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第一部 ダンジョンの階層主は、パーティに捨てられた泣き虫魔法使いに翻弄される

09. エレインの補助魔法

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「うぅ~ん…」
「お、目が覚めたか」

 気を失っていたアグニが目覚めると、そこはダンジョンの裏、ホムラとアグニの居住空間であった。ゆっくり体を起こすと、ベッドの脇にホムラとエレインが立っていた。

「えーっと…ああ、僕また負けたんですね」

 しょぼんと肩を落とすアグニであるが、ホムラは嬉々としてその肩を叩いた。

「そんな落ち込むなって!いつもよりいい戦いができたじゃねぇか!」
「そう…ですね。エレインの補助魔法は思ったよりも効果が高かったみたいです」
「ああ、アグニも気が付いたことだし、ともかくおチビの魔法について話すぞ」

 三人は丸テーブルへと移動し、各々着席した。

「まずは初級魔法についてだが…マジで雑魚かったな」
「ぐはっ…そ、そんなにハッキリ言わなくても…」

 徐に口を開いたホムラの酷評に、エレインは涙目である。

「だが、普通は得意属性やら不得意属性があるもんだが、こいつは五つの属性全て同じレベルだったな。バランスが取れてるって意味じゃ中々珍しいんじゃねぇか?」
「あ…」
「威力はへぼかったがな」
「ぐぎゅう…」

 エレインは、ホムラの言葉に少し救われたような気持ちになったが、持ち上げられた直後に再び叩き落とされてしまった。

「で、本題の補助魔法だが…」

 ゴクリ、とエレインの喉が鳴る。

「初級魔法とは比べ物にならねぇぐらいの威力だと感じたな。実際に体験したアグニはどうだった?」
「ええ、何だか身体の奥底から力が満ちてくるような…不思議な感覚でしたね」

 アグニが語るには、温かな光に包まれて心地よく、身体の芯から力が漲ってきたのだとか。その話をふんふん聞いていたホムラが、ボソッと呟いた。

「そうか、次は俺が補助魔法で強化して…」
「だっ、ダメです!!!今以上に強くなったらこの階層は崩壊します!!!」
「…冗談だよ。ちっ」

 ホムラが言い終わるのを待たず、慌ててアグニが止めに入った。

 エレインは自分の補助魔法が認められているようで、戸惑いを覚えつつも喜びが胸に込み上がってくるのを感じた。アレクのパーティにいた頃は、いくら補助魔法で支援をしていても、その功績は讃えられず、そもそも補助魔法をかけていることすら気が付かれていなかった。
 そのため、ホムラによる忖度ない評価がじんわりとエレインの胸を温めていった。

「気になるのは初級魔法と補助魔法で効果に違いがあることだな」
「あ…」

 同じエレインの魔法であるが、へなちょこな初級魔法に比べて補助魔法は大きな効果をもたらした。
 エレインは、魔法の師である祖母の言葉を思い出す。

『いいかい、エレイン。この補助魔法ってのは術者の技量で効果や威力が変わるんじゃない。魔法の受け手の強さが鍵さ。だから、魔法を使う対象をしっかりと見極めて使うんだよ』

 ーーー大事なことをすっかり忘れていた。
 アレク達は、果たして補助魔法を使う相手として相応しかったのか。まだエレインには分からなかった。

「えっ、と…私は祖母に魔法を習ったんですけど、確か補助魔法についてはこう言っていました。『魔法の受け手の強さが鍵だ。この補助魔法は受け手の能力の底上げをするものだから、対象が強ければ強いほど、その効果は跳ね上がる』って…」
「ふぅん?そんな魔法、聞いたことねぇな」
「えぇっと…うーん、確かこんな風に教えてもらいました。『普通の強化魔法が《プラス》の作用をもたらすなら、補助魔法は《×かける》の作用をもたらす』って」
「つまり、決まった数値の強化をするんじゃなく、受け手の能力値を倍増させるものってことですね?だから使い手の魔力や技量に左右されない、ということでしょうか」

 それが本当ならとんでもないですね、とアグニは呟いた。

「あっ、でも流石に能力値を倍にするほどの効果は…せいぜい1.2倍とか…かと思います」

 エレインは、ボスの間から回収していたリュックの中を漁り、紙とペンを取り出した。リュックは、ボスの間に押し込まれた時に一緒に転がり込んでいたので、ありがたく中身のアイテムは頂戴した。
 そして何やら数字を書き始めた。

 仮に防御力が100の冒険者がいたとする。
 能力値に+5の効果をもたらす強化魔法を使用した場合、その防御力は105になる。
 一方、能力値を1.2倍にする補助魔法を使用した場合、その防御力は120になる。

「ほー、なるほどな。数字で見ると分かりやすいな」
「ですね。あと補助魔法がどれだけデタラメな仕様なのかもよく分かりますね…」

 例えば、冒険者の防御力が500だった場合。
 強化魔法、補助魔法使用後の数値は、それぞれ505と600になる。魔法の受け手の強さが鍵だというエレインの祖母の言葉にも頷ける。

「ってことは、補助魔法については鍛えてどうにかなるもんじゃねえな。ふんふん、よし!とりあえず明日からは初級魔法の特訓だな」

 ホムラが一人納得して頷いているが、特訓という言葉はエレインは初耳である。

「えっ!?と、特訓…ってどういうことですか!?」

 慌てて問いかけると、ホムラはニタァと悪い笑みを浮かべて言った。

「そのままさ、お前はこれから俺が鍛える!せいぜい死なねえように着いてくるんだな」
「ひっ…」

 ホムラの言葉に、エレインは再び白目を剥いて倒れてしまった。

「…はぁ。もう朝まで寝ててください」

 そう言ってアグニは、いつの間にか出来ていたエレイン用のベッドまで引き摺って行くと、よいしょとエレインの身体を持ち上げて横たわらせた。
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