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第十話 成人の儀と古代兵器 6
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眩しくて思わず閉じた目をそっと開くと、視界いっぱいに広がったのは風に靡く美しい黒髪だった。
古代兵器の光線が、黒髪の持ち主の手に吸い込まれるようにして消えていく。
光線の全てが消失し、古代兵器は再びシュウウウ……と音を立てながら次の攻撃に備えて魔力を装填し始めた。
なんでもなかったように両手を叩き、黒髪を靡かせながらその人がこちらを振り返った。
ドクン、と心臓が脈打つ。
優しく微笑みながら、未だに光を放つ指輪ごと私の手を優しく包み込んでくれたのは――ルイ様だった。
「ルイ様……っ!」
え……? ルイ様、だよね?
ルイ様はサラサラと流れる黒く長い髪を耳にかけて、ポカンと口を開ける私を真っ直ぐに見つめていた。
ルイ様の髪は肩に付くほどだったのに、今や膝裏に届きそうなほど長い。頭の上の角もグッと大きくなった気がする。
「アリエッタ、余が不在の間に魔界を守ってくれてありがとう」
声までも、今までより一層深みがあって耳から侵入して身体中を、心を、震わせるほどである。
「そんな……私は、守れませんでした。結界が破られて、ルイ様の大切な魔界が……うっ……」
私は嗚咽を漏らしながら、ルイ様に詫びる。涙は見せてはいけない。そう思って歯を食いしばる。
「そう言うな。アリエッタが居なければ、魔界は蹂躙され、今頃もっと悲惨な状況に陥っていただろう」
「でも……」
私は魔界を振り返る。
門を破られた時の一閃で、随分遠くまで焼け野原が広がっていて、未だにチリチリと延焼を続けている。
凄惨な光景に思わず俯いてしまった私の頭を、ルイ様の大きな手が撫でてくれる。
「き、貴様……! まさか、魔王……なのか? やはりあの時の子供の姿はまやかしだったのだな! 卑怯な奴め……! アリエッタに触るな!」
カインに肩を支えられながら、ファルガがヨロヨロと近付いてくる。呆れるほどのしつこさだ。
「それより、今ここであの日の返事を聞いてもいいか?」
「ええっ⁉︎ 今ですか?」
私の顔を覗き込むように、少し屈んでとんでもないことを言ってきたルイ様。
あれ? ファルガのこと見えてます?
流石にこの状況で返事も何もなくないですか?
「ああ。今でないといけないんだ」
チラッと未だに何か喚いているファルガを横目に、ルイ様が目元を和らげた。いつも私を見つめてくれる優しい瞳。
「アリエッタ。余はアリエッタを何よりも愛している。大切にする。生涯、余のそばで共に過ごして支えてはくれないか?」
ルイ様は私の両肩に手を置き、真っ直ぐに目を見て気持ちを伝えてくれる。
――ああ、ルイ様だ。間違いなくこの人はルイ様だ。
容姿も少し変わっていて、漏れ出る魔力の量が今までと比べ物にならないほどになっているけれど、ルイ様の心は何も変わっていない。
途端にギュウッと胸が締め付けられて愛おしさが溢れ出した。
「……はい。私もルイ様が好きです。お慕いしています。一人の男性として、私はルイ様に惹かれています。愛しています。一生おそばに置いてください」
思い浮かぶ限りの愛の告白をルイ様にぶつける。
不思議と恥ずかしくはなくて、心臓もトクントクンと落ち着いたリズムを刻んでいる。
真っ直ぐに見返したルイ様の金色の瞳には、ルイ様に恋焦がれる私の姿だけが映っている。
「ありがとう、アリエッタ」
華のように笑顔を咲かせたルイ様は、グイッと私の腰を抱き寄せて――熱い唇を重ねた。
「――っ⁉︎」
「――ああ。ようやくアリエッタと心を通わせることができた。夢のようだ」
あまりの不意打ちにパクパク口を開けては閉じる私を他所に、ルイ様はペロリと唇を舐めると、力の流れを確かめるように拳を握った。
「今ならなんでもできそうだ」
魔界の焼け野原を振り向き、ブンッとルイ様が腕を振り抜いた途端、焼け焦げていた一面に緑が芽吹いた。
「うそ……」
「ふっ、余は魔界を作り出すほどの力を有しているのだぞ? この程度造作もない」
まるで、何事もなかったかのように草花が風に揺れている。
「さて、古代兵器……またこいつを相手にすることになるとはな。あの時、破壊し尽くしておかなかった余の落ち度だ。これは人間の手に負えるものではない。今度こそ、ここで消してしまおう」
ギギギ……とルイ様を敵と判断した古代兵器が、再び光線を発射しようとしている。
「一欠片さえも残さぬ」
ルイ様が古代兵器に手を翳すと、古代兵器の中心がぐにゃりと渦を巻くように歪んだ。そのまま渦は大きくなり、巨大な身体を瞬く間に吸い込んでいった。次第に渦は収束し、チュポンッと小気味のいい音を鳴らして消えてしまった。
「今のは……」
「ああ。亜空間を作り出してそこに封じた。二度と出てくることは叶わないだろう」
とんでもないことをサラリと成し遂げてしまったルイ様に、開いた口が塞がらない。呆けた顔でルイ様を見上げる。
「ルイ様、凄すぎます……」
「ん? 惚れ直したか?」
「ひゃっ……ちょっと……!」
腰に回された腕に力が入り、グイッとルイ様の身体に密着させられる。ルイ様が私の頭に鼻先を擦り付けてくるので、その度にサラサラ流れる黒髪が耳を掠めてくすぐったい。
「あのお……お取り込み中のところ悪いんだけど、俺たち帰るわ」
「あ……カイン」
二人の世界を作り出していた私たちに、恐る恐るといった調子で片手を上げて声を上げたのはカインだった。
一方のファルガの目は虚で、「古代兵器がこれほど呆気なく……」「アリエッタ……」と何か呟いている。
「色々と、悪かった。まあ、魔王様が見せつけてくれたおかげで、こいつもやっと諦めがついただろう。アリエッタ、こいつは大馬鹿野郎だけど、真っ直ぐな奴なんだ。地位や名誉にめっぽう弱い奴だが、あんたに惚れてたのは間違いない。しでかしたことの責任はきっちり取らせるから……その気持ちまで否定はしてやらないでくれ」
「……分かったわ」
「アリエッタ、幸せになれよ」
「うん、ありがとう」
カインはひらりと手を振ると、ファルガを肩に抱えたまま私たちに背を向けて人間界へと帰っていった。
後に残されたのは、私たちと、後方で控えてくれていたフェリックス、そしてボロボロになった二つの世界を繋ぐ門。
「さて、門と結界を修復したら帰ろうか」
「はい!」
その後、ルイ様は元の門よりずっと立派な門を作り出して、何重にも複雑な結界を張った。その中に私の結界も組み込んでくれて、なんだか少し嬉しかった。
私たちは手を取り合い、フェリックスの背に乗ってみんなが待つ城へと向かった。
眼下には変わらず美しい魔界の景色が広がっていた。
古代兵器の光線が、黒髪の持ち主の手に吸い込まれるようにして消えていく。
光線の全てが消失し、古代兵器は再びシュウウウ……と音を立てながら次の攻撃に備えて魔力を装填し始めた。
なんでもなかったように両手を叩き、黒髪を靡かせながらその人がこちらを振り返った。
ドクン、と心臓が脈打つ。
優しく微笑みながら、未だに光を放つ指輪ごと私の手を優しく包み込んでくれたのは――ルイ様だった。
「ルイ様……っ!」
え……? ルイ様、だよね?
ルイ様はサラサラと流れる黒く長い髪を耳にかけて、ポカンと口を開ける私を真っ直ぐに見つめていた。
ルイ様の髪は肩に付くほどだったのに、今や膝裏に届きそうなほど長い。頭の上の角もグッと大きくなった気がする。
「アリエッタ、余が不在の間に魔界を守ってくれてありがとう」
声までも、今までより一層深みがあって耳から侵入して身体中を、心を、震わせるほどである。
「そんな……私は、守れませんでした。結界が破られて、ルイ様の大切な魔界が……うっ……」
私は嗚咽を漏らしながら、ルイ様に詫びる。涙は見せてはいけない。そう思って歯を食いしばる。
「そう言うな。アリエッタが居なければ、魔界は蹂躙され、今頃もっと悲惨な状況に陥っていただろう」
「でも……」
私は魔界を振り返る。
門を破られた時の一閃で、随分遠くまで焼け野原が広がっていて、未だにチリチリと延焼を続けている。
凄惨な光景に思わず俯いてしまった私の頭を、ルイ様の大きな手が撫でてくれる。
「き、貴様……! まさか、魔王……なのか? やはりあの時の子供の姿はまやかしだったのだな! 卑怯な奴め……! アリエッタに触るな!」
カインに肩を支えられながら、ファルガがヨロヨロと近付いてくる。呆れるほどのしつこさだ。
「それより、今ここであの日の返事を聞いてもいいか?」
「ええっ⁉︎ 今ですか?」
私の顔を覗き込むように、少し屈んでとんでもないことを言ってきたルイ様。
あれ? ファルガのこと見えてます?
流石にこの状況で返事も何もなくないですか?
「ああ。今でないといけないんだ」
チラッと未だに何か喚いているファルガを横目に、ルイ様が目元を和らげた。いつも私を見つめてくれる優しい瞳。
「アリエッタ。余はアリエッタを何よりも愛している。大切にする。生涯、余のそばで共に過ごして支えてはくれないか?」
ルイ様は私の両肩に手を置き、真っ直ぐに目を見て気持ちを伝えてくれる。
――ああ、ルイ様だ。間違いなくこの人はルイ様だ。
容姿も少し変わっていて、漏れ出る魔力の量が今までと比べ物にならないほどになっているけれど、ルイ様の心は何も変わっていない。
途端にギュウッと胸が締め付けられて愛おしさが溢れ出した。
「……はい。私もルイ様が好きです。お慕いしています。一人の男性として、私はルイ様に惹かれています。愛しています。一生おそばに置いてください」
思い浮かぶ限りの愛の告白をルイ様にぶつける。
不思議と恥ずかしくはなくて、心臓もトクントクンと落ち着いたリズムを刻んでいる。
真っ直ぐに見返したルイ様の金色の瞳には、ルイ様に恋焦がれる私の姿だけが映っている。
「ありがとう、アリエッタ」
華のように笑顔を咲かせたルイ様は、グイッと私の腰を抱き寄せて――熱い唇を重ねた。
「――っ⁉︎」
「――ああ。ようやくアリエッタと心を通わせることができた。夢のようだ」
あまりの不意打ちにパクパク口を開けては閉じる私を他所に、ルイ様はペロリと唇を舐めると、力の流れを確かめるように拳を握った。
「今ならなんでもできそうだ」
魔界の焼け野原を振り向き、ブンッとルイ様が腕を振り抜いた途端、焼け焦げていた一面に緑が芽吹いた。
「うそ……」
「ふっ、余は魔界を作り出すほどの力を有しているのだぞ? この程度造作もない」
まるで、何事もなかったかのように草花が風に揺れている。
「さて、古代兵器……またこいつを相手にすることになるとはな。あの時、破壊し尽くしておかなかった余の落ち度だ。これは人間の手に負えるものではない。今度こそ、ここで消してしまおう」
ギギギ……とルイ様を敵と判断した古代兵器が、再び光線を発射しようとしている。
「一欠片さえも残さぬ」
ルイ様が古代兵器に手を翳すと、古代兵器の中心がぐにゃりと渦を巻くように歪んだ。そのまま渦は大きくなり、巨大な身体を瞬く間に吸い込んでいった。次第に渦は収束し、チュポンッと小気味のいい音を鳴らして消えてしまった。
「今のは……」
「ああ。亜空間を作り出してそこに封じた。二度と出てくることは叶わないだろう」
とんでもないことをサラリと成し遂げてしまったルイ様に、開いた口が塞がらない。呆けた顔でルイ様を見上げる。
「ルイ様、凄すぎます……」
「ん? 惚れ直したか?」
「ひゃっ……ちょっと……!」
腰に回された腕に力が入り、グイッとルイ様の身体に密着させられる。ルイ様が私の頭に鼻先を擦り付けてくるので、その度にサラサラ流れる黒髪が耳を掠めてくすぐったい。
「あのお……お取り込み中のところ悪いんだけど、俺たち帰るわ」
「あ……カイン」
二人の世界を作り出していた私たちに、恐る恐るといった調子で片手を上げて声を上げたのはカインだった。
一方のファルガの目は虚で、「古代兵器がこれほど呆気なく……」「アリエッタ……」と何か呟いている。
「色々と、悪かった。まあ、魔王様が見せつけてくれたおかげで、こいつもやっと諦めがついただろう。アリエッタ、こいつは大馬鹿野郎だけど、真っ直ぐな奴なんだ。地位や名誉にめっぽう弱い奴だが、あんたに惚れてたのは間違いない。しでかしたことの責任はきっちり取らせるから……その気持ちまで否定はしてやらないでくれ」
「……分かったわ」
「アリエッタ、幸せになれよ」
「うん、ありがとう」
カインはひらりと手を振ると、ファルガを肩に抱えたまま私たちに背を向けて人間界へと帰っていった。
後に残されたのは、私たちと、後方で控えてくれていたフェリックス、そしてボロボロになった二つの世界を繋ぐ門。
「さて、門と結界を修復したら帰ろうか」
「はい!」
その後、ルイ様は元の門よりずっと立派な門を作り出して、何重にも複雑な結界を張った。その中に私の結界も組み込んでくれて、なんだか少し嬉しかった。
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