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第十話 成人の儀と古代兵器 5
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私が門に到着すると、すぐにファルガが前に出てきた。
この男は何も変わっていない。いつも自分に都合のいい解釈をする。
今までは否定するのも面倒で曖昧に躱してきたけれど、もうやめにした。ハッキリ言っても伝わるか分からないけれど、我慢を強いられた人間界を出て、私自身を大切に想ってくれる人たちと心のままに生きるのだから。
「一度だけ言うわ。帰って。もう二度と魔界を踏み荒らさないと約束して」
「はは……何を言っている。魔物は人類の敵、俺たちの討つべき相手ではないか」
「何を言っているの、はこっちのセリフよ。魔物が何かあなたたち人間に危害を加えることをしたの? してないわよね。だって魔界はルイ……魔王様が適切に管理しているのだから」
「ふ、ふん。魔物は存在するだけで忌むべきものなのだ! いつ人間界に攻め入ってくるかも分からん危険因子は排除すべきだ! それにそもそも俺たちにとって魔界など不要だろう。あってもなくてもいいのなら、無くしてしまえばいい」
本当に何を言っているのか理解ができない。
この男は本当に大馬鹿野郎だ。相変わらず自分のことしか頭にない。
魔界の重要な役割を知ろうともせずにのうのうと生きてきたのね。それに、私利私欲のために生きる人間よりも、魔界で伸び伸びと暮らす魔物の方がずっと思慮深くて優しいのに、勝手な先入観で決めつけないで欲しい。
「魔界がなくなれば、人間界にいずれ魔物が湧くわ。大昔のようにね。魔物を根絶やしにすることはできないの。魔界があるから人間界に魔物が生まれないのに、そんなことも知らずによくも魔界を傷つけてくれたわね」
「な、何のことだ? 知らんぞ、そんな話……」
ファルガは同意を求めるように騎士のカイルに視線を投げた。
カイルも肩をすくめるばかりで、近くの兵士たちもざわめき立っている。向こうの人たちは魔界の重要性を一切知らないらしい。
私は深いため息を吐いた。これは思っていた以上に、王家に都合よく歪んだ解釈が広がっているようだ。
「知らないのなら、今日学んで帰りなさい。魔物の発生源を全て人間界から切り離し、魔界という亜空間を作って人間界に平和をもたらしたのは、誰でもない魔王様なのよ。それぐらい、人間界でも少し調べれば分かることよ。理解できたらもう二度と魔界に干渉しないで。回れ右をして帰りなさい」
「ぐ……で、では、アリエッタも共に……」
馬鹿なファルガでも、魔界を蹂躙することは回り回って自分の世界を混沌に陥らせることに繋がると理解ができたらしい。それだけでも上出来だ。けれど、ファルガはしつこく私に手を伸ばしてくる。
「帰らないわ。やりたくもない聖女に祭り上げられて、国の威厳のための象徴として扱き使われる生活になんて二度と戻らない。私は魔界に残るわ。魔界の大切な人たちと生きていくの」
これだけハッキリ言っているのに、ファルガはブツブツと「魔王の洗脳が……」「アリエッタは正気じゃない」と尚も呟いている。
分からず屋のファルガは後回しにして、まずは戸惑った顔でずらりと並ぶ魔道士と兵士たちをどうにかしてしまおう。
私は天に両手を掲げると、巨大な魔法陣を展開した。
「なっ、これは……あの時の!」
「ええ、そうよ。あの日あんたたちを送り返した転移魔法よ」
よくもまあ、こんなにも大人数を用意したものね。
魔力の消費が凄まじいけれど、この人数を魔界に解き放つのは危険だ。
何人かが抵抗を試みて魔法を放ってきたけれど、全て弾き返してやった。力の差は歴然なのに、見て分からないのかしら?
「自分たちの世界に帰りなさい!」
私は何千もの兵士たちを一斉に転移魔法で王城へと送り返した。
ついでに古代兵器も強制送還したいところだったけど、反魔法の効果が付与されているらしく、転移魔法が拒絶されてしまった。
さっきからシュウウ……と不気味な音を発して口元に魔力を溜めているのが気になる。インターバルはあるにしろ、またさっきのような光線を撃たれては敵わない。
私は両手を下ろして、この場に残したファルガとカインに再び視線を戻した。
「なっ、あの数の兵を一度に⁉︎」
「ああ……やっぱりアリエッタは規格外だな」
呆気に取られるファルガと、どこか納得した様子のカイン。力を示しすぎると、限界まで搾取されるもの。あなたたちに見せていたのは私の実力のほんの一端。
「次はあなたたちの番よ。その前に、そこの不気味な古代兵器をどうにかしてくれないかしら?」
「ど、どうしても魔界に残ると言うのか……? アリエッタは、俺のことを愛してくれていたではないか! アリエッタのために、俺がここまでしてやったのに!」
「はあっ⁉︎」
どこまでもご都合主義のファルガに呆れ返って、咄嗟に二の句が告げなかった。ごほんと咳払いをしてから、私はハッキリとこう言った。
「愛してなんていないわ。あなたの求愛に答えた覚えもない。それに、私のためだと言うけれど、全部自分のためなんじゃないの? あなたが欲しいのは富と名声、聖女の肩書きを持った私。ただそれだけなのよ。自分の行いに責任を持ちなさい。私を理由に使わないで! それに、私には……魔界に添い遂げたい人がいるの」
「なっ……ななっ……ま、まさか、それは……」
真っ青な顔で口をパクパクとさせるファルガだけど、まだ本人にちゃんと返事をしていないのに答える義理はない。
「あなたには関係のないことよ。さあ、古代兵器を止めなさい。そして人間界に帰るのよ」
「く……おい、デカブツ! ん? おい、聞こえているのか?」
ファルガはふらつきながらも、私の要望に応えてくれるようだ。古代兵器に指示を出そうと声を張り上げている。
けれど、どこか様子がおかしい。
ファルガの呼びかけに一切反応せず、ポカリと空いた口に魔力を集め続けている。
そういえば、ウェインさんが言っていた。
古代兵器は、所有者である人間の言うことを聞かずにひたすら破壊と殺戮を続けたのだと。
「冗談でしょ……」
このままだと、また魔界に光線を撃ち込まれてしまう。
古代兵器から滲み出る魔力の濃度が高すぎて、ジワリと額に汗が滲む。
そうこうしてる間に、キィィィンと耳を塞ぎたくなるような音までし始めた。
これはまずい。
「おい! お前の主人はこの俺だぞ! 言うことを聞け!」
ゲシゲシと怒り任せに古代兵器を蹴ったり、剣で攻撃したりを繰り返しているが、一向に止まる気配がない。
それどころか、古代兵器が煩わしそうにファルガを一瞥し、腕の一振りで吹き飛ばしてしまった。ゴロゴロと地面を転がるファルガに、慌てたカインが駆け寄っている。
「くっ……!」
誰にも制御できないのなら、私があの攻撃を止めるしかない……!
私は覚悟を決めて古代兵器の前に飛び出した。
さっきの転移魔法でごっそり魔力が持っていかれたけれど、身体の奥底から魔力を絞り出して、キン、キン、と何枚もの高密度の結界を張っていく。
「ん……十枚が、限界かしら」
果たして、古代兵器の攻撃をこれで凌げるのか……私の背に冷たい汗が伝う。
古代兵器が、ギギギと首を動かして私を視界に捉えた。どうやら照準を私に合わせているらしい。
「……来なさい」
私が、魔界を、みんなを、ルイ様を守ってみせる。
グッと腕に力を込めた時、カッと光が弾けて古代兵器が高密度の光線を発射した。
「ぐ……うう……」
ズン、と押しつぶされそうなほどの圧が結界にかかっている。
ビキ……パリンッと一枚、また一枚と結界が砕け散っていく。
足を思い切り踏ん張っても、ズルズルと身体が押し返されていく。
あと三枚、二枚……一枚。
残すは最後の一枚となったが、光線の勢いは弱まる様子がない。
ピシ、ピシッと結界がひび割れ、もうダメだ、とギュッと目を瞑った時――
ルイ様が贈ってくれた指輪が眩い光を放った。
この男は何も変わっていない。いつも自分に都合のいい解釈をする。
今までは否定するのも面倒で曖昧に躱してきたけれど、もうやめにした。ハッキリ言っても伝わるか分からないけれど、我慢を強いられた人間界を出て、私自身を大切に想ってくれる人たちと心のままに生きるのだから。
「一度だけ言うわ。帰って。もう二度と魔界を踏み荒らさないと約束して」
「はは……何を言っている。魔物は人類の敵、俺たちの討つべき相手ではないか」
「何を言っているの、はこっちのセリフよ。魔物が何かあなたたち人間に危害を加えることをしたの? してないわよね。だって魔界はルイ……魔王様が適切に管理しているのだから」
「ふ、ふん。魔物は存在するだけで忌むべきものなのだ! いつ人間界に攻め入ってくるかも分からん危険因子は排除すべきだ! それにそもそも俺たちにとって魔界など不要だろう。あってもなくてもいいのなら、無くしてしまえばいい」
本当に何を言っているのか理解ができない。
この男は本当に大馬鹿野郎だ。相変わらず自分のことしか頭にない。
魔界の重要な役割を知ろうともせずにのうのうと生きてきたのね。それに、私利私欲のために生きる人間よりも、魔界で伸び伸びと暮らす魔物の方がずっと思慮深くて優しいのに、勝手な先入観で決めつけないで欲しい。
「魔界がなくなれば、人間界にいずれ魔物が湧くわ。大昔のようにね。魔物を根絶やしにすることはできないの。魔界があるから人間界に魔物が生まれないのに、そんなことも知らずによくも魔界を傷つけてくれたわね」
「な、何のことだ? 知らんぞ、そんな話……」
ファルガは同意を求めるように騎士のカイルに視線を投げた。
カイルも肩をすくめるばかりで、近くの兵士たちもざわめき立っている。向こうの人たちは魔界の重要性を一切知らないらしい。
私は深いため息を吐いた。これは思っていた以上に、王家に都合よく歪んだ解釈が広がっているようだ。
「知らないのなら、今日学んで帰りなさい。魔物の発生源を全て人間界から切り離し、魔界という亜空間を作って人間界に平和をもたらしたのは、誰でもない魔王様なのよ。それぐらい、人間界でも少し調べれば分かることよ。理解できたらもう二度と魔界に干渉しないで。回れ右をして帰りなさい」
「ぐ……で、では、アリエッタも共に……」
馬鹿なファルガでも、魔界を蹂躙することは回り回って自分の世界を混沌に陥らせることに繋がると理解ができたらしい。それだけでも上出来だ。けれど、ファルガはしつこく私に手を伸ばしてくる。
「帰らないわ。やりたくもない聖女に祭り上げられて、国の威厳のための象徴として扱き使われる生活になんて二度と戻らない。私は魔界に残るわ。魔界の大切な人たちと生きていくの」
これだけハッキリ言っているのに、ファルガはブツブツと「魔王の洗脳が……」「アリエッタは正気じゃない」と尚も呟いている。
分からず屋のファルガは後回しにして、まずは戸惑った顔でずらりと並ぶ魔道士と兵士たちをどうにかしてしまおう。
私は天に両手を掲げると、巨大な魔法陣を展開した。
「なっ、これは……あの時の!」
「ええ、そうよ。あの日あんたたちを送り返した転移魔法よ」
よくもまあ、こんなにも大人数を用意したものね。
魔力の消費が凄まじいけれど、この人数を魔界に解き放つのは危険だ。
何人かが抵抗を試みて魔法を放ってきたけれど、全て弾き返してやった。力の差は歴然なのに、見て分からないのかしら?
「自分たちの世界に帰りなさい!」
私は何千もの兵士たちを一斉に転移魔法で王城へと送り返した。
ついでに古代兵器も強制送還したいところだったけど、反魔法の効果が付与されているらしく、転移魔法が拒絶されてしまった。
さっきからシュウウ……と不気味な音を発して口元に魔力を溜めているのが気になる。インターバルはあるにしろ、またさっきのような光線を撃たれては敵わない。
私は両手を下ろして、この場に残したファルガとカインに再び視線を戻した。
「なっ、あの数の兵を一度に⁉︎」
「ああ……やっぱりアリエッタは規格外だな」
呆気に取られるファルガと、どこか納得した様子のカイン。力を示しすぎると、限界まで搾取されるもの。あなたたちに見せていたのは私の実力のほんの一端。
「次はあなたたちの番よ。その前に、そこの不気味な古代兵器をどうにかしてくれないかしら?」
「ど、どうしても魔界に残ると言うのか……? アリエッタは、俺のことを愛してくれていたではないか! アリエッタのために、俺がここまでしてやったのに!」
「はあっ⁉︎」
どこまでもご都合主義のファルガに呆れ返って、咄嗟に二の句が告げなかった。ごほんと咳払いをしてから、私はハッキリとこう言った。
「愛してなんていないわ。あなたの求愛に答えた覚えもない。それに、私のためだと言うけれど、全部自分のためなんじゃないの? あなたが欲しいのは富と名声、聖女の肩書きを持った私。ただそれだけなのよ。自分の行いに責任を持ちなさい。私を理由に使わないで! それに、私には……魔界に添い遂げたい人がいるの」
「なっ……ななっ……ま、まさか、それは……」
真っ青な顔で口をパクパクとさせるファルガだけど、まだ本人にちゃんと返事をしていないのに答える義理はない。
「あなたには関係のないことよ。さあ、古代兵器を止めなさい。そして人間界に帰るのよ」
「く……おい、デカブツ! ん? おい、聞こえているのか?」
ファルガはふらつきながらも、私の要望に応えてくれるようだ。古代兵器に指示を出そうと声を張り上げている。
けれど、どこか様子がおかしい。
ファルガの呼びかけに一切反応せず、ポカリと空いた口に魔力を集め続けている。
そういえば、ウェインさんが言っていた。
古代兵器は、所有者である人間の言うことを聞かずにひたすら破壊と殺戮を続けたのだと。
「冗談でしょ……」
このままだと、また魔界に光線を撃ち込まれてしまう。
古代兵器から滲み出る魔力の濃度が高すぎて、ジワリと額に汗が滲む。
そうこうしてる間に、キィィィンと耳を塞ぎたくなるような音までし始めた。
これはまずい。
「おい! お前の主人はこの俺だぞ! 言うことを聞け!」
ゲシゲシと怒り任せに古代兵器を蹴ったり、剣で攻撃したりを繰り返しているが、一向に止まる気配がない。
それどころか、古代兵器が煩わしそうにファルガを一瞥し、腕の一振りで吹き飛ばしてしまった。ゴロゴロと地面を転がるファルガに、慌てたカインが駆け寄っている。
「くっ……!」
誰にも制御できないのなら、私があの攻撃を止めるしかない……!
私は覚悟を決めて古代兵器の前に飛び出した。
さっきの転移魔法でごっそり魔力が持っていかれたけれど、身体の奥底から魔力を絞り出して、キン、キン、と何枚もの高密度の結界を張っていく。
「ん……十枚が、限界かしら」
果たして、古代兵器の攻撃をこれで凌げるのか……私の背に冷たい汗が伝う。
古代兵器が、ギギギと首を動かして私を視界に捉えた。どうやら照準を私に合わせているらしい。
「……来なさい」
私が、魔界を、みんなを、ルイ様を守ってみせる。
グッと腕に力を込めた時、カッと光が弾けて古代兵器が高密度の光線を発射した。
「ぐ……うう……」
ズン、と押しつぶされそうなほどの圧が結界にかかっている。
ビキ……パリンッと一枚、また一枚と結界が砕け散っていく。
足を思い切り踏ん張っても、ズルズルと身体が押し返されていく。
あと三枚、二枚……一枚。
残すは最後の一枚となったが、光線の勢いは弱まる様子がない。
ピシ、ピシッと結界がひび割れ、もうダメだ、とギュッと目を瞑った時――
ルイ様が贈ってくれた指輪が眩い光を放った。
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