2 / 5
2.わたくしが誰かご存知ないようで
しおりを挟む
「恐れ入りますが、物証はないのでしょうか? アリス様の証言だけで罪を問われるのは、さすがにいかがなものかと」
「はっ、物証だと? あるに決まっているだろう。アリスの教科書、壊されたペンダント、破かれたドレス、どれもお前がしたことだ!」
色々と陳列され始めましたが、そんなものを示されましてもわたくしの犯行だという証拠にはならないのではないでしょうか? 教科書を破かれたように細工することは造作もありませんし、自作自演の線も考えなくてはならないでしょうに。
会場の皆さまは呆れた様子で傍観を決め込んでいて、オーマン様やアリス様の証言に加わる様子もございません。
この様子だと、目撃者も協力者もいないご様子です。
「お言葉を返すようですが、わたくしがアリス様を虐める理由がございません。その点はいかがお考えでしょうか?」
「アリスを虐める理由がないだと? ふんっ、ユータカリア家とは我が国では聞いたこともないほどの下級な貧乏貴族なのだろう? 貧しいお前は、下級貴族ながら王子に寵愛を受けるアリスに醜い嫉妬をし、あわよくばその場所を取って代わろうと画策していたのだろう!」
「まあっ」
なんということでしょう。
仮にも一国の王子ともあろうお方が、自国の貴族の家名すらろくに覚えていらっしゃらないなんて。「ユータカリア家」がこの国に存在しないこともご存じないとは……呆れて物も言えません。
会場の皆さまも息を呑んで顔を青くしておりますわ。
絶句するわたくしが反論しないことをいいことに、オーマン様は演説じみたお話を続けられるようです。
「それに、お前はいつも俺に熱い視線を送ってきていたからな。ふん、お高く止まっていても結局は嫉妬に狂うただの女だったというわけだ」
なるほど。確かにわたくしはオーマン様をよく見ておりました。
ええ、だってそれがわたくしの仕事だったのですから。それを恋慕の眼差しと勘違いなさるなんて……自意識過剰も甚だしいですわね。勘違いもここまでくると笑えてしまいますわ。
「なにを笑っている! 自分の置かれている立場がわかっているのか!」
「あら、ついおかしくって。失礼いたしました」
一向に狼狽えず、余裕があるわたくしが気に食わないのでしょう。オーマン様は顔を真っ赤にしてお怒りのご様子です。
「笑っていられるのも今のうちだ。これを見ろ! 先月神殿での奉仕活動の際、お前がアリスを虐めていたと証言する書簡だ! 傷だらけで泣いていたアリスは見ていられなかった、暴力を振るっていたのはヴァネッサだと明記されている。ふふん、聞いて驚くな。これを書いたのは神官長だ!」
「まあっ! その書簡、ちょうだいしても?」
「はあ? つくづく馬鹿なやつめ。何度見てもここに書かれていることに変わりはない! 穴が開くまで読み込むがいい」
「はっ、物証だと? あるに決まっているだろう。アリスの教科書、壊されたペンダント、破かれたドレス、どれもお前がしたことだ!」
色々と陳列され始めましたが、そんなものを示されましてもわたくしの犯行だという証拠にはならないのではないでしょうか? 教科書を破かれたように細工することは造作もありませんし、自作自演の線も考えなくてはならないでしょうに。
会場の皆さまは呆れた様子で傍観を決め込んでいて、オーマン様やアリス様の証言に加わる様子もございません。
この様子だと、目撃者も協力者もいないご様子です。
「お言葉を返すようですが、わたくしがアリス様を虐める理由がございません。その点はいかがお考えでしょうか?」
「アリスを虐める理由がないだと? ふんっ、ユータカリア家とは我が国では聞いたこともないほどの下級な貧乏貴族なのだろう? 貧しいお前は、下級貴族ながら王子に寵愛を受けるアリスに醜い嫉妬をし、あわよくばその場所を取って代わろうと画策していたのだろう!」
「まあっ」
なんということでしょう。
仮にも一国の王子ともあろうお方が、自国の貴族の家名すらろくに覚えていらっしゃらないなんて。「ユータカリア家」がこの国に存在しないこともご存じないとは……呆れて物も言えません。
会場の皆さまも息を呑んで顔を青くしておりますわ。
絶句するわたくしが反論しないことをいいことに、オーマン様は演説じみたお話を続けられるようです。
「それに、お前はいつも俺に熱い視線を送ってきていたからな。ふん、お高く止まっていても結局は嫉妬に狂うただの女だったというわけだ」
なるほど。確かにわたくしはオーマン様をよく見ておりました。
ええ、だってそれがわたくしの仕事だったのですから。それを恋慕の眼差しと勘違いなさるなんて……自意識過剰も甚だしいですわね。勘違いもここまでくると笑えてしまいますわ。
「なにを笑っている! 自分の置かれている立場がわかっているのか!」
「あら、ついおかしくって。失礼いたしました」
一向に狼狽えず、余裕があるわたくしが気に食わないのでしょう。オーマン様は顔を真っ赤にしてお怒りのご様子です。
「笑っていられるのも今のうちだ。これを見ろ! 先月神殿での奉仕活動の際、お前がアリスを虐めていたと証言する書簡だ! 傷だらけで泣いていたアリスは見ていられなかった、暴力を振るっていたのはヴァネッサだと明記されている。ふふん、聞いて驚くな。これを書いたのは神官長だ!」
「まあっ! その書簡、ちょうだいしても?」
「はあ? つくづく馬鹿なやつめ。何度見てもここに書かれていることに変わりはない! 穴が開くまで読み込むがいい」
239
お気に入りに追加
351
あなたにおすすめの小説
誤解なんですが。~とある婚約破棄の場で~
舘野寧依
恋愛
「王太子デニス・ハイランダーは、罪人メリッサ・モスカートとの婚約を破棄し、新たにキャロルと婚約する!」
わたくしはメリッサ、ここマーベリン王国の未来の王妃と目されている者です。
ところが、この国の貴族どころか、各国のお偉方が招待された立太式にて、馬鹿四人と見たこともない少女がとんでもないことをやらかしてくれました。
驚きすぎて声も出ないか? はい、本当にびっくりしました。あなた達が馬鹿すぎて。
※話自体は三人称で進みます。
婚約破棄されましたが、私はあなたの婚約者じゃありませんよ?
柴野
恋愛
「シャルロット・アンディース公爵令嬢!!! 今ここでお前との婚約を破棄するッ!」 ある日のこと、学園の新入生歓迎パーティーで婚約破棄を突きつけられた公爵令嬢シャルロット。でも……。 「私はあなたの婚約者じゃありませんよ? どなたかとお間違いなのでは? ――そこにいる女性があなたの婚約者だと思うのですが」 「え!?」 ※ざまぁ100%です。
※小説家になろう、カクヨムに重複投稿しています。
婚約破棄ですか。それでは真実の愛(笑)とやらを貫いていただきましょう。
舘野寧依
恋愛
真実の愛(笑)とやらに目覚めたとかで、貴族の集まる公の場で王太子様に婚約破棄されたわたしは、エヴァンジェリスタ公爵令嬢のロクサーナと申します。
王太子様に愛する男爵令嬢をいじめたとかで難癖をつけられましたが論破。
しかし、聞くに堪えない酷い侮辱を受けたので、公爵家ともども王家を見限ることにしました。
その後、王太子様からわたしの元に書状がたくさん舞いこんできますが、もう関わりたくもないですし、そちらが困ろうが知ったことではありません。
どうぞ運命のお相手と存分に仲良くなさってくださいませ。
[連載中]蔑ろにされた王妃様〜25歳の王妃は王と決別し、幸せになる〜
コマメコノカ@異世界恋愛ざまぁ連載
恋愛
王妃として国のトップに君臨している元侯爵令嬢であるユーミア王妃(25)は夫で王であるバルコニー王(25)が、愛人のミセス(21)に入り浸り、王としての仕事を放置し遊んでいることに辟易していた。
そして、ある日ユーミアは、彼と決別することを決意する。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
最後に、お願いがあります
狂乱の傀儡師
恋愛
三年間、王妃になるためだけに尽くしてきた馬鹿王子から、即位の日の直前に婚約破棄されたエマ。
彼女の最後のお願いには、国を揺るがすほどの罠が仕掛けられていた。
悪役令嬢はヒロインをいじめていましたが、そのヒロインはというと……
Ryo-k
恋愛
王立学園の卒業記念パーティーで、サラ・シェラザード公爵令嬢は、婚約者でもあるレオン第二王子殿下から、子爵令嬢であるマリアをいじめていたことで、婚約破棄を言い渡されてしまいました。
それは冤罪などではなく紛れもない事実であり、更に国王陛下までいらしたことで言い逃れは不可能。
今まさに悪役令嬢が断罪されている。最後にいじめられていた側のマリアが証言すれば断罪は完了する。はずだが……
※小説家になろうでも投稿しています
元婚約者は入れ替わった姉を罵倒していたことを知りません
ルイス
恋愛
有名な貴族学院の卒業パーティーで婚約破棄をされたのは、伯爵令嬢のミシェル・ロートレックだ。
婚約破棄をした相手は侯爵令息のディアス・カンタールだ。ディアスは別の女性と婚約するからと言う身勝手な理由で婚約破棄を言い渡したのだった。
その後、ミシェルは双子の姉であるシリアに全てを話すことになる。
怒りを覚えたシリアはミシェルに自分と入れ替わってディアスに近づく作戦を打ち明けるのだった。
さて……ディアスは出会った彼女を妹のミシェルと間違えてしまい、罵倒三昧になるのだがシリアは王子殿下と婚約している事実を彼は知らなかった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる