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第四話 おや? ルイ様の様子が 1
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魔界で暮らし始めて、あっという間に半年が経過した。
今日も私は可愛い魔王様のお世話に励んでいる。
「はーい。ルイ様、朝ですよ」
「うーん、あと五分……」
ベリッとルイ様の布団をひっぺがし、いつものやり取りに頬を緩ませた私は、僅かな違和感を胸に抱いた。
ん? なんだろう、この違和感は……
違和感の原因に思い当たることができず、首を傾げている間に、ルイ様はのそりと身体を起こすとベッドから起き出してきた。
「うー……」
「わっ、危ないっ」
目をぐしぐし擦りながら、未だに半分夢の中にいる様子のルイ様は、ふらりと身体を傾かせると私に倒れかかってきた。
いくら私が小柄とはいえ、子供の身体ぐらいは軽々と抱き止めることができる――と思っていたのに、ルイ様を受け止めた私は予想以上の重みに数歩後ずさってしまった。
あれ? ルイ様ってもっと小さくなかったかしら?
以前おねだりして抱擁させてもらった時のことを思い返す。うん、やっぱり。少し背が伸びている。
先ほどの違和感の正体を探りあて、なるほど、と一人納得していると、ようやく覚醒した様子のルイ様が顔を上げた。
「…………はっ! す、すまない!」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
私に抱きつくような体勢になっていることに気付いたルイ様は、カァッと顔を真っ赤にして慌てて離れてしまった。急に離れた熱が寂しいな、なんて伝えたら、きっとルイ様の頭は湯気が出るほど茹ってしまうのだろう。初心で純情で可愛い魔王様。
「ふふっ、ルイ様、少し背が伸びましたね」
「む……そうか? それは嬉しいな」
自分の頭に手を当てて、どこか誇らしげに微笑むルイ様がたまらなく可愛い。
「さ、お支度をして朝ごはんを食べにいきましょう! 昨日、マルディラムさんがフレンチトーストの仕込みをしていたので、きっと今朝は甘くてフワッフワなフレンチトーストですよ」
「そうか。それは楽しみだ」
じゅわりと口内に広がる優しい甘みを想像したのか、ルイ様が表情を綻ばせた。
うんうん、マルディラムさんのフレンチトーストは絶品だものね。私も楽しみだ。
その時、きゅうっと二人同時に腹の虫が鳴ってしまい、私たちは顔を見合わせて吹き出したのだった。
なんという幸せな朝なのだろう。今日もきっと素敵な一日になる。
幸せな気持ちを胸に、ルイ様の着替えを用意するためにクローゼットへと向かった。
「アリエッタ。出かけるぞ」
「え? 今からですか?」
ルイ様が突拍子もない提案をしたのは、いつものルーティンを終えた夕食後。
この後、湯浴みをして就寝の準備をする時間だというのに、外出とな?
「この時間からお城の外に出るのですか?」
「うむ。アリエッタに見せたいものがある」
「うーん……ですが、ウェインさんの許可が出るかどうか……」
「内緒で行けばよいではないか。幸いウェインは今、所用で城を離れている」
「ええっ⁉︎ だ、ダメですよっ! そんな、勝手に……」
もし、万が一にでもルイ様の身に何かあれば、私は命をもって償うしかない。せっかくのハッピー魔界ライフがこんなところで終わりを告げるのはごめんなので、ルイ様には申し訳ないけれど丁重にお断りを――
「ダメ、なのか?」
「いきゅ」
「そうか!」
ああっ! ルイ様が可愛すぎて条件反射で頷いてしまったぁぁぁぁ‼︎
馬鹿! 私のお馬鹿っ! バレたらウェインさんに殺される……!
グアア、と頭を抱える私をよそに、ルイ様はどこかウキウキと楽しそうにしている。
「ふ、こんな時間に出かけるのは余も初めてだ。いけないことをしているようで、少しワクワクするな」
「そうですね!」
ああっ! 満面の笑みで返事してしまったぁぁぁ!
ルイ様の無邪気な笑顔が眩しい! この笑顔が見られただけでもよかったと思うべき⁉︎
「大丈夫だ。ウェインにバレなければよいのだろう? もしバレたとしても、余も一緒に頭を下げるから気にするでない」
「ルイ様ぁ……」
「ほら、いくぞ!」
「わっ! 手! 手ぇえ!」
二の足を踏む私に対し、すでに腹を括った様子のルイ様は、私の手を引くとニヤリと口角を上げてひょいと私を抱き上げた。
いや、流石に、頭ひとつ分は小さいルイ様にそれは……!
体格差なんてなんのその。呆気に取られる私を抱えたまま、ルイ様はベランダに通じる窓を開け放って軽やかに外に飛び出してしまった。
「えっ、あの、ここ三階……!」
「口を閉じてしっかり捕まっているのだぞ」
「え? え? ええっ⁉︎」
まさか、ここから行くの⁉︎
ようやく脳が状況を処理したときには、私の身体は宙に浮いていた。
キャァァァァァァァ‼︎
浮遊感! 内臓がヒュッてなってる!
叫びたくなるのを我慢して悲鳴を飲み込み、私はルイ様にギュッとしがみついた。耳元で吐息が漏れた気がした。
着地の衝撃を覚悟して身を強ばらせるも、ふわりと優しい風が私たちを包んで、静かに地上へ下ろしてくれた。なんと繊細な魔力操作。
ルイ様ったらいつの間にこんなに上手に魔法が使えるようになったの? 魔法の腕もメキメキ上がっていて、先生感激だわ。
なんてしみじみと感傷に浸っていると、再び頭上で吐息が漏れる音がした。ん? と思って見上げた私は思わず息を呑んだ。
「ふっ、渋っていた割には随分と余裕そうだな」
「ひぃ……」
「ふはっ! なんだその気の抜けた返事は。ほら、誰か来る前に行くぞ」
びっ……くりした!
やだ、ルイ様ったらいつの間にこんな大人びた表情するようになったのかしら。
私はドキドキ高鳴る胸を押さえながら、ルイ様に手を引かれるままに駆け出した。
今日も私は可愛い魔王様のお世話に励んでいる。
「はーい。ルイ様、朝ですよ」
「うーん、あと五分……」
ベリッとルイ様の布団をひっぺがし、いつものやり取りに頬を緩ませた私は、僅かな違和感を胸に抱いた。
ん? なんだろう、この違和感は……
違和感の原因に思い当たることができず、首を傾げている間に、ルイ様はのそりと身体を起こすとベッドから起き出してきた。
「うー……」
「わっ、危ないっ」
目をぐしぐし擦りながら、未だに半分夢の中にいる様子のルイ様は、ふらりと身体を傾かせると私に倒れかかってきた。
いくら私が小柄とはいえ、子供の身体ぐらいは軽々と抱き止めることができる――と思っていたのに、ルイ様を受け止めた私は予想以上の重みに数歩後ずさってしまった。
あれ? ルイ様ってもっと小さくなかったかしら?
以前おねだりして抱擁させてもらった時のことを思い返す。うん、やっぱり。少し背が伸びている。
先ほどの違和感の正体を探りあて、なるほど、と一人納得していると、ようやく覚醒した様子のルイ様が顔を上げた。
「…………はっ! す、すまない!」
「あ、いえ。大丈夫ですよ」
私に抱きつくような体勢になっていることに気付いたルイ様は、カァッと顔を真っ赤にして慌てて離れてしまった。急に離れた熱が寂しいな、なんて伝えたら、きっとルイ様の頭は湯気が出るほど茹ってしまうのだろう。初心で純情で可愛い魔王様。
「ふふっ、ルイ様、少し背が伸びましたね」
「む……そうか? それは嬉しいな」
自分の頭に手を当てて、どこか誇らしげに微笑むルイ様がたまらなく可愛い。
「さ、お支度をして朝ごはんを食べにいきましょう! 昨日、マルディラムさんがフレンチトーストの仕込みをしていたので、きっと今朝は甘くてフワッフワなフレンチトーストですよ」
「そうか。それは楽しみだ」
じゅわりと口内に広がる優しい甘みを想像したのか、ルイ様が表情を綻ばせた。
うんうん、マルディラムさんのフレンチトーストは絶品だものね。私も楽しみだ。
その時、きゅうっと二人同時に腹の虫が鳴ってしまい、私たちは顔を見合わせて吹き出したのだった。
なんという幸せな朝なのだろう。今日もきっと素敵な一日になる。
幸せな気持ちを胸に、ルイ様の着替えを用意するためにクローゼットへと向かった。
「アリエッタ。出かけるぞ」
「え? 今からですか?」
ルイ様が突拍子もない提案をしたのは、いつものルーティンを終えた夕食後。
この後、湯浴みをして就寝の準備をする時間だというのに、外出とな?
「この時間からお城の外に出るのですか?」
「うむ。アリエッタに見せたいものがある」
「うーん……ですが、ウェインさんの許可が出るかどうか……」
「内緒で行けばよいではないか。幸いウェインは今、所用で城を離れている」
「ええっ⁉︎ だ、ダメですよっ! そんな、勝手に……」
もし、万が一にでもルイ様の身に何かあれば、私は命をもって償うしかない。せっかくのハッピー魔界ライフがこんなところで終わりを告げるのはごめんなので、ルイ様には申し訳ないけれど丁重にお断りを――
「ダメ、なのか?」
「いきゅ」
「そうか!」
ああっ! ルイ様が可愛すぎて条件反射で頷いてしまったぁぁぁぁ‼︎
馬鹿! 私のお馬鹿っ! バレたらウェインさんに殺される……!
グアア、と頭を抱える私をよそに、ルイ様はどこかウキウキと楽しそうにしている。
「ふ、こんな時間に出かけるのは余も初めてだ。いけないことをしているようで、少しワクワクするな」
「そうですね!」
ああっ! 満面の笑みで返事してしまったぁぁぁ!
ルイ様の無邪気な笑顔が眩しい! この笑顔が見られただけでもよかったと思うべき⁉︎
「大丈夫だ。ウェインにバレなければよいのだろう? もしバレたとしても、余も一緒に頭を下げるから気にするでない」
「ルイ様ぁ……」
「ほら、いくぞ!」
「わっ! 手! 手ぇえ!」
二の足を踏む私に対し、すでに腹を括った様子のルイ様は、私の手を引くとニヤリと口角を上げてひょいと私を抱き上げた。
いや、流石に、頭ひとつ分は小さいルイ様にそれは……!
体格差なんてなんのその。呆気に取られる私を抱えたまま、ルイ様はベランダに通じる窓を開け放って軽やかに外に飛び出してしまった。
「えっ、あの、ここ三階……!」
「口を閉じてしっかり捕まっているのだぞ」
「え? え? ええっ⁉︎」
まさか、ここから行くの⁉︎
ようやく脳が状況を処理したときには、私の身体は宙に浮いていた。
キャァァァァァァァ‼︎
浮遊感! 内臓がヒュッてなってる!
叫びたくなるのを我慢して悲鳴を飲み込み、私はルイ様にギュッとしがみついた。耳元で吐息が漏れた気がした。
着地の衝撃を覚悟して身を強ばらせるも、ふわりと優しい風が私たちを包んで、静かに地上へ下ろしてくれた。なんと繊細な魔力操作。
ルイ様ったらいつの間にこんなに上手に魔法が使えるようになったの? 魔法の腕もメキメキ上がっていて、先生感激だわ。
なんてしみじみと感傷に浸っていると、再び頭上で吐息が漏れる音がした。ん? と思って見上げた私は思わず息を呑んだ。
「ふっ、渋っていた割には随分と余裕そうだな」
「ひぃ……」
「ふはっ! なんだその気の抜けた返事は。ほら、誰か来る前に行くぞ」
びっ……くりした!
やだ、ルイ様ったらいつの間にこんな大人びた表情するようになったのかしら。
私はドキドキ高鳴る胸を押さえながら、ルイ様に手を引かれるままに駆け出した。
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