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第三話 ルイ様とワクワクピクニック 4
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「ちょうど飲み物の用意もできましたし、食事としましょうか」
今日のために用意された軽量化された木の皿にホットドッグが乗せられる。
サンドイッチはバスケットの蓋を開いてセルフで取る形式だ。
皿と同じく木で作られたコップには蜂蜜を垂らし、ミントを添えた炭酸水が注がれている。ソーセージが焼きあがる間にウェインさんが素早く人数分用意してくれていた。
円を描くように敷物に座る。魔王、悪魔族、半鳥半人、首無し騎士、骸骨、そして人間。種族に差はあれど、みんな魔王の城に住む仲間たちである。ぐるりと顔を見回すと、みんな穏やかな笑顔を浮かべていて嬉しくなる。
「では、ルイス様。一言頂戴できますかな」
「う、うむ。今日は余のためにピクニックを催してくれたと聞いている。主らにはいつも魔王として半人前な余を支えてもらい感謝している。城が清潔に保たれているのも、毎日パリッと気持ちいい服に袖を通せるのも、食事が美味しいのも、みんな主らが各々の責務を果たしてくれているからだ。感謝してもしきれぬ。余はまだまだ幼い。一日でも早く一人前の魔王となれるよう、日々研鑽を積んでいく。どうか、これからも余を支える柱となってほしい」
ルイ様の凜とした声が大自然に溶けていく。
そして訪れる静寂に、ルイ様は戸惑ったように私の顔を見た。
とても立派なお言葉でした。
立派すぎてね、ちょっとね、みんな感極まって泣いちゃってるから。
私が視線でその様子を見るように促すと、ようやく家臣たちが号泣していることに気づいたルイ様がギョッと飛び上がった。
「お、お前たち、大丈夫か⁉︎」
「うおおおお、もったいなきお言葉! ワシは感激いたしましたぞ!」
「やだあ、泣かさないでくださいよお」
「ぐす……べ、別に泣いてはおらぬ」
「ほほっ、我らはルイス様の忠実なる僕。こちらこそ、これからも側でお仕えさせてください」
なんとも朗らかな空気が流れる。
……きゅううううううう。
そんな優しい空間を引き裂く空気の読めない腹の虫。ええ、うちの子ですとも。
「……ははっ、すまん、腹が減ったしいただくとしよう」
「お恥ずかしい限りです……」
この日初めて無邪気な笑顔を見せたルイ様に、私含めて家臣一同のハートが射抜かれたことは言わずもがなである。席順的にカロン爺の頭を押さえることができなかったので、涙にまみれた頭蓋骨がポーンッと天高く飛び上がってしまった。涙はどこから溢れているのだろう。カロン爺の隣に座っていたマルディラムさんが危なげなくキャッチして、カロン爺に頭を差し出していた。
「では、気を取り直して。いただきます」
「いただきます!」
「んーっ、焼きたてのソーセージ最高っ!」
「肉汁が溢れまふ~!」
賞賛の嵐にマルディラムさんは満足そうである。サンドイッチもどれも絶品で、ついつい食べすぎてしまった。
こうして大自然と、大好きな人たちに囲まれて食べるお弁当は至高だ。
「はあ、本当に魔界に残ってよかったあ……幸せ」
開放的な空間が、心も開放的にしてしまう。
とろんと蕩けた表情で思わず漏らした本音に、なぜだかミーシャお姉様はニヤニヤして、ウェインさんも笑みを深め、マルディラムさんはうんうん頷いて、カロン爺の頭がコロンと落ちた。
「ん?」
「裏目標達成、ってところ」
「裏目標? なんですか、それ」
「いいのいいの。気にしないで」
なんだそれは。気になりすぎる。
怪訝な顔でみんなの顔を見回すも、帰ってくるのはまるで親戚の叔父叔母のような優しい瞳。なんだか解せないけれど、嫌な印象は抱かないのでいいか。
その後、食後の運動にとミーシャお姉様が持ってきた木板と羽のついた玉を使って羽付きをしたり、草花の観察をしたり、木陰で少し微睡んだりと、最高のひと時を過ごした。
楽しい時はあっという間に過ぎゆくもので、日が傾いて来たため、荷物を片付けて帰り支度をする。
よいしょ、とそれぞれが荷物を担いで出発、という頃合いで、ルイ様が口を開いた。
「今日は楽しかった。感謝する。この丘に咲く花がこれほど美しいことも、吹き抜ける風の心地よさも、外での食事の美味しさも、ここに来なければ知ることはできなかった。それに、爺らが余のために城外にまで気を配ってくれていたことも知ることができた」
「ルイス様……うおお、ワシは、ワシは感激ですぞ!」
おっと危ない。カロン爺の頭が吹き飛ばないように慌てて押さえた。一体今日何回目だろうか。
「ルイス様。我らも大変楽しゅうございました。日頃の仕事にもやりがいを感じておりますが、こうして息抜きをすることも大切ですな」
「ああ、そうだな。アリエッタの言うことがようやく分かった」
ピクニックに行こうと提案した時、躊躇っていたルイ様はもういない。恐らく次回のお誘いには二つ返事で快諾してくれるだろう。
どことなくスッキリとした表情をしているルイ様を見て、私も嬉しくなる。
「では、私たちのお城に帰りましょう! 帰るまでがピクニックですよ」
二列に並んで丘を下っていく。次はどこに行こうか。魔界には知らないところしかない。きっとこの丘のように美しい場所がたくさんあるのだろう。これからの生活がますます楽しみになる。
むふふ、とつい笑みが漏れてしまい、ルイ様に「どうかしたのか」と尋ねられた。
「いいえ、幸せだなあと思っただけです」
「そうか。余もアリエッタとの日々は幸福に満ちているぞ。……これからも側にいてくれ」
「ルイ様……っ! もちろんです。アリエッタはルイ様のものですので」
ルイ様に求められて嬉しすぎて表情筋が死ぬ。ヘラヘラとだらしない笑みを浮かべてしまったけれど、ルイ様はそんな私を眩しそうに目を細めながら見つめてくれていた。
その漆黒の瞳は僅かに熱を宿していて、表情はどこか大人びて見えた。不覚にもときめいてしまったことは、ルイ様には内緒にしておこう。
今日のために用意された軽量化された木の皿にホットドッグが乗せられる。
サンドイッチはバスケットの蓋を開いてセルフで取る形式だ。
皿と同じく木で作られたコップには蜂蜜を垂らし、ミントを添えた炭酸水が注がれている。ソーセージが焼きあがる間にウェインさんが素早く人数分用意してくれていた。
円を描くように敷物に座る。魔王、悪魔族、半鳥半人、首無し騎士、骸骨、そして人間。種族に差はあれど、みんな魔王の城に住む仲間たちである。ぐるりと顔を見回すと、みんな穏やかな笑顔を浮かべていて嬉しくなる。
「では、ルイス様。一言頂戴できますかな」
「う、うむ。今日は余のためにピクニックを催してくれたと聞いている。主らにはいつも魔王として半人前な余を支えてもらい感謝している。城が清潔に保たれているのも、毎日パリッと気持ちいい服に袖を通せるのも、食事が美味しいのも、みんな主らが各々の責務を果たしてくれているからだ。感謝してもしきれぬ。余はまだまだ幼い。一日でも早く一人前の魔王となれるよう、日々研鑽を積んでいく。どうか、これからも余を支える柱となってほしい」
ルイ様の凜とした声が大自然に溶けていく。
そして訪れる静寂に、ルイ様は戸惑ったように私の顔を見た。
とても立派なお言葉でした。
立派すぎてね、ちょっとね、みんな感極まって泣いちゃってるから。
私が視線でその様子を見るように促すと、ようやく家臣たちが号泣していることに気づいたルイ様がギョッと飛び上がった。
「お、お前たち、大丈夫か⁉︎」
「うおおおお、もったいなきお言葉! ワシは感激いたしましたぞ!」
「やだあ、泣かさないでくださいよお」
「ぐす……べ、別に泣いてはおらぬ」
「ほほっ、我らはルイス様の忠実なる僕。こちらこそ、これからも側でお仕えさせてください」
なんとも朗らかな空気が流れる。
……きゅううううううう。
そんな優しい空間を引き裂く空気の読めない腹の虫。ええ、うちの子ですとも。
「……ははっ、すまん、腹が減ったしいただくとしよう」
「お恥ずかしい限りです……」
この日初めて無邪気な笑顔を見せたルイ様に、私含めて家臣一同のハートが射抜かれたことは言わずもがなである。席順的にカロン爺の頭を押さえることができなかったので、涙にまみれた頭蓋骨がポーンッと天高く飛び上がってしまった。涙はどこから溢れているのだろう。カロン爺の隣に座っていたマルディラムさんが危なげなくキャッチして、カロン爺に頭を差し出していた。
「では、気を取り直して。いただきます」
「いただきます!」
「んーっ、焼きたてのソーセージ最高っ!」
「肉汁が溢れまふ~!」
賞賛の嵐にマルディラムさんは満足そうである。サンドイッチもどれも絶品で、ついつい食べすぎてしまった。
こうして大自然と、大好きな人たちに囲まれて食べるお弁当は至高だ。
「はあ、本当に魔界に残ってよかったあ……幸せ」
開放的な空間が、心も開放的にしてしまう。
とろんと蕩けた表情で思わず漏らした本音に、なぜだかミーシャお姉様はニヤニヤして、ウェインさんも笑みを深め、マルディラムさんはうんうん頷いて、カロン爺の頭がコロンと落ちた。
「ん?」
「裏目標達成、ってところ」
「裏目標? なんですか、それ」
「いいのいいの。気にしないで」
なんだそれは。気になりすぎる。
怪訝な顔でみんなの顔を見回すも、帰ってくるのはまるで親戚の叔父叔母のような優しい瞳。なんだか解せないけれど、嫌な印象は抱かないのでいいか。
その後、食後の運動にとミーシャお姉様が持ってきた木板と羽のついた玉を使って羽付きをしたり、草花の観察をしたり、木陰で少し微睡んだりと、最高のひと時を過ごした。
楽しい時はあっという間に過ぎゆくもので、日が傾いて来たため、荷物を片付けて帰り支度をする。
よいしょ、とそれぞれが荷物を担いで出発、という頃合いで、ルイ様が口を開いた。
「今日は楽しかった。感謝する。この丘に咲く花がこれほど美しいことも、吹き抜ける風の心地よさも、外での食事の美味しさも、ここに来なければ知ることはできなかった。それに、爺らが余のために城外にまで気を配ってくれていたことも知ることができた」
「ルイス様……うおお、ワシは、ワシは感激ですぞ!」
おっと危ない。カロン爺の頭が吹き飛ばないように慌てて押さえた。一体今日何回目だろうか。
「ルイス様。我らも大変楽しゅうございました。日頃の仕事にもやりがいを感じておりますが、こうして息抜きをすることも大切ですな」
「ああ、そうだな。アリエッタの言うことがようやく分かった」
ピクニックに行こうと提案した時、躊躇っていたルイ様はもういない。恐らく次回のお誘いには二つ返事で快諾してくれるだろう。
どことなくスッキリとした表情をしているルイ様を見て、私も嬉しくなる。
「では、私たちのお城に帰りましょう! 帰るまでがピクニックですよ」
二列に並んで丘を下っていく。次はどこに行こうか。魔界には知らないところしかない。きっとこの丘のように美しい場所がたくさんあるのだろう。これからの生活がますます楽しみになる。
むふふ、とつい笑みが漏れてしまい、ルイ様に「どうかしたのか」と尋ねられた。
「いいえ、幸せだなあと思っただけです」
「そうか。余もアリエッタとの日々は幸福に満ちているぞ。……これからも側にいてくれ」
「ルイ様……っ! もちろんです。アリエッタはルイ様のものですので」
ルイ様に求められて嬉しすぎて表情筋が死ぬ。ヘラヘラとだらしない笑みを浮かべてしまったけれど、ルイ様はそんな私を眩しそうに目を細めながら見つめてくれていた。
その漆黒の瞳は僅かに熱を宿していて、表情はどこか大人びて見えた。不覚にもときめいてしまったことは、ルイ様には内緒にしておこう。
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