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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される
21. 認めたくない現実は
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「な、なんでお前が…生きていたのか?」
アレク達は、まるで亡霊を見るかのように刮目してエレインを凝視していた。
「えっと…その、ひ、久しぶり…?」
エレインが気まずそうに片手を上げると、ホムラが盛大にため息をついた。
「お前マジで…バッッカだなァ。自分を捨てた奴らによくそんなことが言えるな」
「そっ、そんなこと言われても…何を言ったらいいのか…」
アグニに咥えられながら宙吊り状態でエレインは目を泳がせる。ちなみにアグニは2メートルほどの火竜の姿をしていた。上限と下限があるものの、ある程度のサイズにはなれると言う。その話を聞いたとき、便利だ、とエレインは感嘆した。
「ぺっ」
「ちょ、アグニちゃ…!?どわぁあっ!?」
おろおろしていると、見かねたアグニにポイッと投げ捨てられてしまい、ホムラの足元にめり込むエレイン。
「ったく、どんくせぇな」
今度はホムラに襟元を掴まれて、エレインはよろよろと立ち上がる。
「なっ…なんで生きて…」
「あ?当たり前だろ。俺はそう簡単に冒険者を殺したりしねぇよ。こいつは今俺が保護してる」
瞳を揺らしながら再び尋ねるアレクに、ホムラが答える。その回答にアレクは絶句した。
アレクがイメージしていた『破壊魔神』は、何もかもを破壊し尽くし、蹂躙し、殺戮するボスであった。だが、実際のホムラはあまりにもその想像とかけ離れていた。化け物並みに強いのは想像を超えていたのだが。
「ま、コイツが捨てられたのが俺の階層で良かったよ。そうじゃなけれりゃ、死んでただろうな。お前たちの企み通りになァ」
急にゴッとホムラの放った殺気がアレク達に襲い掛かった。熱気を帯びた圧に、身体中からどっと汗が吹き出し、ヒュッヒュッとアレク達の呼吸は浅くなる。
「くっ…これは俺たちパーティの問題だ。お前にとやかく言われる筋合いは、ない…!」
アレクが苦し紛れに言った言葉は、ホムラに笑い飛ばされてしまう。
「ははっ、散々コイツのことを都合よくコキ遣って、不要になったら始末する?それがダンジョンを共に生き抜いてきた仲間にすることかよ。お前らみたいなクズな冒険者は生まれて初めて見るわ」
ホムラの口元は笑っているが、目は笑っていなかった。瞳孔が開ききり、黒目が猫のように細められ、まるで獣のようである。
「ほら、立てよ。まだ戦えんだろ?それとも何だ?ああ…いつもと違って調子が出ないんだろう?」
「なっ!?何故そのことが…」
ホムラの図星を突いた言葉に、アレクは思わず目を見開いた。
「くっくっ、そうだろうなぁ…今まではエレインのお陰で強さが嵩増しされてたんだもんなァ」
「な、何を言っているんだ…?」
ホムラの言葉に動揺したのはアレクだけではなかった。アレクが答えを求めるように仲間達を見たが、皆眉を顰めて怪訝な顔をしていた。
「ふん、まあ実感してみないと分からなねぇだろうな。おい、おチビ」
「はっ、はひ!?」
エレインはハラハラと2人の会話を見守っていたが、急に話を振られてびくりと肩を跳ねさせた。
「お前、アイツらに補助魔法をかけろ」
「え……?」
予想外の指示に、エレインは目を瞬かせた。アレク達も何を言っているんだとばかりに訝しんでいる。
「いいから、コイツらみたいな自惚れたバカはな、身体で実感しねぇと分からないんだよ」
「じゃ、じゃあ…いきますよ?《強化》!」
エレインは戸惑いながらも、アレク、ロイド、ルナ、リリスに一通りの能力強化の補助魔法をかけた。
淡い光が身体を包み、アレク達は自らの身体や手を見ている。少し懐かしい、ホッとするような心地がするのは何故なのか。
「よし、かかったな。ほら、ちょっと打ち込んでみろよ」
補助魔法が発動したことを確認すると、ホムラは挑発するように人差し指をちょいちょいと動かした。
「アレク…」
心配そうに眉を下げるリリスから、長剣を受け取ると、アレクは長剣を支えにしてゆっくりと立ち上がった。そして、力の流れを確認するように手を握ったり開いたりする。
何が何だか分からないが、いつもの調子が出そうな気がした。
「くっ、情けをかけたこと、後悔させてやる!オラァァァ!」
アレクはホムラの挑発に乗り、力強く床を蹴るとホムラに切りかかった。
キィン!キィン!
アレクの素早い太刀をホムラは片手で持った灼刀で防ぐ。
先程と違い、アレクの踏みしめる力も、長剣を振り抜くスピードも、太刀の重さも、いつもの調子が出ている。
「ふっ、やっぱり補助魔法はすげぇな。さっきと段違いじゃねぇか」
「笑っていられるのも今のうちだ。補助魔法だか何だか知らないが、これが俺の本来の力だ!」
「はっ、まだそんな自惚れたことを言うか」
ホムラはどこか楽しそうに交戦しているが、アレクはいつもの調子が戻り、勝機があると感じていた。チラリとルナに目配せをすると。ルナは頷き、ロイドの盾に隠れて詠唱を始めた。リリスは先ほどからアレクに治癒魔法をかけてくれている。
皆、身体から湧き上がる力を感じて気力が戻ったようだ。
(いける…!この調子なら隙をつけば勝機はある!)
アレクが口元に笑みを浮かべると、長剣を振り下ろし、ホムラの灼刀で跳ね返されると同時に後方に大きく跳躍した。そのタイミングで、ルナが闇魔法を放った。
「…《漆黒の鎖》!!」
ルナ得意の拘束魔法が発動し、ホムラの足元に魔法陣が浮き上がる。そして数多の黒い鎖が、勢いよくホムラに絡みついた。
「うお?」
ホムラが手足を動かすも、ギシギシと鎖が絡みついて身動きが取れない。
好機とばかりに、アレクがホムラに勢いよく切りかかった。
「死ねェェェェェ!!!」
が、首を狙って勢いよく振り抜かれた長剣は、ホムラの首を跳ねることなく回転しながら上空へ吹き飛んだ。
ホムラが2本の灼角で、アレクの長剣を弾き飛ばしたのだ。
「甘いな。俺の角がただの飾りだと思っていたのか?」
ホムラはニヤリと不敵に笑う。そして、ふんっと力を込めると、ルナの鎖を容易く引きちぎった。
「う、嘘…今までこの鎖から逃れたものは居ないのに…」
ルナは目を見開いて驚愕している。
「さて、そろそろボーナスタイムも終了だ。おチビ!魔法を解除しろ!」
「え?あ、はいっ!」
ホムラが叫ぶと、壁際で戦いを見守っていたエレインが慌てて杖を掲げる。
「うっ、また身体が重く…!?なんなんだ一体…?」
エレインが魔法を解除すると、アレクは先程まで感じていた力の源が無くなったような気分になった。
そんな様子を見ながら、ホムラは呆れたように首を振っている。
「はぁー…だからずっと言ってるじゃねぇか。お前らがいつも自分の力だと過信していたのは、エレインの補助魔法で底上げされた能力だったってこった」
「は?さっきから何を言っている…?」
「今の状態が本来のお前らの力量ってことだよ。全部懇切丁寧に説明しねぇと理解できねーのか?」
ホムラがマジか…とがくりと肩を落とすが、アレクはそれどころではなかった。
エレインが補助魔法とやらを発動した時、身体がいつものように軽くしなやかに動いた。が、解除された途端、再び鉛のように鈍くなってしまった。
(は…?コイツが言っていることが本当なら…今までの俺たちの力は…?)
ようやく行き着いた、認めたくない現実にアレクは絶句した。
「待って…じゃあ、今までエレインは…ダンジョンに居る間、ずっと私たちに補助魔法っていうのをかけ続けていたってことなの…?」
アレクが飲み込んだ言葉を代弁するように、リリスが震える声で言った。その言葉に、アレク、ロイド、ルナ、そしてエレインがぴくりと反応する。自ずと視線がエレインに集まり、エレインは気まずそうに俯いた。
その反応は、肯定を意味していた。
「そうらしいぜェ?ま、お前らはそんな話を聞き入れもしなかったし、エレインの力を侮っていたから、増幅された能力を過信しちまったんだな」
「そんな…馬鹿な…」
散々使えないと揶揄してきたエレインの魔法が、今までのダンジョン攻略を支えていたなんて。
受け入れ難い現実を突きつけられ、アレクを始め、他の3人も力無くと膝をついたのだった。
アレク達は、まるで亡霊を見るかのように刮目してエレインを凝視していた。
「えっと…その、ひ、久しぶり…?」
エレインが気まずそうに片手を上げると、ホムラが盛大にため息をついた。
「お前マジで…バッッカだなァ。自分を捨てた奴らによくそんなことが言えるな」
「そっ、そんなこと言われても…何を言ったらいいのか…」
アグニに咥えられながら宙吊り状態でエレインは目を泳がせる。ちなみにアグニは2メートルほどの火竜の姿をしていた。上限と下限があるものの、ある程度のサイズにはなれると言う。その話を聞いたとき、便利だ、とエレインは感嘆した。
「ぺっ」
「ちょ、アグニちゃ…!?どわぁあっ!?」
おろおろしていると、見かねたアグニにポイッと投げ捨てられてしまい、ホムラの足元にめり込むエレイン。
「ったく、どんくせぇな」
今度はホムラに襟元を掴まれて、エレインはよろよろと立ち上がる。
「なっ…なんで生きて…」
「あ?当たり前だろ。俺はそう簡単に冒険者を殺したりしねぇよ。こいつは今俺が保護してる」
瞳を揺らしながら再び尋ねるアレクに、ホムラが答える。その回答にアレクは絶句した。
アレクがイメージしていた『破壊魔神』は、何もかもを破壊し尽くし、蹂躙し、殺戮するボスであった。だが、実際のホムラはあまりにもその想像とかけ離れていた。化け物並みに強いのは想像を超えていたのだが。
「ま、コイツが捨てられたのが俺の階層で良かったよ。そうじゃなけれりゃ、死んでただろうな。お前たちの企み通りになァ」
急にゴッとホムラの放った殺気がアレク達に襲い掛かった。熱気を帯びた圧に、身体中からどっと汗が吹き出し、ヒュッヒュッとアレク達の呼吸は浅くなる。
「くっ…これは俺たちパーティの問題だ。お前にとやかく言われる筋合いは、ない…!」
アレクが苦し紛れに言った言葉は、ホムラに笑い飛ばされてしまう。
「ははっ、散々コイツのことを都合よくコキ遣って、不要になったら始末する?それがダンジョンを共に生き抜いてきた仲間にすることかよ。お前らみたいなクズな冒険者は生まれて初めて見るわ」
ホムラの口元は笑っているが、目は笑っていなかった。瞳孔が開ききり、黒目が猫のように細められ、まるで獣のようである。
「ほら、立てよ。まだ戦えんだろ?それとも何だ?ああ…いつもと違って調子が出ないんだろう?」
「なっ!?何故そのことが…」
ホムラの図星を突いた言葉に、アレクは思わず目を見開いた。
「くっくっ、そうだろうなぁ…今まではエレインのお陰で強さが嵩増しされてたんだもんなァ」
「な、何を言っているんだ…?」
ホムラの言葉に動揺したのはアレクだけではなかった。アレクが答えを求めるように仲間達を見たが、皆眉を顰めて怪訝な顔をしていた。
「ふん、まあ実感してみないと分からなねぇだろうな。おい、おチビ」
「はっ、はひ!?」
エレインはハラハラと2人の会話を見守っていたが、急に話を振られてびくりと肩を跳ねさせた。
「お前、アイツらに補助魔法をかけろ」
「え……?」
予想外の指示に、エレインは目を瞬かせた。アレク達も何を言っているんだとばかりに訝しんでいる。
「いいから、コイツらみたいな自惚れたバカはな、身体で実感しねぇと分からないんだよ」
「じゃ、じゃあ…いきますよ?《強化》!」
エレインは戸惑いながらも、アレク、ロイド、ルナ、リリスに一通りの能力強化の補助魔法をかけた。
淡い光が身体を包み、アレク達は自らの身体や手を見ている。少し懐かしい、ホッとするような心地がするのは何故なのか。
「よし、かかったな。ほら、ちょっと打ち込んでみろよ」
補助魔法が発動したことを確認すると、ホムラは挑発するように人差し指をちょいちょいと動かした。
「アレク…」
心配そうに眉を下げるリリスから、長剣を受け取ると、アレクは長剣を支えにしてゆっくりと立ち上がった。そして、力の流れを確認するように手を握ったり開いたりする。
何が何だか分からないが、いつもの調子が出そうな気がした。
「くっ、情けをかけたこと、後悔させてやる!オラァァァ!」
アレクはホムラの挑発に乗り、力強く床を蹴るとホムラに切りかかった。
キィン!キィン!
アレクの素早い太刀をホムラは片手で持った灼刀で防ぐ。
先程と違い、アレクの踏みしめる力も、長剣を振り抜くスピードも、太刀の重さも、いつもの調子が出ている。
「ふっ、やっぱり補助魔法はすげぇな。さっきと段違いじゃねぇか」
「笑っていられるのも今のうちだ。補助魔法だか何だか知らないが、これが俺の本来の力だ!」
「はっ、まだそんな自惚れたことを言うか」
ホムラはどこか楽しそうに交戦しているが、アレクはいつもの調子が戻り、勝機があると感じていた。チラリとルナに目配せをすると。ルナは頷き、ロイドの盾に隠れて詠唱を始めた。リリスは先ほどからアレクに治癒魔法をかけてくれている。
皆、身体から湧き上がる力を感じて気力が戻ったようだ。
(いける…!この調子なら隙をつけば勝機はある!)
アレクが口元に笑みを浮かべると、長剣を振り下ろし、ホムラの灼刀で跳ね返されると同時に後方に大きく跳躍した。そのタイミングで、ルナが闇魔法を放った。
「…《漆黒の鎖》!!」
ルナ得意の拘束魔法が発動し、ホムラの足元に魔法陣が浮き上がる。そして数多の黒い鎖が、勢いよくホムラに絡みついた。
「うお?」
ホムラが手足を動かすも、ギシギシと鎖が絡みついて身動きが取れない。
好機とばかりに、アレクがホムラに勢いよく切りかかった。
「死ねェェェェェ!!!」
が、首を狙って勢いよく振り抜かれた長剣は、ホムラの首を跳ねることなく回転しながら上空へ吹き飛んだ。
ホムラが2本の灼角で、アレクの長剣を弾き飛ばしたのだ。
「甘いな。俺の角がただの飾りだと思っていたのか?」
ホムラはニヤリと不敵に笑う。そして、ふんっと力を込めると、ルナの鎖を容易く引きちぎった。
「う、嘘…今までこの鎖から逃れたものは居ないのに…」
ルナは目を見開いて驚愕している。
「さて、そろそろボーナスタイムも終了だ。おチビ!魔法を解除しろ!」
「え?あ、はいっ!」
ホムラが叫ぶと、壁際で戦いを見守っていたエレインが慌てて杖を掲げる。
「うっ、また身体が重く…!?なんなんだ一体…?」
エレインが魔法を解除すると、アレクは先程まで感じていた力の源が無くなったような気分になった。
そんな様子を見ながら、ホムラは呆れたように首を振っている。
「はぁー…だからずっと言ってるじゃねぇか。お前らがいつも自分の力だと過信していたのは、エレインの補助魔法で底上げされた能力だったってこった」
「は?さっきから何を言っている…?」
「今の状態が本来のお前らの力量ってことだよ。全部懇切丁寧に説明しねぇと理解できねーのか?」
ホムラがマジか…とがくりと肩を落とすが、アレクはそれどころではなかった。
エレインが補助魔法とやらを発動した時、身体がいつものように軽くしなやかに動いた。が、解除された途端、再び鉛のように鈍くなってしまった。
(は…?コイツが言っていることが本当なら…今までの俺たちの力は…?)
ようやく行き着いた、認めたくない現実にアレクは絶句した。
「待って…じゃあ、今までエレインは…ダンジョンに居る間、ずっと私たちに補助魔法っていうのをかけ続けていたってことなの…?」
アレクが飲み込んだ言葉を代弁するように、リリスが震える声で言った。その言葉に、アレク、ロイド、ルナ、そしてエレインがぴくりと反応する。自ずと視線がエレインに集まり、エレインは気まずそうに俯いた。
その反応は、肯定を意味していた。
「そうらしいぜェ?ま、お前らはそんな話を聞き入れもしなかったし、エレインの力を侮っていたから、増幅された能力を過信しちまったんだな」
「そんな…馬鹿な…」
散々使えないと揶揄してきたエレインの魔法が、今までのダンジョン攻略を支えていたなんて。
受け入れ難い現実を突きつけられ、アレクを始め、他の3人も力無くと膝をついたのだった。
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