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第13話 麗しのお姫様④
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ラルフは人魚の姿に戻っているマリアンヌの姿を視界に入れるとギョッと身を固くした。マリアンヌはピンクの貝殻の胸当てをしてはいるが、上半身はほぼ露出しており、水の滴る艶やかな白い肌がラルフには眩しすぎた。
「わ、分かったから早く服を着ろ!」
「あら、失礼いたしました」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くラルフが可愛い。マリアンヌはニヤニヤする顔を隠そうともせずに身体を全て水から出した。すると、あっという間に鰭と鱗が淡い光となりマリアンヌを包み込み、二本の脚とワンピースに変化した。マリアンヌは脚の感覚を確かめて頷くと、胸元のペンダントに手を添えて身体を乾かした。
「お待たせいたしました」
「…おう」
未だに気まずそうなラルフであるが、マリアンヌとしては魚人の姿がこれまで十六年間過ごしてきた姿なので、見られたところで恥ずかしくもなんともない。まあ、ラルフはほとんど魚人と交流がないと言っていたし、ちょっぴり刺激的だったかしらとマリアンヌは呑気に考える。
マリアンヌはシェリルに向かい合い、優しく微笑みかけた。
「シェリル、あなたはこの国のお姫様だったのですね」
「うん。ごめんね、黙ってて」
「いえ、気づかなかった私にも不備はございますのでお気になさらず」
しょんぼりと元々垂れている耳を益々垂らしていたシェリルは、マリアンヌの言葉に少しホッとした様子を見せた。だが、兄のラルフは鋭い眼差しでシェリルを睨んでいる。
「シェリル、勝手に遠くに行くなといつも言っているだろう。せめて侍女をつけろ」
「今日は調子がいいもん。私だって一人でお散歩ぐらいしたいです」
「馬鹿、そんなこと言ってこの間も寝込んでいただろうが。また薬の時間に抜け出しやがって」
二人の会話を聞く限り、シェリルは元々身体が弱いのか、定期的に薬を飲んでいるようだ。中庭で会った時のことを思い出すと、確かに何かから身を隠すように花壇の陰に蹲っていた。薬から逃げていたところにうっかり遭遇してしまったようだ。
「それに、なんでこの女と一緒にいるんだ?」
まだ数日の付き合いなのにすっかり見慣れてしまったラルフの呆れ顔。対照的にシェリルは満面の笑みで答えた。
「私、マリンちゃんとお友達になったのです!」
「はぁ!?マリンちゃん…?友達…?」
得意げなシェリルの言葉に、大袈裟なほどに眉を顰めるラルフ。訝しむようにマリアンヌを睨む視線が痛い。
「そうですわ。中庭で偶然お会いして、人魚姫の童話がお好きと聞きましたので、元の姿をお見せしていたのです」
「…なるほど、シェリルの我儘に付き合わせたようだな。すまなかった」
「いえ、我儘なんて聞いておりませんよ。私はただ、愛らしい獣人の女の子のお願いを一つ聞いただけにすぎません」
「…そういうことにしておく」
ラルフは全てお見通しのようだが、溜息を吐きつつ引き下がってくれた。昨日街に出た時、どこか面倒見がよくて優しい一面を垣間見たが、こんなに可愛らしい妹がいるのならば納得がいく。ラルフは妹思いのいいお兄ちゃんなのだろう。そしてシェリルもそんな優しい兄が大好きなのだ。
「………なんだその顔は」
「え?なんでもありませんよ?」
「嘘つけ!たるみきってるわ!どうせまた良からぬことを考えているのだろう」
だって二人の関係性が素敵すぎて、頬が溶けても仕方がないでしょう。二人とも愛らしすぎるもの。
キャンキャンとラルフが吠えているが、マリアンヌとラルフのやり取りをポカンとした表情で眺めていたシェリルが堪えきれずに吹き出したので、この場はお開きになった。
マリアンヌは少し気まずそうなラルフと共にシェリルを医務室へと送っていった。
「わ、分かったから早く服を着ろ!」
「あら、失礼いたしました」
顔を真っ赤にしてそっぽを向くラルフが可愛い。マリアンヌはニヤニヤする顔を隠そうともせずに身体を全て水から出した。すると、あっという間に鰭と鱗が淡い光となりマリアンヌを包み込み、二本の脚とワンピースに変化した。マリアンヌは脚の感覚を確かめて頷くと、胸元のペンダントに手を添えて身体を乾かした。
「お待たせいたしました」
「…おう」
未だに気まずそうなラルフであるが、マリアンヌとしては魚人の姿がこれまで十六年間過ごしてきた姿なので、見られたところで恥ずかしくもなんともない。まあ、ラルフはほとんど魚人と交流がないと言っていたし、ちょっぴり刺激的だったかしらとマリアンヌは呑気に考える。
マリアンヌはシェリルに向かい合い、優しく微笑みかけた。
「シェリル、あなたはこの国のお姫様だったのですね」
「うん。ごめんね、黙ってて」
「いえ、気づかなかった私にも不備はございますのでお気になさらず」
しょんぼりと元々垂れている耳を益々垂らしていたシェリルは、マリアンヌの言葉に少しホッとした様子を見せた。だが、兄のラルフは鋭い眼差しでシェリルを睨んでいる。
「シェリル、勝手に遠くに行くなといつも言っているだろう。せめて侍女をつけろ」
「今日は調子がいいもん。私だって一人でお散歩ぐらいしたいです」
「馬鹿、そんなこと言ってこの間も寝込んでいただろうが。また薬の時間に抜け出しやがって」
二人の会話を聞く限り、シェリルは元々身体が弱いのか、定期的に薬を飲んでいるようだ。中庭で会った時のことを思い出すと、確かに何かから身を隠すように花壇の陰に蹲っていた。薬から逃げていたところにうっかり遭遇してしまったようだ。
「それに、なんでこの女と一緒にいるんだ?」
まだ数日の付き合いなのにすっかり見慣れてしまったラルフの呆れ顔。対照的にシェリルは満面の笑みで答えた。
「私、マリンちゃんとお友達になったのです!」
「はぁ!?マリンちゃん…?友達…?」
得意げなシェリルの言葉に、大袈裟なほどに眉を顰めるラルフ。訝しむようにマリアンヌを睨む視線が痛い。
「そうですわ。中庭で偶然お会いして、人魚姫の童話がお好きと聞きましたので、元の姿をお見せしていたのです」
「…なるほど、シェリルの我儘に付き合わせたようだな。すまなかった」
「いえ、我儘なんて聞いておりませんよ。私はただ、愛らしい獣人の女の子のお願いを一つ聞いただけにすぎません」
「…そういうことにしておく」
ラルフは全てお見通しのようだが、溜息を吐きつつ引き下がってくれた。昨日街に出た時、どこか面倒見がよくて優しい一面を垣間見たが、こんなに可愛らしい妹がいるのならば納得がいく。ラルフは妹思いのいいお兄ちゃんなのだろう。そしてシェリルもそんな優しい兄が大好きなのだ。
「………なんだその顔は」
「え?なんでもありませんよ?」
「嘘つけ!たるみきってるわ!どうせまた良からぬことを考えているのだろう」
だって二人の関係性が素敵すぎて、頬が溶けても仕方がないでしょう。二人とも愛らしすぎるもの。
キャンキャンとラルフが吠えているが、マリアンヌとラルフのやり取りをポカンとした表情で眺めていたシェリルが堪えきれずに吹き出したので、この場はお開きになった。
マリアンヌは少し気まずそうなラルフと共にシェリルを医務室へと送っていった。
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