【完結】もふもふ好きの前向き人魚姫は獣人王子をもふもふしたいっ!

水都 ミナト

文字の大きさ
上 下
17 / 43

第17話 朝食の誘い①

しおりを挟む
「え?朝食を一緒に…?」

 ザバンの港から帰った翌朝、いつものように起床して部屋で食事をとるものと思っていたマリアンヌは、テディの言葉に目を瞬いた。テディはどこか嬉しそうに頬を上気させてニコニコしている。可愛い。もふっとした丸い尻尾がピクピク揺れている。可愛いいい。

「はいっ!国王陛下が是非マリアンヌ様も呼ぶようにと仰せなのです!ささっ、急いでお召し物を着替えて参りましょう!」
「え、ええ…ところでテディ、あなた今日もとっても可愛いわね。そのお耳、触っても」
「なりません」
「ぐぅ」

 いつもの問答をしつつ、マリアンヌは借りているドレスに身を包んで食堂へと向かった。毎朝レナード王と王子のラルフ、そして姫のシェリルの三人家族水入らずで食事をしていることは、シェリルから聞いていた。もちろん王妃がいらっしゃる時は四人で、だ。

(そんな家族団欒の素敵空間にお邪魔してもいいのかしら…隅に席を作ってもらって御三方のご様子を拝見させていただけるだけで十分だけど…でゅふふ)

 マリアンヌはでへっと緩んだ口元をハンカチで拭う。

「マリアンヌ様、中へ入りますよ?」
「え、ええ。お願いするわ」

 テディに遠回しに顔を引き締めろと注意され、胸を張り姿勢を正す。そしてテディが大きな扉をノックすると、中から「入れ」と声がした。

 マリアンヌが恐縮しながら食堂に足を踏み入れると、そこには長くて豪華なテーブルが置かれ、天井には煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていた。マリアンヌが入ってきた扉から見て正面にレナード王が鎮座し、その両隣に向かい合う形でラルフとシェリルが座っている。

 マリアンヌを確認したシェリルが、パァッと表情を綻ばせてマリアンヌに手を振った。

「マリンちゃん!こっちこっち!私の隣にどうぞ」

 ちらっと後ろに控えるテディに視線をやると、にこやかに頷いてくれた。マリアンヌはおずおずとシェリルの隣に歩み寄り、王族一同に膝を折って挨拶をした。

「おはようございます。皆様におかれましては本日もご機嫌麗しゅうございます。それはもう、本当に麗しゅうございます」
「うふふ、マリンちゃんと朝食が取れて嬉しい!座って座って!」
「失礼いたしますわ」

 テディが素早く椅子を引いてくれたので、ドレスの裾を摘んで腰掛ける。レナード王の唇も弧を描いている。ラルフは仏頂面をしているが、特に抗議の声を上げることはない。

「急に呼び立ててすまないな。シェリルがどうしてもと言うのでな」
「まあっ!お父様もマリンちゃんとゆっくり話したいとおっしゃっていたではありませんか!」

 まるでシェリルが我儘を言ってマリアンヌを呼んだという言い草に、ぷくっとシェリルが頬を膨らませた。むにむにと触りたくなるきめ細やかなほっぺたに、マリアンヌの口元が緩みかける。だが、正面のラルフがキッと睨みつけてきたため、慌てて表情を引き締めた。王の御前だ。気をつけなくては…

 レナード王は少し気まず気に頬を掻くと、こほんと一つ咳払いをした。

「マリアンヌよ、昨日はご苦労だった。早速海王国から遣いが来てな、近々漁業に関する条約の見直しをすることとなった」
「さようでしたか。それは良かったですわ」

 にこりとマリアンヌが笑みを深めると、レナード王も微笑み返してくれる。大きな窓から差し込む朝日に照らされて、金色の髪が眩いほどに輝きを放っている。立派な耳は今日も健勝のようだ。
 ラルフもそうだが、レナード王も国民のためとあらば自らの足で東奔西走するタイプなようだ。大好きな獣人の国を統べる人たちが尊敬できる人格者で本当に良かった。
 マリアンヌはそんな王族一同とこうして交流を深めれる機会を大切に感じていた。



 マリアンヌの食事が給仕され、レナード王の合図で朝食会が始まった。

 シェリルは楽しそうにマリアンヌにあれやこれやと話しかけ、マリアンヌも笑顔で答える。その様子をラルフもレナード王も温かい眼差しで見つめている。

「マリアンヌよ。シェリルの友人となってくれたこと、心から感謝する。娘は生まれた頃より病弱でな、簡単に王宮の外にも出れず、年頃の友人もいなくてな…」
「ちょっと前までは本を読んだり、お勉強をしたりして過ごすことが多かったから退屈だったけど、マリンちゃんが来てからは毎日とても楽しいわ!」
「まあ、こちらこそこんなに愛らしいお姫様とお友達になれて幸せです。これからも仲良くしてくださいね」
「もちろん!えへへへ」

 本当に嬉しそうに頬を桜色に染めるシェリル。ぴくぴく耳が揺れており、心から喜んでくれていることが伺えて、マリアンヌの心も満たされる。

(この可愛いお耳をもふもふできたらきっともっと満たされるのだけれど…おっと、いけないわ)

 ラルフが睨んでいるのでマリアンヌは素知らぬ顔でパンを口に含んだ。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

婚約破棄された地味姫令嬢は獣人騎士団のブラッシング係に任命される

安眠にどね
恋愛
 社交界で『地味姫』と嘲笑されている主人公、オルテシア・ケルンベルマは、ある日婚約破棄をされたことによって前世の記憶を取り戻す。  婚約破棄をされた直後、王城内で一匹の虎に出会う。婚約破棄と前世の記憶と取り戻すという二つのショックで呆然としていたオルテシアは、虎の求めるままブラッシングをしていた。その虎は、実は獣人が獣の姿になった状態だったのだ。虎の獣人であるアルディ・ザルミールに気に入られて、オルテシアは獣人が多く所属する第二騎士団のブラッシング係として働くことになり――!? 【第16回恋愛小説大賞 奨励賞受賞。ありがとうございました!】  

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。

藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。 何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。 同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。 もうやめる。 カイン様との婚約は解消する。 でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。 愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません! 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。

【完結済】政略結婚予定の婚約者同士である私たちの間に、愛なんてあるはずがありません!……よね?

鳴宮野々花@書籍2冊発売中
恋愛
「どうせ互いに望まぬ政略結婚だ。結婚までは好きな男のことを自由に想い続けていればいい」「……あらそう。分かったわ」婚約が決まって以来初めて会った王立学園の入学式の日、私グレース・エイヴリー侯爵令嬢の婚約者となったレイモンド・ベイツ公爵令息は軽く笑ってあっさりとそう言った。仲良くやっていきたい気持ちはあったけど、なぜだか私は昔からレイモンドには嫌われていた。  そっちがそのつもりならまぁ仕方ない、と割り切る私。だけど学園生活を過ごすうちに少しずつ二人の関係が変わりはじめ…… ※※ファンタジーなご都合主義の世界観でお送りする学園もののお話です。史実に照らし合わせたりすると「??」となりますので、どうぞ広い心でお読みくださいませ。 ※※大したざまぁはない予定です。気持ちがすれ違ってしまっている二人のラブストーリーです。 ※この作品は小説家になろうにも投稿しています。

【完結】側妃は愛されるのをやめました

なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」  私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。  なのに……彼は。 「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」  私のため。  そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。    このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?  否。  そのような恥を晒す気は無い。 「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」  側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。  今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。 「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」  これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。  華々しく、私の人生を謳歌しよう。  全ては、廃妃となるために。    ◇◇◇  設定はゆるめです。  読んでくださると嬉しいです!

処理中です...