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第23話 獣王国立学園初等部⑤
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「ブハッ」
やがて息が切れて、水面に浮上したダニエルは、空気を求めて深く息を吸った。そして水面に漂いながら、プールサイドに視線を移した。
「え?」
そこには、先ほどまでずらりと並んでいたはずのクラスメイトの姿はなかった。慌てて後ろを振り返ると、随分と離れたところにみんなの姿を確認した。
「すごいわ!ダニエル!」
「わっ」
ダニエルが、え?え?と状況を理解できずに目を瞬いていると、マリアンヌが水面から顔を出した。その頬は興奮して上気していた。マリアンヌに支えられ、プールサイドに上がって息を整えていると、わぁっとクラスメイトたちが駆け寄ってきた。
「嘘だろ!ダニエル!スッゲー速かったぞ!」
「すごいすごい!そんな特技があっただなんて!」
「これは競泳の代表はダニエルで決まりだなっ!」
みんな一様に興奮して目を輝かせている。イーサンを始めとした三人組はバツが悪そうに唇を尖らせているが、少し頬が赤らんでいるので内心ではすごいものを見たと驚いているのだろう。
ダニエルは戸惑ってマリアンヌに視線を移す。その視線に気づいたマリアンヌは、柔らかく目を細め、ふんわりと花のような笑みを浮かべた。ダニエルを始めとしてその笑みを目にした男子生徒たちは、ドキリと胸を高鳴らせた。
「思った通り、いえ、思った以上にすごかったわよ」
「あ…ありがとう。何だか不思議な感覚だったよ。何かが背中を押してくれているような…」
「きっとダニエルが頑張ったから、あなたの守護獣であるカバさんが力を貸してくれたのね」
獣人は加護を受ける動物の能力を引き出すことができる。ダニエルも例外ではなく、先ほどの水中遊泳はカバの加護の力を存分に引き出した結果なのだろう。
「いいなー私もダニエルみたいに泳いでみたい」
「俺も俺も。すげー気持ちよさそうだったもんな」
わいわいと盛り上がりを見せる生徒たちが、泳ぎたくて仕方がないと声を上げ始めた。
その声を受けて、マリアンヌはザバンと両手を広げて生徒達に言った。
「いいわ!今日は特別に私が先生をしてあげる!順番にプールに入っていらっしゃい」
それを合図に、生徒達は我先にとプールに飛び込んだ。
マリアンヌはうまく水に浮く秘訣、水をかく時のコツ、泳ぐときのポイントなどを丁寧に教えた。
生徒達はみんなマリアンヌとの遊泳を楽しんでいた。女子生徒はマリアンヌの優雅な姿に羨望の眼差しを向け、男子生徒はみんな頬を染めて、どこか照れ臭そうにしている。
楽しそうな生徒たちの瞳、彼らを見つめるマリアンヌの表情、空中に跳ねて光を反射する水飛沫、そのどれもがキラキラと輝いていた。
イーサンとエイダン、マシューの三人組も始めは遠慮がちにしてちたものの、最後には積極的に泳ぎのコツを聞いてきて、マリアンヌは内心とても嬉しかった。
可愛い獣人の子供たちに囲まれて、幸せいっぱいだ。
少し離れたところから、一部始終を見守っていたラルフはマリアンヌの手腕に感心せざるを得なかった。
(ダニエルに自信をつけ、他の生徒達ともすっかり打ち解けているな。なんて奴だ)
きゃっきゃと楽しそうに泳いでいる子供たちとマリアンヌを眺めていると、イザベラがラルフの側にやってきた。
「あの子達…水泳の授業はあまり好きではないのに…あんなに楽しそうに泳ぐ姿は初めて見ました」
「そうか」
「殿下…マリアンヌさんって、すごいお方ですね」
「…ああ、そうだな。俺もあいつには驚かされてばかりだよ」
イザベラの独り言のような呟きに答えたラルフの声は驚くほど柔らかだった。
(あら?)
イザベラはその声音に含みを感じ、ちらりとラルフの表情を見た。そして密かに笑みを深めた。
マリアンヌを見つめるその視線や表情はとても優しいものだったのだが、当の本人はそのことに気づいてはいなかった。
やがて息が切れて、水面に浮上したダニエルは、空気を求めて深く息を吸った。そして水面に漂いながら、プールサイドに視線を移した。
「え?」
そこには、先ほどまでずらりと並んでいたはずのクラスメイトの姿はなかった。慌てて後ろを振り返ると、随分と離れたところにみんなの姿を確認した。
「すごいわ!ダニエル!」
「わっ」
ダニエルが、え?え?と状況を理解できずに目を瞬いていると、マリアンヌが水面から顔を出した。その頬は興奮して上気していた。マリアンヌに支えられ、プールサイドに上がって息を整えていると、わぁっとクラスメイトたちが駆け寄ってきた。
「嘘だろ!ダニエル!スッゲー速かったぞ!」
「すごいすごい!そんな特技があっただなんて!」
「これは競泳の代表はダニエルで決まりだなっ!」
みんな一様に興奮して目を輝かせている。イーサンを始めとした三人組はバツが悪そうに唇を尖らせているが、少し頬が赤らんでいるので内心ではすごいものを見たと驚いているのだろう。
ダニエルは戸惑ってマリアンヌに視線を移す。その視線に気づいたマリアンヌは、柔らかく目を細め、ふんわりと花のような笑みを浮かべた。ダニエルを始めとしてその笑みを目にした男子生徒たちは、ドキリと胸を高鳴らせた。
「思った通り、いえ、思った以上にすごかったわよ」
「あ…ありがとう。何だか不思議な感覚だったよ。何かが背中を押してくれているような…」
「きっとダニエルが頑張ったから、あなたの守護獣であるカバさんが力を貸してくれたのね」
獣人は加護を受ける動物の能力を引き出すことができる。ダニエルも例外ではなく、先ほどの水中遊泳はカバの加護の力を存分に引き出した結果なのだろう。
「いいなー私もダニエルみたいに泳いでみたい」
「俺も俺も。すげー気持ちよさそうだったもんな」
わいわいと盛り上がりを見せる生徒たちが、泳ぎたくて仕方がないと声を上げ始めた。
その声を受けて、マリアンヌはザバンと両手を広げて生徒達に言った。
「いいわ!今日は特別に私が先生をしてあげる!順番にプールに入っていらっしゃい」
それを合図に、生徒達は我先にとプールに飛び込んだ。
マリアンヌはうまく水に浮く秘訣、水をかく時のコツ、泳ぐときのポイントなどを丁寧に教えた。
生徒達はみんなマリアンヌとの遊泳を楽しんでいた。女子生徒はマリアンヌの優雅な姿に羨望の眼差しを向け、男子生徒はみんな頬を染めて、どこか照れ臭そうにしている。
楽しそうな生徒たちの瞳、彼らを見つめるマリアンヌの表情、空中に跳ねて光を反射する水飛沫、そのどれもがキラキラと輝いていた。
イーサンとエイダン、マシューの三人組も始めは遠慮がちにしてちたものの、最後には積極的に泳ぎのコツを聞いてきて、マリアンヌは内心とても嬉しかった。
可愛い獣人の子供たちに囲まれて、幸せいっぱいだ。
少し離れたところから、一部始終を見守っていたラルフはマリアンヌの手腕に感心せざるを得なかった。
(ダニエルに自信をつけ、他の生徒達ともすっかり打ち解けているな。なんて奴だ)
きゃっきゃと楽しそうに泳いでいる子供たちとマリアンヌを眺めていると、イザベラがラルフの側にやってきた。
「あの子達…水泳の授業はあまり好きではないのに…あんなに楽しそうに泳ぐ姿は初めて見ました」
「そうか」
「殿下…マリアンヌさんって、すごいお方ですね」
「…ああ、そうだな。俺もあいつには驚かされてばかりだよ」
イザベラの独り言のような呟きに答えたラルフの声は驚くほど柔らかだった。
(あら?)
イザベラはその声音に含みを感じ、ちらりとラルフの表情を見た。そして密かに笑みを深めた。
マリアンヌを見つめるその視線や表情はとても優しいものだったのだが、当の本人はそのことに気づいてはいなかった。
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