2 / 3
2. 恋は盲目とは言いますが
しおりを挟む
「――さて殿下、こちら謹慎中の暇つぶしにどうぞ」
エリクシーラの後ろ姿を笑顔で見送った副委員長のミハイル・サランド伯爵令息が差し出されたのは、ファイリングされた資料のようだ。
受け取り、中を検めたロイの手が震えている。
「殿下が婚約破棄の材料として用意した事象及びその協力者をまとめております。ちなみに殿下に協力した馬鹿たちも、学園規則第二十三条九項『婚約破棄に加担する行為、及びそれに準ずる行為を禁ずる』に違反しましたので、一ヶ月の馬小屋掃除の罰を与えています」
「……そうか」
すっかり意気消沈しているロイに、ミハイルは溜息を吐いた。
「……まったく、婚約者殿の気を引きたいのでしたら、素直にそう言えばいいものを」
「んなっ!?」
「……え?」
馬鹿馬鹿しいとでも言いたげにミハイルが吐き出した言葉に、ロイは顔を真っ赤に染め上げ、ずっと側で動向を見守っていたアレクシアは大きく目を見開いた。美しい翡翠色の瞳がこぼれ落ちそうだ。
「ロイ殿下は隣国へ留学されていて戻ったばかり。学年が一つ上の婚約者殿はすっかり学園のマドンナ的存在になっている。素直になれないロイ殿下のことです、幼い頃からの愛する婚約者殿が遠い存在になったかのように感じたのでしょう。婚約破棄を突きつけて、いつも余裕があって気高い婚約者殿のお気持ちを確かめたかった、というところでしょう」
「……本当なのですか? ロイ殿下」
「う、あ……そ、それは……」
真意を探るようにアレクシアがロイに歩み寄り、その美しい碧眼を覗き込んだ。ロイは頭から湯気が出るほど全身真っ赤だ。
「まったく……本当に婚約が解消となってもおかしくないのですよ?」
「なっ……! それは困る! 俺は、本当は、アレクシアと婚約破棄するつもりなんて……」
「ロイ殿下……」
「……はあ。さ、皆さん、不器用な二人に誤解を解き合う時間を差し上げるとしましょう。はい、散って散って」
二人の世界に入り始めたロイとアレクシアを校内へと促しながら、ミハイルはパンパンッと両手を打ってその場を収めた。
「――まったく、愛しているのなら素直にそう言えばいいものを。婚約者を悲しませる行動をするなんて考えられませんね」
終始呆れた顔のミハイルは、丸眼鏡を押し上げながら風紀委員室へと帰って行った。
エリクシーラの後ろ姿を笑顔で見送った副委員長のミハイル・サランド伯爵令息が差し出されたのは、ファイリングされた資料のようだ。
受け取り、中を検めたロイの手が震えている。
「殿下が婚約破棄の材料として用意した事象及びその協力者をまとめております。ちなみに殿下に協力した馬鹿たちも、学園規則第二十三条九項『婚約破棄に加担する行為、及びそれに準ずる行為を禁ずる』に違反しましたので、一ヶ月の馬小屋掃除の罰を与えています」
「……そうか」
すっかり意気消沈しているロイに、ミハイルは溜息を吐いた。
「……まったく、婚約者殿の気を引きたいのでしたら、素直にそう言えばいいものを」
「んなっ!?」
「……え?」
馬鹿馬鹿しいとでも言いたげにミハイルが吐き出した言葉に、ロイは顔を真っ赤に染め上げ、ずっと側で動向を見守っていたアレクシアは大きく目を見開いた。美しい翡翠色の瞳がこぼれ落ちそうだ。
「ロイ殿下は隣国へ留学されていて戻ったばかり。学年が一つ上の婚約者殿はすっかり学園のマドンナ的存在になっている。素直になれないロイ殿下のことです、幼い頃からの愛する婚約者殿が遠い存在になったかのように感じたのでしょう。婚約破棄を突きつけて、いつも余裕があって気高い婚約者殿のお気持ちを確かめたかった、というところでしょう」
「……本当なのですか? ロイ殿下」
「う、あ……そ、それは……」
真意を探るようにアレクシアがロイに歩み寄り、その美しい碧眼を覗き込んだ。ロイは頭から湯気が出るほど全身真っ赤だ。
「まったく……本当に婚約が解消となってもおかしくないのですよ?」
「なっ……! それは困る! 俺は、本当は、アレクシアと婚約破棄するつもりなんて……」
「ロイ殿下……」
「……はあ。さ、皆さん、不器用な二人に誤解を解き合う時間を差し上げるとしましょう。はい、散って散って」
二人の世界に入り始めたロイとアレクシアを校内へと促しながら、ミハイルはパンパンッと両手を打ってその場を収めた。
「――まったく、愛しているのなら素直にそう言えばいいものを。婚約者を悲しませる行動をするなんて考えられませんね」
終始呆れた顔のミハイルは、丸眼鏡を押し上げながら風紀委員室へと帰って行った。
33
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説


王子がイケメンだなんて誰が決めたんですか?
しがついつか
恋愛
白の国の王子は、余り器量が良くない。
結婚適齢期にさしかかっているというのに未だに婚約者がいなかった。
両親に似て誠実、堅実であり人柄は良いのだが、お見合いをした令嬢達からは断られてばかりいた。
そんな彼に、大国の令嬢との縁談が舞い込んできた。
お相手は、帝国の第二皇子の元婚約者という、やや訳ありの御令嬢であった。

だいたい全部、聖女のせい。
荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」
異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。
いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。
すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。
これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

その断罪、三ヶ月後じゃダメですか?
荒瀬ヤヒロ
恋愛
ダメですか。
突然覚えのない罪をなすりつけられたアレクサンドルは兄と弟ともに深い溜め息を吐く。
「あと、三ヶ月だったのに…」
*「小説家になろう」にも掲載しています。
離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

【完結】魔法による人格入れ替わりを伝える、シンプルな方法。
BBやっこ
恋愛
魔法、火を出し水を出す。令嬢の日常生活においてはそれほど利便性はない。
守り、メイド達には家事を楽にできる重宝する力らしい。
私の光魔法は、相手の目を眩ませる程度で、防犯に使える。
そんな私に、敵対行為をしたのは派閥が同じ令嬢だった。
なんとかこの現状を誰かに理解してもらわなきゃ!

私立龍宝韻学園の風紀委員長様!
天星 えあり
恋愛
私立龍宝韻学園は世に言う『王道学園』。
しかしある日やって来た王道転校生は最悪の『アンチ王道転校生』だった。
次々と有数の美形達を陥していく転校生に荒れる学園。
そして生徒会唯一の良心と呼ばれた生徒会長が転校生に怪我をさせられ退場した事により、本格的に学園は崩壊の一途を辿り、最早回復の余地無しかと思われた。
だがその時、一切動かず静観していた『学園の【王】』が漸く重い腰を上げたーー
1話ごとに視点が基本変わります。主人公は3話か4話ぐらいで。
あんまりにも見ている人が少なかったら下げるかもです。
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
基本小説家になろうで執筆しています。これはお試し感覚の投稿。
ゆーったり書くのでいつ更新されるかわからない。
唯一分かるのはいつでも零時ジャスト投稿www
好意的でなくても厳しいご指摘でも構いません。この作品をより良いものに仕上げるため、どんどんご意見よろしくお願いします。
一度投稿しましたが自分で読んで読みにくく思えたため、翌日から再投稿します。一章ごとに投稿するので、各話投稿するのは毎日零時。
続きが出来次第、次の章を投稿します。
悪役令嬢アンジェリカの最後の悪あがき
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【追放決定の悪役令嬢に転生したので、最後に悪あがきをしてみよう】
乙女ゲームのシナリオライターとして活躍していた私。ハードワークで意識を失い、次に目覚めた場所は自分のシナリオの乙女ゲームの世界の中。しかも悪役令嬢アンジェリカ・デーゼナーとして断罪されている真っ最中だった。そして下された罰は爵位を取られ、へき地への追放。けれど、ここは私の書き上げたシナリオのゲーム世界。なので作者として、最後の悪あがきをしてみることにした――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる