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第10話 麗しのお姫様①
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「はぁ~~~、とっても楽しかったわ…!!」
王宮に戻ったマリアンヌはテディに湯を張ってもらい、夕食前に湯浴みを済ませた。湯に浸かっている間にテディが夕飯の給仕をしてくれたようで、浴室から出ると豪華な料理がずらりと並んでいた。
「まぁっ、今日もとても美味しそうね。テディ、ありがとう」
「とんでもございません。ご不便なことがございましたら、このテディに遠慮なくお申し付けください」
感謝の言葉を述べると、テディは深々と頭を下げて魅力的な笑顔を浮かべた。マリアンヌの賛辞が嬉しかったのだろう、相変わらず可愛い丸耳はピクピクと小さく動いている。ラルフもそうだったが、獣人は感情の機微が耳や尻尾に表れるのかもしれない。それはそれは愛らしい特徴すぎてマリアンヌを空想の世界に飛び立たせるには十分過ぎる情報だった。
「あ、あのっ、マリアンヌ様!お気を確かに!」
「はっ!ごめんなさい。私また飛んじゃってた?」
「ええ、それはもう…どうぞ、ハンカチをお使いください」
「ありがとう」
ハッと我に返ったマリアンヌに、テディは懐から可愛いクマが刺繍されたハンカチを取り出して手渡した。マリアンヌは感謝し、使用後は綺麗に洗ってから返そうと考えながら口元の涎を拭う。
「そういえばドレス店に行かれたとお聞きしましたが、お気に召す品はございましたか?」
テディの何気ない問いに、がくりとマリアンヌは肩を落とした。何かいけないことを言ってしまったかと、テディは少し慌てた様子を見せるが、マリアンヌは眉根を下げたまま顔を上げると事情を説明し始めた。
「どのドレスも素敵すぎて全く決めれる気がしなかったわ。それぐらいどれも可愛くて綺麗で独特で素敵だったの…!一時間以上殿下に付き合わせてしまったのに、結局決められなくて…後日王宮にドレスの職人を呼び立ててくださることになったの。部屋でゆっくりじっくり考えて決めるといいって。ふふ、今日一日でよく分かりましたが、王子殿下はとても面倒見が良くて優しいお方なのですね」
「ええ!そうなのです。ラルフ殿下はとてもお優しいのですよ」
マリアンヌの言葉に、テディはとても嬉しそうに頬を上気させた。主人を褒められて悪い気はしないのだろう。ふわふわの丸い尻尾も左右に揺れている。可愛い。
「ね、ねぇ…今度こそ、その可愛い尻尾ちゃんに触れても…」
「いけませんっ」
「そんなぁ…」
獣王国に来て未だにもふもふに触れることができていないマリアンヌ。またもテディに一刀両断されてしまい、しっかり夕食を済ませた後にベッドに深く沈み込んだ。
その日は慣れない足で街中歩き回った疲れも相まり、あっという間に夢の世界へと飛び立ってしまった。
◇◇◇
翌日、朝食を済ませたマリアンヌはテディといつものやり取りを済ませた後、消沈した気持ちで王宮内を歩いていた。
ラルフからはあまり勝手に彷徨くなと釘を刺されているが、中庭であれば自由に出入りしてもいいとお墨付きをもらったのだ。
早速中庭に一歩足を踏み入れたマリアンヌは、ぶわりと吹き上げた風に思わず目を閉じた。マリンブルーの髪が風に遊ばれて乱れてしまったので、両手で押さえて薄らと目を開けると、視界いっぱいに映ったのは色取り取りの花々が咲き誇る楽園のような光景だった。
色彩豊かな庭園を前に、マリアンヌは思わず息を呑んだ。
「綺麗…」
海底には花は咲かない。海流に揺れる珊瑚や海藻も素敵だが、陽の光を浴びて真っ直ぐに天に向かう地上の植物はより一層魅力的に見える。花たちはみんな気持ちよさそうに花弁を広げて風に揺れており、庭師により丁寧に世話をされていることが窺える。
どの花も図鑑でしか見たことがないものばかりで、マリアンヌの心はウキウキ浮ついた。いつか素敵な獣人の王子様が両手いっぱいの薔薇を持ってプロポーズしてくれたら、なんて乙女チックな妄想も膨らむというものだ。
マリアンヌはしばし花たちをじっくりと鑑賞して回った。
「あら?」
そっと花びらをなぞったり、顔を寄せて花の香りを楽しんだりしながら中庭の隅々まで探索していると、ふと動く影を視界の端に捉えた。
花壇に隠れるようにして誰かが蹲っているようだ。
王宮に戻ったマリアンヌはテディに湯を張ってもらい、夕食前に湯浴みを済ませた。湯に浸かっている間にテディが夕飯の給仕をしてくれたようで、浴室から出ると豪華な料理がずらりと並んでいた。
「まぁっ、今日もとても美味しそうね。テディ、ありがとう」
「とんでもございません。ご不便なことがございましたら、このテディに遠慮なくお申し付けください」
感謝の言葉を述べると、テディは深々と頭を下げて魅力的な笑顔を浮かべた。マリアンヌの賛辞が嬉しかったのだろう、相変わらず可愛い丸耳はピクピクと小さく動いている。ラルフもそうだったが、獣人は感情の機微が耳や尻尾に表れるのかもしれない。それはそれは愛らしい特徴すぎてマリアンヌを空想の世界に飛び立たせるには十分過ぎる情報だった。
「あ、あのっ、マリアンヌ様!お気を確かに!」
「はっ!ごめんなさい。私また飛んじゃってた?」
「ええ、それはもう…どうぞ、ハンカチをお使いください」
「ありがとう」
ハッと我に返ったマリアンヌに、テディは懐から可愛いクマが刺繍されたハンカチを取り出して手渡した。マリアンヌは感謝し、使用後は綺麗に洗ってから返そうと考えながら口元の涎を拭う。
「そういえばドレス店に行かれたとお聞きしましたが、お気に召す品はございましたか?」
テディの何気ない問いに、がくりとマリアンヌは肩を落とした。何かいけないことを言ってしまったかと、テディは少し慌てた様子を見せるが、マリアンヌは眉根を下げたまま顔を上げると事情を説明し始めた。
「どのドレスも素敵すぎて全く決めれる気がしなかったわ。それぐらいどれも可愛くて綺麗で独特で素敵だったの…!一時間以上殿下に付き合わせてしまったのに、結局決められなくて…後日王宮にドレスの職人を呼び立ててくださることになったの。部屋でゆっくりじっくり考えて決めるといいって。ふふ、今日一日でよく分かりましたが、王子殿下はとても面倒見が良くて優しいお方なのですね」
「ええ!そうなのです。ラルフ殿下はとてもお優しいのですよ」
マリアンヌの言葉に、テディはとても嬉しそうに頬を上気させた。主人を褒められて悪い気はしないのだろう。ふわふわの丸い尻尾も左右に揺れている。可愛い。
「ね、ねぇ…今度こそ、その可愛い尻尾ちゃんに触れても…」
「いけませんっ」
「そんなぁ…」
獣王国に来て未だにもふもふに触れることができていないマリアンヌ。またもテディに一刀両断されてしまい、しっかり夕食を済ませた後にベッドに深く沈み込んだ。
その日は慣れない足で街中歩き回った疲れも相まり、あっという間に夢の世界へと飛び立ってしまった。
◇◇◇
翌日、朝食を済ませたマリアンヌはテディといつものやり取りを済ませた後、消沈した気持ちで王宮内を歩いていた。
ラルフからはあまり勝手に彷徨くなと釘を刺されているが、中庭であれば自由に出入りしてもいいとお墨付きをもらったのだ。
早速中庭に一歩足を踏み入れたマリアンヌは、ぶわりと吹き上げた風に思わず目を閉じた。マリンブルーの髪が風に遊ばれて乱れてしまったので、両手で押さえて薄らと目を開けると、視界いっぱいに映ったのは色取り取りの花々が咲き誇る楽園のような光景だった。
色彩豊かな庭園を前に、マリアンヌは思わず息を呑んだ。
「綺麗…」
海底には花は咲かない。海流に揺れる珊瑚や海藻も素敵だが、陽の光を浴びて真っ直ぐに天に向かう地上の植物はより一層魅力的に見える。花たちはみんな気持ちよさそうに花弁を広げて風に揺れており、庭師により丁寧に世話をされていることが窺える。
どの花も図鑑でしか見たことがないものばかりで、マリアンヌの心はウキウキ浮ついた。いつか素敵な獣人の王子様が両手いっぱいの薔薇を持ってプロポーズしてくれたら、なんて乙女チックな妄想も膨らむというものだ。
マリアンヌはしばし花たちをじっくりと鑑賞して回った。
「あら?」
そっと花びらをなぞったり、顔を寄せて花の香りを楽しんだりしながら中庭の隅々まで探索していると、ふと動く影を視界の端に捉えた。
花壇に隠れるようにして誰かが蹲っているようだ。
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