役立たずのお飾り令嬢だと婚約破棄されましたが、田舎で幼馴染領主様を支えて幸せに暮らします

水都 ミナト

文字の大きさ
6 / 7

一方その頃フィリップは

しおりを挟む
「どうなっているんだ!!!」

 フィリップがクリスティーナに婚約破棄を言い渡してひと月が経過した。
 いつも側でニコニコしているだけでお飾りのようだった元婚約者を排除し、悠々自適な生活が手に入ると思っていたのだが…

 クリスティーナが出ていった翌日、階段から転んで足を負傷してしまい、全治2週間の怪我をしてしまった。
 クリスティーナが出ていった一週間後、所有していた炭鉱で事故があり、幸い怪我人は居なかったものの、炭鉱が一夜で崩落してしまった。
 クリスティーナが出ていった二週間後、信頼して経理を任せていた臣下が横領に手を染め、莫大な資金を持って雲隠れしていたことが発覚した。
 クリスティーナが出ていった三週間後、これまで成功に成功を収めていた宝石商であったが、クリスティーナと別れてすぐに結んだ大型の取引で仕入れた宝石のほとんどが贋作であると判明した。

 そして、クリスティーナが出ていった一ヶ月後の今日。目の前で山になっている紙の束は、損害賠償請求書や、事業をするにあたって借り入れた負債の山である。フィリップが落ち目と見るや、これまで快く融資をしてくれていた資産家や貴族達は、手のひらを返したように冷たくなり、貸した金を返せと毎日請求書を送ってくるようになったのだ。

「くそっ!!どうなっているんだ!!!」

 フィリップは再び叫ぶと、ドンッと力任せに机を叩いた。その拍子に、紙の山が雪崩のように崩れてしまった。

 おかしい。事業を始めてずっと失敗知らずだったではないか。

 フィリップは机に手をつき頭を抱えた。

 クリスティーナが側に居た頃はそれはそれは笑ってしまうほどにあらゆる歯車がうまく噛み合い、順調に回っていた。だが、クリスティーナがフィリップの元を去ってからというものの、大事な歯車が抜け落ちてしまったかのように、全てが崩れ去ってしまっていた。

 なぜだ…俺は自分の力だけで財を築いてきたんだ。傾きかけていた実家を立て直し、社交界でも話題の的だった。金が手に入ると、安直な女達はすぐにフィリップの元へと集まってきた。クリスティーナという婚約者はいたが、正式に結婚するまでは手も繋がないと言われていたフィリップは、年相応の異性への興味や欲求を近付いてきた令嬢で晴らしていた。そのことに気づいていたクリスティーナは初めは慎むようにと釘を刺してきたが、次第に呆れ顔で何も言わなくなっていった。
 そんな令嬢達も、今ではもうフィリップの元に近づこうともしない。腫れ物を触るように扱われ、コソコソと陰口を言われる始末である。
 一番頼りにしていた臣下にも裏切られ、金を持ち逃げされてしまった。もうフィリップが信じられるものはほとんど無いに等しかった。


『さようならフィリップ様…ああ、何があっても後から文句は仰らないでくださいね?どんなに乞われましても復縁も致しませんので。どうかお一人の力でせいぜい頑張ってくださいな』


 こんな状況になって、今更思い出すのは別れ際のクリスティーナの言葉。
 ああ、今思うと君はいつも正しかった。クリスティーナは何もしないでただ側に居たお飾りな令嬢なんかじゃない。
 俺がそうさせていた・・・・・・・・・んだ。


 炭鉱に手をつける時も、
「恐れながらフィリップ様。しっかりと地盤調査はなされたのですか?この辺りは地盤が緩いと聞き及んでおります。作業員の安全のためにも調査すべきですわ。万一のことがございましたら…」
「問題ない。この山は昔からよく訪れているし大きな自然災害にも動じないことは実体験から証明済だ」
「ですが、きちんと専門機関による調査をしないことには…」
「くどいぞ!俺のやることに口出しをするな!」

 臣下に経理を一任する時も、
「フィリップ様。きちんと経理の資格を有した第三者を登用すべきかと。身内でしたら甘えや緩みが生じやすく、後々のトラブルになりかねないかと思いますわ」
「お前は俺の臣下が信用ならないと言うのか!!失礼なやつだな!!黙っていろ!!」

 宝石の商談の時も、
「貴族の間では身に着ける宝石は家柄や身分の高さを示すものでもありますわ。だからこそ本物であり上質なものが求められます。万一偽物だということがあれば、フィリップ様の信用は一気に落ちてしまいます。必ず全て鑑定士に依頼の上、鑑定書を作成すべきかと…」
「そんな面倒で時間がかかることをしていたら、売り時を逃してしまうかもしれないだろう。それに俺のこの目が真贋を見抜けないとでも言うのか?お前は黙って俺の側に居るだけでいいんだ。いちいち俺のやることに口を出すな!」

 事業が軌道に乗り始めた時も、
「フィリップ様。いくら表面上は成功を収めているように見えても、その成功を支える一つ一つの柱に綻びがあると、その地盤はふとしたきっかけであっけなく崩れ去ってしまうものなのです。ですので、慢心せずに真摯に事業に向き合う必要がございます。ご自身の力だけでの成功だと過信せず、もっと周りにも目を向けて…」
「ふんっ、何を偉そうに。成功を収める俺が羨ましいのか?自分は何も出来ないお飾りだからといってひがむのは醜いぞクリスティーナ」
「……………はぁ、わかりましたわ。もうこれ以上何も言うことはありませんわ。言われた通り”お飾り令嬢”に徹するとします」
「はんっ、自分でそう称するとは世話がない奴だ」

 その頃から、クリスティーナが口うるさく俺のすることに口出ししてくることは無くなった。クリスティーナに言われるまでもなく、俺の事業はうまく行っていた。行っていると思っていた。

 元々爵位が上の伯爵家令嬢であるクリスティーナ。
 初めは身分不相応だと婚約に反対の声が多く上がっていたが、クリスティーナは俺が話す事業計画や実家を復興させる夢を語ると、目を輝かせて楽しそうだと笑ってくれた。俺はその笑顔に一目惚れして、彼女なら俺についてきてくれると思い、すぐに婚約を申し込んだ。伯爵家からは渋る声が上がっていたが、クリスティーナが面白そうだからと話を受けてくれたと聞いた時には天にも昇る気持ちになった。
 クリスティーナにふさわしい男になるべく、俺なりにがむしゃらにやってきたつもりだった。だが、事業がすぐに軌道に乗り、甘い蜜を吸ってしまった俺は、初心を忘れて自分の力をひたすら慢心してしまった。
 だからこそクリスティーナの助言や提言が鬱陶しく感じた。俺は一人でなんでもできるのだと。

「俺はどうすればいいんだ、クリスティーナ…」

 フィリップは机上に散らばる負債や請求書の紙をぐしゃりと握りしめた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

好きじゃない人と結婚した「愛がなくても幸せになれると知った」プロポーズは「君は家にいるだけで何もしなくてもいい」

佐藤 美奈
恋愛
好きじゃない人と結婚した。子爵令嬢アイラは公爵家の令息ロバートと結婚した。そんなに好きじゃないけど両親に言われて会って見合いして結婚した。 「結婚してほしい。君は家にいるだけで何もしなくてもいいから」と言われてアイラは結婚を決めた。義母と義父も優しく満たされていた。アイラの生活の日常。 公爵家に嫁いだアイラに、親友の男爵令嬢クレアは羨ましがった。 そんな平穏な日常が、一変するような出来事が起こった。ロバートの幼馴染のレイラという伯爵令嬢が、家族を連れて公爵家に怒鳴り込んできたのだ。

没落寸前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更手のひらを返しても遅いのです。

木山楽斗
恋愛
両親が亡くなってすぐに兄が失踪した。 不幸が重なると思っていた私に、さらにさらなる不幸が降りかかってきた。兄が失踪したのは子爵家の財産のほとんどを手放さなければならい程の借金を抱えていたからだったのだ。 当然のことながら、使用人達は解雇しなければならなくなった。 多くの使用人が、私のことを罵倒してきた。子爵家の勝手のせいで、職を失うことになったからである。 しかし、中には私のことを心配してくれる者もいた。 その中の一人、フェリオスは私の元から決して離れようとしなかった。彼は、私のためにその人生を捧げる覚悟を決めていたのだ。 私は、そんな彼とともにとあるものを見つけた。 それは、先祖が密かに残していた遺産である。 驚くべきことに、それは子爵家の財産をも上回る程のものだった。おかげで、子爵家は存続することができたのである。 そんな中、私の元に帰ってくる者達がいた。 それは、かつて私を罵倒してきた使用人達である。 彼らは、私に媚を売ってきた。もう一度雇って欲しいとそう言ってきたのである。 しかし、流石に私もそんな彼らのことは受け入れられない。 「今更、掌を返しても遅い」 それが、私の素直な気持ちだった。 ※2021/12/25 改題しました。(旧題:没落貴族一歩手前でしたが、先祖の遺産が見つかったおかげで持ち直すことができました。私を見捨てた皆さん、今更掌を返してももう遅いのです。)

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?

当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。 ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。 対して領民の娘イルアは、本気だった。 もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。 けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。 誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。 弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。

婚約破棄された《人形姫》は自由に生きると決めました

星名柚花
恋愛
孤児のルーシェは《国守りの魔女》に選ばれ、公爵家の養女となった。 第二王子と婚約させられたものの、《人形姫》と揶揄されるほど大人しいルーシェを放って王子は男爵令嬢に夢中。 虐げられ続けたルーシェは濡れ衣を着せられ、婚約破棄されてしまう。 失意のどん底にいたルーシェは同じ孤児院で育ったジオから国を出ることを提案される。 ルーシェはその提案に乗り、隣国ロドリーへ向かう。 そこで出会ったのは個性強めの魔女ばかりで…? 《人形姫》の仮面は捨てて、新しい人生始めます! ※「妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/271485076/35882148 のスピンオフ作品になります。

聖なる特別な日。婚約中の彼から衝撃のクリスマスプレゼントをもらった女性「命だけは助けて!」王子と妹が許してと言うが……

佐藤 美奈
恋愛
聖なる特別な日。王宮ではクリスマスパーティーを開催し招待客をもてなして、どの顔にもお祭り気分が漂っていた。美しい令嬢たちは華やかなドレスを身につけ、多くの人々に名が知られた有名人たちと幸福そうな表情を浮かべて交流を深めて楽しく会話をしていました。 そしてパーティーは終わって一組の美男美女が部屋の中で、肩を寄せ合ってお互いの愛情を確かめ合うのだった。クリスマスの夜も相まって最高の気分で過ごしていた。 公爵令嬢のフローラと王太子殿下のアルディスである。二人は幼馴染で少し前に正式に婚約が発表されて皆が大喜びで祝福した。何故なら二人はカルティエ帝国の大スターで多くの人々から愛されているのです。 「君にプレゼントを用意した」彼がそう言うと彼女をお姫様抱っこして運んでその部屋に移動する。抱かれている間も心臓がドキドキして落ち着かない思いだった。 着いたら大きな箱が置いてある。「何だろう?」フローラは期待で胸を膨らませて目を輝かせていました。

婚約破棄されたので30キロ痩せたら求婚が殺到。でも、選ぶのは私。

百谷シカ
恋愛
「私より大きな女を妻と呼べるか! 鏡を見ろ、デブ!!」 私は伯爵令嬢オーロラ・カッセルズ。 大柄で太っているせいで、たった今、公爵に婚約を破棄された。 将軍である父の名誉を挽回し、私も誇りを取り戻さなくては。 1年間ダイエットに取り組み、運動と食事管理で30キロ痩せた。 すると痩せた私は絶世の美女だったらしい。 「お美しいオーロラ嬢、ぜひ私とダンスを!」 ただ体形が変わっただけで、こんなにも扱いが変わるなんて。 1年間努力して得たのは、軟弱な男たちの鼻息と血走った視線? 「……私は着せ替え人形じゃないわ」 でも、ひとりだけ変わらない人がいた。 毎年、冬になると砂漠の別荘地で顔を合わせた幼馴染の伯爵令息。 「あれっ、オーロラ!? なんか痩せた? ちゃんと肉食ってる?」 ダニエル・グランヴィルは、変わらず友人として接してくれた。 だから好きになってしまった……友人のはずなのに。 ====================== (他「エブリスタ」様に投稿)

妹のほうが可愛いからって私と婚約破棄したくせに、やっぱり私がいいって……それ、喜ぶと思ってるの? BANします!

百谷シカ
恋愛
「誰だって君じゃなくキャンディーと結婚したいと思うさ!」 「へえ」 「狙撃なんて淑女の嗜みじゃないからね!!」 私はジャレッド伯爵令嬢イーディス・ラブキン。 で、この失礼な男は婚約者リーバー伯爵令息ハドリー・ハイランド。 妹のキャンディーは、3つ下のおとなしい子だ。 「そう。じゃあ、お父様と話して。決めるのはあなたじゃないでしょ」 「ああ。きっと快諾してくれると思うよ!」 そんな私と父は、一緒に狩場へ行く大の仲良し。 父はもちろんハドリーにブチギレ。 「あーのー……やっぱり、イーディスと結婚したいなぁ……って」 「は? それ、喜ぶと思ってるの?」 私は躊躇わなかった。 「婚約破棄で結構よ。私はこの腕に惚れてくれる夫を射止めるから」 でもまさか、王子を、射止めるなんて…… この時は想像もしていなかった。 ==================== (他「エブリスタ」様に投稿)

処理中です...