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第七話 変わりゆく日々 4
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それから一ヶ月が経ち、その間に世界樹のピクニックがあったり、フェリックスが一人で自在に空を飛べるようになったりと変わらず充実した日々を過ごしていたのだけれど、この日、ちょっとした事件が起こった。
ルイ様が頭から布団を被って出てきてくれないのだ。
「ルイ様、朝ですよ。起きてくださーい」
カーテンを勢いよく引くも、ゆさゆさとベッドの上の真っ白な塊を揺さぶるも、ルイ様は一向に出てくる気配がない。それどころか一言も発してくれない。もしかして体調が優れない? 熱でもあるのだろうか。そうならば一大事である。
「ルイ様! お返事だけでもしてください! お身体の調子が悪いのですか?」
めげずに声をかけ続けてようやく、真っ白な塊――シーツに包まったルイ様がむくりと身体を起こした。目だけを隙間から覗かせてくれる。
「ルイ様、どこか具合が悪いのですか?」
優しく問いかけると、フルフルと首を振るルイ様。イエスかノーの問答はしてくれるらしい。
「ベッドから出てきてくださいますか?」
フルフル。
「お食事、お持ちしましょうか?」
コクリ。
「今日のお勉強はいかがいたしましょう? お休みされますか?」
……コクリ。
ふむ。とりあえず食事を摂ってくれるだけでもいいか、と思い、ルイ様に「待っていてくださいね」と断りを入れて厨房へ向かう。
ルイ様の部屋を出てすぐに、一向に朝食の場に現れない私たちを心配して様子を見に来たウェインさんと合流する。道すがら、ルイ様の状態を説明した。
「ほう、どうされたのでしょうか。昨日のご様子はいつもと変わらなかったかと記憶しておりますが」
「そうなんです。いつも通り、変わった様子はなかったのに……」
いつものように就寝の挨拶をして、一夜明けたらこれだ。訳がわからない。
「口を聞いていただけないほどの粗相でもしたのかしら……」
「いえ、それはないでしょう。現にルイ様がアリエッタ殿を追い出す様子はなかったのでしょう? 会いたくない相手に顔を見せることはいたしませんよ」
「ウェインさん……」
ウェインさんに言われると安心感が違う。内心不安で泣きそうだった私は、ホッと息を吐いた。
マルディラムさんに事情を説明し、カートに朝食を用意してもらう。
その間も、私はルイ様が心配で仕方がなくてソワソワと厨房を行ったり来たりしてマルディラムさんに呆れられてしまった。
沈んだ気持ちのまま押すカートは鉛のように重い。なんとかルイ様のお部屋まで運ぶと、ルイ様は依然としてベッドの上で真っ白な塊と化していた。
「お待たせいたしました! 今日はルイ様の大好物のフレンチトーストですよ! ふわふわのうちにお召し上がりください」
努めて明るい声を出してベッドサイドにサーブしていく。ルイ様は、のそのそとベッドの上を動いてテーブルに近づいてくれた。
食欲はあるようで、黙々とフレンチトーストを切り分けて口に運んでは、うっとりと頬を緩ませている。
元気そうでホッとするけれど、どうして口を聞いてくれないのか、謎は深まるばかりである。
「美味しいですか?」
と尋ねても、返ってくるのはコクリと可愛い頷きだけで、私は密かに肩を落とした。
ルイ様が完食したお皿を下げるために部屋を出たところで、扉の外に立っていたウェインさんと再び顔を合わせた。きっと、ルイ様の様子を見に来てくれたのだろう。
「食欲には問題がないようです。でも、やっぱり一言も言葉を発してくれなくて……」
ルイ様の声が聞けないだけで、こんなに不安で心細い気持ちになるなんて。「アリエッタ」といつもの優しい声で名前を呼んで欲しい。
しょんぼりと肩を落とす私の肩に、ウェインさんがそっと手を置いた。
「もしかすると、何か言いにくいことがあるのかもしれません。お皿を下げていただいている間、少し私もルイ様とお話ししてみます」
「はい……よろしくお願いします」
私はペコリと頭を下げると、重い足取りで厨房へと向かった。
ルイ様が頭から布団を被って出てきてくれないのだ。
「ルイ様、朝ですよ。起きてくださーい」
カーテンを勢いよく引くも、ゆさゆさとベッドの上の真っ白な塊を揺さぶるも、ルイ様は一向に出てくる気配がない。それどころか一言も発してくれない。もしかして体調が優れない? 熱でもあるのだろうか。そうならば一大事である。
「ルイ様! お返事だけでもしてください! お身体の調子が悪いのですか?」
めげずに声をかけ続けてようやく、真っ白な塊――シーツに包まったルイ様がむくりと身体を起こした。目だけを隙間から覗かせてくれる。
「ルイ様、どこか具合が悪いのですか?」
優しく問いかけると、フルフルと首を振るルイ様。イエスかノーの問答はしてくれるらしい。
「ベッドから出てきてくださいますか?」
フルフル。
「お食事、お持ちしましょうか?」
コクリ。
「今日のお勉強はいかがいたしましょう? お休みされますか?」
……コクリ。
ふむ。とりあえず食事を摂ってくれるだけでもいいか、と思い、ルイ様に「待っていてくださいね」と断りを入れて厨房へ向かう。
ルイ様の部屋を出てすぐに、一向に朝食の場に現れない私たちを心配して様子を見に来たウェインさんと合流する。道すがら、ルイ様の状態を説明した。
「ほう、どうされたのでしょうか。昨日のご様子はいつもと変わらなかったかと記憶しておりますが」
「そうなんです。いつも通り、変わった様子はなかったのに……」
いつものように就寝の挨拶をして、一夜明けたらこれだ。訳がわからない。
「口を聞いていただけないほどの粗相でもしたのかしら……」
「いえ、それはないでしょう。現にルイ様がアリエッタ殿を追い出す様子はなかったのでしょう? 会いたくない相手に顔を見せることはいたしませんよ」
「ウェインさん……」
ウェインさんに言われると安心感が違う。内心不安で泣きそうだった私は、ホッと息を吐いた。
マルディラムさんに事情を説明し、カートに朝食を用意してもらう。
その間も、私はルイ様が心配で仕方がなくてソワソワと厨房を行ったり来たりしてマルディラムさんに呆れられてしまった。
沈んだ気持ちのまま押すカートは鉛のように重い。なんとかルイ様のお部屋まで運ぶと、ルイ様は依然としてベッドの上で真っ白な塊と化していた。
「お待たせいたしました! 今日はルイ様の大好物のフレンチトーストですよ! ふわふわのうちにお召し上がりください」
努めて明るい声を出してベッドサイドにサーブしていく。ルイ様は、のそのそとベッドの上を動いてテーブルに近づいてくれた。
食欲はあるようで、黙々とフレンチトーストを切り分けて口に運んでは、うっとりと頬を緩ませている。
元気そうでホッとするけれど、どうして口を聞いてくれないのか、謎は深まるばかりである。
「美味しいですか?」
と尋ねても、返ってくるのはコクリと可愛い頷きだけで、私は密かに肩を落とした。
ルイ様が完食したお皿を下げるために部屋を出たところで、扉の外に立っていたウェインさんと再び顔を合わせた。きっと、ルイ様の様子を見に来てくれたのだろう。
「食欲には問題がないようです。でも、やっぱり一言も言葉を発してくれなくて……」
ルイ様の声が聞けないだけで、こんなに不安で心細い気持ちになるなんて。「アリエッタ」といつもの優しい声で名前を呼んで欲しい。
しょんぼりと肩を落とす私の肩に、ウェインさんがそっと手を置いた。
「もしかすると、何か言いにくいことがあるのかもしれません。お皿を下げていただいている間、少し私もルイ様とお話ししてみます」
「はい……よろしくお願いします」
私はペコリと頭を下げると、重い足取りで厨房へと向かった。
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