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無駄話 一方その頃、人間界は②
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「くそっ! くそっ! なぜだ!」
勇者ファルガは、魔界への門を前に膝をついて地面を殴っていた。
「ファルガ、今日はもうその辺で……」
唯一の同行者である騎士カイルの制止の手を振り払い、ファルガは再び剣を握り立ち上がる。
「この門さえ破れば、アリエッタを救出できるのだ! 簡単に諦めてたまるものか!」
ガイン! ガイン!
魔王討伐の際に国王から賜ったミスリルの剣。その刀身が眩い光を放ち、鈍い音を発しながら門を守る結界に弾かれている。目の前に立ちはだかる虹色の結界は、ファルガが攻撃を仕掛けるたびに波打ち鮮やかに色を変えている。
(もう何日目だよ……)
カイルは内心うんざりしていた。
目の前の男は勇者である。
魔王討伐を掲げ、国中から猛者を募った国王が、勇者を決めるために開催したのが勝ち上がり式のトーナメントだった。ファルガはそのトーナメントで優勝した正真正銘の実力者であり、王に認められた勇者である。
それは間違いない。
観客を大勢動員したことも、優勝者の実力を目の当たりにし、名実ともに勇者として祭り上げるためであった。
そんな打算的な王に担ぎ上げられた勇者ファルガは、御伽噺に夢見る少女のように盲信的に聖女アリエッタに陶酔していた。正直なところ、本人以外は彼が全くの脈なしであることを感じ取っていた。けれども、猪突猛進、こうと決めたら一向に譲らない頑固な一面があるファルガに意見することは非常に面倒であるため、誰もそのことを口にしなかった。
それがアリエッタの不運の始まりである。
勝手に自他ともに認める恋人であると勘違いしたファルガは、どこに行くにも恋人面をしていた。アリエッタのうざったそうな顔を見れば一目瞭然だろうに、恋は盲目というだけあって自分に不都合なものは見えないらしかった。
今だって、我が身を犠牲にして勇者一行を救った慈悲深い聖女を助け出そうと躍起になっている。
アリエッタへの深い愛情、もとい執念がなせる賜物である。あるいは、悲劇のヒロインを救い出すヒーローにでもなったつもりなのだろうか。きっと彼の目には、愛すべき恋人を魔の手から救い出し、人類の敵である魔王をも討ち倒し、世界中から称賛を浴びる自分の姿が見えているのだ。
国王も、アリエッタ救出、そして再度魔王討伐のために国力を上げてファルガを支援すると宣言している。だが、それは門が再び開くことが条件と課されている。だからこそ、ファルガはどうやってでもこの門を開かねばならない。
当初、ファルガは結界なんて簡単に破ることができると考えていた。なぜなら、魔界侵攻時にアリエッタがあっさりと魔界への門の結界を解除してしまったからだ。
けれども、それはアリエッタが規格外だっただけであり、ファルガはすぐにそのことを思い知ることとなる。
「畜生! 魔王め……忌々しい結界を張りやがって!」
悪態をつきながら、ポタポタと汗を滴らせて剣を振り続ける姿は一周回って称賛に値する。もう半年だ。半年の間、毎日結界に挑んでは何の成果も得られず肩を落として帰るのだ。
だがこの日、ファルガの執念が僅かに身を結んだ。
「今っ、見たか⁉︎ 結界に揺らぎが生じたぞ! 俺の攻撃は無駄ではなかったのだ!」
「あ、見てなかったです」
ファルガがいう通り、よく目を凝らして見てみれば、結界が放つ光がいつもより僅かに異なっている。どこかに小さな傷ができたのか、綻びが生じたのか、それによって光の屈折角が変わったらしい。
「毎日コツコツ続ければ、道は必ず開ける! よし、この勢いでアリエッタを救い出し、そして結婚するのだ!」
フハハハハ! と血走った目を見開きながら、ファルガは尚も剣を振るう。
だがしかし、そんな彼の希望は翌日には粉々に打ち砕かれてしまうこととなる。
「な、な、なぜ元通りになっているのだーーーーーー‼︎」
ファルガが半年かけてようやく作り出した唯一の希望が、翌日には綺麗さっぱり修復されていたのだ。
ガクリとその場に崩れ落ちたファルガは、フフフ、と不気味な声を上げた。
「愛に障害はつきものだ。何年かかろうとも、アリエッタをこの手に取り戻す。そのためならば禁忌を犯そうとも構わない」
ファルガは知っていた。
古の時代に人間が作り出した戦闘兵器の存在を。
野を焼き払い、国を滅ぼすその強大すぎる力は封印され、今もどこかに眠っているという。恐らくは、王家が秘密裏に保有し続けているとファルガは踏んでいた。
「アリエッタを救うため、そして人類悲願である魔界を掌握するためであれば、伝説の兵器を使えるかもしれない」
ファルガは不敵な笑みを浮かべると、国王に謁見するために王城へと向かった。
勇者ファルガは、魔界への門を前に膝をついて地面を殴っていた。
「ファルガ、今日はもうその辺で……」
唯一の同行者である騎士カイルの制止の手を振り払い、ファルガは再び剣を握り立ち上がる。
「この門さえ破れば、アリエッタを救出できるのだ! 簡単に諦めてたまるものか!」
ガイン! ガイン!
魔王討伐の際に国王から賜ったミスリルの剣。その刀身が眩い光を放ち、鈍い音を発しながら門を守る結界に弾かれている。目の前に立ちはだかる虹色の結界は、ファルガが攻撃を仕掛けるたびに波打ち鮮やかに色を変えている。
(もう何日目だよ……)
カイルは内心うんざりしていた。
目の前の男は勇者である。
魔王討伐を掲げ、国中から猛者を募った国王が、勇者を決めるために開催したのが勝ち上がり式のトーナメントだった。ファルガはそのトーナメントで優勝した正真正銘の実力者であり、王に認められた勇者である。
それは間違いない。
観客を大勢動員したことも、優勝者の実力を目の当たりにし、名実ともに勇者として祭り上げるためであった。
そんな打算的な王に担ぎ上げられた勇者ファルガは、御伽噺に夢見る少女のように盲信的に聖女アリエッタに陶酔していた。正直なところ、本人以外は彼が全くの脈なしであることを感じ取っていた。けれども、猪突猛進、こうと決めたら一向に譲らない頑固な一面があるファルガに意見することは非常に面倒であるため、誰もそのことを口にしなかった。
それがアリエッタの不運の始まりである。
勝手に自他ともに認める恋人であると勘違いしたファルガは、どこに行くにも恋人面をしていた。アリエッタのうざったそうな顔を見れば一目瞭然だろうに、恋は盲目というだけあって自分に不都合なものは見えないらしかった。
今だって、我が身を犠牲にして勇者一行を救った慈悲深い聖女を助け出そうと躍起になっている。
アリエッタへの深い愛情、もとい執念がなせる賜物である。あるいは、悲劇のヒロインを救い出すヒーローにでもなったつもりなのだろうか。きっと彼の目には、愛すべき恋人を魔の手から救い出し、人類の敵である魔王をも討ち倒し、世界中から称賛を浴びる自分の姿が見えているのだ。
国王も、アリエッタ救出、そして再度魔王討伐のために国力を上げてファルガを支援すると宣言している。だが、それは門が再び開くことが条件と課されている。だからこそ、ファルガはどうやってでもこの門を開かねばならない。
当初、ファルガは結界なんて簡単に破ることができると考えていた。なぜなら、魔界侵攻時にアリエッタがあっさりと魔界への門の結界を解除してしまったからだ。
けれども、それはアリエッタが規格外だっただけであり、ファルガはすぐにそのことを思い知ることとなる。
「畜生! 魔王め……忌々しい結界を張りやがって!」
悪態をつきながら、ポタポタと汗を滴らせて剣を振り続ける姿は一周回って称賛に値する。もう半年だ。半年の間、毎日結界に挑んでは何の成果も得られず肩を落として帰るのだ。
だがこの日、ファルガの執念が僅かに身を結んだ。
「今っ、見たか⁉︎ 結界に揺らぎが生じたぞ! 俺の攻撃は無駄ではなかったのだ!」
「あ、見てなかったです」
ファルガがいう通り、よく目を凝らして見てみれば、結界が放つ光がいつもより僅かに異なっている。どこかに小さな傷ができたのか、綻びが生じたのか、それによって光の屈折角が変わったらしい。
「毎日コツコツ続ければ、道は必ず開ける! よし、この勢いでアリエッタを救い出し、そして結婚するのだ!」
フハハハハ! と血走った目を見開きながら、ファルガは尚も剣を振るう。
だがしかし、そんな彼の希望は翌日には粉々に打ち砕かれてしまうこととなる。
「な、な、なぜ元通りになっているのだーーーーーー‼︎」
ファルガが半年かけてようやく作り出した唯一の希望が、翌日には綺麗さっぱり修復されていたのだ。
ガクリとその場に崩れ落ちたファルガは、フフフ、と不気味な声を上げた。
「愛に障害はつきものだ。何年かかろうとも、アリエッタをこの手に取り戻す。そのためならば禁忌を犯そうとも構わない」
ファルガは知っていた。
古の時代に人間が作り出した戦闘兵器の存在を。
野を焼き払い、国を滅ぼすその強大すぎる力は封印され、今もどこかに眠っているという。恐らくは、王家が秘密裏に保有し続けているとファルガは踏んでいた。
「アリエッタを救うため、そして人類悲願である魔界を掌握するためであれば、伝説の兵器を使えるかもしれない」
ファルガは不敵な笑みを浮かべると、国王に謁見するために王城へと向かった。
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