その婚約破棄、校則違反です!〜貴族学園の風紀委員長は見過ごさない〜

水都 ミナト

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2. 恋は盲目とは言いますが

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「――さて殿下、こちら謹慎中の暇つぶしにどうぞ」


 エリクシーラの後ろ姿を笑顔で見送った副委員長のミハイル・サランド伯爵令息が差し出されたのは、ファイリングされた資料のようだ。

 受け取り、中を検めたロイの手が震えている。


「殿下が婚約破棄の材料として用意した事象及びその協力者をまとめております。ちなみに殿下に協力した馬鹿たちも、学園規則第二十三条九項『婚約破棄に加担する行為、及びそれに準ずる行為を禁ずる』に違反しましたので、一ヶ月の馬小屋掃除の罰を与えています」

「……そうか」


 すっかり意気消沈しているロイに、ミハイルは溜息を吐いた。


「……まったく、婚約者殿の気を引きたいのでしたら、素直にそう言えばいいものを」

「んなっ!?」

「……え?」


 馬鹿馬鹿しいとでも言いたげにミハイルが吐き出した言葉に、ロイは顔を真っ赤に染め上げ、ずっと側で動向を見守っていたアレクシアは大きく目を見開いた。美しい翡翠色の瞳がこぼれ落ちそうだ。


「ロイ殿下は隣国へ留学されていて戻ったばかり。学年が一つ上の婚約者殿はすっかり学園のマドンナ的存在になっている。素直になれないロイ殿下のことです、幼い頃からの愛する婚約者殿が遠い存在になったかのように感じたのでしょう。婚約破棄を突きつけて、いつも余裕があって気高い婚約者殿のお気持ちを確かめたかった、というところでしょう」

「……本当なのですか? ロイ殿下」

「う、あ……そ、それは……」


 真意を探るようにアレクシアがロイに歩み寄り、その美しい碧眼を覗き込んだ。ロイは頭から湯気が出るほど全身真っ赤だ。


「まったく……本当に婚約が解消となってもおかしくないのですよ?」

「なっ……! それは困る! 俺は、本当は、アレクシアと婚約破棄するつもりなんて……」

「ロイ殿下……」

「……はあ。さ、皆さん、不器用な二人に誤解を解き合う時間を差し上げるとしましょう。はい、散って散って」


 二人の世界に入り始めたロイとアレクシアを校内へと促しながら、ミハイルはパンパンッと両手を打ってその場を収めた。


「――まったく、愛しているのなら素直にそう言えばいいものを。婚約者を悲しませる行動をするなんて考えられませんね」


 終始呆れた顔のミハイルは、丸眼鏡を押し上げながら風紀委員室へと帰って行った。
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