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episode08 sideクロ
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ある日のこと、僕は君の些細な変化に気がついた。
「どうもこんにちは、頼んでいた薬の進捗はいかがでしょう?」
むむ、この男は最近よく家に来る、確か町長の息子だったかな。病に伏せる大事な人のためにと薬を求めて足繁く通ってくる朗らかな男だ。
「こ、こんにちは……その、今月の分は既に用意ができてます……」
「ありがとう! 魔女さんのおかげでアリスもだいぶ元気になったんだ。この間なんて数年ぶりに外に散歩に出て、あの嬉しそうな顔ときたら……おっと、ごめん。支払いを済ませないと」
「あ、ありがとうございます。ではまた来月……」
「ああ、また」
この男と話す時、君はいつも三角帽子を目深に被り、声も消え入るほどに小さくなる。
ふむ、確かに栗色の少し癖毛な髪、同じく栗色で切れ長な瞳は僕に似ていないこともないし、人の良いこの男に君が惹かれるのも分からなくもない。
男が出て行ったあとも、君はぼーっと蕩けた視線をドアに向けていて、いつも「にゃあ」と鳴いて現実世界に引き戻してあげなきゃならない。
つまるところ、君は今、初めて恋とやらをしているんだ。
「はぁ……マクベルさんには大切な人がいるんだもの。この気持ちは封じなきゃね」
君はいつもそう言ってため息をつくけど、誰かを想う温かな気持ちは無理に閉じ込めなくてもいいと思うよ?
その気持ちは君だけのものだから、大事にしなきゃ。
でもね、僕は知っているんだよ。
「ねぇ、猫くん。魔女さんは誰か好きな人がいるのかな? やっぱり魔女さんの相手は魔法使いじゃないとダメなのかなあ……」
この男の大切な人ってのは妹で、その妹の病状が良くなってからもここに通うのは君に会いたいがためってことをね。
マクベルとか言う男は、君が薬を紙に包んでいる間、ぽけっと君に見惚れながら僕にコソコソ話しかけてくる。仕方がないので「にゃあ」と相槌を打つ優しい僕。
聞く(聞かされた)ところによると、どうやらこの男は幼い頃に君に助けられたことがあるらしい。それからずっと君に憧れていて、いつしか憧憬が恋慕に変わっていったんだって。
「でも、魔女さんに僕が想いを寄せるなんて……きっと叶わない恋なんだろうね。彼女は初めて出会ったあの日から全く外見が変わらない。僕たちは同じ時間を歩むことはできないんだな……」
やれやれ、お互いに片想いだと思ってるんだから世話が焼けるにゃあ。確かに魔女と人間じゃ寿命が違い過ぎる。魔女は人間の何倍もの長き時を生きる。
だけど、それでもいいじゃないか。
好きなんだろう?
気持ちを伝えないと始まるものも始まらないぜい?
ちょっぴりお節介な僕は、ひらりと特等席から降りると、薬を手渡すために男に近づく君の後ろに回り込んだ。そしてぴょーんと飛び上がって、君の背中をタンッと蹴った。
「わぁっ!?」
「魔女さん!?」
君は転ぶまいとたたらを踏むが、大事な薬が入った袋を両手に抱えている。抵抗虚しく君の身体は傾いて男の腕の中にすっぽりと収まった。
「あ、す、すみません……ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
抱き合ったまま熱を孕んだ目で見つめ合う二人。そして同時にハッと我に返って慌てて身体を離した。
ちぇ、いいじゃないかもう少しくっついていたってさ。
照れ屋な二人だねえ。
僕のナイスな後押し(物理的に)により、この日から二人の距離は少しずつ縮んでいった。
「どうもこんにちは、頼んでいた薬の進捗はいかがでしょう?」
むむ、この男は最近よく家に来る、確か町長の息子だったかな。病に伏せる大事な人のためにと薬を求めて足繁く通ってくる朗らかな男だ。
「こ、こんにちは……その、今月の分は既に用意ができてます……」
「ありがとう! 魔女さんのおかげでアリスもだいぶ元気になったんだ。この間なんて数年ぶりに外に散歩に出て、あの嬉しそうな顔ときたら……おっと、ごめん。支払いを済ませないと」
「あ、ありがとうございます。ではまた来月……」
「ああ、また」
この男と話す時、君はいつも三角帽子を目深に被り、声も消え入るほどに小さくなる。
ふむ、確かに栗色の少し癖毛な髪、同じく栗色で切れ長な瞳は僕に似ていないこともないし、人の良いこの男に君が惹かれるのも分からなくもない。
男が出て行ったあとも、君はぼーっと蕩けた視線をドアに向けていて、いつも「にゃあ」と鳴いて現実世界に引き戻してあげなきゃならない。
つまるところ、君は今、初めて恋とやらをしているんだ。
「はぁ……マクベルさんには大切な人がいるんだもの。この気持ちは封じなきゃね」
君はいつもそう言ってため息をつくけど、誰かを想う温かな気持ちは無理に閉じ込めなくてもいいと思うよ?
その気持ちは君だけのものだから、大事にしなきゃ。
でもね、僕は知っているんだよ。
「ねぇ、猫くん。魔女さんは誰か好きな人がいるのかな? やっぱり魔女さんの相手は魔法使いじゃないとダメなのかなあ……」
この男の大切な人ってのは妹で、その妹の病状が良くなってからもここに通うのは君に会いたいがためってことをね。
マクベルとか言う男は、君が薬を紙に包んでいる間、ぽけっと君に見惚れながら僕にコソコソ話しかけてくる。仕方がないので「にゃあ」と相槌を打つ優しい僕。
聞く(聞かされた)ところによると、どうやらこの男は幼い頃に君に助けられたことがあるらしい。それからずっと君に憧れていて、いつしか憧憬が恋慕に変わっていったんだって。
「でも、魔女さんに僕が想いを寄せるなんて……きっと叶わない恋なんだろうね。彼女は初めて出会ったあの日から全く外見が変わらない。僕たちは同じ時間を歩むことはできないんだな……」
やれやれ、お互いに片想いだと思ってるんだから世話が焼けるにゃあ。確かに魔女と人間じゃ寿命が違い過ぎる。魔女は人間の何倍もの長き時を生きる。
だけど、それでもいいじゃないか。
好きなんだろう?
気持ちを伝えないと始まるものも始まらないぜい?
ちょっぴりお節介な僕は、ひらりと特等席から降りると、薬を手渡すために男に近づく君の後ろに回り込んだ。そしてぴょーんと飛び上がって、君の背中をタンッと蹴った。
「わぁっ!?」
「魔女さん!?」
君は転ぶまいとたたらを踏むが、大事な薬が入った袋を両手に抱えている。抵抗虚しく君の身体は傾いて男の腕の中にすっぽりと収まった。
「あ、す、すみません……ありがとうございます」
「いえ、大丈夫ですか?」
「え、ええ……」
抱き合ったまま熱を孕んだ目で見つめ合う二人。そして同時にハッと我に返って慌てて身体を離した。
ちぇ、いいじゃないかもう少しくっついていたってさ。
照れ屋な二人だねえ。
僕のナイスな後押し(物理的に)により、この日から二人の距離は少しずつ縮んでいった。
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