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第7話 魚人と獣人の隔たり②
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「…ああっ!大変なことを思い出しましたわ!」
「ん?なんだ?」
やはり国王から大事な勅命を受けていたのかと身構えるラルフ。マリアンヌは拳を握りしめて小さく震えている。余程のことなのだろう。
「なんてことなの…私、まだ念願のもふもふを触れておりませんわ!テディは触らせてくれないし、どこかに手頃で素敵なもふもふはないかしら…チラッ」
「わざとらしくこちらを見るな。絶対に触らせんぞ」
「そんなぁ~…」
さりげない訴えはあっさりと一刀両断され、マリアンヌはがくりと肩を落とした。
「ねぇ、殿下?減るものではありませんし…少しだけ、ほんの少しだけ…ふにふにさせていただいてもよろ」
「しくない」
「ううう…」
何度嘆願しても返ってくる答えはノーだ。マリアンヌはここは一旦引いて日を改めてお願いしようと諦めた。
「それにしても、獣王国は豊かで良い国ですわ」
「ふん、そうだろう?俺はこの国の王子であることに誇りを持っている」
マリアンヌの賛辞に、ラルフはどこか得意げに胸を逸らす。濃いグレーの獣耳がぴくぴくと動いており、自国を褒められて嬉しいんだろうなということがバレバレだ。少し鼻の穴も膨らんでいるように見えて、可愛らしいわぁ~と密かに萌えを補給する。
「父上も母上も常にこの国のことを考えておられる。俺もいつか王位を継いだ暁には父上のような王になる」
「ふふ、この国の未来は安泰ですね……あっ!いけないわ!」
「今度は何だ。忙しい奴だな」
ラルフはコロコロ話題が変わるマリアンヌに対し、露骨に嫌そうな顔をしている。だが今回に関しては海王国の王族として、そして王宮に世話になる身として欠かせない話だった。
「私、まだ国王陛下にご挨拶しておりませんわ…!殿下に助けていただき、部屋まで与えていただいたお礼をお伝えしなくては!」
「なるほど…そうだな。確かに会っておいた方がいいか。よし、謁見の日取りは俺が調整する。日が決まったら伝えよう」
「ありがとうございます…!未来の妃としてしかとご挨拶しなければ…」
「待て待て、やっぱり謁見の話は無しだ」
「ええっ!?なぜですか!」
「変なことを口走るな!余計なことを言うな!それが条件だ。分かったな」
「変なことなんて一言も言っておりませんわ」
「はぁ、お前と話してると本当疲れるぞ」
確かに王に挨拶をとのマリアンヌの申し出はもっともであるが、面倒なことを口走らないか不安しかないラルフである。
「とにかく、謁見の際は俺も同席する。ところで、ずっと気になっていたんだが…お前、随分と軽装だよな。荷物はどうした?まさかとは思うが追い剥ぎにでもあったのか?」
獣王国では魚人はかなり珍しい。平和な国とはいえ、ならず者は少なからずいる。残念なことだが、獣人の中には魚人を毛嫌いするものもいる。ラルフは考えたくもない最悪のケースを想像して気が重くなった。
「いえ、成人していてもたってもいられず…着の身着のまま参りましたわ。必要なものはこちらで用立てようかと思いまして」
「ふむ、そうか。…よし、折角街に出ているんだ。ドレスでも見に行くか。王に会うにもその格好では心許ないだろう」
「ドレス…!嬉しいです!地上のものは海底のドレスとは素材もデザインも違いますものね。是非お願いいたしますわ!」
海王国でも魚人用のドレスはあるのだが、海中で着るものなので水に馴染む特別な素材で作られている。デザインもひらひらと水に揺蕩うヒレのようで、それはそれで美しいのだが、マリアンヌは地上の種族が身に纏うふんわりとしたドレスに憧れを抱いていた。
「そうと決まれば早速行こうか。王家御用達の店がある。そこにしよう」
「よろしくお願いいたします」
何やかんやで世話を焼いてくれるラルフはやはり優しい性根をしていると、マリアンヌはニヨニヨ緩む頬を押さえた。その様子にラルフがまた怪訝な顔をしたのは言うまでもない。
「ん?なんだ?」
やはり国王から大事な勅命を受けていたのかと身構えるラルフ。マリアンヌは拳を握りしめて小さく震えている。余程のことなのだろう。
「なんてことなの…私、まだ念願のもふもふを触れておりませんわ!テディは触らせてくれないし、どこかに手頃で素敵なもふもふはないかしら…チラッ」
「わざとらしくこちらを見るな。絶対に触らせんぞ」
「そんなぁ~…」
さりげない訴えはあっさりと一刀両断され、マリアンヌはがくりと肩を落とした。
「ねぇ、殿下?減るものではありませんし…少しだけ、ほんの少しだけ…ふにふにさせていただいてもよろ」
「しくない」
「ううう…」
何度嘆願しても返ってくる答えはノーだ。マリアンヌはここは一旦引いて日を改めてお願いしようと諦めた。
「それにしても、獣王国は豊かで良い国ですわ」
「ふん、そうだろう?俺はこの国の王子であることに誇りを持っている」
マリアンヌの賛辞に、ラルフはどこか得意げに胸を逸らす。濃いグレーの獣耳がぴくぴくと動いており、自国を褒められて嬉しいんだろうなということがバレバレだ。少し鼻の穴も膨らんでいるように見えて、可愛らしいわぁ~と密かに萌えを補給する。
「父上も母上も常にこの国のことを考えておられる。俺もいつか王位を継いだ暁には父上のような王になる」
「ふふ、この国の未来は安泰ですね……あっ!いけないわ!」
「今度は何だ。忙しい奴だな」
ラルフはコロコロ話題が変わるマリアンヌに対し、露骨に嫌そうな顔をしている。だが今回に関しては海王国の王族として、そして王宮に世話になる身として欠かせない話だった。
「私、まだ国王陛下にご挨拶しておりませんわ…!殿下に助けていただき、部屋まで与えていただいたお礼をお伝えしなくては!」
「なるほど…そうだな。確かに会っておいた方がいいか。よし、謁見の日取りは俺が調整する。日が決まったら伝えよう」
「ありがとうございます…!未来の妃としてしかとご挨拶しなければ…」
「待て待て、やっぱり謁見の話は無しだ」
「ええっ!?なぜですか!」
「変なことを口走るな!余計なことを言うな!それが条件だ。分かったな」
「変なことなんて一言も言っておりませんわ」
「はぁ、お前と話してると本当疲れるぞ」
確かに王に挨拶をとのマリアンヌの申し出はもっともであるが、面倒なことを口走らないか不安しかないラルフである。
「とにかく、謁見の際は俺も同席する。ところで、ずっと気になっていたんだが…お前、随分と軽装だよな。荷物はどうした?まさかとは思うが追い剥ぎにでもあったのか?」
獣王国では魚人はかなり珍しい。平和な国とはいえ、ならず者は少なからずいる。残念なことだが、獣人の中には魚人を毛嫌いするものもいる。ラルフは考えたくもない最悪のケースを想像して気が重くなった。
「いえ、成人していてもたってもいられず…着の身着のまま参りましたわ。必要なものはこちらで用立てようかと思いまして」
「ふむ、そうか。…よし、折角街に出ているんだ。ドレスでも見に行くか。王に会うにもその格好では心許ないだろう」
「ドレス…!嬉しいです!地上のものは海底のドレスとは素材もデザインも違いますものね。是非お願いいたしますわ!」
海王国でも魚人用のドレスはあるのだが、海中で着るものなので水に馴染む特別な素材で作られている。デザインもひらひらと水に揺蕩うヒレのようで、それはそれで美しいのだが、マリアンヌは地上の種族が身に纏うふんわりとしたドレスに憧れを抱いていた。
「そうと決まれば早速行こうか。王家御用達の店がある。そこにしよう」
「よろしくお願いいたします」
何やかんやで世話を焼いてくれるラルフはやはり優しい性根をしていると、マリアンヌはニヨニヨ緩む頬を押さえた。その様子にラルフがまた怪訝な顔をしたのは言うまでもない。
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