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第一話 あの可愛い男の子が魔王ですと? 3

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 さて、というわけで、私はすっかり魔王討伐の意気込みは消え失せている。

 そもそも、今回の討伐に参加した本当の理由を思い返してみる。
 国王は、晴れて魔王を討ち倒すことができたら、討伐パーティには褒美が取らせると宣言した。何を隠そう、私が討伐に参加した最大の理由はこの褒美である。
 幼くして両親を流行病で亡くした私は、孤児院で育った。
 昔から多属性魔法が使え、特に光魔法を得意にしていた。流石に普通ではない力ということは幼いながらに理解しており、表立って力を発揮することなく隠れて研鑽を積んでいた。けれど、十五の時に孤児院の子供たちの怪我を治癒しているところを大人に見られてしまった。そうして才能を見出された私は、有無を言わさず『聖女』として神殿に引き取られた。本当に最悪だわ。

 それからは、怪我人や病人の治療をしたり、(もう平和じゃんと思いつつ)平和のために祈ったりした。大きな争いのないこの世界では、事故でも起きない限り大怪我を負うこともない。毎日毎日、私の元にやってくるのは、ささくれだの、瘡蓋がめくれただの、ちょっとした擦り傷だの包丁で指を切っただの些細な怪我ばかり。


 ……そんなもんツバでもつけとけや!
 と心の中で叫びつつも慈愛の笑みで治癒をした。
 私、聖女なので。フッ。


 そうして私は、絆創膏のように便利な救急聖女として搾取され続け、すっかり心がやさぐれていった。
 ああ、孤児院に帰って素直で可愛い小さな子供たちに囲まれて生活をしたい。子供好きな私にとって、孤児院で子供たちに囲まれる生活はそれなりに幸せだった。道具のように力を搾取され続けるぐらいなら、昔の生活に戻りたい。そう思っていた矢先の魔王討伐の勅命であった。

 魔王討伐を果たせば、何でも願いを叶えてくれると言われたら飛びつかないわけないわよね。

 私の願いは、聖女なんか辞めて自由に生きること。

 孤児院に帰ることが許されないのなら、こんな国出て行ってやる! と思っていた矢先のことだったので、魔王をサクッと倒したら国王の前で「さよなら!」と笑顔で手を振りながら颯爽と海を渡るつもりだった。

 だけど昨日の夜、聞いちゃったのよね。
 ファルガが魔王討伐で叶えようとしている願いのこと。

『ふふ……俺か? 俺はな……アリエッタとの結婚の許可を得るつもりだ。いつまでも待たせるわけにはいかんしな。魔王討伐がいい機会だと思ったんだ』

 当の私が寝たふりをしていることにも気付かないポンコツどもの下世話な話を聞いていてブチ切れそうになったわ。

 誰がアンタの嫁になるかぁぁ‼︎
 そもそも、恋人気取りしているけど違うし。
 しつこ過ぎて訂正するのも面倒で放置してたら勝手に良いように勘違いしているのよね。一回殴り飛ばしておくべきだったかしら? いや、二度と戯言を口にできないほどボコボコにすべきだった?

 ここで気になるのは、ファルガの願いと私の願いが相反しているということ。国王は何でも願いを叶えると言った。私は国を出たい。ファルガは私と結婚したい。冷静に考えて、国王は私を国に留めておきたいでしょうから、ファルガの願いが尊重される可能性が高すぎる。

 無理無理。勘弁してよ。ファルガなんかまっぴらごめんだわ。私は心優しくて慈愛に満ちた大人の男が好みなのよ。

 男らしくて色気もあって、それでいて私を蕩けるほど甘やかしてくれたら最高‼︎ まあ、そんな都合のいい殿方なんて簡単には見つからないでしょうけど。

 というわけで、私に魔王討伐をするメリットは何もないのである。そして、手ぶらで国に帰ったとしても待っているのはこれまでと変わらない力を搾取され続ける日々。むしろそれよりもっと恐ろしい展開が待っているのだ。



 となると、私が取れる最善の選択肢は――
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