【完結】討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!〜力を搾取され続けた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される〜

水都 ミナト

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第二話 アリエッタのウキウキ魔界ライフ 2

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 私の一日は、ルイ様を起こすところから始まる。

 魔界も人間界と同じように太陽や月があり、時間と共に日が昇っては沈んでいく。
 日の出とともにベッドから起き出して身支度を整え、ルイ様の寝所にお邪魔する。
 ルイ様は朝に弱いらしく、いつも布団にくるまって愛らしい抵抗を試みる。朝から鼻血ものであるが、グッと堪えて強引に布団を引っぺがしてしまえば、渋々ベッドから起き出してくれる。

 素早く洗顔用のぬるま湯を差し出して着替えを手伝い、朝食は家臣の魔物たちと一緒に食堂で摂る。魔王の居城には腕のいいシェフがたくさんいるらしい。温厚な気候もあり、作物も良く育っているため、毎日新鮮な食事が楽しめるのだとか。

 厨房を覗くと、ルイ様の側近の一人である首無し騎士がエプロンを身に付けてデザートを作っていたから驚いた。どうやら彼がここの料理長らしい。てっきり騎士団長か何かかと思っていたので意外だ。


 朝食を済ますと、頭が冴えているうちに座学に取り掛かる。

 まずは魔界の言葉を読めなければ話にならない。
 魔界に来た当初は、ウェインさんが教壇に立ち、私はルイ様と机を並べてペンを握った。元は同じ世界だったからか、文法は母国語に近しいものがある。パズルを解くようにスルスルと脳が吸収してくれたので、一ヶ月もあればあらかた読み書きができるようになった。
 ちょうど昨日、ウェインさんのお墨付きをもらってルイ様に個別指導を始めたところである。ふふん。私はやればできる子なのだ。

 ウェインさんからお城の書物庫は好きにしていいと許可をいただいているので、ルイ様のお勉強がてら、私も一緒に魔界の歴史や魔界に生える植物図鑑、魔物名鑑などに目を通している。どうやら、魔界の環境は、はほとんど人間界と変わらないようだ。

 元々一つの世界だったこともあり、二つの世界を構成する物質は同じなのだとか。
 そのため、野菜や果物などは地上とほぼ同じものが育てられており、料理にも用いられている。魔力の濃度が濃い分、その影響を受けた魔草や果実が育っているらしく、その点は魔界らしいと言える。人の手が加わっていない分、自然豊かで空気が澄んでいる。

 魔物の中にも知能の高いものから低いものまで多種多様らしく、お城に従事する魔物たちはとりわけ知能が高い。魔物の種類をまとめた書物も見つけたので、少しずつ知識を蓄えていくつもりだ。ちなみにお城から距離はあるものの、魔界にも栄えた街があるらしい。いつか行ってみたいものである。


 そして昼食を摂ると、しばしのお昼寝を挟んで、気候がいい時間帯に魔法の特訓をする。
 ルイ様は魔王であるため、凄まじい魔力を秘めている。けれど、まだ幼いために自衛のためか魔力に蓋がされているみたいで、爆発的な威力は出せないようになっていた。執事に聞いたところ、歴代の魔王は成人を迎えると、内に秘めた魔力を引き出せるようになるのだとか。

 ルイ様はあまり魔法の特訓には乗り気ではない。

 魔法を使うのが嫌なのかしら?

 私も無理強いをするつもりはないので、攻撃魔法よりも日常生活に活かせるものから披露している。お湯を沸かしたり、料理に使う火を起こしたり、光で闇を照らしたり、枯れた草花に生命の息吹を吹き込んだり。こうした魔法であれば、ルイ様は目を輝かせて楽しんでくれる。まずは魔法を好きになってもらわないとね。
 執事からは、もし万が一、魔界を蹂躙するものが現れた時に、魔界を守れるように攻撃魔法も磨いてほしいと言われている。こればかりはルイ様の心持ち次第のため、少しずつ教えていければいいと思っている。


 そんな魔法訓練、もとい魔法でのお遊戯も日が暮れる前に切り上げて、みんなで夕飯を摂る。
 この場はその日に起きたことの報告会も兼ねている。事務仕事は主に執事が担ってくれているので、諸々の報告もこの場で行われ、私もその日の成果を語って聞かせている。なぜならみんなが私の話に興味津々だから。ルイ様のその日の行動を聞きたくて仕方がないらしい。本当に家臣に愛される魔王なのね。


 その後湯浴みのお手伝いを済ませ、就寝前に絵本を読み聞かせる。
 ルイ様は布団にすっぽり包まれながら、ウトウト微睡み、夢の世界に旅立っていく。

 起こさないようにそっと電気を消して部屋を出るところまでが私の仕事なのだけど、ルイ様が眠ったことを見計らって、家臣たちがその寝顔を拝みにやってくるのだ。そっとルイ様の寝顔を拝み、みんなふにゃりと頬を緩ませて帰っていく。分かるわ。この純真無垢な笑顔を見れば、その日の疲れなんて吹き飛ぶものね。

 毎日側近の全員がやってくるので、それを見届けてから私も与えてもらった自室に帰るのだ。
 うーん、なんて充実した日々。
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