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第18話 朝食の誘い②
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「そういえばラルフよ。今日は学園視察の日だったか?」
「はい、父上。食事が済み次第向かう予定です」
(学園?獣人さんの学校かしら…ということは子供の獣人さんがたくさん……きっと楽園ね!?)
ラルフとレナード王の会話にぴくりと反応し、ついうっとりと獣耳が愛くるしい子供たちの姿に思いを馳せる。そんなマリアンヌをチラリと見たレナード王は、妙案を閃いたとばかりに手を叩いた。
「そうだ、マリアンヌ。お主もラルフに同行してはくれんか?」
「えっ!?父上!?」
「まあっ、いいんですの?」
レナード王の提案に、ラルフはギョッと目を見開き、マリアンヌはパァッと表情を綻ばせた。
「ああ、お主も知っておろう?獣人と魚人の間には未だ厚い壁がある。古の大戦で、獣人は魚人によって多くが海に引き摺り込まれ、帰らぬ人となった。同様に魚人も獣人の鋭い牙や爪により無惨にも殺された。領地の奪い合いで世界中が混沌としていた時代だ。もちろん争い合っていたのは我らの種族だけではない。人間や精霊、エルフにドワーフ、そして魔族などあらゆる種族が入り乱れ、争っていた。終戦後、長き時を経て、今は均衡を保ち友好関係を築いているが…特にひどく対立しあっていた獣人と魚人の間には、未だに遺恨が残っておるのだ」
レナード王の言う通り、世界がまだ国家により領土が定められていなかった遠き時代、各種族はより豊かな土地を得ようと争いを始めた。尊い犠牲の上に、各地で国家が樹立し、世界はバランスを取り始めた。
「戦争が終わってからも、人売りにより捕われた魚人が奴隷や鑑賞のために売買された時代もあった。魚人の歌に惑わされ、座礁する船が後を立たない時代もあった。今では最低限、漁業や物流の条約は結ばれているが、固い友好関係を築けているとは到底思えぬ。それはこの国や、海王国を見ていれば分かるであろう。双方の国で獣人や魚人を見ることはまずない。国家間で繋がりは持てていても、民の心は繋がっておらぬのだよ」
悲し気に話すレナード王。マリアンヌは静かに耳を傾けていたが、徐に口を開いた。
「国王陛下のおっしゃる通りですわ。私は幼き頃より獣人に憧れ、成人したら必ず獣王国へ行き、獣人の伴侶を見つけると決めておりました。もちろん、私自身が獣人に魅了されているからですが、魚人の姫である私が獣王国で暮らすことで、少しでもお互いを知るきっかけを作れたらと思っております。いずれ、食べ物やモノだけでなく、人が気軽に行き交いできて、手を取り合い生きていけるように…そんな時代を作りたいのです」
マリアンヌの言葉に、シェリルは誇らし気に、そしてラルフも目を閉じてはいるがその唇は弧を描いている。レナード王も目を細めてマリアンヌを見つめている。
(マリアンヌの存在が、我が国と海底の国の架け橋となる…そんな時代が訪れるやもしれぬな)
強い意志を宿したマリアンヌの瞳は静かに燃えていた。後世の者たちが今の関係を打破してくれるかもしれない。当代の王としてこれほど楽しみなことはない。レナード王は密かに笑みを深めた。
「うむ、というわけでな、獣人の子供たちに魚人と触れ合う機会を作りたいのだ。子供は次の時代を担う希望であり、宝だ。残念ながら魚人を知らぬ子がほとんどだからな。実際にマリアンヌと交流し、知見を深めて偏見を取り除くことができたなら…」
「うふふ。お任せください。きっと仲良くなってみせますわ」
「ふ、頼もしいな。任せたぞ。ラルフよ、マリアンヌを必ず守ってみせろ。これは王命である」
「はっ、かしこまりました」
獣人と魚人の隔たりをなくすことは、ラルフの目標でもある。今日の学園訪問は現状を知り、未来を見通すいい機会になるかもしれない。…マリアンヌが暴走しないか少し心配ではあるが。
ラルフの胸は期待と不安で入り乱れていた。
「はい、父上。食事が済み次第向かう予定です」
(学園?獣人さんの学校かしら…ということは子供の獣人さんがたくさん……きっと楽園ね!?)
ラルフとレナード王の会話にぴくりと反応し、ついうっとりと獣耳が愛くるしい子供たちの姿に思いを馳せる。そんなマリアンヌをチラリと見たレナード王は、妙案を閃いたとばかりに手を叩いた。
「そうだ、マリアンヌ。お主もラルフに同行してはくれんか?」
「えっ!?父上!?」
「まあっ、いいんですの?」
レナード王の提案に、ラルフはギョッと目を見開き、マリアンヌはパァッと表情を綻ばせた。
「ああ、お主も知っておろう?獣人と魚人の間には未だ厚い壁がある。古の大戦で、獣人は魚人によって多くが海に引き摺り込まれ、帰らぬ人となった。同様に魚人も獣人の鋭い牙や爪により無惨にも殺された。領地の奪い合いで世界中が混沌としていた時代だ。もちろん争い合っていたのは我らの種族だけではない。人間や精霊、エルフにドワーフ、そして魔族などあらゆる種族が入り乱れ、争っていた。終戦後、長き時を経て、今は均衡を保ち友好関係を築いているが…特にひどく対立しあっていた獣人と魚人の間には、未だに遺恨が残っておるのだ」
レナード王の言う通り、世界がまだ国家により領土が定められていなかった遠き時代、各種族はより豊かな土地を得ようと争いを始めた。尊い犠牲の上に、各地で国家が樹立し、世界はバランスを取り始めた。
「戦争が終わってからも、人売りにより捕われた魚人が奴隷や鑑賞のために売買された時代もあった。魚人の歌に惑わされ、座礁する船が後を立たない時代もあった。今では最低限、漁業や物流の条約は結ばれているが、固い友好関係を築けているとは到底思えぬ。それはこの国や、海王国を見ていれば分かるであろう。双方の国で獣人や魚人を見ることはまずない。国家間で繋がりは持てていても、民の心は繋がっておらぬのだよ」
悲し気に話すレナード王。マリアンヌは静かに耳を傾けていたが、徐に口を開いた。
「国王陛下のおっしゃる通りですわ。私は幼き頃より獣人に憧れ、成人したら必ず獣王国へ行き、獣人の伴侶を見つけると決めておりました。もちろん、私自身が獣人に魅了されているからですが、魚人の姫である私が獣王国で暮らすことで、少しでもお互いを知るきっかけを作れたらと思っております。いずれ、食べ物やモノだけでなく、人が気軽に行き交いできて、手を取り合い生きていけるように…そんな時代を作りたいのです」
マリアンヌの言葉に、シェリルは誇らし気に、そしてラルフも目を閉じてはいるがその唇は弧を描いている。レナード王も目を細めてマリアンヌを見つめている。
(マリアンヌの存在が、我が国と海底の国の架け橋となる…そんな時代が訪れるやもしれぬな)
強い意志を宿したマリアンヌの瞳は静かに燃えていた。後世の者たちが今の関係を打破してくれるかもしれない。当代の王としてこれほど楽しみなことはない。レナード王は密かに笑みを深めた。
「うむ、というわけでな、獣人の子供たちに魚人と触れ合う機会を作りたいのだ。子供は次の時代を担う希望であり、宝だ。残念ながら魚人を知らぬ子がほとんどだからな。実際にマリアンヌと交流し、知見を深めて偏見を取り除くことができたなら…」
「うふふ。お任せください。きっと仲良くなってみせますわ」
「ふ、頼もしいな。任せたぞ。ラルフよ、マリアンヌを必ず守ってみせろ。これは王命である」
「はっ、かしこまりました」
獣人と魚人の隔たりをなくすことは、ラルフの目標でもある。今日の学園訪問は現状を知り、未来を見通すいい機会になるかもしれない。…マリアンヌが暴走しないか少し心配ではあるが。
ラルフの胸は期待と不安で入り乱れていた。
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