【完結】神様、ちょっと黙ってて! 〜神様に愛されすぎた最強賢者は毎晩寝不足〜

水都 ミナト

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第八話 チルと古の厄災 3

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 指輪を与えられた際に教わった呪文を唱えると、カッと指輪が五色の光を放った。

 光の束は僕にまとわりつくように身体を包み込んでいく。

『ナンダ、ソノ光ハ――』

 厄災は本能的に身の危険を察知したのか、ブルブルと形のない身体を震わせている。

「『神下ろし』。文字通り、僕は今、神様と同じ力を有している」

 そう言うや否や、僕は瞬時に厄災の懐に移動し、そのおどろおどろしい身体を殴り飛ばした。

『ナッ……⁉︎』

 きっと厄災はこうして物理攻撃を喰らうのは初めてなのだろう。だって、厄災に触れると生命を吸われるからね。厄災からは驚嘆と僅かな恐怖を抱いていることが伝わってくる。

「……ふふ、ふはは! 古の厄災とやらも大したことはないではないか!」

 は、腰に手を当てて仰け反りながら壁にめり込む厄災を見て笑った。

「何を言うのです。厄災に触れれば生命を吸われる。妾の光魔法でチルの身体を保護しているからこそ成せる技。脳筋が、安直に厄災に触れることはよしなさい」

 は、の発言に苦情を入れる。

「あら、多少の無茶は大丈夫よ! チルの身体は私が完全自動フルオートで治癒しちゃうんだから!」

 はコロコロ鈴を転がすような声で自慢げに言う。

「とにかく、せっかくチルが俺たちに頼ってくれてんだ。たかが厄災ごとき、完膚なきまでに打ち消してやろうぜ」
「ああ、そうじゃな。チルを害そうとした者は万死に値する。わっちも本気を出してやろう」

 の言葉に対してが同意する。


 ――って、忙しいなあ!


「ちょっと! 僕の身体は一つしかないんだから、口々に色々言わないでよ」
「やーん! チルの身体に入れるなんて幸せなんだもの。どうしても気分は高揚しちゃうわ」
「やめろ! 僕の身体でクネクネするな! 甘ったるい声を出すな!」

 僕が一人でギャイギャイ言っているものだから、ザギルモンド国王やエリック、厄災までもポカンと呆けている。それも仕方がない、声や仕草がコロコロ変わって一人芝居をしているように見えるだろうからね。

 今、僕の中には神様たちが入っている。


 『神下ろし』――これは僕の身体を依代に、神様をこちらに呼び寄せる呪文。


 先程から入れ替わり立ち替わり、僕の身体で好き勝手しているのは、アトラス、リーフィン、ヴィーナ、リヴァルド、そしてキララだ。

『ナ、ナンダ、ソノ魔力ハ……』

 本能的に危険を感じているのだろう。ブルブルと震えながら厄災が絞り出すような声を発した。

「ああ、そりゃ恐ろしいよね。各界の神様の力を推し量ることはできないもの。お前はこれから塵も残さず消滅する。そのことだけを理解していればいいさ」

 厄災を封じるだけでは脅威を取り除いたことにはならない。今回のように悪しき者の手で解き放たれる可能性もなくはない。
 初代賢者はその命をもって厄災を封印したという。ならば、歴代一の賢者と呼ばれる僕は、厄災を完全消滅させてやろうじゃないか。

「ふ、どうやらチルは随分とやる気のようじゃ。さあ、存分に暴れることができるよう、ここにいる者、そして城にも結界を張っておこうかのう」

 キララによって、ザギルモンド国王とエリック、部屋の隅に控える兵士にも結界を施されていく。

『ク……ナラバ、コノ小娘ヲ、喰ウテヤル!』

 厄災がレオンを飲み込もうと、ブワッと深い闇のような影を広げた。

「おっと、そうはさせねえよ」

 影がレオンに迫り来る中、僕の身体の主導権を得たリヴァルドが目にも止まらぬ速さでレオンを回収してエリックの前に姿を現した。

「ち、チル様……」
「いつも悪いね。ちょっとレオンを任せるよ」

 僕はそういうと、キララに力を借りてレオンにも強固な結界を付与した。

『ク……クソ……ココハ逃ゲテ人間ヲ吸収シ……』

 どうやら僕に敵わないと判断したらしい厄災は、養分を求めて逃亡を図ろうとしているようだ。
 厄災はジリジリと壁際まで後退すると、ブワッと影を四方八方に広げてこの場から逃げ去ろうとした。

「逃すか! キララ! ヴィーナ!」
「そう急かすでない」

 キララに身体を譲ると、バチチッと身体中に電気が走った。

「喰らうがよい」
『ギャアッ!』

 両手を振り下ろすと、無数の雷の矢が部屋中を這いずる厄災の影の動きを封じた。

『グ……ウ、動ケヌ……⁉︎』
「はーい、次は私ね! よいしょっと」

 ヴィーナ得意の状態異常付与により、厄災を麻痺状態にした。
 ついでに重力操作までしたらしく、地上に伸びていた影は床に落ち、メリメリと地面に平伏すようにめり込んでいる。

「ふふっ、おまけもつけてあげたわ。どう? 身体が鉛のように重いでしょう。キララ、こいつ、一箇所にまとめられる?」
「ふむ、容易なことよ。『収束』」

 キララに入れ替わり不敵に笑うと、手のひらを地面に向ける。あちこちに広がり霧散しようとしていた黒い影が、吸い寄せられるように一箇所に集まっていく。

『ナ、ナンダト……!』

 意思に反して、みるみるうちに球形に収束していく厄災。

「さて、仕上げじゃ」

 キィン、と耳鳴りのような音とともに、真っ黒な球は金色の光を放つ多重結界の箱に囚われた。中でバシンバシンと跳ね回って結界を壊そうとしているが、びくともしない。

「右手は俺が借り受けるぜ。アトラス、左手で極大の水魔法をぶちかませ」
「フハハ! なるほど、面白い。タイミングを違えるなよ!」
「誰に言っている。……行くぞ!」

 僕の右手には空気中の水蒸気まで瞬く間に蒸発させるほどの獄炎が、左手には圧縮された激しい水流が渦巻いている。

 リヴァルドの掛け声で、両手から魔法が放たれて、消えた。

「え?」

 その場の全員が呆然と見守る中、消えた魔法は金色の結界の中に突如姿を現して、弾けた。

 地獄の業火と高密度の水魔法がぶつかって、地を揺るがすほどの水蒸気爆発が起こった。

『ギャァァァァアア‼︎』

 水蒸気爆発にも動じないキララの多重結界の中で、厄災は粉々に弾け飛んでいく。

「仕上げです。『圧縮』」

 リーフィンによって、僕は両手を前に突き出すと、指で三角形を形作った。その中に結界ごと厄災を捉える。依然として爆発し続ける爆風ごと、ギュンッと厄災の燃え滓が手のひらサイズほどに小さくなった。

「おしまいだ」

 僕が思い切り拳を握ると、手のひらサイズになった厄災は握りつぶされ、残り滓一つ残さずにこの世から消滅した。
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