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第4話 第一獣人は王子様
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(な、なんてこと…!)
マリアンヌはふらふらと立ち上がると、導かれるように獣耳へと近づいて行く。
生垣の下にはちょうど人一人がすっぽり収まるほどの空間があるようだ。マリアンヌは逸る気持ちを抑えながら、鼻息荒く生垣を覗き込んだ。
「っ!!!!」
そこには一人の獣人の青年がすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。濃いグレーの三角耳に、耳と同じ色の髪。長いまつ毛にすらりと通った鼻筋をしており、それはそれは美しい青年であった。
(なんて素敵な獣人さんなの…!尖ったお耳が魅力的過ぎるわ…はぁ、はぁ…ちょっと、ちょーっとだけ触るぐらい、許される…わよね?)
寝不足で正常に回らない頭で悶々と欲望と葛藤する。だが、元々少ししか持ち合わせていない理性は呆気なく敗北し、マリアンヌは震える手を夢にまで見たもふもふへと伸ばした。あと少し、あと少しでずっと焦がれ続けた獣人さんに触れられる。見るからにふわふわで毛並みのいいお耳はさぞかし触り心地がいいのだろう。
マリアンヌの目は緊張と興奮、そして寝不足のため赤く血走っている。マリアンヌの震える指先が、獣耳の産毛を掠めたその瞬間、気持ち良さそうに眠っていた青年がカッと目を見開いて飛び起きた。素早くマリアンヌの手は拘束されてしまい、臨戦態勢を取った青年の鋭い眼光に睨みつけられる。その目は金色に煌めいており、まるで警戒心を露わにする猫のように細められている。
「お前は誰だ」
「っ」
(き、きゃーーーーっ!!!獣人さんに、獣人さんに触れられているわ…っ!!)
我が身の危機よりも興奮が勝ったマリアンヌの脳内はカーニバルである。感無量過ぎて胸が詰まり、うまく言葉が紡げない。はぁはぁと呼吸だけが荒くなっていき、ますます青年は訝しげに眉間に皺を寄せる。
この時、マリアンヌの興奮は絶頂に達していた。更に、一日中泳ぎ通してきた疲労と寝不足によりとうとうマリアンヌの視界はぐわんぐわんと歪み始めてきた。素敵な獣人さんのご尊顔までダブって見え始める。
(ああ、せっかく獣人さんに会えたんだもの…何か、何か言わなくちゃ…)
意識が朦朧とし、もはやマリアンヌは冷静な判断がつかなくなっていた。
「あなた、私と結婚してくださらない?」
「はぁ!?って、おい!」
マリアンヌはそう言い残すと、意識を手放した。
ぐらりと倒れ込んだ身体を青年が慌てて受け止める。腕の中に収まったマリアンヌはすぅすぅと規則正しい寝息を立てている。気持ち良さそうに眠るマリアンヌはまるで警戒心がなく、青年は毒気を抜かれる心地がした。だが、流石に年頃の女性を公園に捨て置くわけにもいかず、青年は煩わしそうに頭を掻いた。
「…面倒くせぇ」
青年は深い溜息を吐くと、ひょいとマリアンヌを抱えて公園に面した豪奢な宮殿へと足を向けた。
◇◇◇
「う…」
意識を取り戻したマリアンヌの視界に映るのは見知らぬ天井。今横になっているのはベッドだろうか。豪華な天蓋付きで、雲に包まれているかのようにふわふわな寝心地だ。
さて、ここはどこで何故自分はこんな豪華なベッドで横になっているのか。ぼーっとする頭で記憶の糸を辿る。
(ええっと…獣王国に着いて、公園で休憩していたら素敵なもふもふを見つけて…)
「はっ!!獣人さん!?」
「きゃっ!」
倒れる直前の出来事を思い出したマリアンヌは、ガバッと勢いよく身体を起こした。そうだ、あの見目麗しい青年はどこに行ったのだろう。ああ、もっとゆっくりとお話がしたかった。
マリアンヌは部屋の中を見回した。鹿の角や象牙が壁に飾られており、落ち着きのある調度品が上品に部屋を彩っている。この部屋にあの青年の姿はないようだ。
「ん?今、『きゃっ』って…誰かいるの?」
そういえば何だか可愛い声がしたはず、とマリアンヌはベッドから身を乗り出した。
「まあっ!!」
ベッドの脇にペタリとへたり込んでいたのは、茶色いふわふわした丸い耳に丸い尻尾を有したメイドであった。突然マリアンヌが飛び起きたため、驚かせてしまったのだろう、ペタリと耳が垂れており何とも可愛らしい。
「とっても愛らしいあなたはどなたかしら?」
「あっ、失礼しました!私はメイドのテディと申します。よろしくお願いいたします」
マリアンヌが頬を緩ませて話しかけると、テディと名乗ったメイドは慌てて立ち上がるとぺこりと頭を下げた。耳と同じく茶色い髪はふわりとしたボブに切り揃えられており、瞳もくりくり丸くて魅力的だ。
「よろしくね。ところでそのふわふわのお耳…素敵ね。ちょっと触らせていただいてもよろしくて?」
「へっ!?い、いけません…!」
どさくさに紛れて欲望を伝えてみたが呆気なく拒否されてしまった。だが、カァッと頬を赤く染めたテディが可愛過ぎたのでマリアンヌは眼福であった。グフ、グフフと涎を垂らすマリアンヌに引き気味のテディであるが、ハッと何かを思い出したのか、再びペコリと頭を下げると慌てて部屋を出ていってしまった。
「あぁっ、もっとお話がしたかったわ…」
思わず空に手を伸ばしたマリアンヌであるが、恐らくこの屋敷の主人に自分が目覚めたことを知らせにいったのだろうと推測した。
そして、そんなマリアンヌの予想は的中した。
しばらくして、勢いよく部屋の扉が開け放たれて誰かが部屋に入ってきたのだ。
「ふん、ようやく起きたのか変態女」
「あっ!あなたは…!んん?変態女とは誰のことでしょうか?」
ずかずかとマリアンヌが座るベッドの傍までやって来たのは、公園で出会った見目麗しい獣人の青年であった。青年は見下ろすようにマリアンヌを睨みつけている。
マリアンヌは青年と再び会えた喜びに打ちひしがれるが、彼の口から紡がれた言葉に目を瞬いた。
「お前だお前!いきなり求婚してくるなんて変態以外の何者でもないだろう」
「はぁ…求婚?誰が誰にでしょう?」
「なっ…お前、覚えていないのか!?」
身に覚えがないマリアンヌは顎に指を当てて首を傾げるばかりだが、青年は信じられないと金色に煌めく目を見開いた。
「お前が気を失う前に俺に結婚してくれと言ったんだろう!」
「まぁっ、初対面でいきなり結婚だなんて…そのお申し入れ、喜んでお受けいたしますわ」
「違う!」
青年の言葉に、ほんのり染まった頬を両手で押さえてモジモジと身体をくねらせるマリアンヌ。青年はマリアンヌの反応に頭を抱えている。そして呆れたように溜息をついた。
「全く。お前、どこから来たんだ?その様子だと、俺のことを知らないようだな」
「ええ…申し訳ございません。長く海底におりましたので地上のことには少々疎いかもしれません」
「海底、だと?お前まさか…」
「ええ、ご挨拶が遅れました。私はシーウッド海王国から参りました、マリアンヌ・セイレーンと申します。この度は助けていただきありがとうございました」
ベッドに座ったままで恐縮だが、マリアンヌは深々と感謝を伝えるために頭を下げた。マリアンヌが魚人と悟ったのか、青年は何か考え込むように顎に手を当てている。そんな憂いを帯びた表情も素敵だとマリアンヌはうっとりと青年に見惚れる。
「ふむ…そうか、それならこれまでの非常識な言動も説明が…いや、つかないな」
何やら失礼なことを呟いている気もするが、マリアンヌは気にしない。気にする暇があるなら目の前の麗しい獣人をこの目に焼き付けておきたい。
青年は意を決したように顔を上げてマリアンヌを見据えた。憧れの獣人に見つめられている、それだけでマリアンヌの鼓動は高鳴った。
「まあいい、知らないのならば名乗るまでだ。俺の名前はラルフ・ザビンバーグ。ザバン獣王国の第一王子だ」
「まぁ、王子様でしたか~……え?」
獣人の青年、ラルフの言葉に、マリアンヌは次第に目を見開いていく。
「お、王子様~~~~~!?」
マリアンヌはふらふらと立ち上がると、導かれるように獣耳へと近づいて行く。
生垣の下にはちょうど人一人がすっぽり収まるほどの空間があるようだ。マリアンヌは逸る気持ちを抑えながら、鼻息荒く生垣を覗き込んだ。
「っ!!!!」
そこには一人の獣人の青年がすやすやと気持ち良さそうに眠っていた。濃いグレーの三角耳に、耳と同じ色の髪。長いまつ毛にすらりと通った鼻筋をしており、それはそれは美しい青年であった。
(なんて素敵な獣人さんなの…!尖ったお耳が魅力的過ぎるわ…はぁ、はぁ…ちょっと、ちょーっとだけ触るぐらい、許される…わよね?)
寝不足で正常に回らない頭で悶々と欲望と葛藤する。だが、元々少ししか持ち合わせていない理性は呆気なく敗北し、マリアンヌは震える手を夢にまで見たもふもふへと伸ばした。あと少し、あと少しでずっと焦がれ続けた獣人さんに触れられる。見るからにふわふわで毛並みのいいお耳はさぞかし触り心地がいいのだろう。
マリアンヌの目は緊張と興奮、そして寝不足のため赤く血走っている。マリアンヌの震える指先が、獣耳の産毛を掠めたその瞬間、気持ち良さそうに眠っていた青年がカッと目を見開いて飛び起きた。素早くマリアンヌの手は拘束されてしまい、臨戦態勢を取った青年の鋭い眼光に睨みつけられる。その目は金色に煌めいており、まるで警戒心を露わにする猫のように細められている。
「お前は誰だ」
「っ」
(き、きゃーーーーっ!!!獣人さんに、獣人さんに触れられているわ…っ!!)
我が身の危機よりも興奮が勝ったマリアンヌの脳内はカーニバルである。感無量過ぎて胸が詰まり、うまく言葉が紡げない。はぁはぁと呼吸だけが荒くなっていき、ますます青年は訝しげに眉間に皺を寄せる。
この時、マリアンヌの興奮は絶頂に達していた。更に、一日中泳ぎ通してきた疲労と寝不足によりとうとうマリアンヌの視界はぐわんぐわんと歪み始めてきた。素敵な獣人さんのご尊顔までダブって見え始める。
(ああ、せっかく獣人さんに会えたんだもの…何か、何か言わなくちゃ…)
意識が朦朧とし、もはやマリアンヌは冷静な判断がつかなくなっていた。
「あなた、私と結婚してくださらない?」
「はぁ!?って、おい!」
マリアンヌはそう言い残すと、意識を手放した。
ぐらりと倒れ込んだ身体を青年が慌てて受け止める。腕の中に収まったマリアンヌはすぅすぅと規則正しい寝息を立てている。気持ち良さそうに眠るマリアンヌはまるで警戒心がなく、青年は毒気を抜かれる心地がした。だが、流石に年頃の女性を公園に捨て置くわけにもいかず、青年は煩わしそうに頭を掻いた。
「…面倒くせぇ」
青年は深い溜息を吐くと、ひょいとマリアンヌを抱えて公園に面した豪奢な宮殿へと足を向けた。
◇◇◇
「う…」
意識を取り戻したマリアンヌの視界に映るのは見知らぬ天井。今横になっているのはベッドだろうか。豪華な天蓋付きで、雲に包まれているかのようにふわふわな寝心地だ。
さて、ここはどこで何故自分はこんな豪華なベッドで横になっているのか。ぼーっとする頭で記憶の糸を辿る。
(ええっと…獣王国に着いて、公園で休憩していたら素敵なもふもふを見つけて…)
「はっ!!獣人さん!?」
「きゃっ!」
倒れる直前の出来事を思い出したマリアンヌは、ガバッと勢いよく身体を起こした。そうだ、あの見目麗しい青年はどこに行ったのだろう。ああ、もっとゆっくりとお話がしたかった。
マリアンヌは部屋の中を見回した。鹿の角や象牙が壁に飾られており、落ち着きのある調度品が上品に部屋を彩っている。この部屋にあの青年の姿はないようだ。
「ん?今、『きゃっ』って…誰かいるの?」
そういえば何だか可愛い声がしたはず、とマリアンヌはベッドから身を乗り出した。
「まあっ!!」
ベッドの脇にペタリとへたり込んでいたのは、茶色いふわふわした丸い耳に丸い尻尾を有したメイドであった。突然マリアンヌが飛び起きたため、驚かせてしまったのだろう、ペタリと耳が垂れており何とも可愛らしい。
「とっても愛らしいあなたはどなたかしら?」
「あっ、失礼しました!私はメイドのテディと申します。よろしくお願いいたします」
マリアンヌが頬を緩ませて話しかけると、テディと名乗ったメイドは慌てて立ち上がるとぺこりと頭を下げた。耳と同じく茶色い髪はふわりとしたボブに切り揃えられており、瞳もくりくり丸くて魅力的だ。
「よろしくね。ところでそのふわふわのお耳…素敵ね。ちょっと触らせていただいてもよろしくて?」
「へっ!?い、いけません…!」
どさくさに紛れて欲望を伝えてみたが呆気なく拒否されてしまった。だが、カァッと頬を赤く染めたテディが可愛過ぎたのでマリアンヌは眼福であった。グフ、グフフと涎を垂らすマリアンヌに引き気味のテディであるが、ハッと何かを思い出したのか、再びペコリと頭を下げると慌てて部屋を出ていってしまった。
「あぁっ、もっとお話がしたかったわ…」
思わず空に手を伸ばしたマリアンヌであるが、恐らくこの屋敷の主人に自分が目覚めたことを知らせにいったのだろうと推測した。
そして、そんなマリアンヌの予想は的中した。
しばらくして、勢いよく部屋の扉が開け放たれて誰かが部屋に入ってきたのだ。
「ふん、ようやく起きたのか変態女」
「あっ!あなたは…!んん?変態女とは誰のことでしょうか?」
ずかずかとマリアンヌが座るベッドの傍までやって来たのは、公園で出会った見目麗しい獣人の青年であった。青年は見下ろすようにマリアンヌを睨みつけている。
マリアンヌは青年と再び会えた喜びに打ちひしがれるが、彼の口から紡がれた言葉に目を瞬いた。
「お前だお前!いきなり求婚してくるなんて変態以外の何者でもないだろう」
「はぁ…求婚?誰が誰にでしょう?」
「なっ…お前、覚えていないのか!?」
身に覚えがないマリアンヌは顎に指を当てて首を傾げるばかりだが、青年は信じられないと金色に煌めく目を見開いた。
「お前が気を失う前に俺に結婚してくれと言ったんだろう!」
「まぁっ、初対面でいきなり結婚だなんて…そのお申し入れ、喜んでお受けいたしますわ」
「違う!」
青年の言葉に、ほんのり染まった頬を両手で押さえてモジモジと身体をくねらせるマリアンヌ。青年はマリアンヌの反応に頭を抱えている。そして呆れたように溜息をついた。
「全く。お前、どこから来たんだ?その様子だと、俺のことを知らないようだな」
「ええ…申し訳ございません。長く海底におりましたので地上のことには少々疎いかもしれません」
「海底、だと?お前まさか…」
「ええ、ご挨拶が遅れました。私はシーウッド海王国から参りました、マリアンヌ・セイレーンと申します。この度は助けていただきありがとうございました」
ベッドに座ったままで恐縮だが、マリアンヌは深々と感謝を伝えるために頭を下げた。マリアンヌが魚人と悟ったのか、青年は何か考え込むように顎に手を当てている。そんな憂いを帯びた表情も素敵だとマリアンヌはうっとりと青年に見惚れる。
「ふむ…そうか、それならこれまでの非常識な言動も説明が…いや、つかないな」
何やら失礼なことを呟いている気もするが、マリアンヌは気にしない。気にする暇があるなら目の前の麗しい獣人をこの目に焼き付けておきたい。
青年は意を決したように顔を上げてマリアンヌを見据えた。憧れの獣人に見つめられている、それだけでマリアンヌの鼓動は高鳴った。
「まあいい、知らないのならば名乗るまでだ。俺の名前はラルフ・ザビンバーグ。ザバン獣王国の第一王子だ」
「まぁ、王子様でしたか~……え?」
獣人の青年、ラルフの言葉に、マリアンヌは次第に目を見開いていく。
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