12 / 62
閑話 深夜の緊急会議②
しおりを挟む
「なに⁉︎ ピクニック、だと?」
アリエッタとミーシャが晩酌をした翌日、家臣の魔物たちは再び会議室に集まっていた。
本日の議題は、『ルイス様とワクワクピクニック』である。
心なしか魔物たちは落ち着きがなく浮き足立っている。
「そう。アリエッタちゃんが提案してくれたんだけどね。とっても楽しそうじゃなあい?」
本日の会議の収集者であるミーシャが楽しそうに議題が書かれた黒い壁の前で仁王立ちをしている。
なぜか手には指示棒を握り締め、黒縁眼鏡をかけている。尚、レンズは入っていない様子である。
「なるほど。ルイス様は毎日勉学に励んでおられる。息抜きに、ということですね?」
「あら、ウェイン。さっすが、飲み込みが早いわねえ」
即座にピクニックの目的を察したウェインに、ビシッと指示棒を向けるミーシャ。
「これ、相手に向けるものではありませんよ」と叱られていたが、なぜかほんのりと頬を染めて謝っていた。
「ふ、ふむ。良いのではないか? じゃが……誰が同行するのだ?」
骸骨のカロンはどことなくソワソワした様子である。
「あら、ピクニックだもの。多い方が楽しいじゃない? もちろんここにいるみんなと、ルイス様、それにアリエッタちゃんよ」
「そ、そうか。ワシも含まれておるのじゃな。ふむ、まあ、そうじゃな。忙しいのじゃが、他でもないルイス様とのピクニックじゃ。なんとか時間を捻出しよう。ワシは忙しいのじゃがな!」
当たり前のようにミーシャが答え、カロンはどことなく嬉しそうに頬骨を掻いている。
「それにしても、ピクニックとは……小娘も粋なことを考えるではないか。今度会ったら褒めてやろう」
カラカラと骨を鳴らしながら、カロンがブツブツ独り言つ。骨の鳴り方からしてよっぽど嬉しいのだということが見え見えで、周囲の魔物たちは温かな笑みを浮かべている。
「それで、目的地は決まっておるのか?」
腕組みをしながらマルディラムが尋ねる。
「それよそれ」とミーシャは嬉しそうに指示棒をブンブン振っている。
「行き先はまだ決まっていないわ。誰か、いい場所を知らなあい? アリエッタちゃんも魔界に来てから外にほとんど出てないじゃない? だからもっともっと魔界のことを好きになれるような、そんな場所に行きたいのよう」
ミーシャの心の内を聞き、一同も同意するように頷いた。勇者一行と共に、突然魔界にやってきたかと思ったら、勇者たちをあっさり人間界に送り返して自分は魔界に残りたいと言った稀有な人間。
よほどの変わり者であるが、この一ヶ月でみんなアリエッタを仲間として受け入れていた。
それに、魔界での生活を心から楽しんでおり、魔界を好いていてくれることも彼女の様子から明らかだ。そんな彼女の喜ぶ顔が見たいと思うのも、共通の願望である。
「そうですね、城の裏にある山に登るのもいいでしょう。山頂近くに開けた場所があり、そこには泉も湧いています」
「南の丘も綺麗だぞ。一面花が咲き誇っている」
「少し遠いが、海辺もいいやもしれんのう。ついでに海の幸もいただいてのう」
「おや、海の幸か。いいな」
新鮮な食材の予感にマルディラムの目が光る。目はないのだが。
「海や川ならば、現地で調達した魚をその場で焼いて食すのもまた一興。ふむ、となると行き先を一つに絞るのは難解だな」
「そおねえ……まあ、行き先はたっくさんあるのだもの。一回きりではなくてまた企画すればいいのよお」
テーブルに肘をつき、ミーシャは楽しそうにお尻を振る。付き合いが長く彼女の色香も浴び慣れた一同が動揺することはない。
「ならば、まずは近場から。南の丘が道のりも緩やかで景観もいい。今回はそちらで決めてはいかがでしょうか」
「賛成~!」
「ふむ、いいのではないか」
「ワシも異論はない」
こうして第一回ルイス様とワクワクピクニックの行き先は、城の南に位置する小高い丘へと決まったのだった。
無事に行き先も決まり、パラパラと会議室から家臣らが去っていく。当日の持ち物はどうしようか、服装は、弁当は、と各々が嬉々として準備のために散っていく。
なんとも平和な緊急会議であった。
アリエッタとミーシャが晩酌をした翌日、家臣の魔物たちは再び会議室に集まっていた。
本日の議題は、『ルイス様とワクワクピクニック』である。
心なしか魔物たちは落ち着きがなく浮き足立っている。
「そう。アリエッタちゃんが提案してくれたんだけどね。とっても楽しそうじゃなあい?」
本日の会議の収集者であるミーシャが楽しそうに議題が書かれた黒い壁の前で仁王立ちをしている。
なぜか手には指示棒を握り締め、黒縁眼鏡をかけている。尚、レンズは入っていない様子である。
「なるほど。ルイス様は毎日勉学に励んでおられる。息抜きに、ということですね?」
「あら、ウェイン。さっすが、飲み込みが早いわねえ」
即座にピクニックの目的を察したウェインに、ビシッと指示棒を向けるミーシャ。
「これ、相手に向けるものではありませんよ」と叱られていたが、なぜかほんのりと頬を染めて謝っていた。
「ふ、ふむ。良いのではないか? じゃが……誰が同行するのだ?」
骸骨のカロンはどことなくソワソワした様子である。
「あら、ピクニックだもの。多い方が楽しいじゃない? もちろんここにいるみんなと、ルイス様、それにアリエッタちゃんよ」
「そ、そうか。ワシも含まれておるのじゃな。ふむ、まあ、そうじゃな。忙しいのじゃが、他でもないルイス様とのピクニックじゃ。なんとか時間を捻出しよう。ワシは忙しいのじゃがな!」
当たり前のようにミーシャが答え、カロンはどことなく嬉しそうに頬骨を掻いている。
「それにしても、ピクニックとは……小娘も粋なことを考えるではないか。今度会ったら褒めてやろう」
カラカラと骨を鳴らしながら、カロンがブツブツ独り言つ。骨の鳴り方からしてよっぽど嬉しいのだということが見え見えで、周囲の魔物たちは温かな笑みを浮かべている。
「それで、目的地は決まっておるのか?」
腕組みをしながらマルディラムが尋ねる。
「それよそれ」とミーシャは嬉しそうに指示棒をブンブン振っている。
「行き先はまだ決まっていないわ。誰か、いい場所を知らなあい? アリエッタちゃんも魔界に来てから外にほとんど出てないじゃない? だからもっともっと魔界のことを好きになれるような、そんな場所に行きたいのよう」
ミーシャの心の内を聞き、一同も同意するように頷いた。勇者一行と共に、突然魔界にやってきたかと思ったら、勇者たちをあっさり人間界に送り返して自分は魔界に残りたいと言った稀有な人間。
よほどの変わり者であるが、この一ヶ月でみんなアリエッタを仲間として受け入れていた。
それに、魔界での生活を心から楽しんでおり、魔界を好いていてくれることも彼女の様子から明らかだ。そんな彼女の喜ぶ顔が見たいと思うのも、共通の願望である。
「そうですね、城の裏にある山に登るのもいいでしょう。山頂近くに開けた場所があり、そこには泉も湧いています」
「南の丘も綺麗だぞ。一面花が咲き誇っている」
「少し遠いが、海辺もいいやもしれんのう。ついでに海の幸もいただいてのう」
「おや、海の幸か。いいな」
新鮮な食材の予感にマルディラムの目が光る。目はないのだが。
「海や川ならば、現地で調達した魚をその場で焼いて食すのもまた一興。ふむ、となると行き先を一つに絞るのは難解だな」
「そおねえ……まあ、行き先はたっくさんあるのだもの。一回きりではなくてまた企画すればいいのよお」
テーブルに肘をつき、ミーシャは楽しそうにお尻を振る。付き合いが長く彼女の色香も浴び慣れた一同が動揺することはない。
「ならば、まずは近場から。南の丘が道のりも緩やかで景観もいい。今回はそちらで決めてはいかがでしょうか」
「賛成~!」
「ふむ、いいのではないか」
「ワシも異論はない」
こうして第一回ルイス様とワクワクピクニックの行き先は、城の南に位置する小高い丘へと決まったのだった。
無事に行き先も決まり、パラパラと会議室から家臣らが去っていく。当日の持ち物はどうしようか、服装は、弁当は、と各々が嬉々として準備のために散っていく。
なんとも平和な緊急会議であった。
22
お気に入りに追加
954
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい
うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。
ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。
ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。
時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。
だから――。
「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」
異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ!
============
小説家になろうにも上げています。
一気に更新させて頂きました。
中国でコピーされていたので自衛です。
「天安門事件」
ぼっちな幼女は異世界で愛し愛され幸せになりたい
珂里
ファンタジー
ある日、仲の良かった友達が突然いなくなってしまった。
本当に、急に、目の前から消えてしまった友達には、二度と会えなかった。
…………私も消えることができるかな。
私が消えても、きっと、誰も何とも思わない。
私は、邪魔な子だから。
私は、いらない子だから。
だからきっと、誰も悲しまない。
どこかに、私を必要としてくれる人がいないかな。
そんな人がいたら、絶対に側を離れないのに……。
異世界に迷い込んだ少女と、孤独な獣人の少年が徐々に心を通わせ成長していく物語。
☆「神隠し令嬢は騎士様と幸せになりたいんです」と同じ世界です。
彩菜が神隠しに遭う時に、公園で一緒に遊んでいた「ゆうちゃん」こと優香の、もう一つの神隠し物語です。
【完結】追放された生活錬金術師は好きなようにブランド運営します!
加藤伊織
ファンタジー
(全151話予定)世界からは魔法が消えていっており、錬金術師も賢者の石や金を作ることは不可能になっている。そんな中で、生活に必要な細々とした物を作る生活錬金術は「小さな錬金術」と呼ばれていた。
カモミールは師であるロクサーヌから勧められて「小さな錬金術」の道を歩み、ロクサーヌと共に化粧品のブランドを立ち上げて成功していた。しかし、ロクサーヌの突然の死により、その息子で兄弟子であるガストンから住み込んで働いていた家を追い出される。
落ち込みはしたが幼馴染みのヴァージルや友人のタマラに励まされ、独立して工房を持つことにしたカモミールだったが、師と共に運営してきたブランドは名義がガストンに引き継がれており、全て一から出直しという状況に。
そんな中、格安で見つけた恐ろしく古い工房を買い取ることができ、カモミールはその工房で新たなスタートを切ることにした。
器具付き・格安・ただし狭くてボロい……そんな訳あり物件だったが、更におまけが付いていた。据えられた錬金釜が1000年の時を経て精霊となり、人の姿を取ってカモミールの前に現れたのだ。
失われた栄光の過去を懐かしみ、賢者の石やホムンクルスの作成に挑ませようとする錬金釜の精霊・テオ。それに対して全く興味が無い日常指向のカモミール。
過保護な幼馴染みも隣に引っ越してきて、予想外に騒がしい日常が彼女を待っていた。
これは、ポーションも作れないし冒険もしない、ささやかな錬金術師の物語である。
彼女は化粧品や石けんを作り、「ささやかな小市民」でいたつもりなのだが、品質の良い化粧品を作る彼女を周囲が放っておく訳はなく――。
毎日15:10に1話ずつ更新です。
この作品は小説家になろう様・カクヨム様・ノベルアッププラス様にも掲載しています。

異世界に落ちたら若返りました。
アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。
夫との2人暮らし。
何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。
そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー
気がついたら知らない場所!?
しかもなんかやたらと若返ってない!?
なんで!?
そんなおばあちゃんのお話です。
更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる