【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト

文字の大きさ
上 下
28 / 62

無駄話 一方その頃、人間界は②

しおりを挟む
「くそっ! くそっ! なぜだ!」

 勇者ファルガは、魔界への門を前に膝をついて地面を殴っていた。

「ファルガ、今日はもうその辺で……」

 唯一の同行者である騎士カイルの制止の手を振り払い、ファルガは再び剣を握り立ち上がる。

「この門さえ破れば、アリエッタを救出できるのだ! 簡単に諦めてたまるものか!」

 ガイン! ガイン!

 魔王討伐の際に国王から賜ったミスリルの剣。その刀身が眩い光を放ち、鈍い音を発しながら門を守る結界に弾かれている。目の前に立ちはだかる虹色の結界は、ファルガが攻撃を仕掛けるたびに波打ち鮮やかに色を変えている。

(もう何日目だよ……)

 カイルは内心うんざりしていた。

 目の前の男は勇者である。
 魔王討伐を掲げ、国中から猛者を募った国王が、勇者を決めるために開催したのが勝ち上がり式のトーナメントだった。ファルガはそのトーナメントで優勝した正真正銘の実力者であり、王に認められた勇者である。

 それは間違いない。

 観客を大勢動員したことも、優勝者の実力を目の当たりにし、名実ともに勇者として祭り上げるためであった。
 そんな打算的な王に担ぎ上げられた勇者ファルガは、御伽噺に夢見る少女のように盲信的に聖女アリエッタに陶酔していた。正直なところ、本人以外は彼が全くの脈なしであることを感じ取っていた。けれども、猪突猛進、こうと決めたら一向に譲らない頑固な一面があるファルガに意見することは非常に面倒であるため、誰もそのことを口にしなかった。

 それがアリエッタの不運の始まりである。

 勝手に自他ともに認める恋人であると勘違いしたファルガは、どこに行くにも恋人面をしていた。アリエッタのうざったそうな顔を見れば一目瞭然だろうに、恋は盲目というだけあって自分に不都合なものは見えないらしかった。

 今だって、我が身を犠牲にして勇者一行を救った慈悲深い聖女を助け出そうと躍起になっている。
 アリエッタへの深い愛情、もとい執念がなせる賜物である。あるいは、悲劇のヒロインを救い出すヒーローにでもなったつもりなのだろうか。きっと彼の目には、愛すべき恋人を魔の手から救い出し、人類の敵である魔王をも討ち倒し、世界中から称賛を浴びる自分の姿が見えているのだ。

 国王も、アリエッタ救出、そして再度魔王討伐のために国力を上げてファルガを支援すると宣言している。だが、それは門が再び開くことが条件と課されている。だからこそ、ファルガはどうやってでもこの門を開かねばならない。

 当初、ファルガは結界なんて簡単に破ることができると考えていた。なぜなら、魔界侵攻時にアリエッタがあっさりと魔界への門の結界を解除してしまったからだ。
けれども、それはアリエッタが規格外だっただけであり、ファルガはすぐにそのことを思い知ることとなる。

「畜生! 魔王め……忌々しい結界を張りやがって!」

 悪態をつきながら、ポタポタと汗を滴らせて剣を振り続ける姿は一周回って称賛に値する。もう半年だ。半年の間、毎日結界に挑んでは何の成果も得られず肩を落として帰るのだ。

 だがこの日、ファルガの執念が僅かに身を結んだ。

「今っ、見たか⁉︎ 結界に揺らぎが生じたぞ! 俺の攻撃は無駄ではなかったのだ!」
「あ、見てなかったです」

 ファルガがいう通り、よく目を凝らして見てみれば、結界が放つ光がいつもより僅かに異なっている。どこかに小さな傷ができたのか、綻びが生じたのか、それによって光の屈折角が変わったらしい。

「毎日コツコツ続ければ、道は必ず開ける! よし、この勢いでアリエッタを救い出し、そして結婚するのだ!」

 フハハハハ! と血走った目を見開きながら、ファルガは尚も剣を振るう。

 だがしかし、そんな彼の希望は翌日には粉々に打ち砕かれてしまうこととなる。

「な、な、なぜ元通りになっているのだーーーーーー‼︎」

 ファルガが半年かけてようやく作り出した唯一の希望が、翌日には綺麗さっぱり修復されていたのだ。
 ガクリとその場に崩れ落ちたファルガは、フフフ、と不気味な声を上げた。

「愛に障害はつきものだ。何年かかろうとも、アリエッタをこの手に取り戻す。そのためならば禁忌を犯そうとも構わない」

 ファルガは知っていた。
 古の時代に人間が作り出した戦闘兵器の存在を。
 野を焼き払い、国を滅ぼすその強大すぎる力は封印され、今もどこかに眠っているという。恐らくは、王家が秘密裏に保有し続けているとファルガは踏んでいた。

「アリエッタを救うため、そして人類悲願である魔界を掌握するためであれば、伝説の兵器を使えるかもしれない」

 ファルガは不敵な笑みを浮かべると、国王に謁見するために王城へと向かった。
しおりを挟む
感想 19

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?

白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。 「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」 精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。 それでも生きるしかないリリアは決心する。 誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう! それなのに―…… 「麗しき私の乙女よ」 すっごい美形…。えっ精霊王!? どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!? 森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい

珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。 本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。 …………私も消えることができるかな。 私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。 私は、邪魔な子だから。 私は、いらない子だから。 だからきっと、誰も悲しまない。 どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。 そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。 異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。 ☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。 彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。

【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!

加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。 カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。 落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。 そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。 器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。 失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。 過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。 これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。 彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。 毎日15:10に1話ずつ更新です。 この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

ギフト【ズッコケ】の軽剣士は「もうウンザリだ」と追放されるが、実はズッコケる度に幸運が舞い込むギフトだった。一方、敵意を向けた者達は秒で

竹井ゴールド
ファンタジー
 軽剣士のギフトは【ズッコケ】だった。  その為、本当にズッコケる。  何もないところや魔物を発見して奇襲する時も。  遂には仲間達からも見放され・・・ 【2023/1/19、出版申請、2/3、慰めメール】 【2023/1/28、24hポイント2万5900pt突破】 【2023/2/3、お気に入り数620突破】 【2023/2/10、出版申請(2回目)、3/9、慰めメール】 【2023/3/4、出版申請(3回目)】 【未完】

処理中です...