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第17話 朝食の誘い①
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「え?朝食を一緒に…?」
ザバンの港から帰った翌朝、いつものように起床して部屋で食事をとるものと思っていたマリアンヌは、テディの言葉に目を瞬いた。テディはどこか嬉しそうに頬を上気させてニコニコしている。可愛い。もふっとした丸い尻尾がピクピク揺れている。可愛いいい。
「はいっ!国王陛下が是非マリアンヌ様も呼ぶようにと仰せなのです!ささっ、急いでお召し物を着替えて参りましょう!」
「え、ええ…ところでテディ、あなた今日もとっても可愛いわね。そのお耳、触っても」
「なりません」
「ぐぅ」
いつもの問答をしつつ、マリアンヌは借りているドレスに身を包んで食堂へと向かった。毎朝レナード王と王子のラルフ、そして姫のシェリルの三人家族水入らずで食事をしていることは、シェリルから聞いていた。もちろん王妃がいらっしゃる時は四人で、だ。
(そんな家族団欒の素敵空間にお邪魔してもいいのかしら…隅に席を作ってもらって御三方のご様子を拝見させていただけるだけで十分だけど…でゅふふ)
マリアンヌはでへっと緩んだ口元をハンカチで拭う。
「マリアンヌ様、中へ入りますよ?」
「え、ええ。お願いするわ」
テディに遠回しに顔を引き締めろと注意され、胸を張り姿勢を正す。そしてテディが大きな扉をノックすると、中から「入れ」と声がした。
マリアンヌが恐縮しながら食堂に足を踏み入れると、そこには長くて豪華なテーブルが置かれ、天井には煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていた。マリアンヌが入ってきた扉から見て正面にレナード王が鎮座し、その両隣に向かい合う形でラルフとシェリルが座っている。
マリアンヌを確認したシェリルが、パァッと表情を綻ばせてマリアンヌに手を振った。
「マリンちゃん!こっちこっち!私の隣にどうぞ」
ちらっと後ろに控えるテディに視線をやると、にこやかに頷いてくれた。マリアンヌはおずおずとシェリルの隣に歩み寄り、王族一同に膝を折って挨拶をした。
「おはようございます。皆様におかれましては本日もご機嫌麗しゅうございます。それはもう、本当に麗しゅうございます」
「うふふ、マリンちゃんと朝食が取れて嬉しい!座って座って!」
「失礼いたしますわ」
テディが素早く椅子を引いてくれたので、ドレスの裾を摘んで腰掛ける。レナード王の唇も弧を描いている。ラルフは仏頂面をしているが、特に抗議の声を上げることはない。
「急に呼び立ててすまないな。シェリルがどうしてもと言うのでな」
「まあっ!お父様もマリンちゃんとゆっくり話したいとおっしゃっていたではありませんか!」
まるでシェリルが我儘を言ってマリアンヌを呼んだという言い草に、ぷくっとシェリルが頬を膨らませた。むにむにと触りたくなるきめ細やかなほっぺたに、マリアンヌの口元が緩みかける。だが、正面のラルフがキッと睨みつけてきたため、慌てて表情を引き締めた。王の御前だ。気をつけなくては…
レナード王は少し気まず気に頬を掻くと、こほんと一つ咳払いをした。
「マリアンヌよ、昨日はご苦労だった。早速海王国から遣いが来てな、近々漁業に関する条約の見直しをすることとなった」
「さようでしたか。それは良かったですわ」
にこりとマリアンヌが笑みを深めると、レナード王も微笑み返してくれる。大きな窓から差し込む朝日に照らされて、金色の髪が眩いほどに輝きを放っている。立派な耳は今日も健勝のようだ。
ラルフもそうだが、レナード王も国民のためとあらば自らの足で東奔西走するタイプなようだ。大好きな獣人の国を統べる人たちが尊敬できる人格者で本当に良かった。
マリアンヌはそんな王族一同とこうして交流を深めれる機会を大切に感じていた。
マリアンヌの食事が給仕され、レナード王の合図で朝食会が始まった。
シェリルは楽しそうにマリアンヌにあれやこれやと話しかけ、マリアンヌも笑顔で答える。その様子をラルフもレナード王も温かい眼差しで見つめている。
「マリアンヌよ。シェリルの友人となってくれたこと、心から感謝する。娘は生まれた頃より病弱でな、簡単に王宮の外にも出れず、年頃の友人もいなくてな…」
「ちょっと前までは本を読んだり、お勉強をしたりして過ごすことが多かったから退屈だったけど、マリンちゃんが来てからは毎日とても楽しいわ!」
「まあ、こちらこそこんなに愛らしいお姫様とお友達になれて幸せです。これからも仲良くしてくださいね」
「もちろん!えへへへ」
本当に嬉しそうに頬を桜色に染めるシェリル。ぴくぴく耳が揺れており、心から喜んでくれていることが伺えて、マリアンヌの心も満たされる。
(この可愛いお耳をもふもふできたらきっともっと満たされるのだけれど…おっと、いけないわ)
ラルフが睨んでいるのでマリアンヌは素知らぬ顔でパンを口に含んだ。
ザバンの港から帰った翌朝、いつものように起床して部屋で食事をとるものと思っていたマリアンヌは、テディの言葉に目を瞬いた。テディはどこか嬉しそうに頬を上気させてニコニコしている。可愛い。もふっとした丸い尻尾がピクピク揺れている。可愛いいい。
「はいっ!国王陛下が是非マリアンヌ様も呼ぶようにと仰せなのです!ささっ、急いでお召し物を着替えて参りましょう!」
「え、ええ…ところでテディ、あなた今日もとっても可愛いわね。そのお耳、触っても」
「なりません」
「ぐぅ」
いつもの問答をしつつ、マリアンヌは借りているドレスに身を包んで食堂へと向かった。毎朝レナード王と王子のラルフ、そして姫のシェリルの三人家族水入らずで食事をしていることは、シェリルから聞いていた。もちろん王妃がいらっしゃる時は四人で、だ。
(そんな家族団欒の素敵空間にお邪魔してもいいのかしら…隅に席を作ってもらって御三方のご様子を拝見させていただけるだけで十分だけど…でゅふふ)
マリアンヌはでへっと緩んだ口元をハンカチで拭う。
「マリアンヌ様、中へ入りますよ?」
「え、ええ。お願いするわ」
テディに遠回しに顔を引き締めろと注意され、胸を張り姿勢を正す。そしてテディが大きな扉をノックすると、中から「入れ」と声がした。
マリアンヌが恐縮しながら食堂に足を踏み入れると、そこには長くて豪華なテーブルが置かれ、天井には煌びやかなシャンデリアがぶら下がっていた。マリアンヌが入ってきた扉から見て正面にレナード王が鎮座し、その両隣に向かい合う形でラルフとシェリルが座っている。
マリアンヌを確認したシェリルが、パァッと表情を綻ばせてマリアンヌに手を振った。
「マリンちゃん!こっちこっち!私の隣にどうぞ」
ちらっと後ろに控えるテディに視線をやると、にこやかに頷いてくれた。マリアンヌはおずおずとシェリルの隣に歩み寄り、王族一同に膝を折って挨拶をした。
「おはようございます。皆様におかれましては本日もご機嫌麗しゅうございます。それはもう、本当に麗しゅうございます」
「うふふ、マリンちゃんと朝食が取れて嬉しい!座って座って!」
「失礼いたしますわ」
テディが素早く椅子を引いてくれたので、ドレスの裾を摘んで腰掛ける。レナード王の唇も弧を描いている。ラルフは仏頂面をしているが、特に抗議の声を上げることはない。
「急に呼び立ててすまないな。シェリルがどうしてもと言うのでな」
「まあっ!お父様もマリンちゃんとゆっくり話したいとおっしゃっていたではありませんか!」
まるでシェリルが我儘を言ってマリアンヌを呼んだという言い草に、ぷくっとシェリルが頬を膨らませた。むにむにと触りたくなるきめ細やかなほっぺたに、マリアンヌの口元が緩みかける。だが、正面のラルフがキッと睨みつけてきたため、慌てて表情を引き締めた。王の御前だ。気をつけなくては…
レナード王は少し気まず気に頬を掻くと、こほんと一つ咳払いをした。
「マリアンヌよ、昨日はご苦労だった。早速海王国から遣いが来てな、近々漁業に関する条約の見直しをすることとなった」
「さようでしたか。それは良かったですわ」
にこりとマリアンヌが笑みを深めると、レナード王も微笑み返してくれる。大きな窓から差し込む朝日に照らされて、金色の髪が眩いほどに輝きを放っている。立派な耳は今日も健勝のようだ。
ラルフもそうだが、レナード王も国民のためとあらば自らの足で東奔西走するタイプなようだ。大好きな獣人の国を統べる人たちが尊敬できる人格者で本当に良かった。
マリアンヌはそんな王族一同とこうして交流を深めれる機会を大切に感じていた。
マリアンヌの食事が給仕され、レナード王の合図で朝食会が始まった。
シェリルは楽しそうにマリアンヌにあれやこれやと話しかけ、マリアンヌも笑顔で答える。その様子をラルフもレナード王も温かい眼差しで見つめている。
「マリアンヌよ。シェリルの友人となってくれたこと、心から感謝する。娘は生まれた頃より病弱でな、簡単に王宮の外にも出れず、年頃の友人もいなくてな…」
「ちょっと前までは本を読んだり、お勉強をしたりして過ごすことが多かったから退屈だったけど、マリンちゃんが来てからは毎日とても楽しいわ!」
「まあ、こちらこそこんなに愛らしいお姫様とお友達になれて幸せです。これからも仲良くしてくださいね」
「もちろん!えへへへ」
本当に嬉しそうに頬を桜色に染めるシェリル。ぴくぴく耳が揺れており、心から喜んでくれていることが伺えて、マリアンヌの心も満たされる。
(この可愛いお耳をもふもふできたらきっともっと満たされるのだけれど…おっと、いけないわ)
ラルフが睨んでいるのでマリアンヌは素知らぬ顔でパンを口に含んだ。
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