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第11話 麗しのお姫様②
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「はぅあっ!?」
「きゃっ、だ、だれ?」
お腹でも痛いのかと心配になって近づいたマリアンヌはその正体を目にし、胸を押さえて後ろに数歩よろめいた。
そこに居たのは、大きなうさ耳を垂らした幼気な少女であった。柔らかそうなクリーム色の毛、くりくりと大きな金色の丸い目、白磁のように滑らかで透明感のある肌。その少女はまるで人形のように儚く可愛らしい。その存在がマリアンヌのハートを撃ち抜くのは必然とも言えた。
「はぁ…はぁ…なんて破壊力なの…天使が舞い降りたのかと思ったわ」
「え、えっと…あなたは誰?」
マリアンヌは思わず鼻を押さえたが、鼻血は出ていないようだ。ホッ。
少女は不審者の登場に明らかに怯えている。マリアンヌは少しでも警戒心を解こうと、膝をついて少女と視線を合わせて微笑んだ。頬が緩みすぎてしまわないようにしっかりと表情筋に力を入れることを忘れない。
「初めまして、可愛いお嬢さん。私はシーウッド海王国から参りました、マリアンヌ・セイレーンと申します。マリンちゃんとお呼びくださいな」
「ま、マリンちゃん…?」
「きゅーんっ!」
上目遣いでおずおずと愛称で呼ばれ、マリアンヌの被ダメは凄まじいものだった。乱れた息でうっとり頬を赤らめるマリアンヌは明らかに警戒すべき人物であるのだが、マリアンヌの自己紹介を受けた少女の顔はパァッと華やいだ。
「マリンちゃんって…もしかしてお兄さまが言っていた魚人のお姫さま?」
「お兄さま?がどなたか存じませんが…ええ、私は魚人の姫ですわ」
「すごーーいっ!」
キラキラした瞳に見つめられ、マリアンヌは息も絶え絶えだ。少女を怯えさすまいと必死で呼吸を整える。
「可愛いお嬢さんのお名前をお伺いしてもよろしくて?」
「うんっ、わたしの名前はシェリル。よろしくね、マリンちゃん」
満面の笑みを浮かべるシェリルが眩しすぎて、とうとうマリアンヌはその場に倒れ込んでしまった。
「マリンちゃん!?大丈夫…?」
「え、ええ…大丈夫ですわ。ご心配をおかけしました」
不安げに瞳を揺らすシェリルに心配をかけまいと、マリアンヌは気合いで萌えに震える身体を起こす。幼い獣人がこれほどまでに愛らしいとは、マリアンヌはシェリルとの出会いを神に感謝した。
マリアンヌの無事を確認し、シェリルはホッと安心した様子だが、そわそわと何処か落ち着きがない。
「どうかいたしましたか?」
「えっと、えっと…わたしね、赤ちゃんの時から人魚姫の絵本を読んでもらってて、人魚さんが大好きなの!だから魚人のお姫さまに会えてとっても嬉しい!」
「きゅーん!」
無邪気な笑みにまたもハートを撃ち抜かれるマリアンヌ。果たして中庭から生きて帰れるのか不安になってきた。だが、萌え死にするのも本望かもしれない…いやいや、マリアンヌは死ぬ時はもふもふに囲まれて死ぬと決めているので、こんなところで息絶えるわけにはいかない。
マリアンヌが一人で問答している間も、シェリルは「すごーい」「きれーい」と感嘆の声をあげている。
「マリンちゃんも海の魔女に人間にしてもらったの?」
「え?ああ、童話ではそうなっているのね。いいえ、私たち魚人はね、陸に上がると鰭を脚に変身させることができるのよ」
「そうなの?すごーい!ねぇ、どうやったら元の姿に戻れるの?もう戻れないの?」
よほど人魚姫の話が好きなのだろう。矢継ぎ早に質問攻めにされ、子供らしい純真無垢な様子に思わず微笑んでしまう。
「ふふ、大丈夫よ。海に入れば元に戻るわ。海じゃなくてもたくさんの水の中に潜れば鰭や鱗に戻すことができるのよ」
「すてきっ!ねぇねぇ、マリンちゃん。わたし…ずっと人魚姫に会いたかったの。だから、その…元の姿が見たいんだけど…ダメ?」
「いいわよ!もちろんよ!シェリルの願いはこの私が全て叶えてあげる!!」
愛らしい獣人の幼子にモジモジと恥ずかしそうにねだられて、頷かない人がいるのだろうか。否、いるはずもない。
マリアンヌは考えるまでもなく頷いていた。マリアンヌの承諾を得て、シェリルは嬉しそうにピョンっと飛び上がった。
「本当?じゃああっちにプールがあるから着いてきて!」
「あら、プールがあるの?」
「うんっ!大きいプールだからきっとマリンちゃんも気にいるよー!」
シェリルに手を引かれるまま、マリアンヌは美しい薔薇のアーチをくぐっていく。中庭には花壇だけでなく、アーチや花で作られたオブジェも至る所に飾られている。
もう少し中庭を散策したかったが、また後日にしよう。そう思いながらマリアンヌは足早にプールへと向かった。
「きゃっ、だ、だれ?」
お腹でも痛いのかと心配になって近づいたマリアンヌはその正体を目にし、胸を押さえて後ろに数歩よろめいた。
そこに居たのは、大きなうさ耳を垂らした幼気な少女であった。柔らかそうなクリーム色の毛、くりくりと大きな金色の丸い目、白磁のように滑らかで透明感のある肌。その少女はまるで人形のように儚く可愛らしい。その存在がマリアンヌのハートを撃ち抜くのは必然とも言えた。
「はぁ…はぁ…なんて破壊力なの…天使が舞い降りたのかと思ったわ」
「え、えっと…あなたは誰?」
マリアンヌは思わず鼻を押さえたが、鼻血は出ていないようだ。ホッ。
少女は不審者の登場に明らかに怯えている。マリアンヌは少しでも警戒心を解こうと、膝をついて少女と視線を合わせて微笑んだ。頬が緩みすぎてしまわないようにしっかりと表情筋に力を入れることを忘れない。
「初めまして、可愛いお嬢さん。私はシーウッド海王国から参りました、マリアンヌ・セイレーンと申します。マリンちゃんとお呼びくださいな」
「ま、マリンちゃん…?」
「きゅーんっ!」
上目遣いでおずおずと愛称で呼ばれ、マリアンヌの被ダメは凄まじいものだった。乱れた息でうっとり頬を赤らめるマリアンヌは明らかに警戒すべき人物であるのだが、マリアンヌの自己紹介を受けた少女の顔はパァッと華やいだ。
「マリンちゃんって…もしかしてお兄さまが言っていた魚人のお姫さま?」
「お兄さま?がどなたか存じませんが…ええ、私は魚人の姫ですわ」
「すごーーいっ!」
キラキラした瞳に見つめられ、マリアンヌは息も絶え絶えだ。少女を怯えさすまいと必死で呼吸を整える。
「可愛いお嬢さんのお名前をお伺いしてもよろしくて?」
「うんっ、わたしの名前はシェリル。よろしくね、マリンちゃん」
満面の笑みを浮かべるシェリルが眩しすぎて、とうとうマリアンヌはその場に倒れ込んでしまった。
「マリンちゃん!?大丈夫…?」
「え、ええ…大丈夫ですわ。ご心配をおかけしました」
不安げに瞳を揺らすシェリルに心配をかけまいと、マリアンヌは気合いで萌えに震える身体を起こす。幼い獣人がこれほどまでに愛らしいとは、マリアンヌはシェリルとの出会いを神に感謝した。
マリアンヌの無事を確認し、シェリルはホッと安心した様子だが、そわそわと何処か落ち着きがない。
「どうかいたしましたか?」
「えっと、えっと…わたしね、赤ちゃんの時から人魚姫の絵本を読んでもらってて、人魚さんが大好きなの!だから魚人のお姫さまに会えてとっても嬉しい!」
「きゅーん!」
無邪気な笑みにまたもハートを撃ち抜かれるマリアンヌ。果たして中庭から生きて帰れるのか不安になってきた。だが、萌え死にするのも本望かもしれない…いやいや、マリアンヌは死ぬ時はもふもふに囲まれて死ぬと決めているので、こんなところで息絶えるわけにはいかない。
マリアンヌが一人で問答している間も、シェリルは「すごーい」「きれーい」と感嘆の声をあげている。
「マリンちゃんも海の魔女に人間にしてもらったの?」
「え?ああ、童話ではそうなっているのね。いいえ、私たち魚人はね、陸に上がると鰭を脚に変身させることができるのよ」
「そうなの?すごーい!ねぇ、どうやったら元の姿に戻れるの?もう戻れないの?」
よほど人魚姫の話が好きなのだろう。矢継ぎ早に質問攻めにされ、子供らしい純真無垢な様子に思わず微笑んでしまう。
「ふふ、大丈夫よ。海に入れば元に戻るわ。海じゃなくてもたくさんの水の中に潜れば鰭や鱗に戻すことができるのよ」
「すてきっ!ねぇねぇ、マリンちゃん。わたし…ずっと人魚姫に会いたかったの。だから、その…元の姿が見たいんだけど…ダメ?」
「いいわよ!もちろんよ!シェリルの願いはこの私が全て叶えてあげる!!」
愛らしい獣人の幼子にモジモジと恥ずかしそうにねだられて、頷かない人がいるのだろうか。否、いるはずもない。
マリアンヌは考えるまでもなく頷いていた。マリアンヌの承諾を得て、シェリルは嬉しそうにピョンっと飛び上がった。
「本当?じゃああっちにプールがあるから着いてきて!」
「あら、プールがあるの?」
「うんっ!大きいプールだからきっとマリンちゃんも気にいるよー!」
シェリルに手を引かれるまま、マリアンヌは美しい薔薇のアーチをくぐっていく。中庭には花壇だけでなく、アーチや花で作られたオブジェも至る所に飾られている。
もう少し中庭を散策したかったが、また後日にしよう。そう思いながらマリアンヌは足早にプールへと向かった。
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