21 / 25
第三章 記憶と緩まる封印
こたつとみかん
しおりを挟む この地には巨大な国家がいくつかあり、そしてその周囲に小国が散らばっている。
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
人々の往来は東西中央海の道を通じていくつもルートがあり、それはまた、交易に従事する民族によって都度開発されていた。
この国、アルメルセデスは小国ながら、西は山脈、南と東は海に隔たれ、そして北は雪深い氷河に覆われた地域とあって、あまり他国との戦禍には巻き込まれることなく長い歴史を誇ってきた。
海を隔てたはるか東には龍が住まうという華国。南には砂漠の国カナン。そして山脈を隔てた西には帝国。
アルメルセデスは地域的に、この西の地域の覇者である帝国の影響下にあると言える。
過去、アルメルセデスの王室が絶えた時、帝国からその皇室の血筋の者を王に迎えたこともあった。
それでも属国とはならず独立を保ったのも、この地の特殊性故だろう。
ここ、アルメルセデスは神に護られた剣と魔法の国。
この国が自らそう名乗るようになったのは、これより一世紀は前の事だった——。
♢ ♢ ♢
この世界には神の氣が満ち、それは生命の活力ともなると共に、濃すぎるその氣は命あるものにとって毒にもなる。
エーテルと呼ばれるそんな神の氣は、真那と呼ばれる清浄な氣と、そしてその状態が変った魔と呼ばれるものに分けられる。
水と氷のように、ただその状態が変わっただけで同じ神の氣であるに違いはないのだけれど、生憎と生命にとってその性質は正反対に作用してしまう。
水が命を育むように、真那は生命の活力となり。
氷が死を呼ぶように、魔は生命を蝕んだ。
元々、この世界を構成するブレーンの表面に存在するには神の氣は真那の状態である場合が多く。
ブレーンの内側には魔が多かった。
そのため、生命はそのブレーンの表面に多く生まれ、繁殖していったのだった。
真那の泡、プランクブレーンはいつしか命の源大霊を産み。
そしてその大霊から魂が産まれ、生命に宿り『意志』が目覚め。
『意志』すなわちその神のかけらは『人』と呼ばれるものとなる。
神は自らの分身でもあるその人の誕生を祝福し、彼らに加護を与えた。
しかしそれは、神による人の魂に対する、人がその全ての権能を解放し神と同等となることが無いようにする為の枷でもあった。
そうしてその能力に対して枷が嵌められた『人』は、命の終わりにまた大霊に還る。
多くの命はそうしてその円環の輪の中で、永く時を紡いできたのだった。
■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■
「本日をもって貴様は解任だ、聖女フランソワ!」
亜麻色の髪の聖女フランソワは、そろそろお昼の食事の時間だなぁとのんびりしている所で、自室を訪れた王室聖女庁長官を務める王太子、シャルル・ド・アルメルセデスにいきなりそう告げられた。
一瞬あっけにとられる彼女。
それでもすぐに気をとりなおす。
「はう。何かございましたでしょうか?」
そう首を傾げる彼女。
それでなくとも冷たい目をしていたシャルル王太子、いっそう冷えた視線を聖女に向けた。
「お前のそういう所が私はずっと気に入らなかったのだ。聖魔法も碌に使えない半人前のくせに。お前のような者を聖女として迎えた事自体が誤りだったのだ!」
そう怒鳴り。
「まあいい。真の聖女が見つかった今となってはお前はもう用済みだ。荷物を纏めてとっとと実家に帰るといい!」
と続けた後、背をむけ部屋を出ていった。
♢ ♢ ♢
0
お気に入りに追加
44
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った
冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。
「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。
※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!
翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。
「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。
そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。
死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。
どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。
その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない!
そして死なない!!
そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、
何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?!
「殿下!私、死にたくありません!」
✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼
※他サイトより転載した作品です。

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜
あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』
という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。
それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。
そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。
まず、夫が会いに来ない。
次に、使用人が仕事をしてくれない。
なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。
でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……?
そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。
すると、まさかの大激怒!?
あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。
────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。
と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……?
善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。
────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください!
◆小説家になろう様でも、公開中◆
【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。
ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。
彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。
「誰も、お前なんか必要としていない」
最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。
だけどそれも、意味のないことだったのだ。
彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。
なぜ時が戻ったのかは分からない。
それでも、ひとつだけ確かなことがある。
あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。
私は、私の生きたいように生きます。

家出したとある辺境夫人の話
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』
これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。
※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。
※他サイトでも掲載します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる