【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト

文字の大きさ
上 下
45 / 62

第八話 暑い日は水遊びをしましょう 2

しおりを挟む
 翌日、今日も日差しが強いので、勉強と昼食を終えてから、私たちは中庭でフェリックスと遊んでいた。

「アリエッタちゃ~ん!」
「あれ、ミーシャお姉様?」

 その時、ミーシャお姉様が片手をブンブンと振りながら私たちの元へ駆け寄ってきた。はっ! いけない!

「お姉様! 走ってはいけません! こ、溢れ落ちそうです!」

 ボインボインと豊満なお胸を揺らしながら駆けてくるミーシャお姉様だけれど、お年頃のルイ様の目には毒だわ!
 私は両手を振ってルイ様の視界を妨げながら、慌ててお姉様の元へと駆け寄った。

「アリエッタちゃん、行くわよお!」
「え、ちょ、どこに……わああ!」
「ミーシャ⁉︎  アリエッタをどこへ連れていくのだ!」

 むんずと腕を掴まれてズルズル城内に引き摺り込まれる私を慌てて助け出そうとルイ様が駆けてくる。

「大丈夫ですよお。うっふふふ……ルイス様は楽しみ待っていてくださいねっ」

 パチン、と魅惑的なウインクを飛ばして、ミーシャお姉様は細腕に見合わない怪力で、私は抵抗する間も無く衣装部屋へと連れ込まれてしまった。




「こ、これは……」

 そして、「じゃーん!」と見せられた服を前に、私は固まった。

 え、これは、服と言えるの?

「ふふっ、昨日アリエッタちゃんが水遊びしたいけど服が濡れるからできないって言っているのが聞こえて、カロンと一緒に用意したのよお」

 ミーシャお姉様が両手に掲げるのは、つるりとして水を弾きそうな生地の服……というより下着のように布地が少ないものだった。

「えっと……こ、これを、私が着るのでしょうか?」
「もっちろん! どう? どう? 可愛いでしょう? 意外と生地が柔らかくて、加工もしやすかったから夢中で仕上げちゃったわあ」

 キラキラと曇りのない眼差しで見つめられては否定なんてできず、意志の弱い私は引き攣る頬で懸命に笑顔を作って頷いた。
 それに、わざわざ私のために作ってくれたのだろうから、その好意を無碍にすることはできない。恐る恐る手に取り質感を確かめると、やっぱり普通の布とは違った肌触りをしている。

「さ、早く着てみてちょうだい! ああん、焦ったいわ! えーい!」
「ヒイイッ」

 私がもたもたしていると、痺れを切らしたミーシャお姉様が襲い掛かってきた。あれよあれよと仕事着を引っぺがされて身包みを剥がれてしまう。

「ちょ、ちょちょ! この先は自分で脱ぎますから!」

 私の下着にまで手をかけようとしてきたお姉様を必死で阻止し、私は部屋の隅に退散する。
 うう、改めて見ても布地が心もとない……振り返ると目を爛々と輝かせたお姉様が鼻息荒く手をワキワキ動かして、今にも飛びかかってきそう。これは観念して着るしかなさそうね。渋々下着を脱いで、お姉様が作ってくれた服に袖を通す。

「やーん! 可愛い!」
「あ、あの……ちょっと露出が激しすぎやしませんか?」

 ミーシャお姉様曰く、この服は水中で着用する『水着』というものらしい。

 胸元はバンドのようにヒラヒラとレースを模したデザインで、胸の形を誤魔化してくれている。その胸当てを支えるには細すぎる紐を首の後ろで結んでいて、下もショートパンツの上にパレオという薄地の布を巻き付けているだけだ。

「そんなことないわ! 色気のないアリエッタちゃんにはこれぐらいでちょうどいいのよ」
「え? 何か失礼なことを言いませんでした?」
「さ、早速お披露目よ~!」
「えっ!」

 ミーシャお姉様の発言に引っかかっている間に、再び腕を引かれて中庭まで連れて行かれてしまう。まずい、この先にはルイ様が……こんな格好、お見せするわけにはいかないのに……!

 どうしよう、と対策を講じる間もなく連れてこられた中庭には、なぜかカロン爺とウェインさん、さらにマルディラムさんの姿まであった。

「ほう、防水布がこうも姿を変えるとは」
「アリエッタ殿、素敵ですよ。フェリックスも一緒に遊べて喜ぶことでしょう」
「うむ。悪くはない」

 三人ともうんうん頷いて褒めてくれるけど、私は何の反応も示さないルイ様が気になって仕方がなかった。視線でルイ様を探すけれど、なぜか中庭に姿が見えない。

「えっと、ルイ様は?」
「ああ、先ほどフェリックスがボールを飛ばしてしまいまして、ルイ様自ら取りに行かれております」
「ワシが行くと申したのに、ご自身で行かれると聞かなくてのう……」
「そ、そうですか」

 この場にルイ様がいなくてホッとした。だって、お腹も足も露出しているのだから、こんな格好をルイ様に見られたら恥ずかしすぎて絶対倒れる。

「それにしても、防水布か……浴室の掃除や園芸の作業着にも使えるかもしれんのう」
「あら! いいじゃなあい。腕がなるわあ」
「そうですね。使わずに倉庫にしまいっぱなしというのも宝の持ち腐れですし、色々試作してみるのも面白いかもしれません」
「エプロンの生地にもうまく取り入れることはできるか?」

 私を囲んでみんなが意見を言い始めた時、背後でボトッ、ポーンポーン、と何かが弾む音がした。

「ん? ……あっ」
「ア、アア、アリエッタ?」

 振り向いた先にいたのは、折角取りに行っていたというボールを落として呆然と立ちすくむルイ様だった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~

さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。 キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。 弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。 偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。 二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。 現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。 はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

処理中です...