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「どうすればロディ様と触れ合えるようになるかしら」

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「とにかく、せっかく夫婦となったのですから、少しずつでもロディ様と時間を重ねていきたいです」

「わ、分かった……善処しよう」


 結婚式の夜に誤解を解いた私たちは、次の日から一緒に食事をするようになった。
 ロディ様は私の好みを把握しようと瞠目しながら観察してくる。


「ロディ様、そんなに見つめられては食べにくいです」

「はっ! すまない。あー……デザートは何にする? なんでも好きなものを用意させよう」

「うーん、悩みます。用意していただけるお食事はどれも美味しくて……全て大好きなのです」

「大好き……! ぐっ、俺も君が大好きだ……ウッ」

「ロディ様!?」


 ふたしたことで発作を起こすロディ様には困ったものだけれど、時間を重ねれば改善されると信じよう。


「リ、リリ……リリリリ……ッ! はぁ、はぁ、ごほん。き、君、今日のドレスはどれにする? ああ、どれも似合いすぎて決められん……!!」

「ふふ、今日はこちらの宵色のドレスにします。ロディ様の瞳の色に似ていますね」

「……きゅう」


 ドレスを選ぶだけでも目を回し、


「そっ、そんなにうなじを出してどうする!? 俺にとどめを刺すつもりか!?」

「え? そんなに出ていますか……? せっかくメアリが綺麗にまとめてくれたので気に入っているのですが……」

「最高だと思う」


 髪型ひとつにも毎日反応を返してくれるようになった。


 次第に、ロディ様は今日の装いをどう思うだろうか、褒めてくれるだろうか、可愛いと思ってくれるだろうか、と彼の反応を楽しみにしている自分がいた。


 専属侍女のメアリも、私に誠心誠意に尽くしてくれる。
 サキュバスだという彼女は色気に溢れ、隙あらばセクシーなドレスを着せようとする。そんなことをしてはロディ様が卒倒するに違いないのに、分かっていて楽しんでいるようにも見える。快活で裏表のない彼女の存在にはとても助けられている。

 そんな魔王城での生活は、幸せに満ちているのだけれど、ロディ様は一向に私に触れる素振りがない。

 ジッと見つめれば顔を真っ赤にして「勘弁してくれ」「見ないでくれ」とそっぽを向いてしまう。ススス、と距離を詰めれば、ズザザッと後退りされてしまう。
 いつしかそんな照れ屋なロディ様が可愛くて、愛おしくてたまらなくなっていた。


 でも、やっぱり夫婦なのだから、触れて欲しいと思うのも必然で――


「どうすればロディ様と触れ合えるようになるかしら」


 ヘアセット中に思わずこぼした言葉に、メアリがピクリと反応する。


「あらあらあら、まあまあまあ! むっふふふん。リリアーナ様からお気持ちをお伝えしてみてはいかがでしょうか? いっそのこと押し倒してしまっては!?」

「はあ……メアリ、そんなことをしたらロディ様がどうなってしまうか分かって言っているでしょう?」


 鏡越しにウキウキ楽しそうなメアリを見つめる。メアリは魅惑的なピンクの瞳に、同じく鮮やかなピンクの髪をツインテールに巻いた可愛くも妖艶な女性だ。愛読書は恋愛小説ということで、色々な知識を私に話して聞かせてくれる。


「そもそも、どうしてロディ様はあれほどまでに私を好いてくださるのかしら」


 ついでに溢した言葉に、メアリは愕然とした様子でコームを落とした。


「う、嘘……ご主人様ったら、そんなことも話していないのですか!? はぁ……仕方がありませんね。あのヘタレが」


 メアリはぼそりと毒を吐いた後、落としたコームをサッと拾い上げると、「少々お待ちください」と一言残して部屋を出ていってしまった。間も無く、ワゴンに何かを乗せて戻ってきた。


「メアリ、それは?」


 見たところ、一般的な銀のトレーのように見える。
 私の興味津々な様子に得意げなメアリが胸を張る。


「むふふ、使ってみてのお楽しみです。このトレーに水を張って、ご主人様と一緒に水面を覗いてみてください。月の光に満ちた時、面白いことが起こりますよ。幸い今夜は満月です。ベランダに用意しておきますので、ご主人様をベランダにうまく連れ出してくださいませ」

「? 分かったわ」


 一体何が起こるというのだろう。

 メアリが私に、ましてやロディ様に危害を加えることはあり得ないので、彼女を信じて試してみよう。
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