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第二章 いざ、王都へ

第二十七話 sideフィーナ/ミランダ

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『あれ?』

「何!? お母様の身に何が起こっているの!?」


 ミランダに連れ出されたらしいお母様の後を追っていた精霊が、不意に驚嘆の声を上げた。

 麗しのお母様に何かあったのかと気が気じゃない私は、生垣の陰でゴロゴロのたうち回っている。
 クロエの目が痛いけど、仕方がないじゃない! 心配なものは心配なんだから!


『うーんとね。君の母親は無事に着替える部屋に連れて行ってもらってたよ? 桃色の人間の様子が気になったから後をつけているんだけど……黒い服装の男たちに囲まれているね。人間の世界ではこういう遊びが流行っているの?』

「流行っているわけないじゃない!」


 呑気な精霊の声に思わずツッコミを入れてしまう。

 よく分からないけど、どうやらトラブル発生らしい。
 ミランダがお母様を害そうとしていたわけではないと分かってホッとする一方で、城の中で何か不穏な動きがあることに不安を覚える。

 ミランダのことも心配だけど、もしお母様まで巻き込まれたら――


「こうしちゃいられないわ! クロエ、お母様の危機よ! 今度こそ行きましょう!」


 流石にお母様の危機とあってか、クロエはすっくと立ち上がって力強く頷いた。


「ええ、どうやらその方が良さそうです。ウォル、お願いします」

『アオーーーーン!!!』


 クロエの声を合図に、ウォルが遠吠えをした。そしてみるみるうちに身体が大きくなっていく。


「お嬢様!」


 軽やかな動きでウォルの背に飛び乗ったクロエが、私を引き上げてくれる。
 振り落とされないようにウォルの首元にギュッと抱きついて、トントン、と首元を撫でてやる。


「ウォル! お母様のところに向かうわよ!」

『ウォルルッ!!』


 ウォルが地面を蹴ると、中庭に突風が吹き抜けた。


「うわあっ!」

「なんだなんだ」


 俄かにざわめきが聞こえるが、ウォルは風となって王城の中に飛び込んでいく。
 速い! 景色がぐんぐん流れていく。


「フィーナ?」


 風となり城内を吹き抜ける私の耳に、風に乗ってお父様の声が届いた気がした。






 ◇◇◇


 なんなのよ、こいつら!


「んー! んー!」


 腕を掴まれ、口を塞がれた私は、空いた手足でジタバタと抵抗を試みる。


「ったく、威勢のいい女だな」


 頭上から舌打ちが降ってきて、グッと腕を後ろに回されて身動きが取れなくなる。


「おい、殺すなよ。こいつには全部罪を被ってもらうんだからよ」

「分かってる。アイツらはもう王子を捕らえた頃か?」

「あのお飾り王子はヒョロっこいし活力がねえからな。きっと上手く捕まえてるだろうよ」


 王子を捕える?
 何を言ってるの、この男たちは。

 ここは王城で、夜会でたくさんの貴族が集まっている夜だというのに。どうしてこうも余裕があるのか。

 その答えは簡単だ。
 きっと、かなりの上位貴族がこの男たちの裏にいるのね。
 ……こいつら、第二王子派閥なんだわ。

 表立って行動することはないが、第二王子を担ぎ上げようとする派閥があることは知っている。
 傀儡国家として裏で政治を牛耳るつもりなのか、国家を転覆しようとしているのか。

 原作小説では、そんな中央のゴタゴタについては触れられていなかった。
 押し上げようとしている当人を誘拐するなんて、正気の沙汰じゃないわ。でも、逆に考えれば第二王子派閥が、その第二王子を誘拐するとは疑われないでしょうね。

 そして、第一王子派閥の重鎮にその罪を着せて、勢力を落とすつもりなのか――

 そんなもの、私が全部証言すれば簡単に覆るものなのに、杜撰な計画過ぎない?

 そう思った時、男たちの会話を思い返してサッと血の気が引いた。

 待って、さっきこいつら、なんて言ってた?
 殺すなって言ってなかった?
 ――殺す気なんだわ。私を。

 死人に口なし。適当な理由をあげつらって私に罪を着せて、余計なことを話さないように殺そうとしているんだわ。なんてことを考えるの。

 逃げなきゃ……!
 まさかこんな、命の危機に陥るだなんて!

 そう思っているのに、ガッチリ捉えられて身体が動かない。

 どうしよう……!
 私が、アネットを足止めしようとわざわざ遠くのパウダールームに来なければ、こんなことにはならなかったのに。


 天罰が下ったんだ。


 ここは小説の中じゃなくて今の私にとっては現実の世界だというのに……
 ヒロインに転生したからって浮かれて、ひとつの家族を壊そうとしたから……!

 胸に後悔の念が押し寄せ、嗚咽が漏れそうになる。
 口を塞がれているから、嗚咽になりきれなかった吐息が喉奥に詰まる。

 じわりと涙が滲み、身体が震えてきた時――


「お待ちなさい! 彼女をどこへ連れて行くおつもりですか?」


 暗い廊下に凛とした声が響いた。



 嘘。なんで――



 溢れた涙がポロリと頬を伝う。
 視線の先は、果敢にも男たちを鋭く睨みつけるアネットの姿があった。
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