何かが波打ってライラに襲いかかった。

「きゃぁぁぁあっ!!?」

 ライラの身体までも黒い何かに覆われて、ライラはカタカタ震えながら唇まで真っ白になってその場にへたり込んでしまった。どこかで自分が王子を救い出し、力を示すことで、次期王妃の座を射止める魂胆があっただけに、その表情には絶望の色が滲んでいる。

「あ……ああ、ああああっ!」
「ぐぅ……ライラでも無理となると、このままでは殿下のお命が危ない」

 苦しげにのたうち回るライラに手を差し伸べるでもなく、神官長は歯を食いしばった。絞り出すような神官長の声に、レティシアは目を見開いた。

(そ、そんな……ミシェル殿下が、死ぬ?)

 レティシアは、ふるふる震える身体を抱き抱えるようにして立ちすくんでいた。だが、気が付けば足が勝手にミシェル殿下の方へと向かっていくではないか。

(殿下は、私を救ってくれたお方……それからずっと密かに想い続けて来た)

 はーはーと肩で息をしながら、ミシェル殿下の傍に立つレティシア。周りの騎士たちもどうかしたのかと戸惑いの色が滲んでいる。だが、レティシアも聖女の法衣を身に纏っている。治療に挑戦するものと理解されたようで、ミシェル殿下に近付くことを咎められなかった。

「ミシェル殿下……」

(毎日、雑用ばかりで辛かった。でも、私の心の支えであるあなたがいたから、今日まで頑張ってこれた)

「殿下、殿下……お気を確かに」
「む、無駄よ……私でも無理だったんだもの。うぅ、ぐ……《外れ》のあなたが、どう足掻こうとも殿下を救うことは――」
「っ!」

 レティシアが目に涙を滲ませながら、ミシェル殿下に呼びかけるも、傍らで蹲るライラに無駄だと一蹴されてしまう。

(《外れ》スキルの私でも、殿下をお救いできる可能性が、少しでもあるのなら……あの日の殿下の言葉を信じて――)

 レティシアはギュウっと拳を握って覚悟を決めた。
 すーはーすーはーと何度も深呼吸を繰り返す。

 スキルを得てから、レティシアは神官長に凄まれた時以外にスキルを使ったことがなかった。
 聖女に相応しくもなく、レティシアの性格にも適合せず、《外れ》だと散々笑われたスキルであるが、その真価を発揮すれば、もしかするともしかするかもしれない。

 その一縷の望みをかけて、レティシアは覚悟を決める。

「殿下、し、しし、失礼いたしまふっ!えいっ!!」

 レティシアは握りしめていた拳を開くと、ぶん、と大きく振りかぶり、ミシェル殿下の頬目掛けて持てる力の限り腕を振り抜いた。

 バシィィィン!!!
 バシィィン!!
 バシィン……!
 バシン……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。

国樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。 声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。 愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。 古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。 よくある感じのざまぁ物語です。 ふんわり設定。ゆるーくお読みください。

第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください!

黒うさぎ
恋愛
公爵令嬢であるレイシアは、第一王子であるロイスの婚約者である。 しかし、ロイスはレイシアを邪険に扱うだけでなく、男爵令嬢であるメリーに入れ込んでいた。 レイシアにとって心安らぐのは、王城の庭園で第二王子であるリンドと語らう時間だけだった。 そんなある日、ついにロイスとの関係が終わりを迎える。 「レイシア、貴様との婚約を破棄する!」 第一王子は男爵令嬢にご執心なようなので、国は私と第二王子にお任せください! 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+にも投稿しています。

【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。

美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯? 

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?

瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」 婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。 部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。 フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。 ざまぁなしのハッピーエンド! ※8/6 16:10で完結しました。 ※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。 ※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

悪役令嬢の涙

拓海のり
恋愛
公爵令嬢グレイスは婚約者である王太子エドマンドに卒業パーティで婚約破棄される。王子の側には、癒しの魔法を使え聖女ではないかと噂される子爵家に引き取られたメアリ―がいた。13000字の短編です。他サイトにも投稿します。

大魔法使いの娘ですが、王子からの婚約破棄は気にせず、この力をもって幸せに生きていきます。

四季
恋愛
一見栗色の髪を生まれ持った十八歳の平凡な娘でしかない私――ガーベラには、実は秘密がある。

処理中です...