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第二章 いざ、王都へ

第二十三話 sideミランダ

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 きた! きたきたきたきた!
 ついに来たわ! ようやく私の物語が始まるのね!

 王城での夜会の案内を握りしめ、私は自室で声を殺して足をジタバタと踏みしめていた。

 ミランダ・カロライン。それが今世の私の名前。

 髪は桃色のセミロング。瞳の色は翡翠色。豊かな胸とくびれたウエスト。どこからどう見てもとびきりの美人だ。

 前世の記憶を取り戻したのは、つい数ヶ月前のことだった。
 雨上がりのぬかるみに足を取られて転んでしまい、頭を打って気を失ったあの時――私は全てを思い出した。

 ここが生前大好きだった原作小説の世界で、私はそのヒロインに転生したのだということを!!

 私のヒーローであるクロヴィス様は既に既婚者だ。
 けれど、その結婚生活は順風満帆とはいかない。
 心に影がさした頃に、まるで雲の切れ間から光を差し込む太陽のように手を差し伸べるのが私、ミランダというわけだ。

 略奪愛だの姑息だの女狐だの色々と物議を醸したヒロインではあるが、私はミランダの打算的なところも欲に忠実なところも好ましく思っていた。

 そう、好きになったのなら、奪ってしまえばいい。

 相手の結婚生活もうまくいっていないのなら、やり直せるうちにやり直してしまえばいい。

 何を隠そう、私はヒーローであるクロヴィス様の容姿がものすごく好みなのだ。根強いファンが多く、二次創作も活発なコンテンツだったこともあり、即売会でたくさん薄い本を買った。

 本当は嫌なカップリングだったけれど、クロアネ本を出す素敵な絵師様が居て、その絵の素晴らしさ故に新刊が出るたびに足を運んだのが懐かしい。

 さて、とにかく全ては夜会から始まるのだ。
 ようやく、ようやく私の物語が始まるのだ。






 ◇◇◇


「はあっ!? どういうことなの!?」


 王城の大広間。待ちに待った夜会が開催されている会場で、私は信じられないものを目にして固まってしまった。

 いや、いやいやいやいや! どうしてアネットが居るわけ!? 不仲で領地に置いてくるんじゃないの!?

 待って、そういえば夜会の準備で忙しいから話を聞いてあげられなかったけど……ミミリィが最近参加した夜会って、ランディル侯爵家で開催されたって言ってなかった?
 うわ、私ったらうっかりしてたわ! ランディル侯爵家って言ったらアネットの実家じゃないの!
 ミミリィの話をしっかり聞いていれば、アネットが王都に来ていることは想像に容易かったはず!

 本来そこにいるはずがない恋敵を前に、私はギリッと歯を食いしばってアネットを観察した。

 ミランダが庇護欲を誘うタイプだとしたら、アネットは清廉としてキリリと美しいタイプ。

 正直なところ、クロヴィス様と破局する道を辿るアネットには同情する気持ちはあるし、キャラクターとしては嫌いではないのよね。

 こうして実物を目にすると、どこか惹きつけるような魅力を感じてしまう。さすがは物語の主要人物。

 そして、三次元のクロヴィス様もとんでもない美しさだった。
 いつも平面でしか見たことがない推しが、今目の前に存在している。

 いや、待って? かっこ良すぎない? 後光が見えるが?

 アネットがここにいるのは計算外だったけど、美男美女が並び立っていると迫力が違うわね。まるで絵画のような美しさに目が離せなくなる――って、いけない! 見つめすぎてアネットと目が合ったわ!

 私は宰相の娘だもの。こちらに二人が挨拶に来てもおかしくはない。

 内心大パニックの今、声をかけられるわけにはいかないわ!

 私は取り繕うようにグラスを煽ると、ウェイターに空きグラスを返して一旦この場を離れた。戦略的撤退ってやつよ!


「ふう、驚いた」


 壁際まで下がって、ようやく一息つくことができた。
 二人からはしっかり距離を取った。とにかく作戦変更よ。

 私は今日この日まで、何度も読み返した原作小説を思い返してはノートに記録してきた。
 それはもちろん、原作再現をしてクロヴィス様と結ばれるために。

 原作だと、慣れない夜会に疲れたクロヴィス様が中庭に出て一人佇んでいるところにミランダが声をかけるのよ。
 会場の喧騒を遠くに聞きながら、少しお酒の入ったクロヴィス様はポツリポツリと誰にも言えなかった心の内を吐露するの。
 ミランダはそんなクロヴィス様の全てを受け止め、家族のために苦しむクロヴィス様をしがらみから解放し、自分が彼を幸せにしたいと強く願うようになる。

 そう、そうよ。
 とにかく私の理想の未来のために、アネットは邪魔なわけ。

 とにかく二人を引き離さないとクロヴィス様と二人きりになれないわ。
 こうなったら……アネットには強制退場してもらうしかないわね。

 私は決意を固めると、近くを通りかかったウェイターから、なみなみと注がれたワイングラスを受け取った。

 そして、人好きのする笑みを携えて二人の元へと足を向けた。
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