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最終話 アマリリスの幸せ
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竜人は、成人すると鱗がポロリと剥がれ落ち、白磁のような艶やかな肌となる。
アマリリスも例外ではなく、成人を迎えた今、牢に繋がれていた頃とは比べ物にならないほどに美しく光り輝いていた。
そんなアマリリスを優しく見つめ、手を差し出す者がいた。
アマリリスを牢から救い出し、明るい未来を与えてくれた人――エクセリヴァーグ帝国の竜王アデルバート。
アマリリスが帝国へと救い出されて二年が経過していた。
しっかりと食事を摂れるようになり、睡眠も十分に取れている。これまでの遅れを取り戻すように勉学にも励んでグングン知識を吸収していった。何より、彼女を愛し敬うアデルバートの存在に支えられ、アマリリスは見違えるほど明るく、美しくなっていた。
そして今、二人は肩を寄せ合い、アマリリスはアデルバートが語る話に耳を傾けている。
「少し、昔話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです」
いったい何を話そうとしているのだろう。
アマリリスはこてんと首を傾げてアデルバートの言葉を待つ。
そんな彼女の仕草に、アデルバートは優しく微笑み、頭をポンポンと撫でてから静かに語り始めた。
「始祖の竜王には、かけがえのない番がいた。互いに愛し愛され、敬い合っていた――」
それは、この国の始まりの物語。
――太古の時代、二人の竜人が国を興した。
二人は唯一無二の番であり、子宝にも恵まれた。
国は栄え、後世まで安泰だと謳われていたが――美しき王妃に魅了された異国の男によって、竜王は最愛の妻を攫われた。
命尽きるまで妻の行方を探し続けたが、ついには再会を果たすことができなかった。
アデルバートもまた、竜人の先祖返りであった。
竜王の記憶を受け継ぎ、何年もの間、引き裂かれた最愛の人を探し続けていた。
彼は直感していた。彼女も同じく、再びこの世に生まれ落ちていると。
「アマリリスを迎えに行った少し前、カルロがアマリリスの存在と、その居場所を予見した。俺はすぐさま状況確認のために王家の影を派遣した」
そうして持ち帰られた悲惨な報告内容に、アデルバートは怒りに打ち震えた。
直ちに偵察時に仕込んだ転移の魔法陣より出撃し、アマリリスの救出へと向かった。
「そしてあの日、ようやく君を救い出すことができたんだ」
「アデル様……私を見つけてくれて、ありがとうございます」
アデルバートの手を取り、柔らかく微笑むアマリリス。
アデルバートはフッと笑みを漏らすと、愛しい人の唇に触れるだけのキスを落とした。
――あの日、念願叶って再び巡り会ったアマリリスは、ひどく痩せこけ、美しい肌も、髪も、瞳も荒んでいた。アデルバートは燃えるような怒りを覚えたが、同時に何世代にも渡って、ようやくアマリリスと出会えたことに、今度こそ彼女を救い出せることに、血が沸騰するかのごとく歓喜した。
アマリリスを虐げた家族も、かつて竜王の番を攫って囲った国も許すつもりはなかった。
アマリリスは知らない。そして知る必要もない。
すでにこの世界の地図から、祖国が消え失せていることを――
アマリリスは、竜王陛下の唯一の番として、エクセリヴァーグ帝国の王妃となった。
そして今、彼女のお腹には、愛しい人の血を引く新しい生命が宿っている。
アマリリスの心は今、幸せに満ちていた――
――――――――――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
本作は、『相手にした行いが全て自分に還ってくる薬』によって、虐げられヒロインが受けた非道な行いが暴かれる、という着想から短編にまとめてみました。ヒロインが直接的に暴力を受けるシーンが辛くて書けない作者なりに考えた回避策?でもあります。
拙作において残虐なシーンはあまり書いてこなかった(書けない…)のですが、アデルバートも狂愛じみてしまい、かなりダークなお話になってしまいました。。。
ハッピーエンド……?
お気軽に感想などいただけると嬉しいです!
ありがとうございました!
アマリリスも例外ではなく、成人を迎えた今、牢に繋がれていた頃とは比べ物にならないほどに美しく光り輝いていた。
そんなアマリリスを優しく見つめ、手を差し出す者がいた。
アマリリスを牢から救い出し、明るい未来を与えてくれた人――エクセリヴァーグ帝国の竜王アデルバート。
アマリリスが帝国へと救い出されて二年が経過していた。
しっかりと食事を摂れるようになり、睡眠も十分に取れている。これまでの遅れを取り戻すように勉学にも励んでグングン知識を吸収していった。何より、彼女を愛し敬うアデルバートの存在に支えられ、アマリリスは見違えるほど明るく、美しくなっていた。
そして今、二人は肩を寄せ合い、アマリリスはアデルバートが語る話に耳を傾けている。
「少し、昔話を聞いてくれるか?」
「はい、もちろんです」
いったい何を話そうとしているのだろう。
アマリリスはこてんと首を傾げてアデルバートの言葉を待つ。
そんな彼女の仕草に、アデルバートは優しく微笑み、頭をポンポンと撫でてから静かに語り始めた。
「始祖の竜王には、かけがえのない番がいた。互いに愛し愛され、敬い合っていた――」
それは、この国の始まりの物語。
――太古の時代、二人の竜人が国を興した。
二人は唯一無二の番であり、子宝にも恵まれた。
国は栄え、後世まで安泰だと謳われていたが――美しき王妃に魅了された異国の男によって、竜王は最愛の妻を攫われた。
命尽きるまで妻の行方を探し続けたが、ついには再会を果たすことができなかった。
アデルバートもまた、竜人の先祖返りであった。
竜王の記憶を受け継ぎ、何年もの間、引き裂かれた最愛の人を探し続けていた。
彼は直感していた。彼女も同じく、再びこの世に生まれ落ちていると。
「アマリリスを迎えに行った少し前、カルロがアマリリスの存在と、その居場所を予見した。俺はすぐさま状況確認のために王家の影を派遣した」
そうして持ち帰られた悲惨な報告内容に、アデルバートは怒りに打ち震えた。
直ちに偵察時に仕込んだ転移の魔法陣より出撃し、アマリリスの救出へと向かった。
「そしてあの日、ようやく君を救い出すことができたんだ」
「アデル様……私を見つけてくれて、ありがとうございます」
アデルバートの手を取り、柔らかく微笑むアマリリス。
アデルバートはフッと笑みを漏らすと、愛しい人の唇に触れるだけのキスを落とした。
――あの日、念願叶って再び巡り会ったアマリリスは、ひどく痩せこけ、美しい肌も、髪も、瞳も荒んでいた。アデルバートは燃えるような怒りを覚えたが、同時に何世代にも渡って、ようやくアマリリスと出会えたことに、今度こそ彼女を救い出せることに、血が沸騰するかのごとく歓喜した。
アマリリスを虐げた家族も、かつて竜王の番を攫って囲った国も許すつもりはなかった。
アマリリスは知らない。そして知る必要もない。
すでにこの世界の地図から、祖国が消え失せていることを――
アマリリスは、竜王陛下の唯一の番として、エクセリヴァーグ帝国の王妃となった。
そして今、彼女のお腹には、愛しい人の血を引く新しい生命が宿っている。
アマリリスの心は今、幸せに満ちていた――
――――――――――
最後まで読んでくださり、ありがとうございます。
本作は、『相手にした行いが全て自分に還ってくる薬』によって、虐げられヒロインが受けた非道な行いが暴かれる、という着想から短編にまとめてみました。ヒロインが直接的に暴力を受けるシーンが辛くて書けない作者なりに考えた回避策?でもあります。
拙作において残虐なシーンはあまり書いてこなかった(書けない…)のですが、アデルバートも狂愛じみてしまい、かなりダークなお話になってしまいました。。。
ハッピーエンド……?
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ご感想ありがとうございます!
そうなのです、彼は始祖の竜の記憶も引き継いでいるので、よりアマリリスへの執着が激しいのです。
アマリリスには今のところ記憶は引き継がれておりませんが、何かのきっかけで蘇るかもしれませんね。でもきっと辛い記憶もあると思うので、今のままの方が幸せなのかも…
お気持ち分かります。
辛い事件を見るたびに心がギュッと苦しくなります。
私の作品ではこれまでになかったダークなお話になったので、スッキリいただけたとのことで良かったです!