【完結】もふもふ好きの前向き人魚姫は獣人王子をもふもふしたいっ!

水都 ミナト

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第3話 上陸!獣人の国

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 マリアンヌは半日ほどサバン獣王国への海路を泳いでいた。

 たまにマリアンヌの周りにイルカたちが遊んで欲しそうに寄って来たのだが、今は急いでいるので、しばらく一緒に遊泳することで満足してもらった。並泳している間に幾つか抜け道を教えてもらったので、予定よりも早いペースで進んでいる。順調な旅路である。

 ふと、マリアンヌはとある気配を感じて振り返った。目を凝らして見ると、人喰いザメが一匹、マリアンヌの後を追って来ているようだった。

(あら、アザラシと勘違いしたのかしら?)

 人喰いザメはぐんぐんスピードを上げて迫ってくる。真後ろまで接近すると、鋭い牙が無数に並ぶ顎を大きく開けて、あろうことかマリアンヌの尾鰭に噛みつこうとしてきた。

(まったく、おいたが過ぎるわよ)

 マリアンヌは自慢の泳力で振り切ることも出来たのだが、礼儀のなっていない人喰いザメに天誅を下すことにした。

 尾鰭を思い切り振り抜き、サメの横っ面を張り倒したのだ。

 サメの歯は何本も砕け、口から血を吐き出しながら、ブクブクと海中へと沈んでいった。じんわりと海水にサメの血が滲んでいく。

(ふぅ、意識が戻ったら浮上して来るでしょ。さ、急ぐわよ~~!!待っててね、もふもふちゃんたち…!!)

 サラリと危機を脱したマリアンヌは、ぐんと尾鰭に力を入れると、一層速度を上げて海を突っ切っていった。


◇◇◇

「はぁ…はぁ…つ、ついたわ…!!」

 マリアンヌはほとんど休まずに丸一日泳ぎ続け、とうとう憧れのサバン獣王国の港へと到着した。目が血走っているのは、夜通し泳いでいたためか、間もなく獣人と会える期待からかーーー

 海面から目だけを出して、人気のない岩場を見つけ、静かに上陸する。
 獣王はほとんど魚人との交流を持たないし、獣人によっては魚人を邪険にする者もいると聞く。逆もまた然りで、魚人の中には未だに獣人を恐れている者も少なくはない。
 マリアンヌは今の双方の関係を、何と勿体無いことかと憂いていた。

(私が獣人と結婚することで、少しでも関係が改善するかもしれないわ)

 何て、少しは王族らしいことを考えているかと思いきや。

(ぐふ、ぐふふ。そうすれば私は毎日ステキなもふもふパラダイス…ぐふふふふふ)

 結局のところ本心はこちらであるため、非常に残念なマリアンヌである。

 陸に上がり、尾鰭と鱗が脚とワンピースに変わったことを確認すると、マリアンヌはペンダントに指を添えた。するとふわりと温かな風が全身を優しく撫でる。あっという間に髪から身体まで綺麗に乾いた。

「よし、準備完了ね!早速街へ向かうわよ~!」

 マリアンヌは目を血走らせたまま、ズンズンと王国の入門処ゲートへと向かう。サバン獣王国に入国するには名前と出身地を明かす必要がある。万一トラブルが発生したときに対応できるようにするのだ。

 サバン獣王国は広大な平原の中に存在する緑に溢れた豊かな国。野菜や果実などの農作物が主な生産品で、主な収入源であった。

(な、なんてこと……)

 入門所ゲートに到着したマリアンヌは愕然とした。ようやくステキなもふもふ第一号を拝めると鼻息荒くしていたのだが、獣人の受付官は、大きめの帽子を着用していたのだ。そのせいで獣人の特徴である耳がすっぽり覆い隠されていた。

 マリアンヌはがくりと肩を落として受付を済ませる。

「ようこそサバンへ。お名前は?」
「…マリアンヌ・セイレーンですわ」

 形式ばった質問に対して素直に回答するマリアンヌ。受付官は、聞いた内容をサラサラと紙に書き残している。

「ご出身はどちらで?」
「マリンウッド海王国ですわ」
「えっ?!」

 海王国と聞いて、受付官は手に持っていた鉛筆を落としてしまった。動揺したようだ。それほど魚人が獣王国に足を踏み入れることは稀なのだ。

「え、あ、ごほん。そうですか。どうぞお通りください。太陽の加護があらんことを」
「ええ、ありがとう」

 ニコリと笑みを浮かべて、マリアンヌは入門処ゲートを抜けた。門を抜けると一筋の風が、マリアンヌを歓迎するように颯爽と吹き抜けた。風に靡く髪を押さえながら、マリアンヌはゆっくりと歩みを進める。

「とうとう…とうとう来たのね…!!」

 入門処ゲートを抜けるとすぐに大通りが現れた。両脇には様々な店舗が並び、多様な種族が買い物を楽しんでいる。

 そして勿論、最も人口の多いのがーーー

(あっちも…こっちも…!!!見渡す限り素敵なお耳や尻尾を生やしたもふもふちゃんたちで溢れているわーーー!!!)

 サバン獣王国に暮らす獣人達であった。

 マリアンヌは夢にまで見た光景に、目を爛々と輝かせ、手を組み神に感謝した。はぁはぁと鼻息荒く、口元からは涎を垂らしながら表情を蕩けさせる様は不審者そのものであった。
 街ゆく人は皆半分空想の世界に旅立ってしまったマリアンヌの姿にギョッとして、遠巻きに避けて歩いた。

(皆様恥ずかしがり屋なのかしら…?目があった側から顔を背けてしまって…うふふふふそんな姿も可愛いわぁぁ…)

 辺りをキョロキョロ見渡しながら、まるで天国に来たかのように宙に浮かぶ心地のマリアンヌ。気付けば大通りを抜けて、大きな公園に入り込んでいた。

 公園は一面緑の芝生で覆われており、ところどころに美しい花を咲かせた生垣が植えられている。
 マリアンヌは流石に一晩中泳いでいた疲れが出てきており、少し休みたかったので近くのベンチに腰掛けた。そしてポシェットからお菓子を取り出すとポイと口に放り込み空腹を満たした。

(ふぅ…少し休んだらまずは宿を探しましょう。うふ、うふふ、それからは手当たり次第に獣人さん達に声をかけてお友達になりたいわ…!!)

 マリアンヌは、目の下にクマを浮かべながら怪しく笑う。そして、ベンチの後ろに植えられたピンクの花が美しい生垣に視線を投げた時ーーーとあるものが視界に入った。

(ん…??あ、あれは…!?!?)

 生垣の下からひょっこりと顔を出していたのは、ふわふわと触り心地の良さそうな獣の耳であった。
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