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第二章 いざ、王都へ

第二十話

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「そういえば、屋敷で耳にしたのだが……ここ最近第二王子擁立派が不穏な動きを見せているようだ。王城での夜会は三日後だ。警備も行き届いている中で不穏な動きはないだろうが、一応念頭に入れておいた方がいいだろう」


 ケーキを堪能し、ハーブティーで喉を潤している時に、不意にクロヴィス様が深刻な表情で切り出した。

 私はそっとカップをソーサーに戻して神妙に頷く。


「ええ……私のお父様も気をつけるようにと申しておりました。王家に派閥争いは付きものだとはいえ、苦い顔をしてましたけれど」


 ライラット王家には、現在二人の王子殿下がいる。
 今年十五になる第一王子のルーカス殿下と、七歳になったばかりの第二王子リューク殿下だ。

 ライラット王国において、公爵位は王家に連なる者に与えられるため、実質侯爵位が貴族の最上位とされる。
 我がランディル侯爵家や、先日フィーナのお茶会にも参加してくれたカロライン侯爵家、シェルドゥス侯爵家は古い家門でもあり、昔から要職に付いている。

 ルーカス殿下には生まれた頃からの婚約者がいて、隣国の姫を王太子妃に迎えることが決まっている。現在、殿下は隣国に留学中で、まもなく課程を修了して帰国されるとされている。
 現王妃はこの国唯一の公爵家の出身なので、血が濃くなりすぎないようにとの考えから結ばれた婚約なのだとか。
 王妃は様々な家門から選ばれることになっており、かつてはランディル侯爵家からも妃を排出したことがある。

 しかし、貴族の中には王族の血を尊ぶ者も少なからずいるようで、隣国の姫との婚約をよく思っていないという話を王都にいる頃に聞いたことがある。国家間の関係をより強固にするための婚約でもあるのだが、否定派は都合の悪い意見には耳を貸さないらしい。

 盲目的に王家を崇拝する派閥の歪んだ感情は、不幸にも第二王子のリューク殿下に向けられることとなった。

 第二王子を王太子に擁立し、血の近しい公爵家から妃を娶り、ライラットの血が国を導くようにと画策しているともっぱらの噂なのだ。

 とはいえ、第二王子はまだ七歳。その上、内気で病弱であるために自室に篭りがちであると聞く。
 それももしかしたら、敵も味方も入り混じる貴族社会から距離を置くための口上なのかもしれないが……どちらにせよ、フィーナと二つしか変わらない幼気な少年が、政治の道具として持ち上げられていることに強い嫌悪感を抱いてしまう。


「立太子してしまえば、第二王子派も大人しくなるはずだ。この国の決め事はそう簡単に覆すことができないからな。逆を言えば、立太子するまでの間はどんな動きをしてくるか警戒しなくてはならないということでもあるのだが……」

「ええ……第二王子のご年齢を考えると、今度の夜会にはいらっしゃらないとは思いますが、中央の貴族の動向を探るいい機会かもしれませんね」


 ランディル侯爵家は王都を守る騎士団を率いている。不穏因子の警戒はもちろん行っているだろうし、水面下では調査を進めているだろう。
 アンソン辺境伯家としても、国の中央が揺らげば隣国につけ込まれる隙となるため看過できない話題ではある。


「さ、次は本屋に行きましょうか。王都で人気の絵本作家の新作が入っているようですよ」


 暗い話題を切り替えるため、パチンと手を叩いてあえて明るい声を出す。
 静かに話を聞いていたフィーナは、絵本と聞いてパッと笑顔を咲かせた。


「えほん! たのちみです!」


 本屋はちょうど今いるカフェから程近い場所に位置している。
 絵本以外にもロマンス小説や冒険物の小説、それに様々な研究結果をまとめた書籍など、幅広く取り扱われている王都でも一番大きな店だ。
 他国の本も扱いがあるため、世界情勢を知るにもいい場所なのだ。

 私たちはカフェを出ると、まっすぐに本屋に向かった。


「ふわああ! かわいい!」


 フィーナは初めて見る絵本たちを前に興奮が止まらない様子だ。あれこれと手にとっては「かわいい!」「おもしろそう!」とウキウキしている。連れてきた甲斐があったわ。こんなに嬉しそうにしてくれるなんて。

 クロヴィス様は外交に関する書棚に向かわれたので、私も絵本棚の近くにあるロマンス小説の棚を眺めてみる。

 最近は騎士様と王女様の禁断の恋が流行っているのかしら? 随分と似たようなタイトルが目立つわね。

 なんて考えながら気になるタイトルを手にとってパラパラと眺めてみる。


「どこかに画材屋さんはないかしら? 上質な紙と、水彩絵具なんかがあったら二次創作の幅が広がるんだけど……」

「うん? どこか行きたいところがあるの?」


 絵本棚の辺りから低い声が聞こえたので、恐らく声の主はフィーナだろうと問い返す。

 ちょうど今、近くに他の客はいない。フィーナは興奮すると随分と大人びた言動をするので、私もすっかり慣れてしまって驚かなくなってきた。親も子供と共に成長するものだって聞くけれど、私も少しは親らしくなって来たのかしら。


「えっ、あ……うーん……ここは甘えるべきかしら? せっかく王都まで来たのだもの。画材に妥協したくはないものね……はいっ! フィーはがざいやさんにいきたいです!」


 またも考え込むようにブツブツと呟いたフィーナは、なんと画材店に行きたいと言う。
 そういえば、フィーナはよく自室や中庭で絵を描いている。確かに王都でしか手に入らない画材もあるかもしれないわ。

 子供の興味を伸ばすのも親の勤めかしらね。


「ええ、もちろんよ! クロヴィス様を呼んでくるわね」


 私はフィーナが抱えていた絵本を数冊手に取ると、クロヴィス様を呼びに向かった。
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