24 / 25
最終話 チルとレオン 2
しおりを挟む
「どうした? 来客中だぞ」
「し、失礼いたします! 急ぎ、お伝えすることが……!」
転がるように部屋の中に入ってきたのは一人の衛兵だった。慌てて居住まいを正して敬礼をする彼は、息をあげながら一息に報告した。
「慈善事業の一環で建設していたダムで大規模な土砂崩れが……! かなりの人数が作業に当たっていたので被害は甚大です! 崩れた土砂に生き埋めになった者も多数いるとのことです!」
「なんだって⁉︎」
報告を受けた僕たちは、ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がった。
エリックは僕に視線を向けて、深く頭を下げた。
「ギルドへの仲介を割愛してお願いします。どうかお力を貸してください」
「ああ、もちろんだよ。直接話を聞いてしまったからには動かないわけにはいかないしね。レオン、一緒に行こう」
「ん!」
事故現場はレオンには見るに耐えないものだろう。
けれど、女神の加護を受けたレオンの力はきっと人々の救いとなる。
僕は衛兵に事故現場の場所を聞くと、窓から飛び出してレオンを抱えながら大空を滑空した。
「――これはひどいな」
あっという間に現地に到着した僕は、上空から全容を確認して絶句した。山の斜面が一面ずるりと滑り落ちている。
人々が懸命に土砂を掬っているが、二次災害に繋がりかねないからすぐに避難させないと。
「レオン、大丈夫か?」
「ん……怖い、けど、レオンも頑張る」
レオンの瞳には強い決意の色が滲んでいる。
よし、ここはレオンを信じてみよう。
僕は地上に降り立つと、現場を指揮しているらしい男を捕まえた。
「ねえ、状況は? 怪我人はどこ?」
「こ、これは大賢者様! 状況は芳しくありません。山間で作業していた者は五十名はおります。そのほとんどが土砂に飲まれて……幸い軽い怪我だけで済んだ者や、土砂から自力で抜け出した者はあちらのテントに集めています」
「そう、分かった。まだ山が崩れる恐れがあるから、捜索はやめて下がっていてくれる? レオン、怪我人は君に任せる」
「えっ」
僕の言葉に、レオンは驚いたように目を見開いた。
「大丈夫。レオンにならできる。他でもない僕が保証するんだ、レオンも自分を信じて?」
「チル……ん、レオン、がんばる」
レオンの頭を撫でると、決意のこもった眼差しが返ってきた。
「怪我人、レオンが治療する」
「頼んだよ。すぐに戻る」
案内役の兵が来たのでレオンを預け、僕は再び上空へと飛び上がった。
まずは山がこれ以上崩れないようにしないとね。
僅かに地面がずり落ちる気配を感じたので、山自体の時を止めておこう。
「『時間停止』」
風に揺れる木の枝、ひらひら舞い落ちる木の葉までピタリと動きを止める。
よし、これでまた山が崩れることはない。
次は生存者の救出だな。
「『探索』」
手を翳して生命反応を探る。
うん、きっちり五十人分の反応が確認できた。みんなどうにか無事のようだ。
やはり生き埋めになっている人が多そうだ。
対象五十人に座標を合わせ、風魔法を応用して空気の球で包み込む。
「よっと」
そのまま腕を振り上げて、空気の球ごと生存者を持ち上げて土砂から救い出した。
「おおおっ」
「なんだこれは⁉︎」
「助かった、のか?」
あちこちから驚嘆の声が聞こえる。少なからず怪我人もいるようなので、空気の球を介して治癒魔法を発動する。
空気の球がキラキラと淡い光を纏う。
僕はそのままみんなを救援テントへと運んだ。
「ただいま。生き埋めになったみんなを助け出してきたよ。治癒魔法も施しているから、もう大丈夫」
感謝の言葉を一身に受けながら、僕はレオンを探す。
テントの中にはまだ怪我人が多く、あちこちで低い呻き声が聞こえてくる。
「おっ」
テントの隅に見つけたレオンは、目を閉じて祈るように手を組んでいる。魔力を集中しているようだ。
「『空間治癒魔法』」
スウッと目を開けたレオンが呪文を呟くと、テントの中に淡く暖かな光が満ちた。
「……ふう」
「……レオン。すごいね。まさか空間治癒魔法まで習得しちゃうなんて」
女神の加護の力もすごいけど、日々レオンが懸命に腕を磨いていた成果が見られた気がする。
それに、レオンが心からここにいる人たちを助けたいと思ったからこその効力だな。
「おお……これは」
「素晴らしい」
「なんと」
至る所で自分の腕や足の傷がなくなったことへの驚きの声があがっている。レオンが褒められていることがとても嬉しくて、僕は胸がむずむずするのを感じていた。
そんな中、バタバタッと慌てた様子で駆け寄ってきた一人の男性がいた。
「い、今のは君が……?」
「? うん、レオン」
レオンに掴みかかりそうな勢いで前のめりに問うた男は、土で汚れているが、法衣を身に纏っているので聖職者であろう。溢れそうなほど目を見開いて、感無量といった様子でレオンの手を取った。
「す、素晴らしい! 君の力は、我が神殿でこそ輝く力だ……!」
「!」
男の言葉にハッとしたのは僕の方だった。
当のレオンはポカンと口を開けて何が何だか分からないようだ。
そうだ。
レオンは一時的に僕の元に身を寄せているだけで、もしレオンを必要とする人が現れたり、レオン自身が行きたい場所ができたら、僕は笑顔で見送らなければならない。
今や女神の加護を得て、治癒魔法については世界でも類をみない力を有しているレオン。
彼女がずっと僕のそばで暮らすことが、果たして彼女のためになるのだろうか。
山の再生や強化、土砂の除去の手伝いをしながら、僕はずっとそのことが頭から離れなかった。
「し、失礼いたします! 急ぎ、お伝えすることが……!」
転がるように部屋の中に入ってきたのは一人の衛兵だった。慌てて居住まいを正して敬礼をする彼は、息をあげながら一息に報告した。
「慈善事業の一環で建設していたダムで大規模な土砂崩れが……! かなりの人数が作業に当たっていたので被害は甚大です! 崩れた土砂に生き埋めになった者も多数いるとのことです!」
「なんだって⁉︎」
報告を受けた僕たちは、ガタン、と椅子を鳴らして立ち上がった。
エリックは僕に視線を向けて、深く頭を下げた。
「ギルドへの仲介を割愛してお願いします。どうかお力を貸してください」
「ああ、もちろんだよ。直接話を聞いてしまったからには動かないわけにはいかないしね。レオン、一緒に行こう」
「ん!」
事故現場はレオンには見るに耐えないものだろう。
けれど、女神の加護を受けたレオンの力はきっと人々の救いとなる。
僕は衛兵に事故現場の場所を聞くと、窓から飛び出してレオンを抱えながら大空を滑空した。
「――これはひどいな」
あっという間に現地に到着した僕は、上空から全容を確認して絶句した。山の斜面が一面ずるりと滑り落ちている。
人々が懸命に土砂を掬っているが、二次災害に繋がりかねないからすぐに避難させないと。
「レオン、大丈夫か?」
「ん……怖い、けど、レオンも頑張る」
レオンの瞳には強い決意の色が滲んでいる。
よし、ここはレオンを信じてみよう。
僕は地上に降り立つと、現場を指揮しているらしい男を捕まえた。
「ねえ、状況は? 怪我人はどこ?」
「こ、これは大賢者様! 状況は芳しくありません。山間で作業していた者は五十名はおります。そのほとんどが土砂に飲まれて……幸い軽い怪我だけで済んだ者や、土砂から自力で抜け出した者はあちらのテントに集めています」
「そう、分かった。まだ山が崩れる恐れがあるから、捜索はやめて下がっていてくれる? レオン、怪我人は君に任せる」
「えっ」
僕の言葉に、レオンは驚いたように目を見開いた。
「大丈夫。レオンにならできる。他でもない僕が保証するんだ、レオンも自分を信じて?」
「チル……ん、レオン、がんばる」
レオンの頭を撫でると、決意のこもった眼差しが返ってきた。
「怪我人、レオンが治療する」
「頼んだよ。すぐに戻る」
案内役の兵が来たのでレオンを預け、僕は再び上空へと飛び上がった。
まずは山がこれ以上崩れないようにしないとね。
僅かに地面がずり落ちる気配を感じたので、山自体の時を止めておこう。
「『時間停止』」
風に揺れる木の枝、ひらひら舞い落ちる木の葉までピタリと動きを止める。
よし、これでまた山が崩れることはない。
次は生存者の救出だな。
「『探索』」
手を翳して生命反応を探る。
うん、きっちり五十人分の反応が確認できた。みんなどうにか無事のようだ。
やはり生き埋めになっている人が多そうだ。
対象五十人に座標を合わせ、風魔法を応用して空気の球で包み込む。
「よっと」
そのまま腕を振り上げて、空気の球ごと生存者を持ち上げて土砂から救い出した。
「おおおっ」
「なんだこれは⁉︎」
「助かった、のか?」
あちこちから驚嘆の声が聞こえる。少なからず怪我人もいるようなので、空気の球を介して治癒魔法を発動する。
空気の球がキラキラと淡い光を纏う。
僕はそのままみんなを救援テントへと運んだ。
「ただいま。生き埋めになったみんなを助け出してきたよ。治癒魔法も施しているから、もう大丈夫」
感謝の言葉を一身に受けながら、僕はレオンを探す。
テントの中にはまだ怪我人が多く、あちこちで低い呻き声が聞こえてくる。
「おっ」
テントの隅に見つけたレオンは、目を閉じて祈るように手を組んでいる。魔力を集中しているようだ。
「『空間治癒魔法』」
スウッと目を開けたレオンが呪文を呟くと、テントの中に淡く暖かな光が満ちた。
「……ふう」
「……レオン。すごいね。まさか空間治癒魔法まで習得しちゃうなんて」
女神の加護の力もすごいけど、日々レオンが懸命に腕を磨いていた成果が見られた気がする。
それに、レオンが心からここにいる人たちを助けたいと思ったからこその効力だな。
「おお……これは」
「素晴らしい」
「なんと」
至る所で自分の腕や足の傷がなくなったことへの驚きの声があがっている。レオンが褒められていることがとても嬉しくて、僕は胸がむずむずするのを感じていた。
そんな中、バタバタッと慌てた様子で駆け寄ってきた一人の男性がいた。
「い、今のは君が……?」
「? うん、レオン」
レオンに掴みかかりそうな勢いで前のめりに問うた男は、土で汚れているが、法衣を身に纏っているので聖職者であろう。溢れそうなほど目を見開いて、感無量といった様子でレオンの手を取った。
「す、素晴らしい! 君の力は、我が神殿でこそ輝く力だ……!」
「!」
男の言葉にハッとしたのは僕の方だった。
当のレオンはポカンと口を開けて何が何だか分からないようだ。
そうだ。
レオンは一時的に僕の元に身を寄せているだけで、もしレオンを必要とする人が現れたり、レオン自身が行きたい場所ができたら、僕は笑顔で見送らなければならない。
今や女神の加護を得て、治癒魔法については世界でも類をみない力を有しているレオン。
彼女がずっと僕のそばで暮らすことが、果たして彼女のためになるのだろうか。
山の再生や強化、土砂の除去の手伝いをしながら、僕はずっとそのことが頭から離れなかった。
10
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています

再婚いたしました。…兄弟が出来ました。双子の兄と弟です。…正直いらない。
如月花恋
ファンタジー
ママが再婚しました。
相談なしに!!
有り得ますか?
…実の娘ですよ?
相談なしですよ?
…まぁ相談されてもどうせママに任せますけど。
…そんなことは割とどうでもよくて…。
問題は再婚相手の連れ子です。
15歳。
この年にしてまさかの双子の兄と可愛い弟が出来ました。
…弟は溺愛するに決まっているでしょう!!
兄ですか?
いりません。
邪魔です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
毎日更新目指して頑張ります
予約更新ですので毎回0時に設定させていただきます
毎日更新は無理だと判断した場合は1週間に1度の更新に移らせていただきます
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜
二階堂吉乃
ファンタジー
瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。
白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。
後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。
人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

元ゲーマーのオタクが悪役令嬢? ごめん、そのゲーム全然知らない。とりま異世界ライフは普通に楽しめそうなので、設定無視して自分らしく生きます
みなみ抄花
ファンタジー
前世で死んだ自分は、どうやらやったこともないゲームの悪役令嬢に転生させられたようです。
女子力皆無の私が令嬢なんてそもそもが無理だから、設定無視して自分らしく生きますね。
勝手に転生させたどっかの神さま、ヒロインいじめとか勇者とか物語の盛り上げ役とかほんっと心底どうでも良いんで、そんなことよりチート能力もっとよこしてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる