【完結】もふもふ好きの前向き人魚姫は獣人王子をもふもふしたいっ!

水都 ミナト

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第26話 ラルフの誘い①

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 マリアンヌとラルフが獣王国立学園に訪問して、早くも二週間が経過した。

 その間にマリアンヌとラルフは三度学園を訪問し、全ての初等部のクラスに水泳と走りの指導をした。運動祭に向けて、一クラスだけ指導したとなると流石に不公平だからと、続けて訪問することとなったのだ。
 他のクラスに訪れる際も、あの日初めて交流した獣人の子供たちは、マリアンヌを見かけるたびに嬉しそうに話しかけてくれる。それが堪らなく嬉しくて仕方がない。子供たちと戯れるマリアンヌをラルフも目元を和ませながら見守ってくれた。

 初回の訪問依頼、随分とラルフとは打ち解けたと思う。初対面ではボロクソに言われたものだが、ラルフも少しずつマリアンヌを認めて歩み寄ってくれているように感じる。
 もちろんマリアンヌは愛しの獣人さんと仲良くなれるに越したことはないので、ラルフといい友人関係を築けていることが誇らしく、胸が満たされる思いである。

 ちなみに、ラルフの中のマリアンヌへの信頼度が上がったことで、事前申請なしに街へ出かける許可が降りた。

 「素敵な獣人さん!そしてお婿さん探しよぉー!」と大喜びで息巻き出陣しようとしたマリアンヌの首根っこを掴んで待ったをかけたのは、もちろんラルフである。
 自国の民にマリアンヌの毒牙がかかるのを防ぐため、そして魚人の姫であるマリアンヌを守るため、街に出る時は必ずラルフかテディを同伴させるようにと追加で条件を出した。

 テディは虎武術という四足獣の動きを元にした獣人武術に秀でており、護衛としても優秀なのだとか。

 そんなこんなで時間さえ合えば街に繰り出すのが習慣となりつつあるマリアンヌである。


◇◇◇

「おい、行くぞ」
「行くとはどちらへ?」

 そんなある日のおやつどき。
 もはや恒例となったシェリルとのお茶会を終えたマリアンヌが、使用人の獣人たちを緩んだ顔で盗み見しながら王宮を散歩していると、不意にラルフに呼び止められた。

 有無を言わさぬ声音に大人しく着いていくが、こんな時間からどこに行くというのか。今から街に出たとしてもあまりゆっくり散策はできない。

 マリアンヌの心の内に気が付いているのだろう、ラルフはフッと笑みを漏らすと、「安心しろ、そう遠くはない」と言って歩みを進めた。

 王宮を出て、街のメイン通りを並んで歩く。足の長いラルフはさりげなくマリアンヌの歩幅に合わせてくれている。そのことに随分前から気付いているマリアンヌの頬がニヨニヨ緩んでしまうのも仕方がなかろう。

「お前、足腰に自信はあるか?」
「…ラルフ様?」

 尋ねるラルフに答えずに、マリアンヌは少し顎を上げて違うでしょう?と視線でラルフに訴える。
 ラルフはマリアンヌの言わんとすることがすぐに分かったらしく、僅かに頬を染めて唇を尖らせた。気まずそうにくるりと尻尾が巻かれる。可愛い。
 ラルフは結構照れ屋さんだとマリアンヌは思っているが、指摘しても怒られるだけなので心のうちに留めている。悶えるのは心の中だけにして平静を装うのだが、獣人は感情の機微が耳や尻尾に現れるのでたまらない。

(ああ、駄目だわ)

 マリアンヌは意識していてもだらしなく緩んでしまう頬を両手で持ち上げた。

「……マ、マリアンヌは足腰に自信はあるか?」
「ええ、足腰の強さは自負しております」

 密かに桃色の空をした妄想の世界を滑空していたマリアンヌは、ラルフの言葉に我に帰ると、満足げに微笑んだ。ラルフはまだマリアンヌを名前で呼ぶことに慣れないようで、どうしても前のように呼んでくる。でもそれも照れ隠し。(スケスケですわよ~!)と内心ときめいて狂喜乱舞しているが、表面上は平静を…装えなかった。だってラルフが可愛すぎる。

「でゅふふふ…」
「なんだよ、不気味なやつだな」

 ラルフがドン引きしている。でもこの顔もすっかり見慣れたマリアンヌは気にしない。

「こほん、それで、目的地はどちらで?」
「着いてからのお楽しみだ」

 気を取り直して尋ねるも、ラルフはどこか得意げな顔をして行く先を教えてくれない。それはそれで楽しいので、マリアンヌはさして気にした様子もなく、歩きながらも通りの獣人観察に勤しむ。

「お、マリアンヌちゃん!こんな時間からお出かけかい?」
「あー!マリアンヌ!また学園に来てくれよなっ!」
「あらあら、マリンちゃんは今日も可愛いわねえ」

 道ゆく人々にとめどなく声をかけられるマリアンヌはニコニコ微笑みながら手を振り挨拶をする。その様子にラルフが目を見開きあんぐりと口を開いていた。

「お前、いつの間にそんなに国民達と打ち解けたんだ?」
「え?時間があれば街に出ては交友関係を広げておりましたの。魚屋の店主のおじさまに、カフェのお姉さん、公園でよくお会いするおばあさま、学園の子ども達も下校時間にお散歩してたらよく会いますわ。うふふ、ラルフ様、この国の皆様はとても温かくて優しいのですね!私、ますますこの獣王国と獣人さんが大好きになりましたわ!」

 鼻唄混じりでうきうきと弾むように歩くマリアンヌ。
 もしマリアンヌが獣人だったなら、千切れんばかりに尻尾を振りまくっていることだろう。そんな尻尾が目に浮かぶようで、ラルフは思わず吹き出した。

「ははっ!本当におかしな女だな、お前は」
「あら失礼ですこと!私は獣人さんを愛してやまないただの魚人ですのに」

 ぷうっと膨れてみせるマリアンヌだが、それもおどけているだけだとラルフにはもう分かる。

(ったく、それが珍しいってのに…つくづく変な女だな)

 マリアンヌのことを考えると、つい笑みが溢れるラルフであるが、もちろん本人はそのことに気付いていない。

 ーーお互いに自覚はないが、二人の距離や信頼関係は着実に強固なものになりつつあった。
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