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最終話 チルとレオン 3【完】
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その日の夜。
事故現場は数日もすれば作業を再開できると確認して、エリックの元へ戻った僕たち。無事にダムが完成した暁には、強化魔法を施す約束をして家に帰ってきた。
食事と風呂を済ませた僕は、寝室の窓からぼうっと夜空を眺めていた。
「チル……?」
ひた、と裸足で歩く音がして、続けて僕の名を呼ぶ声がした。僕が返事をせずに夜空を眺めたままだったから、レオンは窺うように僕の隣に来て、同じく夜空を見上げた。
「――レオン、今日はよく頑張ったね」
「っ! ん! レオン、頑張った」
僕は視線を夜空に向けたまま、レオンに声をかけた。
レオンの気配からとても嬉しそうな様子が伝わってくる。
きっとピクピク耳を動かして、ふんふんと僅かに鼻息を荒くしてるのだろうと想像すると、自然と笑みが溢れた。
「レオンはすっかり治癒魔法を習得したね。もう僕が教えることがないくらいの腕前だったよ」
「そんな……レオン、まだまだ」
「謙遜しなくてもいいのに。どうだった? たくさんの怪我人を前にするのは恐ろしいだろうし、ちゃんと治してあげられるか不安もあっただろう?」
「ん……でも、レオンはチルに治癒魔法を教わった。いっぱい練習もした。だからできるって、信じてた。それに、みんな痛そうで、辛そうで……見てるとレオンもここが痛くなった」
レオンの言葉に導かれるように視線を移すと、レオンは自分の胸をギュッと握りしめていた。
「だから、レオン、みんなを助けたいってたくさんお祈りした。苦しい顔じゃなくて、笑った顔が見たいって。じゃあ、ピカッて応えるように魔法が発動した」
「そっか」
きっとレオンの慈悲の心が天に届いたんだな。
レオンは心優しい女の子だ。自らが幼い頃に虐げられていたにも関わらず、過去に囚われずに真っ直ぐに明るい未来を見据えている。
――レオンの可能性を、僕の気持ち一つで手折るわけにはいかない。
「レオン、君には治癒魔法の適性も才能もある」
「そ、そうかな……へへ、嬉しい」
「その力を活かしたいと思わないか?」
「んー、レオン、怪我人がいたら、助ける。チルの力になる」
むんっ、と小さく拳を握って僕に訴えるように見上げてくるレオン。夜空の星々を映すサファイアブルーの瞳は可能性に満ちてキラキラと光り輝いている。
「――レオン、神殿に行くか?」
「神殿? レオン、行ったことない。チルと一緒なら、行ってみたい」
どうやら言葉が足りなかったようだ。
僕は一つ息を吐き出すと、キョトンと首を傾げるレオンに向き合った。けれど、なぜか真っ直ぐに彼女の澄んだ目を見ることができずに視線を逸らしてしまう。
「そうじゃない。君の力は、きっと神殿でも類を見ないほど優れた力だ。救いを求めにやってくる人々を癒すことができる。君が望むならば、僕は君を神殿に送り出そうと思っている」
「え……?」
僕の言葉に、レオンの身体が強張った。
「レオンはもう、何もできない出来損ないなんかじゃない。睡眠魔法だって使えるし、治癒魔法も使える。どっちも人々の役に立つ素敵な力だ。レオン、君はもう十分もう一人で生きていける力を得たんだよ。レオンを認めてくれる人もできた。もちろん僕もレオンのことを認めている」
レオンは懸命に僕の言葉の意味を理解しようとしている。
「だから、もう――僕の元から飛び立つ時が来たんだよ」
「え……」
レオンが息を呑む気配がした。
僕は依然としてレオンの目を見ることができずにいる。
「神殿で、その力を活かして治癒師として生きるんだ。それがきっとレオンのためにもなる」
「や、やだ! やだやだ! レオン、チルと一緒がいい!」
レオンはブンブンと頭を振り、縋るように僕にしがみついてきた。僕はされるがままに揺さぶられている。
「チル眠れないのに、レオンいないとどうするの?」
「それは……なんとかするよ」
そう、きっとなんとかなる。
レオンと出会う前の生活に、戻るだけだ。
「だ、だめ! チル言ってた、眠れないのは死ぬほど辛いって……」
「でも……レオンの力を求める人がいるんだよ?」
それなのに、僕の勝手な都合で君を縛ることはできない。
「それでも……っ! レオンはチルと……家族と離れたくない!」
「家族……?」
「ん! 群れにいた親や兄弟はもうレオンの家族じゃない。レオンの家族はチルだけ!」
家族。
その言葉に、頭を殴られたような衝撃が走った。
僕は目を見開いて、ゆっくりとレオンと目を合わせた。
レオンは瞳いっぱいに涙を浮かべて、強い意志を込めた眼差しで僕を見据えている。
――家族。
レオンは僕のことをそう思ってくれている。
それじゃあ、僕は――?
ある日森で倒れたレオンを保護して、睡眠魔法の使い手だと分かって、眠る手伝いをしてもらうようになって、依頼のたびにあちこち飛び回って、修行をして、美味しいご飯を食べて――たくさんの話をした。
もう、レオンの存在は僕の生活に欠かすことができなくなっている。
そのことに目を背けて、レオンの気持ちも聞かずに神殿に行った方がいいと決めつけていた。
「そうか……そうだな。すまない」
レオンがいなくなった日々を想像していたら、胸にポカリと穴が空いたようで。格好つけていたけど、本当は離れたくなかったんだ。
ようやく自分の気持ちに向き合った僕は、小さくレオンに微笑みかけた。
「チル……!」
レオンはギュウッと僕の腰に腕を回して抱きついてきた。
ポンポンと橙色のふわふわな髪を撫でてやる。
「これからも一緒にいよう。でも、もし……レオンにやりたいことができて、僕の元を離れたくなったら、ちゃんと言うんだよ」
「そんな日は来ない」
「ええ? 先のことは分からないだろう」
あまりに即答するので僕の方がたじろいでしまった。
「分かる」
ギュッと腰に回した腕の力を強めるレオン。
「レオンはずっと、チルと一緒」
「……そっか」
なんだか胸がぽかぽか温かい。
僕もそっとレオンの背中に腕を回すと、レオンは嬉しそうに耳をピクピクさせながら擦り付いてきた。
家族を失い、たくさんの偉大な師匠を得て、睡眠不足に悩まされながらも毎日それなりに生きてきたけど、僕はいつの間にかずっと欲しかった繋がりを手に入れていたんだ。
「レオン、これからもよろしくね」
「ん。これからもチルの睡眠はレオンが守る」
「ははっ、心強いよ」
レオンが僕のそばを選んでくれてよかった。
僕たちは顔を見合わせて微笑みあった。これからも二人で依頼をこなしつつ、この森の家で静かに暮らしていこう。
その時、和やかな空気をぶち壊すように頭の中にキーンと声が響いた。
『あーもう! ほんとチルってばお馬鹿なんだから』
「なっ……」
「ひうっ⁉︎ な、なに? 頭の中で声……?」
顔を顰めたのは僕だけじゃなく、レオンもビクッと飛び上がってキョロキョロ周りを見回している。
まさか――
『まったく、手放したくないのならば素直にそういえばいいだろうに』
『そうじゃぞ。存外チルは寂しがり屋なのじゃ。まあ、本人に自覚はないようじゃがな』
『フハハ! そうだな。我らの世界を去る時も、ひどく寂しそうな顔をしていたからな。だからこうして毎晩会いに来ているわけだが……』
『ふふふ、もちろん妾たちがチルの声を聞きたいのもありますけどね。我が子同然に愛しているのですから、その子に一人寂しい思いをさせるわけにはいきませんからね』
「お、おい……さっきから何を言って……」
まだ寝る前だと言うのに、神様たちがやいやい頭の中で好き勝手に騒ぎ始めた。
『ふふっ、私は女神ヴィーナよ。レオンちゃん、私たちの分までチルをよろしくね』
「め、女神様……! はひっ、レオン、チルとよろしくする!」
『む、その言い方は何やら引っかかるのじゃが……』
『深い意味はないでしょう。キララもヤキモチ妬きなんですから』
「いやいや、っていうか、なんで起きてる時に話しかけてきたんだよ⁉︎ 約束と違うだろう?」
しかもレオンにまで聞こえるようにするなんて、悪質にも程が……
『なんだあ? チルからすっげぇ寂しそうな感情の波長を受け取ったから心配してみんなで見守ってたんだぜ?』
『そうだぞ! やれやれ、チルはいつも素直ではないのだから困った奴だ!』
『うふふ、レオンちゃんと離れるなんて心にもないことを言い出すんだもの。ヒヤヒヤしたわ』
「なっ、ななっ……」
心の内を見透かされたようで、カァァッと僕の頬に熱が集まっていく。
『チルは自分が思っている以上にその童が大切なのじゃよ』
『やーん、嫉妬しちゃう~! いつかレオンちゃんを連れて天界に遊びに来てね!』
『お、いいな。魔界にも来いよ!』
『海底界にも!』
『む、仙界にも来るのじゃ!』
『精霊界も歓迎しますよ!』
「お、おい! 結局理由をつけて遊びに来てほしいだけだろう!」
レオンは情報過多で目を回しているし、頭の中は依然として騒がしいし……
『よし、じゃあ何処に先に遊びに来てもらうか決めるためにひと勝負しようぜ!』
『いいぞ! 前々からチルの一番の師匠は誰かハッキリさせたいと思っていたのだ!』
『ふふふ、よいだろう。ベストオブ師匠決定戦の開催じゃ!』
『負けませんよ!』
『私だって!』
「あー! もうっ! 神様、ちょっと黙ってて!」
僕の騒がしくも愛おしい日々はこれからも続いていきそうだ。
【おしまい】
――――――――
最後まで読んでいただきありがとうございました。
流行りに囚われず、好きに書いて参りましたが無事に完結することができました!
当初はリヴァルドが元国王の召喚に応じて魂を奪うエピソードで終わりにする予定でしたが、エピソードを足してお届けしました。
神々の力を授かった最強賢者、でも師匠である神様たちに愛されすぎて寝不足で参っている、というアイデアを元に書いてみましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
まだまだ至らぬ点も多いかと思いますが、一人でも多くの方に楽しんでいただけたなら嬉しいです。
本作は、第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしております。
よろしければポチッと投票にて応援いただけると嬉しいです!
「討伐対象の魔王が可愛い幼子だったので魔界に残ってお世話します!~力を搾取され続けてうんざりしていた聖女は幼子魔王を溺愛し、やがて溺愛される~」も参加中&連載中なので、併せてよろしくお願いします。
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「チル……?」
ひた、と裸足で歩く音がして、続けて僕の名を呼ぶ声がした。僕が返事をせずに夜空を眺めたままだったから、レオンは窺うように僕の隣に来て、同じく夜空を見上げた。
「――レオン、今日はよく頑張ったね」
「っ! ん! レオン、頑張った」
僕は視線を夜空に向けたまま、レオンに声をかけた。
レオンの気配からとても嬉しそうな様子が伝わってくる。
きっとピクピク耳を動かして、ふんふんと僅かに鼻息を荒くしてるのだろうと想像すると、自然と笑みが溢れた。
「レオンはすっかり治癒魔法を習得したね。もう僕が教えることがないくらいの腕前だったよ」
「そんな……レオン、まだまだ」
「謙遜しなくてもいいのに。どうだった? たくさんの怪我人を前にするのは恐ろしいだろうし、ちゃんと治してあげられるか不安もあっただろう?」
「ん……でも、レオンはチルに治癒魔法を教わった。いっぱい練習もした。だからできるって、信じてた。それに、みんな痛そうで、辛そうで……見てるとレオンもここが痛くなった」
レオンの言葉に導かれるように視線を移すと、レオンは自分の胸をギュッと握りしめていた。
「だから、レオン、みんなを助けたいってたくさんお祈りした。苦しい顔じゃなくて、笑った顔が見たいって。じゃあ、ピカッて応えるように魔法が発動した」
「そっか」
きっとレオンの慈悲の心が天に届いたんだな。
レオンは心優しい女の子だ。自らが幼い頃に虐げられていたにも関わらず、過去に囚われずに真っ直ぐに明るい未来を見据えている。
――レオンの可能性を、僕の気持ち一つで手折るわけにはいかない。
「レオン、君には治癒魔法の適性も才能もある」
「そ、そうかな……へへ、嬉しい」
「その力を活かしたいと思わないか?」
「んー、レオン、怪我人がいたら、助ける。チルの力になる」
むんっ、と小さく拳を握って僕に訴えるように見上げてくるレオン。夜空の星々を映すサファイアブルーの瞳は可能性に満ちてキラキラと光り輝いている。
「――レオン、神殿に行くか?」
「神殿? レオン、行ったことない。チルと一緒なら、行ってみたい」
どうやら言葉が足りなかったようだ。
僕は一つ息を吐き出すと、キョトンと首を傾げるレオンに向き合った。けれど、なぜか真っ直ぐに彼女の澄んだ目を見ることができずに視線を逸らしてしまう。
「そうじゃない。君の力は、きっと神殿でも類を見ないほど優れた力だ。救いを求めにやってくる人々を癒すことができる。君が望むならば、僕は君を神殿に送り出そうと思っている」
「え……?」
僕の言葉に、レオンの身体が強張った。
「レオンはもう、何もできない出来損ないなんかじゃない。睡眠魔法だって使えるし、治癒魔法も使える。どっちも人々の役に立つ素敵な力だ。レオン、君はもう十分もう一人で生きていける力を得たんだよ。レオンを認めてくれる人もできた。もちろん僕もレオンのことを認めている」
レオンは懸命に僕の言葉の意味を理解しようとしている。
「だから、もう――僕の元から飛び立つ時が来たんだよ」
「え……」
レオンが息を呑む気配がした。
僕は依然としてレオンの目を見ることができずにいる。
「神殿で、その力を活かして治癒師として生きるんだ。それがきっとレオンのためにもなる」
「や、やだ! やだやだ! レオン、チルと一緒がいい!」
レオンはブンブンと頭を振り、縋るように僕にしがみついてきた。僕はされるがままに揺さぶられている。
「チル眠れないのに、レオンいないとどうするの?」
「それは……なんとかするよ」
そう、きっとなんとかなる。
レオンと出会う前の生活に、戻るだけだ。
「だ、だめ! チル言ってた、眠れないのは死ぬほど辛いって……」
「でも……レオンの力を求める人がいるんだよ?」
それなのに、僕の勝手な都合で君を縛ることはできない。
「それでも……っ! レオンはチルと……家族と離れたくない!」
「家族……?」
「ん! 群れにいた親や兄弟はもうレオンの家族じゃない。レオンの家族はチルだけ!」
家族。
その言葉に、頭を殴られたような衝撃が走った。
僕は目を見開いて、ゆっくりとレオンと目を合わせた。
レオンは瞳いっぱいに涙を浮かべて、強い意志を込めた眼差しで僕を見据えている。
――家族。
レオンは僕のことをそう思ってくれている。
それじゃあ、僕は――?
ある日森で倒れたレオンを保護して、睡眠魔法の使い手だと分かって、眠る手伝いをしてもらうようになって、依頼のたびにあちこち飛び回って、修行をして、美味しいご飯を食べて――たくさんの話をした。
もう、レオンの存在は僕の生活に欠かすことができなくなっている。
そのことに目を背けて、レオンの気持ちも聞かずに神殿に行った方がいいと決めつけていた。
「そうか……そうだな。すまない」
レオンがいなくなった日々を想像していたら、胸にポカリと穴が空いたようで。格好つけていたけど、本当は離れたくなかったんだ。
ようやく自分の気持ちに向き合った僕は、小さくレオンに微笑みかけた。
「チル……!」
レオンはギュウッと僕の腰に腕を回して抱きついてきた。
ポンポンと橙色のふわふわな髪を撫でてやる。
「これからも一緒にいよう。でも、もし……レオンにやりたいことができて、僕の元を離れたくなったら、ちゃんと言うんだよ」
「そんな日は来ない」
「ええ? 先のことは分からないだろう」
あまりに即答するので僕の方がたじろいでしまった。
「分かる」
ギュッと腰に回した腕の力を強めるレオン。
「レオンはずっと、チルと一緒」
「……そっか」
なんだか胸がぽかぽか温かい。
僕もそっとレオンの背中に腕を回すと、レオンは嬉しそうに耳をピクピクさせながら擦り付いてきた。
家族を失い、たくさんの偉大な師匠を得て、睡眠不足に悩まされながらも毎日それなりに生きてきたけど、僕はいつの間にかずっと欲しかった繋がりを手に入れていたんだ。
「レオン、これからもよろしくね」
「ん。これからもチルの睡眠はレオンが守る」
「ははっ、心強いよ」
レオンが僕のそばを選んでくれてよかった。
僕たちは顔を見合わせて微笑みあった。これからも二人で依頼をこなしつつ、この森の家で静かに暮らしていこう。
その時、和やかな空気をぶち壊すように頭の中にキーンと声が響いた。
『あーもう! ほんとチルってばお馬鹿なんだから』
「なっ……」
「ひうっ⁉︎ な、なに? 頭の中で声……?」
顔を顰めたのは僕だけじゃなく、レオンもビクッと飛び上がってキョロキョロ周りを見回している。
まさか――
『まったく、手放したくないのならば素直にそういえばいいだろうに』
『そうじゃぞ。存外チルは寂しがり屋なのじゃ。まあ、本人に自覚はないようじゃがな』
『フハハ! そうだな。我らの世界を去る時も、ひどく寂しそうな顔をしていたからな。だからこうして毎晩会いに来ているわけだが……』
『ふふふ、もちろん妾たちがチルの声を聞きたいのもありますけどね。我が子同然に愛しているのですから、その子に一人寂しい思いをさせるわけにはいきませんからね』
「お、おい……さっきから何を言って……」
まだ寝る前だと言うのに、神様たちがやいやい頭の中で好き勝手に騒ぎ始めた。
『ふふっ、私は女神ヴィーナよ。レオンちゃん、私たちの分までチルをよろしくね』
「め、女神様……! はひっ、レオン、チルとよろしくする!」
『む、その言い方は何やら引っかかるのじゃが……』
『深い意味はないでしょう。キララもヤキモチ妬きなんですから』
「いやいや、っていうか、なんで起きてる時に話しかけてきたんだよ⁉︎ 約束と違うだろう?」
しかもレオンにまで聞こえるようにするなんて、悪質にも程が……
『なんだあ? チルからすっげぇ寂しそうな感情の波長を受け取ったから心配してみんなで見守ってたんだぜ?』
『そうだぞ! やれやれ、チルはいつも素直ではないのだから困った奴だ!』
『うふふ、レオンちゃんと離れるなんて心にもないことを言い出すんだもの。ヒヤヒヤしたわ』
「なっ、ななっ……」
心の内を見透かされたようで、カァァッと僕の頬に熱が集まっていく。
『チルは自分が思っている以上にその童が大切なのじゃよ』
『やーん、嫉妬しちゃう~! いつかレオンちゃんを連れて天界に遊びに来てね!』
『お、いいな。魔界にも来いよ!』
『海底界にも!』
『む、仙界にも来るのじゃ!』
『精霊界も歓迎しますよ!』
「お、おい! 結局理由をつけて遊びに来てほしいだけだろう!」
レオンは情報過多で目を回しているし、頭の中は依然として騒がしいし……
『よし、じゃあ何処に先に遊びに来てもらうか決めるためにひと勝負しようぜ!』
『いいぞ! 前々からチルの一番の師匠は誰かハッキリさせたいと思っていたのだ!』
『ふふふ、よいだろう。ベストオブ師匠決定戦の開催じゃ!』
『負けませんよ!』
『私だって!』
「あー! もうっ! 神様、ちょっと黙ってて!」
僕の騒がしくも愛おしい日々はこれからも続いていきそうだ。
【おしまい】
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流行りに囚われず、好きに書いて参りましたが無事に完結することができました!
当初はリヴァルドが元国王の召喚に応じて魂を奪うエピソードで終わりにする予定でしたが、エピソードを足してお届けしました。
神々の力を授かった最強賢者、でも師匠である神様たちに愛されすぎて寝不足で参っている、というアイデアを元に書いてみましたが、お楽しみいただけたでしょうか?
まだまだ至らぬ点も多いかと思いますが、一人でも多くの方に楽しんでいただけたなら嬉しいです。
本作は、第16回ファンタジー小説大賞にエントリーしております。
よろしければポチッと投票にて応援いただけると嬉しいです!
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