【完結】もふもふ好きの前向き人魚姫は獣人王子をもふもふしたいっ!

水都 ミナト

文字の大きさ
上 下
31 / 43

第31話 ラルフの婚約者!?

しおりを挟む
「か、カミラ。マリアンヌはな、今この城に住んでおるのだ。魚人にしては珍しく獣人を好いてくれておる。王族の娘を一人見知らぬ土地に放り出すのは可哀想だろう?だからな…」
「よい。咎めているわけではないわ。少し驚いただけじゃ。それに妾が持ち帰った問題の解決に役立ちそうじゃのう」
「持ち帰った問題…?」

 カミラ以外の四人が眉を顰めて顔を見合わせた時、廊下の向こうからガヤガヤと騒がしい音がした。誰かの駆ける音、それを咎め止めようとする声、バタバタという音はどんどん大きくなり、終いには開け放たれたままの扉からピンクの塊が飛び出してきた。

 何事かと見守っていると、ピンクの塊はカツンとヒールを鳴らすと静かに顔を上げた。
 茶味がかったブロンドの髪に気の強そうな吊り目がちな目、頭には小ぶりの耳がついている。

(まあ、気品があって可愛らしい方!獣人のご令嬢かしら?)

 そうマリアンヌが認識したと同時に、ラルフもその人が誰か理解したらしく、あからさまに嫌そうな声を上げた。

「げっ!!!?お前は…!?」
「ああっ!ラルフ様ぁ!お会いしとうございました!」

 ラルフを認識した獣人のご令嬢は、パァッと顔を輝かせてラルフに向かって行った。というより突進して行った。ドレスの裾を摘んで腰を深く落としたかと思うと、ぐっと足を踏み締めて弾丸のように飛び出したのだ。
 ご令嬢の突進を鳩尾に喰らったラルフは、「ぐふぅ」と呻きながら膝を折り、地にふしかけた。が、王子としての威厳か、はたまた男としての意地なのか、ギリっと歯を食いしばって足を踏ん張り持ち堪えた。

 マリアンヌは突然の事態にポカンと口を開けて動けずにいた。

 それにしてもあの踏み込みに瞬発力。ご令嬢にしては強靭な足腰を有しているようだ。
 彼女が足を踏み込んだ時に立派な筋肉が伸縮し、ピキッと青筋が浮かんだことをマリアンヌはしかとこの目に納めた。
 只者ではないようだが、一体何者なのだろう。それにあのラルフの態度…二人は気安い仲なのだろうか。

 なんだかもやりとした重い気持ちが胸にのしかかった。

(ん?何かしら、このモヤモヤした気持ちは…)

 マリアンヌは自分の胸に手を当てながら首を傾げる。そうこうしている間にも、ラルフはご令嬢にぐいぐい迫られている。

「はぁぁ、ラルフ様ったら全然会いに来てくださらないんですもの!私はこんなにお会いしたかったというのに…!」
「は、離せ!シャーロット、人の話を聞かないのは相変わらずのようだな…!ぐふぅ」

 薔薇色に染まり、とろんと蕩けた顔でラルフに迫るシャーロットと呼ばれたご令嬢。シャーロットの顔を引き剥がすように押し除けようとするラルフ。二人の攻防は一進一退だ。彼女は瞬発力だけでなく力も相当らしい。
 マリアンヌは王妃の登場にシャーロットの乱入という怒涛の展開に目を瞬き立ち尽くすことしかできなかった。

「酷いですわっ!婚約者の私が愛しくはないのですかっ!?」
「えっ!?!?」

 シャーロットの口から飛び出した言葉に、思わず上擦った声を上げたマリアンヌは慌てて口元を押さえた。

(そ、そうだわ…なぜ今まで気にしなかったのかしら。ラルフ様はこの国の王太子殿下ですもの、婚約者の一人や二人…いえ、三人や四人いてもおかしくないわ…)

 マリアンヌは頭を鈍器で殴られたような衝撃によろりと数歩後退りした。何故か心を抉られたような感覚に襲われて胸を押さえる。

 だが、シャーロットの言葉にギョッと飛び上がったのはラルフその人だった。ラルフはどこか慌てた様子でマリアンヌに視線を投げて叫んだ。

「違うっ!!!断じて違うぞ!!!俺に婚約者はいない!」

 バチっと視線がぶつかったマリアンヌとラルフ。

 ラルフは焦りの色を滲ませながら、視線でも訴えかけてくる。それほどまで必死に否定しなくとも…と驚きつつ、ラルフの決死の表情に気圧されながらも「分かったわ」という気持ちを込めてこくりと頷く。それを見たラルフは、ほーっと息を吐き、同様にマリアンヌの胸にも安堵の気持ちがじんわりと広がっていく。

 だが、シャーロットは依然としてキャンキャンとラルフの耳元で喚いている。

「まぁっ!酷いです!私の気持ちを踏み躙るおつもりですか?」
「うるさいぞ!何度も断っているだろうが!!早く離れろ!誤解されるだろっ…!」
「誤解……?誤解されては困る女でもできたというのですか…?」

 ラルフの発言に、シャーロットの動きがぴたりと止まる。ゆらりと首を傾けながら問いかけた声は、随分と低くて冷たいものだった。そしてその目も氷のように冷たかった。

 そこでようやく辺りを見回したシャーロットは、すぐにマリアンヌの存在に気がついた。

 ラルフの胸ぐらを掴む手を解き、カツカツとヒールの音を響かせながらマリアンヌににじり寄る。

 あまりの圧にマリアンヌも後退りをする。シャーロットの鋭い目は捕食者のそれそのものである。

「あなた……誰ですの?」

 美人な獣人を前に、いつものマリアンヌであれば「美しいわぁぁぁ…!!可愛いお耳に尻尾…はぁ、少し触らせてくださらないかしら」とうっとり頬を染めるところである。だが、あまりにその目は高圧的で有無を言わさぬ凄みがあった。気を強く持たねば飲み込まれてしまいそうな気迫である。

 だが、なぜだか怖気付いてはいけない、負けたくないという闘志がメラリと胸に灯った。

 マリアンヌはごくりと唾を飲み込むと、覚悟を決めてキッとシャーロットを睨み返した。

「私はシーウッド海王国が第七皇女、マリアンヌ・セイレーンでございます」

 優雅に膝を折って名乗ったマリアンヌは、シャンと背筋を伸ばしてシャーロットに対抗した。

 海王国と聞いたシャーロットの眉がピクリと動き、そして口元を歪めるとどこからか取り出した真っピンクの扇をバサリと開いた。

「…まぁまぁまぁ、そうですか。どうりで臭うと思いましたの」






ーーーーー
いつもありがとうございます!
正直に申します!ストックが尽きました(꒦ິ⌑꒦ີ)
家族の体調不良でワタワタしておりますが、書いて出してでなるべく続きを書いて参りますので引き続きよろしくお願いします!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

働かなくていいなんて最高!貴族夫人の自由気ままな生活

ゆる
恋愛
前世では、仕事に追われる日々を送り、恋愛とは無縁のまま亡くなった私。 「今度こそ、のんびり優雅に暮らしたい!」 そう願って転生した先は、なんと貴族令嬢! そして迎えた結婚式――そこで前世の記憶が蘇る。 「ちょっと待って、前世で恋人もできなかった私が結婚!?!??」 しかも相手は名門貴族の旦那様。 「君は何もしなくていい。すべて自由に過ごせばいい」と言われ、夢の“働かなくていい貴族夫人ライフ”を満喫するつもりだったのに――。 ◆メイドの待遇改善を提案したら、旦那様が即採用! ◆夫の仕事を手伝ったら、持ち前の簿記と珠算スキルで屋敷の経理が超効率化! ◆商人たちに簿記を教えていたら、商業界で話題になりギルドの顧問に!? 「あれ? なんで私、働いてるの!?!??」 そんな中、旦那様から突然の告白―― 「実は、君を妻にしたのは政略結婚のためではない。ずっと、君を想い続けていた」 えっ、旦那様、まさかの溺愛系でした!? 「自由を与えることでそばにいてもらう」つもりだった旦那様と、 「働かない貴族夫人」になりたかったはずの私。 お互いの本当の気持ちに気づいたとき、 気づけば 最強夫婦 になっていました――! のんびり暮らすつもりが、商業界のキーパーソンになってしまった貴族夫人の、成長と溺愛の物語!

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。

ふまさ
恋愛
 楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。  でも。  愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

ただの新米騎士なのに、竜王陛下から妃として所望されています

柳葉うら
恋愛
北の砦で新米騎士をしているウェンディの相棒は美しい雄の黒竜のオブシディアン。 領主のアデルバートから譲り受けたその竜はウェンディを主人として認めておらず、背中に乗せてくれない。 しかしある日、砦に現れた刺客からオブシディアンを守ったウェンディは、武器に使われていた毒で生死を彷徨う。 幸にも目覚めたウェンディの前に現れたのは――竜王を名乗る美丈夫だった。 「命をかけ、勇気を振り絞って助けてくれたあなたを妃として迎える」 「お、畏れ多いので結構です!」 「それではあなたの忠実なしもべとして仕えよう」 「もっと重い提案がきた?!」 果たしてウェンディは竜王の求婚を断れるだろうか(※断れません。溺愛されて押されます)。 さくっとお読みいただけますと嬉しいです。

処理中です...