精霊に愛されし侯爵令嬢が、王太子殿下と婚約解消に至るまで〜私の婚約者には想い人がいた〜

水都 ミナト

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第八話 そして迎えた日

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 そして現在―――


 目の前にはシャンパンでドレスが濡れたアイシャ様と、その肩を支えるレイモンド殿下が立っている。私の手にはポタポタとシャンパンが滴る空のグラス。

 卒業パーティの会場の中心で、私たちを取り囲むようにパーティに列席している学生達が遠巻きで見ている。

 好奇の目に晒される中、レイモンド殿下が計画通りに口を開いた。

「私は、っ、ナターシャとの婚約を解消し…アイシャと結婚する…っ」

 ダメですよ。レイモンド殿下、お声が震えています。しっかりと胸を張って、私を切り捨ててください。

 アイシャ様も泣かないで。



 祝いの場で起こった奇妙な出来事に国王陛下は困惑しつつも、レイモンド殿下の申し出は受理された。

 これで私は王太子殿下の婚約者ではなくなった。ここまで長い道のりだった。私は今、うまく笑えているのだろうか。



「ナターシャ…っ!ナタ、ナターシャ…」

 レイモンド殿下とアイシャ様は抱き合いながらその場に崩れ落ちてしまった。婚約を解消し、幸せを掴んだはずの二人の悲痛な様子に周囲は困惑している。

「レイモンド殿下、アイシャ様…どうか笑ってください」

 私の声に返ってくるのは嗚咽ばかり。念願の婚約者同士になったのに、どうして二人は笑ってくれないのだろうか。

「っ、笑えるわけがないだろう…ナターシャ、君は僕たちのために周囲からの評価を落とし、蔑まれ、色んなものを失ってきたじゃないか…!僕たちは…ナターシャ、君のことを実の妹のように大事にしている。本当に君が大切なんだ。君を置いて幸せになんてなれない」

 アイシャ様も頷きながら、はらはらと綺麗な涙を流し続けている。レイモンド殿下は歯を食いしばり、涙を溢さないようにどうにか堪えているようだ。





 ―――ああ、私は酷なことをしてしまっていたようだ。




 そのことにようやく気がついた。


 二人は愛し合っている。幼い頃から変わらずずっと。

 二人が結ばれるためには二つ乗り越えねばならないことがあった。私の存在と、アイシャ様がマナを扱うこと。

 私なりに最善だと思うことを懸命に取り組んできた。

 恐らく二人はずっと、手を取り合い生きるためには私を犠牲にせねばならないことに、心を痛ませ、今日の今日まで悩み続けてきたのだろう。



 でも、私の存在は二人が共に未来を歩むためには邪魔な存在。



「…私は、どうすればよかったのでしょうか」

 物心ついた頃から、レイモンド殿下とアイシャ様は想い合っていた。そんな二人を引き裂いて、レイモンド殿下と夫婦になるなんて考えられなかった。

 それに、私には…五歳の頃からずっと、私の心を掴んで離さない方がいる。決して結ばれないはずの想い、それを考えないようにするためにも、私は悪役を演じ続けた。

 でも、私のしてきたことが大切な人たちを苦しめていたかもしれない。緊張感で何とか保っていた私の心が大きく揺れてしまった。



 ―――ほろりと頬を涙が伝った。



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