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第二話 バッシィィィン!!
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密かに美麗な王子に憧れの念を抱いていたレティシアは、憧れの人の見るも無惨な姿に両手で口を覆って浅く呼吸をしていた。
「だ、誰がこんな強力な呪いを解けるの……?」
「わ、私にはとても無理だわ……」
あちこちでヒソヒソと聖女たちの会話が聞こえる。
確かに並大抵の神聖力では浄化し切れないほど強力な呪いらしい。
「ら、ライラ…!ライラよ!今すぐに殿下の命をお助けするのだ!傷を癒やし、呪いを退けよ!」
「えっ……!わ、私?」
真っ青な顔で立ちすくんでいたライラは、神官長に指名されてびくりと身体を跳ねさせた。
「何を言っておる!今この神殿で一番力が強いのはお主だろう?それに、ここで殿下をお救いすれば、未来の王妃にはライラに決まりだろうて」
「っ!わ、分かりました。やってみますわ」
ライラはごくりと喉を鳴らすと、覚悟を決めたようにミシェル殿下へ歩み寄った。
震える手をミシェル殿下へと伸ばし、恐る恐るその身を抱きしめようとした。だけれど、ライラの手がミシェル殿下に触れようとしたその時、ざわっと黒い何かが波打ってライラに襲いかかった。
「きゃぁぁぁあっ!!?」
ライラの身体までも黒い何かに覆われて、ライラはカタカタ震えながら唇まで真っ白になってその場にへたり込んでしまった。どこかで自分が王子を救い出し、力を示すことで、次期王妃の座を射止める魂胆があっただけに、その表情には絶望の色が滲んでいる。
「あ……ああ、ああああっ!」
「ぐぅ……ライラでも無理となると、このままでは殿下のお命が危ない」
苦しげにのたうち回るライラに手を差し伸べるでもなく、神官長は歯を食いしばった。絞り出すような神官長の声に、レティシアは目を見開いた。
(そ、そんな……ミシェル殿下が、死ぬ?)
レティシアは、ふるふる震える身体を抱き抱えるようにして立ちすくんでいた。だが、気が付けば足が勝手にミシェル殿下の方へと向かっていくではないか。
(殿下は、私を救ってくれたお方……それからずっと密かに想い続けて来た)
はーはーと肩で息をしながら、ミシェル殿下の傍に立つレティシア。周りの騎士たちもどうかしたのかと戸惑いの色が滲んでいる。だが、レティシアも聖女の法衣を身に纏っている。治療に挑戦するものと理解されたようで、ミシェル殿下に近付くことを咎められなかった。
「ミシェル殿下……」
(毎日、雑用ばかりで辛かった。でも、私の心の支えであるあなたがいたから、今日まで頑張ってこれた)
「殿下、殿下……お気を確かに」
「む、無駄よ……私でも無理だったんだもの。うぅ、ぐ……《外れ》のあなたが、どう足掻こうとも殿下を救うことは――」
「っ!」
レティシアが目に涙を滲ませながら、ミシェル殿下に呼びかけるも、傍らで蹲るライラに無駄だと一蹴されてしまう。
(《外れ》スキルの私でも、殿下をお救いできる可能性が、少しでもあるのなら……あの日の殿下の言葉を信じて――)
レティシアはギュウっと拳を握って覚悟を決めた。
すーはーすーはーと何度も深呼吸を繰り返す。
スキルを得てから、レティシアは神官長に凄まれた時以外にスキルを使ったことがなかった。
聖女に相応しくもなく、レティシアの性格にも適合せず、《外れ》だと散々笑われたスキルであるが、その真価を発揮すれば、もしかするともしかするかもしれない。
その一縷の望みをかけて、レティシアは覚悟を決める。
「殿下、し、しし、失礼いたしまふっ!えいっ!!」
レティシアは握りしめていた拳を開くと、ぶん、と大きく振りかぶり、ミシェル殿下の頬目掛けて持てる力の限り腕を振り抜いた。
バシィィィン!!!
バシィィン!!
バシィン……!
バシン……!
「だ、誰がこんな強力な呪いを解けるの……?」
「わ、私にはとても無理だわ……」
あちこちでヒソヒソと聖女たちの会話が聞こえる。
確かに並大抵の神聖力では浄化し切れないほど強力な呪いらしい。
「ら、ライラ…!ライラよ!今すぐに殿下の命をお助けするのだ!傷を癒やし、呪いを退けよ!」
「えっ……!わ、私?」
真っ青な顔で立ちすくんでいたライラは、神官長に指名されてびくりと身体を跳ねさせた。
「何を言っておる!今この神殿で一番力が強いのはお主だろう?それに、ここで殿下をお救いすれば、未来の王妃にはライラに決まりだろうて」
「っ!わ、分かりました。やってみますわ」
ライラはごくりと喉を鳴らすと、覚悟を決めたようにミシェル殿下へ歩み寄った。
震える手をミシェル殿下へと伸ばし、恐る恐るその身を抱きしめようとした。だけれど、ライラの手がミシェル殿下に触れようとしたその時、ざわっと黒い何かが波打ってライラに襲いかかった。
「きゃぁぁぁあっ!!?」
ライラの身体までも黒い何かに覆われて、ライラはカタカタ震えながら唇まで真っ白になってその場にへたり込んでしまった。どこかで自分が王子を救い出し、力を示すことで、次期王妃の座を射止める魂胆があっただけに、その表情には絶望の色が滲んでいる。
「あ……ああ、ああああっ!」
「ぐぅ……ライラでも無理となると、このままでは殿下のお命が危ない」
苦しげにのたうち回るライラに手を差し伸べるでもなく、神官長は歯を食いしばった。絞り出すような神官長の声に、レティシアは目を見開いた。
(そ、そんな……ミシェル殿下が、死ぬ?)
レティシアは、ふるふる震える身体を抱き抱えるようにして立ちすくんでいた。だが、気が付けば足が勝手にミシェル殿下の方へと向かっていくではないか。
(殿下は、私を救ってくれたお方……それからずっと密かに想い続けて来た)
はーはーと肩で息をしながら、ミシェル殿下の傍に立つレティシア。周りの騎士たちもどうかしたのかと戸惑いの色が滲んでいる。だが、レティシアも聖女の法衣を身に纏っている。治療に挑戦するものと理解されたようで、ミシェル殿下に近付くことを咎められなかった。
「ミシェル殿下……」
(毎日、雑用ばかりで辛かった。でも、私の心の支えであるあなたがいたから、今日まで頑張ってこれた)
「殿下、殿下……お気を確かに」
「む、無駄よ……私でも無理だったんだもの。うぅ、ぐ……《外れ》のあなたが、どう足掻こうとも殿下を救うことは――」
「っ!」
レティシアが目に涙を滲ませながら、ミシェル殿下に呼びかけるも、傍らで蹲るライラに無駄だと一蹴されてしまう。
(《外れ》スキルの私でも、殿下をお救いできる可能性が、少しでもあるのなら……あの日の殿下の言葉を信じて――)
レティシアはギュウっと拳を握って覚悟を決めた。
すーはーすーはーと何度も深呼吸を繰り返す。
スキルを得てから、レティシアは神官長に凄まれた時以外にスキルを使ったことがなかった。
聖女に相応しくもなく、レティシアの性格にも適合せず、《外れ》だと散々笑われたスキルであるが、その真価を発揮すれば、もしかするともしかするかもしれない。
その一縷の望みをかけて、レティシアは覚悟を決める。
「殿下、し、しし、失礼いたしまふっ!えいっ!!」
レティシアは握りしめていた拳を開くと、ぶん、と大きく振りかぶり、ミシェル殿下の頬目掛けて持てる力の限り腕を振り抜いた。
バシィィィン!!!
バシィィン!!
バシィン……!
バシン……!
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