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第三話 エドワード王子殿下
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「い、今なんと…?」
翌朝、呆然と立ちすくむ私の前でにこやかな笑みを浮かべているのは、第二王子のエドワード殿下。
「うん?僕と結婚してくれないか、と言ったんだよ」
私は目を物凄い速さで瞬かせてもう一度目の前の麗しの王子を見上げる。
落ち着いて…まずは状況整理よ…
ふぅぅと深く息を吐いた私は、今朝のことを振り返ったーーー
いつものように起床し、侍女のアイリスに身支度を整えて貰って自室を出ると、なんだか屋敷の中が妙に慌ただしかった。
「?どなたかお客様でもいらしているの?」
アイリスに尋ねるも、彼女はずっと私といたので同じく状況が把握できていない。アイリスは困ったように眉根を下げた。
「まあいいわ、応接室に参りましょう」
モントワール家の者として、客人には挨拶すべきだろう。そう思って我が家で一番豪華な応接室に入った私は、開いた口が塞がらなくなってしまった。
「おお!マリリン!ちょうど呼びに行こうと思っていたところだ!」
「おはよう、マリリン。よく寝れたかい?」
応接室には、興奮した様子で頬を上気させるお父様と、困ったことになったと遠い目をするマリウス兄様がいた。
そして来客用のソファに優雅に腰掛けているのはーーー
「でっ、殿下!?」
「やあ、おはよう」
爽やかにティーカップを傾けながら、私にとびきりの笑顔を向けるエドワード殿下だった。
「ちょ、ちょちょちょ!どうして殿下がこんなところにいらっしゃるの!?」
「いやぁ…俺も急な展開についていけてないんだが…はぁ、まあ本人に聞いてみてくれ」
とりあえず近くに来た兄様の胸ぐらを掴んでブンブン揺すりながら問いかけるも、兄様の返事は要領を得ない。一端の伯爵家に王子殿下自ら足を運ばれるなど聞いたことがない。
ちなみに昨夜帰りの馬車で聞いたことだが、エドワード殿下と兄様はかなり気安い仲らしい。最近エドワード殿下の慈善事業のバックアップを兄様が受け持っているらしく、よく一緒に打ち合わせや視察に行くんだとか。「聞いてない!」と驚く私に「まあ、秘密にしてたからな」と兄様は笑ってあしらった。私の情報網をすり抜けるあたり流石は兄様と舌を巻いた。
再びエドワード殿下に視線を向けた私は、ご挨拶をしていなかったとハッとして慌ててドレスの裾を摘んで恭しく頭を下げた。
「殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、楽にしてくれ」
挨拶が遅れた無礼な私にも優しい笑みを返してくれる。やはりエドワード殿下は神様かしらと思わず考えてしまう。
呆けている間にも、エドワード殿下はカップを置いて立ち上がり、私の前まで歩み寄ってこられた。
「回りくどい話はよそう。単刀直入に言う、マリリン嬢、僕の婚約者になってはくれないかい?」
「……………はい?」
本当に随分と単刀直入で突拍子もない話で、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。その様子を楽しそうにくすくす笑いながらエドワード殿下が見つめてくる。
「い、今なんと?」
「うん?僕と結婚してくれないか、と言ったんだよ」
ーーーうん、脳内でここまでの出来事を整理するも、理解は到底及ばない。何がどうなって第二王子に求婚されることになったの!?
私は助けを求めるべくお父様と兄様に視線を投げる。お父様は我が子が王子に求婚されてテンションが上がりきっているらしく、ふんふん鼻息を荒くしている。
「とにかく、俺たちもさっき話を聞いたばかりで驚いていたところさ…ともかく詳しい話を聞きたいし、みんなソファに座ろう」
困り顔の兄様の提案により、立ったままだった私たちはいそいそとソファに腰掛けた。そしてなぜか私の隣にエドワード殿下が座る。ひぃ、緊張するのですが…。
「ごほん、えー、それで…どうして娘を婚約者にとお考えで…?」
一番落ち着きがないお父様が、ウズウズした様子でエドワード殿下に問いかけた。殿下はにこやかな笑みを崩さずに答えた。
「僕はマリリン嬢の手腕に惚れたんだ。聞いたよ?昨日のパーティの諸々の手配をしたのは君なんだって?物凄い盛況だったね。僕も随分と楽しませてもらったよ」
「…殿下にそう言って頂けて光栄でございます」
「実は、僕は以前からマリリン嬢のことが気になっていたんだ。立場上、社交会にはよく呼ばれるからね。君はいつも壁際に佇んでいて物静かだったけど、その目は獲物を狩る獣のように煌めいていて、この子は一体何者なんだと気になり始めたんだ」
「…」
なんということだ。恥ずかしすぎる。
え?私ってそんなにすごい顔していたのかしら?
チラッと兄様に視線で問うと、兄様は深く頷いた。
知っていたなら教えてくれればいいのに…!
「まあ、それだけじゃないんだけどね。マリウスには話しているんだけど、僕は人より随分と『耳がいい』んだよ。パーティ会場内の話は全部耳に入ってくると言ってもいいくらいに。ふふっ、上辺ばかりの浅い会話の中で、君がブツブツ溢す独り言は異質で興味深いものだった。その内容から君がモントワール商会のキーマンであることは薄々察していたんだ。この子は只者ではない、とね」
やだ!独り言まで聞かれていたなんて!
私は思わず両手で顔を覆ってしまう。
「決め手は昨日の一言。君は僕の外見ではなく、心が美しいと言ってくれた。人目を引く外見をしている自覚はあるが、外側だけで僕に近付いてくるご令嬢ばかりで正直うんざりしてたんだ。僕の人となりを見ているわけじゃない、この母親譲りの美貌と王子という肩書きにみんな近づいてくるんだ、ってね。でも君はそんな人達とは違う、そう思ったんだ。商会を支える手腕もあるし、陰口を言われても動じない凛とした強さと信念を持っている。そういうわけで、俄然君に興味が湧いたというわけさ」
真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるエドワード殿下。そのお言葉は素直に嬉しい。もちろん一国民として殿下のことは心から尊敬している。だけど…
「殿下、お気持ちは大変ありがたく、身に余る思いでございます。ですが、私は目立たず静かに我が商会のために動きたいのです。もし殿下の婚約者となれば、自ずと注目の的となり、私は今までのように生きることはできないでしょう。……その、このお話をお断りするのは、不敬に当たりますでしょうか?」
翌朝、呆然と立ちすくむ私の前でにこやかな笑みを浮かべているのは、第二王子のエドワード殿下。
「うん?僕と結婚してくれないか、と言ったんだよ」
私は目を物凄い速さで瞬かせてもう一度目の前の麗しの王子を見上げる。
落ち着いて…まずは状況整理よ…
ふぅぅと深く息を吐いた私は、今朝のことを振り返ったーーー
いつものように起床し、侍女のアイリスに身支度を整えて貰って自室を出ると、なんだか屋敷の中が妙に慌ただしかった。
「?どなたかお客様でもいらしているの?」
アイリスに尋ねるも、彼女はずっと私といたので同じく状況が把握できていない。アイリスは困ったように眉根を下げた。
「まあいいわ、応接室に参りましょう」
モントワール家の者として、客人には挨拶すべきだろう。そう思って我が家で一番豪華な応接室に入った私は、開いた口が塞がらなくなってしまった。
「おお!マリリン!ちょうど呼びに行こうと思っていたところだ!」
「おはよう、マリリン。よく寝れたかい?」
応接室には、興奮した様子で頬を上気させるお父様と、困ったことになったと遠い目をするマリウス兄様がいた。
そして来客用のソファに優雅に腰掛けているのはーーー
「でっ、殿下!?」
「やあ、おはよう」
爽やかにティーカップを傾けながら、私にとびきりの笑顔を向けるエドワード殿下だった。
「ちょ、ちょちょちょ!どうして殿下がこんなところにいらっしゃるの!?」
「いやぁ…俺も急な展開についていけてないんだが…はぁ、まあ本人に聞いてみてくれ」
とりあえず近くに来た兄様の胸ぐらを掴んでブンブン揺すりながら問いかけるも、兄様の返事は要領を得ない。一端の伯爵家に王子殿下自ら足を運ばれるなど聞いたことがない。
ちなみに昨夜帰りの馬車で聞いたことだが、エドワード殿下と兄様はかなり気安い仲らしい。最近エドワード殿下の慈善事業のバックアップを兄様が受け持っているらしく、よく一緒に打ち合わせや視察に行くんだとか。「聞いてない!」と驚く私に「まあ、秘密にしてたからな」と兄様は笑ってあしらった。私の情報網をすり抜けるあたり流石は兄様と舌を巻いた。
再びエドワード殿下に視線を向けた私は、ご挨拶をしていなかったとハッとして慌ててドレスの裾を摘んで恭しく頭を下げた。
「殿下。ご機嫌麗しゅうございます」
「ああ、楽にしてくれ」
挨拶が遅れた無礼な私にも優しい笑みを返してくれる。やはりエドワード殿下は神様かしらと思わず考えてしまう。
呆けている間にも、エドワード殿下はカップを置いて立ち上がり、私の前まで歩み寄ってこられた。
「回りくどい話はよそう。単刀直入に言う、マリリン嬢、僕の婚約者になってはくれないかい?」
「……………はい?」
本当に随分と単刀直入で突拍子もない話で、私は素っ頓狂な声を上げてしまった。その様子を楽しそうにくすくす笑いながらエドワード殿下が見つめてくる。
「い、今なんと?」
「うん?僕と結婚してくれないか、と言ったんだよ」
ーーーうん、脳内でここまでの出来事を整理するも、理解は到底及ばない。何がどうなって第二王子に求婚されることになったの!?
私は助けを求めるべくお父様と兄様に視線を投げる。お父様は我が子が王子に求婚されてテンションが上がりきっているらしく、ふんふん鼻息を荒くしている。
「とにかく、俺たちもさっき話を聞いたばかりで驚いていたところさ…ともかく詳しい話を聞きたいし、みんなソファに座ろう」
困り顔の兄様の提案により、立ったままだった私たちはいそいそとソファに腰掛けた。そしてなぜか私の隣にエドワード殿下が座る。ひぃ、緊張するのですが…。
「ごほん、えー、それで…どうして娘を婚約者にとお考えで…?」
一番落ち着きがないお父様が、ウズウズした様子でエドワード殿下に問いかけた。殿下はにこやかな笑みを崩さずに答えた。
「僕はマリリン嬢の手腕に惚れたんだ。聞いたよ?昨日のパーティの諸々の手配をしたのは君なんだって?物凄い盛況だったね。僕も随分と楽しませてもらったよ」
「…殿下にそう言って頂けて光栄でございます」
「実は、僕は以前からマリリン嬢のことが気になっていたんだ。立場上、社交会にはよく呼ばれるからね。君はいつも壁際に佇んでいて物静かだったけど、その目は獲物を狩る獣のように煌めいていて、この子は一体何者なんだと気になり始めたんだ」
「…」
なんということだ。恥ずかしすぎる。
え?私ってそんなにすごい顔していたのかしら?
チラッと兄様に視線で問うと、兄様は深く頷いた。
知っていたなら教えてくれればいいのに…!
「まあ、それだけじゃないんだけどね。マリウスには話しているんだけど、僕は人より随分と『耳がいい』んだよ。パーティ会場内の話は全部耳に入ってくると言ってもいいくらいに。ふふっ、上辺ばかりの浅い会話の中で、君がブツブツ溢す独り言は異質で興味深いものだった。その内容から君がモントワール商会のキーマンであることは薄々察していたんだ。この子は只者ではない、とね」
やだ!独り言まで聞かれていたなんて!
私は思わず両手で顔を覆ってしまう。
「決め手は昨日の一言。君は僕の外見ではなく、心が美しいと言ってくれた。人目を引く外見をしている自覚はあるが、外側だけで僕に近付いてくるご令嬢ばかりで正直うんざりしてたんだ。僕の人となりを見ているわけじゃない、この母親譲りの美貌と王子という肩書きにみんな近づいてくるんだ、ってね。でも君はそんな人達とは違う、そう思ったんだ。商会を支える手腕もあるし、陰口を言われても動じない凛とした強さと信念を持っている。そういうわけで、俄然君に興味が湧いたというわけさ」
真っ直ぐに気持ちを伝えてくれるエドワード殿下。そのお言葉は素直に嬉しい。もちろん一国民として殿下のことは心から尊敬している。だけど…
「殿下、お気持ちは大変ありがたく、身に余る思いでございます。ですが、私は目立たず静かに我が商会のために動きたいのです。もし殿下の婚約者となれば、自ずと注目の的となり、私は今までのように生きることはできないでしょう。……その、このお話をお断りするのは、不敬に当たりますでしょうか?」
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