【完結】もふもふ好きの前向き人魚姫は獣人王子をもふもふしたいっ!

水都 ミナト

文字の大きさ
上 下
9 / 43

第9話 獣人と魚人の隔たり④

しおりを挟む
 マリアンヌは柔らかな笑みを浮かべながら、ゆるゆる首を振っている。口元に涎の跡がついているのには触れない方が良さそうだ。

「殿下、いいのです。私は獣人さんとお話ができて嬉しかったです」
「はぁ!?お前、明らかに絡まれてただろうが。何か嫌なことでも言われたんだろう?」
「そうでしたかね…獣人さんとお話できた喜びで余り覚えておりませんが…あっ、私磯臭いですか?昨日しっかり湯浴みをしたのですが」

 思案げに首を傾げるマリアンヌであるが、ラルフはとある言葉に過剰に反応した。

「『磯臭い』だと?そう言われたのか?」
「ええ」
「ちっ、やっぱり後を追って捉えるべきだったか」

 苛立ちを露わにするラルフに、要領を得ていないマリアンヌはさらに首を傾ける。その様子にため息をつきながら、ラルフは事情を説明した。

「あのな、『磯臭い』ってのは魚人に対する侮蔑の言葉だ。一昔前の死語みたいなもんだが…まだそんな馬鹿なことを言う奴がいたとは…不快な思いをさせたな。国を代表して詫びよう」
「あら、気にしないでくださいまし。私は何も傷ついておりませんわ。それに、獣人の中には魚人にいい印象を持っていない方がいるのは分かっておりました。それを実際に目にして悲しい気持ちもありますが…うふふ、殿下のお話を聞いて私の野望に火がつきましたわ」
「お前の野望?」

 めらりと瞳に火を灯すマリアンヌ。だらしない顔ばかり見せてきたが、その表情は凛々しく威厳に満ちていた。

「ええ、私は魚人と獣人が手を取り仲良くなれる日を夢見ておりますの。私は魚人も獣人もどちらも大好きです。お互いの魅力を知れば、きっと分かり合えるはずです。私たちに足りないのは相互理解ですわ」

 ラルフは驚きの余り言葉に詰まってしまった。


 ――なぜなら、マリアンヌが野望と言ったことは、ラルフの目指す魚人と獣人の理想の関係であったからだ。


 にっこりと笑みを深めるマリアンヌに、思わずラルフは言葉に詰まってしまう。マリアンヌが野望と語る夢物語は簡単には実現できないものなのだ。

 古の時代――あらゆる種族が領土を拡大せんと争いを繰り広げていた悪き時代。その時の遺恨を未だに残す獣人と魚人の関係をどうにか改善したいと、ラルフも常々頭を悩ませていた。他の種族と同じように、気軽に国を行き来し、交友を深め、そして文化や考え方を理解し合う。同じテーブルを囲って家族や友人のことを語り合えたらどれほど楽しいことだろう。

 ラルフは自らが王位を継いだ暁には、海王国との国交樹立を目指す考えである。
 だが、そのためにもラルフはもっと魚人のことを知る必要があると感じている。そんな中突如現れた魚人の姫であるマリアンヌは、ラルフにとって非常に重要な人物となり得るのかもしれない。

(はぁ、魚人に抱いていた優美で知的なイメージは一夜にして崩れ落ちてしまったが…獣人に好意を抱いてくれているこの女を知ることは獣人と魚人の関係改善の一助となるかもしれんな)

 いつかマリアンヌと、互いの国について腹を割って話してみるのもいいかもしれない。ラルフはもっとマリアンヌのことを知りたいと感じ始めていた。


 だが、まずは当初の目的を果たさねばなるまい。

「そうだな。俺も獣人と魚人が手を取り合える日を望んでいる。ともかく今日の目的はドレスを買うことだ。店主も中で待っているしそろそろ入るぞ」
「まあ、そうでした!ドレスとっても楽しみですわね」

 マリアンヌもここへ来た目的を思い出し、パァッと表情を綻ばせるとラルフに続いて店内への扉をくぐった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

今宵、薔薇の園で

天海月
恋愛
早世した母の代わりに妹たちの世話に励み、婚期を逃しかけていた伯爵家の長女・シャーロットは、これが最後のチャンスだと思い、唐突に持ち込まれた気の進まない婚約話を承諾する。 しかし、一か月も経たないうちに、その話は先方からの一方的な申し出によって破談になってしまう。 彼女は藁にもすがる思いで、幼馴染の公爵アルバート・グレアムに相談を持ち掛けるが、新たな婚約者候補として紹介されたのは彼の弟のキースだった。 キースは長年、シャーロットに思いを寄せていたが、遠慮して距離を縮めることが出来ないでいた。 そんな弟を見かねた兄が一計を図ったのだった。 彼女はキースのことを弟のようにしか思っていなかったが、次第に彼の情熱に絆されていく・・・。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処理中です...