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第九話 誕生パーティ
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そして訪れたエドワード様のパーティ当日。
シャンデリアに淡い水色のガラスの玉飾りをいくつも吊るしていることで、ほのかに会場が青みを帯びている。キラキラ反射する光は水面のように美しく、湖畔や海辺を想起させる。
窓に嵌め込むようにステンドグラスが取り付けられており、会場の雰囲気をよりロマンチックに演出している。
各テーブルには青い薔薇とかすみ草がガラスでできた花瓶に美しく飾り付けられている。テーブルごとに王国と国交を結ぶあらゆる国の料理が提供され、それに合わせたお酒や果実水も用意されている。
「まぁ…なんだか幻想的な雰囲気ですわね…美しくて見惚れてしまうわ」
「会場の装飾も料理も何もかも、これほどに素晴らしいパーティは初めてだ」
第二王子の誕生を祝う場として申し分がないほどの装いに、参列客は皆感嘆の声を上げていた。あちこち料理や装飾についての話題で持ち切りだ。
「な、ななな何なのこれは…!どうして…!」
(エドワード様に近付くのがモントワール伯爵家のあの地味女だって分かった時は腑が煮え繰り返る思いだったけど…無事に妨害ができたようね。ああ、あの女はこの事態にどう対処したのかしら。うふふ、あとはこの私がエドワード殿下に見初めていただくだけ)
カリーナ伯爵令嬢がそう思って会場に入ったのがほんの数分前。期待に反してパーティ会場は今まで見たこともないほど幻想的で素晴らしかった。思わず言葉を失い、見入ってしまうほどに。
(くっ…あの女が仕事もできない女だと幻滅されるように、何人もの商人にお金を握らせて手配された荷物が届かないようにしろと言ったのに…!どうして…!)
「あら、カリーナ様。ご機嫌麗しゅう」
「なっ…あんたは…!」
私は入り口付近で呆然と立ちすくむカリーナ様に話しかけた。
今日の私は髪を編み上げてカチューシャのように結い上げ、いつもの地味な化粧ではなく、この場に相応しい上品かつ華やかな化粧を施していた。淡い水色のドレスは縦糸に銀の糸が用いられており、動く度にキラキラと上品に光を放つ。エドワード様の髪が想起されるドレスだ。
「なっ、なな…」
カリーナ様はプルプル震えながら、悔しそうに歯を食いしばっている。
「ふふふ、下卑た賄賂で我が商会お抱えの商人達が寝返るとでも思いましたか?商人を舐められては困ります。私たちは固い信頼関係で結ばれているのです。そう、商売に大切なのは『信頼』と『情報』。あなたが接触した商人達はみんな私のところに報告に来てくれましたよ。お陰様で迅速に対処することが叶いました」
「ぐ…あの役立たずども…!」
「商人は他人を貶めるための道具ではありません。お客様の喜びのため身を粉にして働いています。四方八方を走り回り、交渉や仕入をし、そんな彼らがいることであなた達の衣食住は支えられているのです。そんなことも分からないだなんて、一から教育を受け直しされてはいかがでしょうか?」
「~っ!!!!」
醜く顔を歪めて地団駄を踏むカリーナ様。何も言い返すことができないのかギリギリと歯が擦れる音がする。
「ああ、お預かりしていた賄賂は先程事情を説明した上であなたのお父様にお返ししておきました。ふふっ、知らなかったのですか?伯爵様は我が商会に大きな恩があるのですよ?真っ青な顔をしてあなたを探していらしたわ」
「あ…」
私の言葉の意味が理解できないほど馬鹿ではないらしい。真っ赤だった顔はサッと青くなり、途端に目が泳ぎ始めた。
「やあ、マリリン嬢」
「エドワード様」
「で、殿下っ…!」
その時、本日の主役であるエドワード様が現れた。ピシッと髪を撫でつけて華やかな礼服に袖を通している。試着の時に拝見しているが、会場の雰囲気も相まって一層輝いて見える。エドワード様に気付いた周囲のご令嬢方の目がハートになっている。
そんな視線を気にする様子もなく、エドワード様は私に微笑みかけた後、厳しい表情でカリーナ様に向き合った。
「リュクス伯爵令嬢。あなたのご友人が兄君と共に僕の周りを嗅ぎ回っていることにはすぐに気付いたよ。君達の悪巧みはしっかりと僕の耳に届いていた」
「そ、そんな…私は…ただエドワード殿下と…」
「名前を呼ぶ許可を出した覚えはない。よくもそんなつまらない理由で僕のパーティを台無しにしようとしてくれたね?まあ、そんなことよりも僕の大切な人を貶めようとした方が許せないんだが……追って沙汰を出す。今日は大人しく家に帰るといい」
エドワード様に一蹴され、カリーナ様は項垂れながらパーティ会場を後にした。
シャンデリアに淡い水色のガラスの玉飾りをいくつも吊るしていることで、ほのかに会場が青みを帯びている。キラキラ反射する光は水面のように美しく、湖畔や海辺を想起させる。
窓に嵌め込むようにステンドグラスが取り付けられており、会場の雰囲気をよりロマンチックに演出している。
各テーブルには青い薔薇とかすみ草がガラスでできた花瓶に美しく飾り付けられている。テーブルごとに王国と国交を結ぶあらゆる国の料理が提供され、それに合わせたお酒や果実水も用意されている。
「まぁ…なんだか幻想的な雰囲気ですわね…美しくて見惚れてしまうわ」
「会場の装飾も料理も何もかも、これほどに素晴らしいパーティは初めてだ」
第二王子の誕生を祝う場として申し分がないほどの装いに、参列客は皆感嘆の声を上げていた。あちこち料理や装飾についての話題で持ち切りだ。
「な、ななな何なのこれは…!どうして…!」
(エドワード様に近付くのがモントワール伯爵家のあの地味女だって分かった時は腑が煮え繰り返る思いだったけど…無事に妨害ができたようね。ああ、あの女はこの事態にどう対処したのかしら。うふふ、あとはこの私がエドワード殿下に見初めていただくだけ)
カリーナ伯爵令嬢がそう思って会場に入ったのがほんの数分前。期待に反してパーティ会場は今まで見たこともないほど幻想的で素晴らしかった。思わず言葉を失い、見入ってしまうほどに。
(くっ…あの女が仕事もできない女だと幻滅されるように、何人もの商人にお金を握らせて手配された荷物が届かないようにしろと言ったのに…!どうして…!)
「あら、カリーナ様。ご機嫌麗しゅう」
「なっ…あんたは…!」
私は入り口付近で呆然と立ちすくむカリーナ様に話しかけた。
今日の私は髪を編み上げてカチューシャのように結い上げ、いつもの地味な化粧ではなく、この場に相応しい上品かつ華やかな化粧を施していた。淡い水色のドレスは縦糸に銀の糸が用いられており、動く度にキラキラと上品に光を放つ。エドワード様の髪が想起されるドレスだ。
「なっ、なな…」
カリーナ様はプルプル震えながら、悔しそうに歯を食いしばっている。
「ふふふ、下卑た賄賂で我が商会お抱えの商人達が寝返るとでも思いましたか?商人を舐められては困ります。私たちは固い信頼関係で結ばれているのです。そう、商売に大切なのは『信頼』と『情報』。あなたが接触した商人達はみんな私のところに報告に来てくれましたよ。お陰様で迅速に対処することが叶いました」
「ぐ…あの役立たずども…!」
「商人は他人を貶めるための道具ではありません。お客様の喜びのため身を粉にして働いています。四方八方を走り回り、交渉や仕入をし、そんな彼らがいることであなた達の衣食住は支えられているのです。そんなことも分からないだなんて、一から教育を受け直しされてはいかがでしょうか?」
「~っ!!!!」
醜く顔を歪めて地団駄を踏むカリーナ様。何も言い返すことができないのかギリギリと歯が擦れる音がする。
「ああ、お預かりしていた賄賂は先程事情を説明した上であなたのお父様にお返ししておきました。ふふっ、知らなかったのですか?伯爵様は我が商会に大きな恩があるのですよ?真っ青な顔をしてあなたを探していらしたわ」
「あ…」
私の言葉の意味が理解できないほど馬鹿ではないらしい。真っ赤だった顔はサッと青くなり、途端に目が泳ぎ始めた。
「やあ、マリリン嬢」
「エドワード様」
「で、殿下っ…!」
その時、本日の主役であるエドワード様が現れた。ピシッと髪を撫でつけて華やかな礼服に袖を通している。試着の時に拝見しているが、会場の雰囲気も相まって一層輝いて見える。エドワード様に気付いた周囲のご令嬢方の目がハートになっている。
そんな視線を気にする様子もなく、エドワード様は私に微笑みかけた後、厳しい表情でカリーナ様に向き合った。
「リュクス伯爵令嬢。あなたのご友人が兄君と共に僕の周りを嗅ぎ回っていることにはすぐに気付いたよ。君達の悪巧みはしっかりと僕の耳に届いていた」
「そ、そんな…私は…ただエドワード殿下と…」
「名前を呼ぶ許可を出した覚えはない。よくもそんなつまらない理由で僕のパーティを台無しにしようとしてくれたね?まあ、そんなことよりも僕の大切な人を貶めようとした方が許せないんだが……追って沙汰を出す。今日は大人しく家に帰るといい」
エドワード様に一蹴され、カリーナ様は項垂れながらパーティ会場を後にした。
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